第六話:あたしはどうするべきか
―春香視点―
「…………………」
はい、捕まりました。
自分でも、良く分からないけど。
康太君と街を散策して。
泣いている子供に出会って。
でも、その子供は、只の子供じゃなくって。
戦った事も無い程に強く。
容赦がなくて……。
気が付けば、何時の間にか此処に居たわけなんだけど。
――康太君は。
――無事、なのかな?
捕まっている筈なのに。
今、あたしが居るのは。
まるで、高級ホテルのように広くて、居心地の良い空間だった。
唯一、おかしな事と言えば。
動物園のような鉄格子が付いている事。
あたし、見世物じゃない。
珍獣扱い、ノーセンキュ。
「でも、コレって。やっぱりそういう事なんだよね?」
あたしの完璧な推理が正しいなら。
これって、人攫いとかじゃなくて。
この国の…通商連邦の誰かが。
あたしを仲間にしようと思って、連れてきたんじゃないのかなぁ。
この部屋は豪華すぎるし。
あの子供は、確かに。
あたしたちが勇者だって知っているみたいだったし。
――何で康太君居ないのかな。
――プライバシーに配慮して、別部屋とか?
なら、丸見え構造止めてくんない?
凄く恥ずかしいんだけど。
………寂しい。
何時ものように、皆が居ないと。
全く調子が出てこない。
久しぶりに、こんな冷静になって考える時間が出来たなぁ。
何時もなら、寝る時も。
明日はどうしようとか。
どうやって笑い合おうとか。
そんな事ばかり、ずっとずっと考えているから。
テーブルの上のバケット。
そこに入っていた果物を弄びながら考え事をしていると、誰かが此方へと近づいてくるのを感じる。
……えーとねェ。
気配から見るに。
二人…いや、三人かな?
二人は隠す気が無いみたいで。
一人は、凄く隠れるのが上手みたいで。
全然位置が分からない。
「――えー? 良いじゃん! もう一回行かせてよ」
………むむぅ、あの声は?
あたしの記憶が確かなら。
聞こえてくる声は、あたしたちを襲った子供のモノで。
こんにゃろーッ!
騙しおってからにッ!
康太君の居場所とか。
どうなったのかとか、色々教えてもらわなきゃ。
「そう言われましてもね?」
「何で駄目なのさー」
「もう暁闇が保護している頃ですし、これ以上正攻法で敵入れるというのは、不可能です」
「………むぅ」
「それとも、彼を倒してくれますか?」
一緒に聞こえてきたのは、女性の声。
【暁闇】って、確かさ。
先生の二つ名だったよね。
保護って事は、康太君は無事なのかな。
それとも、陸とか美緒ちゃんには手が出せないって話なのかな。
「僕が欲しいのは、女の子の方ッ!」
「えぇ、でしょうね」
「もう一人、黒髪の子が居るんでしょ? 野郎の方なんて、こっちから願い下げだよッ!」
………坊や? その歳で。
色気付くもんじゃないよ?
あんまり追い回すと。
全然モテないからね。
特に、美緒ちゃんとかは。
しつこい男の子は、普通に嫌いだと思うし。
「与えている女性たちで満足してください。ただでさえ、すぐ駄目にするんですから」
……今更ながらに、思うけど。
何の会話しているの?
深く考えない方が良いかも。
声を聴きながら思案しているうちにも。
声は大きく響くようになって。やがて、あの子供と、知らない女の人が姿を見せた。
女性は妖艶な雰囲気。
かなりの美人さんで。
でも……凄く血生臭い感じだ。
普通の女性なのに。
冒険者とか、魔物とかと同じ匂いを感じるって、どういう事だろう。
「――こんにちは。可愛らしい勇者様」
女性が、此方に声を掛けてきた。
やっぱり、勇者と確信していて。
凄い猫撫で声で、安心感がある。
……あたし、そういう取り入るような声は好きじゃないけどね。
「あたしは、桜庭春香。貴方とそこの子は?」
こういうモノは、最初が肝心で。
あたしは、自己紹介する。
女性は、少しだけ面食らったような顔だったけど。
すぐ、鉄仮面の表情に戻る。
……どれだけ油断してるんだろ。
この国のお偉いさんなら。
もうちょっと、役を演じ切った方が良いんじゃないかな。
そんなんじゃ。
足元をすくわれちゃうよ?
「――ご丁寧に、どうも」
「いえいえ」
「私は通商連邦の議席を埋めるビショップ家当主のミュリエルです」
先生に曰く、この国の偉い人は。
みな、生粋の俗物で。
純粋な守銭奴らしい。
その家名の一つが、「ビショップ」なんていうのは。
もしかして皮肉とかなのかな。
聖職者さんでも、俗に染まって堕落してしまう事は有るらしいけど。
「僕はサーレクトだよ! よろしくね!」
「……で、康太君は?」
私をここに連れてきた張本人だろう男の子へ。
期待はしていないけど。
一応、仲間の事を聞いておく。
冷静でいられた時間がそこそこ長かったから、今まで避けていたこともやってみる決心がついたからね。
「大丈夫です。彼は別の部屋でもてなしていますので。男女を一緒に入れるなんて、無粋な真似はしませんよ」
「……そっか。なら、別にいいや」
男の子…サーレクト君?
敬称要らないかな。
彼に変わり、応えるビショップさん。
……まぁ、そっか。
そういう事であるのなら。
もう、質問する事はない。
まともな答えが返ってくるなんて期待はしてなかったけど。
ちょっと頭が痛いけど。
この位なら、我慢できない程じゃない。
二人はそのままカギを開けて。
あたしの入ってい牢屋の中に入ってくる。
「やっぱり勧誘なんです?」
「ええ、是非とも我が家と懇意にしていただきたく。お仲間の勇者様たちも」
そう思うなら、もっと丁重に案内して欲しかったな。
確かに、居心地は良いけど。
ここに連れてくるまでの方法は、誰が受けても喜ばれるものではないだろう。
それも、こんな手荒な方法で。
大丈夫と言う勝算があるから?
あたしを連れてきた人は。
そこで、呑気に果物を齧ってるけど。
「取引できるようなモノを持ってるの?」
お偉いさんへの態度じゃないけど。
こんな扱いされたら仕方ないよね。
あっちも気にしてないみたいだし。
此方も、好きにやらせてもらう事にしよう。
「――フフッ、素晴らしい勇気ですね」
「…………」
「勇者様は、元の世界に帰るために冒険をしておられるのでしょう? 我々の目的を達成していただければ、即座に元の世界へお帰りいただくこともできますし、それ迄の生活は思いのままに」
確かに、冒険の最終目的は。
皆で元の世界へ帰る事だ。
どうやって勇者と知ったかは分からないけど。
それが分かってしまえば。
あたしたちがギルドで引き取って貰っているのが、【魔核石】以外の素材だという事を調べて、目的に気付く事が出来るのだろう。
――戦う以外の方法。
そういうのも有るらしいね。
フィネアスさんに聞いたし。
魔核石はお金で買い取る事が出来るし。
財を成せば、楽に帰る事が出来る。
そして、この女性は、それをできるだけの財力を持っているのだろう。
平和な目的なら…まぁ、良いけど。
明らかにそうじゃないよね?
「因みに、その目的とは?」
「この国を、一つに纏めたいのです」
「……ほう、ほう」
「現在国を統治しているのは、我がビショップ家と他幾つかの名家なのですが。お恥ずかしい話、実は勢力争いばかりで」
「ほいほい。御存じですとも」
「それは素晴らしい。…争いが長期化してしまえば、やがて争いは水面下だけでなく戦争に。そうなってしまえば、いずれ争いの火種は国外にまで影響を及ぼしてしまうでしょう。勇者様の力で、それを止めたいのです」
「――勿論、個人的な悲願が無いとは言いませんが」
なんて話を締めくくる彼女。
言ってることは理解できる。
家が争ってるのは。
先生に聞いてたし。
まぁ、その時あたしは寝惚けてたけどさ。
国を平和にするなんてのは。
勇者の物語としては花形なのかもね。
でも…この人からは、明らかに一国だけでは終わらないって感情を読み取れる。
「火種が国外まで」ってより。
国外まで影響を与えたいって感じ。
世界征服とは行かないけど。
それに近い考えは持っているんだろうね。
――え? 論外じゃん。
「でもさぁ? 仮にも人々のために動いてる勇者が、そんな取引に乗れると思う?」
彼女の目的達成までは。
絶対多くの血が流れて。
弱い人程、不利益を被る事になる。
そんな事を望むのは。
もはや、あたしの考える勇者じゃなくて。
只の、闇堕ちした何かだ。
「大丈夫ですよ。今ここに居るのは私と貴方。そして、サーレクトだけです」
「……………?」
え? 頭大丈夫です?
何が大丈夫なのです?
聞いているのは自分たちだけだから大丈夫って。
他の人には聞こえてないから。
だから、大丈夫……って。
なるわけないじゃん、アホじゃん。
貴方達の言う事は、最初から何一つ信用していない。
だって、さ?
その言葉も、嘘だよね?
話を呑気に聞いていたわけじゃない。
こんなあたしだって。
やらなくちゃいけない事くらいは心得ているから。
この世界に来てから、ずっと。
ずっと、違和感は感じていた。
でも、頭が痛くなるから。
冷静に考える時間を増やすと、聞こえてくるから。
この世界も、本当に嘘吐きばっかりだ。
ようやく受け入れる事が出来た。
これが、あたしの異能なんだね。
何時もは、沢山の人の考えが頭に入ってくるから。痛くならないように、痛いのは嫌だから、考えないようにしていた。
まぁ、取り敢えずはさ。
隠れてる人、出てきて。
女同士の会話を内緒で盗み聞くなんて、大罪なんだよ?
「じゃあさ。ビショップさん」
「はい、何ですか?」
「さっきからずっと聞いているのは、人じゃないんだよね?」
「…………ッ」
「人じゃ、無いんだよね?」
彼女の顔から、笑顔が消え。
冷静な表情で私を見据える。
ようやく、ただ才能があるだけの小娘という考えが無くなったようだ。
まあ、本当に小娘だし。
あたしは貴方みたいな悪女じゃないけどね?
「――ねぇ、ギルバート?」
「……………」
「貴方、隠形が下手になったんじゃない? いくら勇者でも、まだまだ未熟な子にバレるなんて」
女性の見ている方へ向けて。
今度は、指向性を持たせ。
注意を向けて、異能を使ってみる。
……あぁ、居るね。
感じるのは、驚愕と困惑。
あたしにバレたのが、余程ショックらしいね。
「信用したいけど、こんな風に嘘つかれちゃったら…ね?」
取引には、最低限の信用が必要。
しかし、早々に失っては。
最早、口を閉ざすしかない。
表情こそ変わらないけど。
ビショップさんは、きっと苦い顔をしたい所だろう。
「………はぁ。今は、交渉出来そうにないですね」
「そだね。無理かも」
「では、もう一人の方に掛け合ってみましょう。男性なのですから、多少手荒に扱っても大丈夫ですよね?」
「……マジっすか。あんまり虐めないであげてね?」
本当は、知っているんだよね。
康太君が捕まってない事。
これも、彼女の作戦。
時間を空けて、「彼に何かあったら」という私の不安を煽る事で取り入ろうとしているのだろう。
でも、嘘吐きの言葉には。
もう絶対に騙されないから。
本当に、徒労と言うしかない努力なんだよね。
「では、また来ることにしますね」
「ハイハイ。期待してます」
「……その時は、色良い返事が聞けるよう期待していますよ。――サーレクト?」
「ん? 退屈な話は終わった?」
「うん、終わったよ」
「そっか。じゃあね、お姉ちゃん。気が向いたら僕とも遊んでよ」
牢の入り口から出て行く二人。
外に待っていた一人も。
そのまま、一緒に付いて行ったみたいだね。
再び、静寂が訪れ。
あたしは、牢の中で考えに耽る。
武器全部取り上げられているし。
牢屋の鍵の開け方なんて。
先生に教えてもらった事はない。
康太君じゃあるまいし、強引に開けられる筈もないから……待つしかないかな?
メチャ退屈じゃん。
遊び道具もないし。
果物なんて、全部なくなってるし。
学校でも、遊んでるときでも。
囲まれてちやほやされるのは、全然心が満たされない。
陸や康太君、美緒ちゃんと。
馬鹿をやったり笑ったり。
一緒に居る時が、一番楽しいんだよね。
――他の皆だって。
――絶対、さっきの話には乗らなかっただろうし。
「まぁ、皆なら。すぐに助けに来てくれるよね」
あたしの親友たちは。
皆、凄い人達だから。
絶対に来てくれるって分かっている。
だから、ビショップさん?
貴方達に協力なんて、死んでも御免だから。




