表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第四章:勇者一行と通商連邦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/436

第十話:心臓に悪い目覚まし

―陸視点―




 朝、昨日の夜更かしが響き。


 如何にも身体が怠いけど。


 折角意志を固めたのだ。

 自らを奮い立たせて、ベッドから起き上がる。


 窓を開けて風を入れれば。


 少しはシャキッと出来るだろうか。 



「――ん……んんーッ!」



 入ってくるのは冷たい外気。

 それを受け入れながら、伸びをして気合も入れる。


 何時もの旅装へ着替えると。

 大分、眠気が覚めてきた。

 今日もモルガン家に押し掛ける予定で、どのようにビショップ家へ仕掛けるのかはまだ聞いていない。


 ……そろそろ、他の皆。

 康太たちも起きるかな。

 僕は準備が出来たので、取り敢えず部屋を出る。


 二階には、個室以外にも。

 席が設置された空間があって、そこには既に着替えを終えている美緒が居た。



「……おはよ。相変わらず、早いね美緒」

「ふふっ。おはようございます陸君」



 挨拶の言葉を贈ると。

 柔らかな笑顔と共に帰ってくる。


 彼女の足元には。

 動きを阻害しない程度に纏められた冒険の備品と武器が置かれていて。


 準備万端みたいだけど。

 まだ、先生と康太が来ていないし。


 一応、声を掛けてきた方がいいかな?



「まだ二人が来てないみたいだから、声をかけてくるよ」

「では、私も……」

「いや、もしかしたら着替えてるかもしれないからね。僕が行ってくるよ」



 扉を開けなければ良いんだけど。

 もし、何かの拍子で開いて。

 美緒が着替え中の二人を見たら、この後が気まずいだろうし、同じ男である僕が行くのが最善だろう。


 彼女は得心したように頷く。

 


「そうですね。私はここで待ってます」

「うん、すぐ戻ってくるから」



 と言っても、個室はすぐそこで。

 ドアを開けたまま話せば。

 此方へ声が聞こえてくるだろうね。


 僕は二人が泊っている個室に歩き出す。


 基本的に僕たち四人は。

 それぞれ一部屋を使う。

 どうしても部屋の空きがない場合は男女に分かれて借りる事もあるけど、お金の掛かる趣味がない分、金銭的な余裕があるから。

 

 結構質の良い部屋を借りれるんだよね。


 康太が居る部屋の前へ立ち。

 音を伺ってみると。

 中からはゴソゴソと聞こえてきて、寝坊の問題はなさそうだね。


 ……まぁ、一応は。



「――康太、起きてる?」 



 ドアに軽くノックしながら。

 ちゃんと起きたかを尋ねる。


 

「――ああ、問題ない。すぐに行くから」



 返事はすぐに帰ってきた。

 そりゃ、そうだよね。

 昨日「任せろ」とか言ってたし、コレで寝坊していたら、説教コースだ。

 

 じゃあ、後は先生だ。

 あの人が寝坊しているのは一度も見た事ないけど。


 今日の予定とか。

 今後の作戦とか。

 聞きたい事は沢山あるし……うん。


 一応、一応見ておこうか。



 康太の部屋からやや奥へ。

 彼の部屋は、突き当りだ。

 扉の前に立った僕は、そのままノックしてみる。



「――先生、面会の時間ですよ」



 ちょっと冗談を交えて声をかける。

 借金取りと迷ったんだけどね。

 起きてなかったらただ恥ずかしいだけなんだけど、先生なら乗ってくれるだろう。

 


「私は囚人じゃないよ」

「じゃあ――」

「借金取りもなしだ。開けてるから、入っても良いよ」



 やっぱり、何時もの彼だ。


 起きているようだけど。

 帰ってくる眠たげな声。

 珍しいけど、もしかして彼も夜更かししていたのかな。


 それに、声だって。

 何だか高いような。

 ……お寝坊さんな彼に興味を覚えて、僕は扉に手を掛ける。


 ちょっとだけお酒の匂い。


 もしかして、昨日も?

 ヤケ酒かもしれないけど、尾は引いていないようだし、取り敢えず挨拶を。



「おはようございま――ッ!?」

「おはよう、リク。昨日は随分と遅くまで……どうかし…あ」



 部屋に入った僕が見たのは。

 黒曜石のように妖しく輝く黒髪を持った長髪の()()だった。


 着替えの最中らしく。


 上半身は前のボタンが留まっていない。

 

 辛うじて見えなかったけど。

 その豊満なモノと、均整の取れた美しい肢体――って!?


 待って…待って!?


 もしかして、僕……。




「すみませんッ! 間違えましたぁぁあ!」



 

 全力で回れ右をして。

 迷わず外へ出て行く。


 ――夜更かしで寝惚け過ぎた!?


 バクバクとうるさい心臓。

 落ち着けようにも、身体が言う事を聞かず。


 少しでも気を抜けば。

 さっきの光景ばかりを脳裏を過ってしまい……うん。


 今回は本当に犯罪者だ。


 春香を無事に助けたら。

 大人しく、捕まることにしようか。

 どうやら、面会に来てもらうのは僕の側だったらし……あれ?

 


 さっきの女性は、僕の事を。


 知っている感じだったよね。

 

 普通に会話していたし。

 ……いや。そんなの、免罪符にもなりはしない。


 ゴメンなさい。


 父さん、母さん。



「どうした、陸ッ!?」

「――陸君?」



 流石にただ事では無いと思ったのか。

 康太と美緒が来てくれた。


 僕の声、大きかったし。



「――二人共。僕は…犯罪者だ」

「「?」」



 疑問符を頭に浮かべる二人。

 いきなり友達がそんなことを言い出したら、僕だってそうなっただろうね。


 でも、自分は当事者だ。

 甘んじて罰を受けいれる準備は――その時、女性がいた部屋の扉が内側からノックされた。

 


「――いや、すまない」

「「………え?」」

「少し寝ぼけてたみたいだ。もう着替えたから、落ち着いて入ってきてほしい」



 向こうから聞こえる声は。


 僕を糾弾するものでなく。


 ……やっぱり、色々。

 おかしな部分がある。


 確かに、あそこは先生の泊っている筈の部屋で、言葉遣いは先生そのものだった。

 だが、姿は明らかに別人で。

 僕を驚かせようとしていた様子ではなかったし……。



「先生の声ですよね? 少し高いような気もしますけど」

「入ってみるか? 陸」

「――うん。皆で行こうか」



 確かめなければならない。


 姿を偽装する術なんて。

 世界に溢れているから。

 僕が犯罪者にならない為には、自身の無実を証明しなければならない。


 自身を振る立たせて。


 僕は、二人と一緒に部屋に入って行く。




「おはよう、皆。調子はどうだい?」

「「…………へ?」」



 やはり、部屋に居たのは。

 さっき見た長髪の女性で。

 柔らかな笑みを浮かべながらこちらに声をかけてくる姿は、とても綺麗だ。

 

 でも、もう僕は騙されない。


 明らかに、話し方が先生だ。


 着ている旅装も見覚えがあって。

 まるで、冤罪で痴漢に仕立てられたような心境。



「え…と? 先生だよな?」

「ああ、勿論」

「どうしてそんな姿を?」

「………あれだ、今回の救出作戦で使おうと思ってね」



 目を丸くして問う二人へ。

 答える女性……先生。

 何故か目を逸らす彼…彼女はしかし、僕を驚かせるつもりではなかった様で。


 

 ――ベッドに足を組んで座り。



 ――胸を強調するように腕を組む。



 その姿は……何というか。



「――女先生、誘ってんすか?」

「康太?」

「……桐島君?」 



 端的に言って、凄く色っぽい。


 でも、今の康太のように。

 口に出すのはダメだろう。

 特に、一緒の空間に女性がいる時は……先生は女性じゃないので除外だけど、美緒がいるし。


 気になって、こっそり横を見ると。

 彼女は顔を赤らめていて。


 ――可愛い……じゃなくて。



「もしかして、サーレクトに?」

「そうだ。炙り出して釘づけにして叩き潰そうと思ってね」



 至極真面目そうに答える先生。

 やっぱり、怒ってるんですね。

 確かに合理的だとは思うんだけど、先に僕たちが打撃を受けている。


 一応は納得した僕たちだけど。

 やっぱり、目には毒だよね。

 相手が先生だと分かっているのに、どうにも意識しまって……男の性だと言ってしまえばそれ迄だけど。


 同性の康太に至っては。

 あんな事を言っといて。

 恥ずかしそうに眼を逸らしているし。


 やっぱり、初心だよね?


 純情な高校生さんだ。



「――その姿は、魔術なんですか?」



 そんな彼とは対照的に。

 美緒は調子が大分調子が戻ってきたようで、疑問を述べる。


 ……確かに、“幻惑”とかは。

 身体全体に魔術なんて掛けたら、凄く沢山の魔力を使うだろうし…大丈夫なのかなぁ。


 彼は、自身の右手を挙げ。


 僕たちへと一か所を示す。


 そこに、注視すると。

 白くて細い指には、指輪が嵌っていて。

 ……右手中指っていうのは初めて見るね。


 そもそも、僕たち。


 殆どの高校生に指輪は無縁だし。



「この指輪は魔道具でね? 嵌められた人間の性別を完全に変化させることが出来るんだ。だから今の私は本当に女性なんだよ。……確かめてみるかい?」



 いろいろ問題がある。


 悪戯っぽく笑うその顔に。

 思わず引き込まれそうになってしまう。


 でも、中身は男なのだ。

 悪い大人の先生なのだ。

 例え心にくるものがあっても、親友が鼻の下を伸ばしていても、美緒に睨まれながらではそんな気持ちは絶対に沸いては来ない。



「………先生?」

「もちろん冗談だよ。さぁ、とりあえずモルガン邸に向かうとしようか。色々と話し合いたいこともあるしね」



 そう言って、立ち上がる悪い大人。


 煽るだけ煽っといて。

 はい終わり…なんて。

 本当に良い性格している。

 先生は既に準備されていた荷物を手に持つと、身なりを整えてさっさと部屋を出て行ってしまう。


 ……なんていうか。

 朝から引っ掻き回された感があるな。

 美緒は物申したいことがあるのか、彼を追って部屋を出て行く。



「――先生。そういうのは良くないですよ?」

「ごめんごめん。あの二人の反応が面白くて、つい」



 話しながら出て行く先生と美緒。

 部屋に残されたのは僕と康太だけで。


 ……さて、どうしたものか。



「――なぁ、陸さんや」

「……なに?」

「変な扉が目の前に見えるんだが」

「今康太が通って良いのは、部屋の扉だけだよ。さあ、早く行こう?」



 何もない空間を見ながら。


 意味不明な事を言う康太。


 彼は、混乱しているんだ。

 余り刺激しないようにしないと。

 取り敢えず、僕は呆けている親友の手を引っ張って、部屋を出て行く事にした。


 さぁ、今日はやることが山積みだ。


 モルガンさんが情報を集めてくれて。

 それを基に作戦を立てる必要があるし、道具のチェックもしないといけない。


 

 先に行った二人を追って。



 僕は、康太を引き摺って廊下を駆けて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いけない康太!その扉は通ったら戻れなくなる奴だ!!! 康太がある意味元気そうで安心しました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ