表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第四章:勇者一行と通商連邦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/436

第七話:狸は嘘つき

―陸視点―




「では、その攫われた冒険者の少女を探してほしいと?」



 先生が事のあらましを説明し。

 男性…モルガンさんが問う。

 僕たちが勇者だということは、伏せて話しているようで。


 でも、康太の話を聞くに。

 サーレクトは僕たちが勇者だと分かっている様子だったらしいし、隠す必要があるのかな?


 勿論、先生が返すのは肯定だ。



「そうだ。S級冒険者の動向は常に掴んでいるだろう?」

「まぁ、それは――」

「自身の動きを隠そうともしないサーレクトなら猶更ね」



 彼は、釘を刺すように言葉を重ねる。

 

 何時もの彼なら、目上の人には敬語を使うが。

 今回は、その限りではないらしい。

 相対するモルガンさんも言葉を選んでいるみたいだし、どれだけ大暴れしたのだろう。

 

 ひとたび沈黙が訪れた書斎。


 部屋のドアがノックされ。

 さっきの男性が部屋に入ってくる。

 たしか…スミスさんだっけ。


 彼は侍従のような仕事をしているようで。


 手には、ティーカップの乗ったトレーが人数分ある。



「お茶をお持ちしました。――モルガン様? 私は如何しましょう」

「……聞いていてくれ。重要な要件だからな」



 お茶を僕たちの前に置き、先生に渡し。

 彼は、そのままモルガンさんの後ろに控える。


 スミスさん、信頼されているね。


 仕立ての良い燕尾服を着て。

 髪はオールバック。

 そんな彼が主の後ろへ控えていると、如何にもな執事と言った風体だけど…その眼光は、何処までも鋭い。


 モルガンさんは手前のカップを持ち。


 一口含んでから、話を続ける。


 

「話は理解しました。閃鋼のサーレクト殿、確かに現在はこの国で活動しておられるようですな」



 じゃあ、間違いはないんだね。


 それならば、後は。

 彼を雇っている者を突き止め。

 春香を助けるだけ。

 だが、前のめりになって耳を傾ける僕たちに、モルガンさんは「しかし」と言葉を続ける。



「ナクラ殿、貴方の依頼とあっても、私にはこの家を守るという使命があります。S級冒険者と事を構えるのは、私たちにとって得策とは言えないでしょう?」

「危険性は…間違いないな」

「えぇ。ただでさえ、昔何処かの上位冒険者に手痛い授業料を払わされたのです」



 人とは、損得を天秤に掛けるもの。


 どんな利益が望めるのか。

 それが分からぬ以上は、協力を渋ることもあるだろう。


 それが多くの財を動かす商家の主で。

 敵も多いなら尚の事。

 彼にも、守るべきモノがあるのだろう。


 でも、こちらから差し出せるものって何だろう。

 僕たちと旅をしているから、先生がこの国に残ってモルガンさんの元で働くとは思えないし、何より本人達にそのつもりがなさそうだ。


 さっきのモルガンさん。


 さりげなく、先生に毒はいてたし。


 だが、そんな彼の言葉に。

 先生は不敵な笑みを浮かべ。

 僕たちが座っているソファーの後ろに回る。


 彼はソファーの両サイドに座っていた美緒と康太の肩に手を置き…あの、先生? 


 僕たちはただ困惑するばかりだ。



「――では。異界の勇者とパイプを手に入れることが出来る、と言ったら?」



 彼の口から出てきた言葉は。

 既知…当たり前の情報で。

 此処で出したという事は、相手が知らない前提。


 その情報が。

 本当に価値あるカードという事で。




「……ナクラ殿? ――ッ!」

「繋がってきたかい?」

「では。まさか、この子たちがッ!」



 先生の言葉を噛み砕き。

 大きな反応を見せるモルガンさん。


 僕たちの事を知らない?

 

 それは、どうしてだろう。


 他の家が入手済みの情報を。

 何故、彼は知らなかったのか。

 今は聞けるような雰囲気じゃないし、後で尋ねることにしよう。


 満面の笑みを浮かべ。


 当の先生は、愉快そうに口を開く。



「ここにいる三人、そして誘拐された少女。皆、教国が異界から召喚した勇者だ」

「冗談…では、無いようですね」

「……ほう。勇者」

「もし救出できれば多大な恩を送ることもできるし、出来なければ他の家にこの国の主権を明け渡すことにもなりかねない。さてさて、通商連邦の大名家であるモルガン家の当主としてはどうするべきかな?」



 先生、明らかに悪役のセリフです。

 この人は、本当に……。

 でも、モルガンさんの心を大きく揺さぶることができたようで。


 勇者は凄い存在になれる。


 その話は聞いていたけど。


 どうやら、僕たちが思っていた以上に、その影響力は絶大らしく。

 長考を始めたモルガンさんの後ろでは、スミスさんが僕たちに興味深そうな視線を送り、先生に睨まれては視線を逸らす。


 ……何か、面白いな。


 やがて、長考も終了したのか。

 モルガンさんは、先程までのにこやかな表情を取り戻してこちらを見る。



「いやはや、そんな札を出されては白旗をあげるしかありませんな」

「それは、どうも」

「……しかし。勇者が四人ですか」

「あぁ、全員れっきとした勇者だ。それぞれが異界の神の加護と異能を受けている」



 その言葉は、事実だった。


 美緒の【ラウン】

 康太の【リカバリー】

 そして、【ライズ】と名付けた僕の異能。


 分析という意味の【analys】から取っているんだけど、ライズ(rise)には上がるという意味がある。

 これは、何度でも立ち上がるという願掛けで。


 僕たちの異能は、全て。

 地球の神様がくれた力。

 本当にいるのなら一度でいいから会ってみたいのだけど……どんな感じなのだろう。


 そんな事を考えている間にも。


 両者の話は進んでいて。



「――それで、サーレクトの動向は?」



 今度の質問も、さっきと同じ。

 相手が知っている前提で。

 この人なら情報を持っていると、先生は確信しているのだろう。協力の方向に傾いてくれたモルガンさんに迷いなく聞いている。


 

「間違いなくビショップの女狐でしょうな」

「……あの若作り女か」

「サーレクト殿の目撃報告もありますし、何より最近あの家に多くの若い女性――ッ失礼」



 ……先生、また睨みました?


 黙り込んだモルガンさんには申し訳ないけど。

 聞かない方が良いのだろう。

 さっき先生が言っていたサーレクトの特徴から考えて、本当に何をしているのか。


 ――知らぬが吉だ。


 というか、狸と来て。

 今度は女性で狐さん。

 どうやら、通商連邦は亜人国家だったらしい。



「……ビショップ家」



 先生が、僕たちの後ろでつぶやく。

 次々に知りたいことが増えていき。


 ――やっぱり。


 ――今のうちに聞いておこうか。



「先生。ビショップ家っていうのは、どういう人たちなんですか?」

「俺も、ちょっと」

「こんがらがってきましたので」

「あぁ、済まないね。じゃあ…この国は、家による合議制っていう話はしたよね?」



 それは僕たちが寝ぼけてた時に。

 先生が話してくれたお国解説だ。

 この国の基礎を築いた人たちの子孫が、各家を取り纏めて統治しているんだっけ。


 で、何処もバチバチ。


 蹴落とす機会を狙っている。



「ビショップ家は、特に強い力を持っている家だ」

「「…………ッ!」」

「手練れの傭兵たちも多く、国外の情報にも強い。だからこそ勇者の情報を入手できたんだろうね。このモルガン家もそれに並ぶくらい力が強いから、二強といえる。こっちは国内の情報を主として収集しているけどね」



 理解が追い付いてきたな。

 だから、先程も。

 勇者と言うカードを切ることが出来た。


 同等の力を持っている家同士。

 宿敵と言える間柄だから。

 相手をこれ以上大きくするわけにはいかないという考えを刺激する。


 先生もかなり悪い人だ。


 今だけは、凄く頼もしいけど。



「……本当に、ドロドロしてるな」

「勇者を手に入れてどうするつもりなんでしょうか」

「流石に、世界征服とか大それたことは考えていないだろうど、それに近いことくらいは考えているかもしれない。猶更許すわけにはいかないな」



 皆で手を取り合って、平和を作りましょう。

 ……なんて、思ってないのは確かだ。


 康太をあんな風にして。


 信用を取れる筈もなく。

 春香を誘拐したのも、絶対に許せない。

 

 話を終えた僕たちに。

 モルガンさんは、「では」と言葉を発する。


 

「私どもが言える事ではありませんが、あの家には(おぞ)ましく、目を背けたくなるような噂がございます」



 その表情は真剣で。



「かつては、私も政治の道具として他家に誘拐され、同じ牢に入れられた者たちの凄惨な光景を目にしたことがあります。これ以上人々が悲しまぬよう、痛ましい景色を見ないよう、私は生まれ育ったこの国を今のままの形で次世代に継承していきたい。そのために勇者様を助けるのであれば、ぜひ我が家にも協力させて頂きたいのです」

  


 そう言って頭を下げるモルガンさん。

 彼の言葉は胸に響くような重さのあるもので。


 歴史ある家の当主としての。


 年季の違いを感じさせた。


 

「「ありがとうございます」」



 そして、僕たちだって。

 今はただ頭を下げるのみ。


 冒険者である前に、勇者だから。

 元の世界に帰るために行動しているが、この世界で生きている人たちに希望を与えることもできる。


 多くの人が助けを求めるなら。

 救って欲しいと願うのなら。

 かつて、教国でお願いされたように、この世界を少しでも良い方向へ導くのは、決して悪い事ではないだろう。


 その後も、簡単な情報を交わし。


 協力を取り付ける先生。

 

 明日もまた来る旨を伝え。

 僕たちは、お礼を言って書斎を後にした。




  ◇




「先生。さっきのモルガンさんの話は――」

「あぁ、勿論嘘だよ? 彼が誘拐されたなんて事実は存在しない。モルガン氏の言うことは、話半分で良いだろうね」


「「………………」」



 やっぱり狸なんだ。


 宿に戻ってきてすぐ。

 先生へと尋ねる美緒。

 彼女も地元では有名な家の育ちなので、ああいう嘘の話には敏感なのかもね。


 少しでも感じ入ってしまった自分を戒めなきゃ。

 これじゃあ、悪い大人に騙された子供と何も変わらないし。


 ……先生には。

 いつも騙されているような。



 悪い大人の見本さんめ。



「俺、人が信じられなくなりそうだ」

「康太は感動してたもんね」

「桐島君のそれは美点だと思いますよ? 先生たちが酷いだけです」

「…………え?」



 美緒の言葉に、ショックを受けたような表情をする先生。

 当たり前の事を。

 当たり前に言われただけなんだけどな。


 でも、先生もそうだけど。

 嘘に気づいた美緒の考え方も先生寄りだよね? 


 こういう交渉事は。

 僕や康太には難しいかな。


 彼女にはお世話になりっぱなしだ。



「――取り敢えず、方針は決まった。ビショップ家に捕まった春香を助けるために、モルガン家の力を借りて潜入する」

「あの。モルガン家がビショップ家と結託して嘘の情報を……という事もあるのではないですか?」


「確かに、その考えもあるだろうね」

「「………えッ!?」」

「だが。モルガン家は最上位冒険者を制御しようとする事が、どれだけ愚かなのか知っている」



 最上位冒険者……S級。

 彼等が狂人だらけという話。

 もしかしたら、ゲオルグさんみたいに本当は良い人って例もあるかもしれないけど、今回のサーレクトは間違いなく狂っている。


 直接会ってないのに。

 これだけ恐怖があるんだ。


 康太のソレは比にならないだろうに。



「……そんなに酷いんですか?」 

「国がそのまま滅びました、なんて例もあるくらいだからね」

「「は?」」

「ある種、魔王みたいなモノさ」



 教国のギルド長ハロルドさんは。


 S級は人類の守護者って言ってたけど。


 ギルドに所属する者が。

 そんな事して許されるのかな。

 ……いや。だからこそ、罰することが出来ないのかな。


 力がある存在を倒すのではなく、利用する。

 上手く扱っている内は大きな利があるから。


 ――でも、それは。

 いつ爆発するかも分からないような爆弾を抱えているようなものだ。



「……なんつうか、早く強くならなくちゃな」


「そうだね、いつまでも守ってもらうのは申し訳ないし」

「自分たちの力で、ですかね」 

「その気持ちがあるというだけで、十分過ぎるさ」



 彼は、笑って答えているけど。

 先生も、何時かは居なくなる。

 僕らは自分たちの力で元の世界に帰るために動かなければいけない。


 だから一刻も早く。


 強くなる必要がある。



「――さぁ、私たちも明日のために早く休むことにしようか。絶対にハルカを救い出すよ」

「「はいッ!」」



 ……でも、まだ心の中では。

 もしかしたら、なんて。

 暗いモノが頭を巡る。


 助けられないかも。


 既に酷い事をされているかも。

 

 なんて、ずっとずっと。

 不安になっている自分が居て。


 春香は、大切な幼馴染だから。


 小さい時から、一緒に居たから。

 


 もしかしたら、今日は眠れないかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] チャーチル氏の名言「政治家が嘘をついていないときは何時か?喋っていないときだ」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ