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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第四章:勇者一行と通商連邦

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第五話:新たなる脅威

―陸視点―




「――先生ッ! 大丈夫なんですかッ!?」

「…………」



 部屋に響く悲痛な叫び声。


 頭の中がぐちゃぐちゃで。

 何を考えて良いのか、全く分からない。

 

 つい十数秒程前。

 僕たちは、図書館での調査を終えて宿に戻ってきた。


 先生に聞きたいことも沢山有って。

 僕と美緒は彼の部屋を訪れたけど。

 短い返答を受けて入った部屋の中に充満していたのは薬品の香りで。


 ベッドの上には。


 傷だらけの康太が横たわっていた。



 額に汗を浮かべながら。

 先生は魔術を行使し。

 傍らには、幾つも空の瓶が転がっている。


 今迄見た事も無い程に痛ましい姿をしている親友の姿は、思わず目を背けたくなるくらいで。


 彼の言葉に身構える。



「……大丈夫だ。呼吸も安定しているし、命に別状はない」



 でも、その言葉を聞いて。

 僕たちは安堵の息を漏らした。


 彼は、まだ残っている瓶の中身を干す。


 ……あの空瓶。

 全部先生が飲んでたんだ。



「――ふ…ぅ。二人とも、ちょっと状況整理に付き合ってもらっても良いかい?」

「「……はい」」



 状況整理とは、これ迄の事について。


 曰く、先生は常に僕たちへ魔術を掛け。

 居場所を探知しているらしく。

 

 全員の場所を何時も把握しているらしい。


 それに関しても。

 言いたいことはあるけど。

 彼が言いたい事は、康太と春香の魔力反応が突然不鮮明になり、急いで向かったら傷だらけの康太が気絶していたという事だ。



 ……つまり、春香は行方不明。



 その話を聞いて。

 呼吸が再び荒くなり、美緒の顔が青くなるのが分かった。



「先生、春香ちゃんは――」

「間違いなく生きている。……それだけは保証する」

「……だけって?」

「何処にいるのかを調べるのは難しいな」

 

「――そんなッ!?」



 彼に無理だという事は。


 他に当てなんてない。


 いくらこの国が小国でも。

 手当たり次第に探すのは不可能で。一体、どうすれば……ッ!




「……ッ……まて」




 何を考えるべきかも分からぬ中。

 寝ている康太が言葉を発した。



「桐島君ッ! 大丈夫ですか!?」

「……女神――じゃねぇか」

「康太、具合は?」

「あぁ、なんとか大丈夫……ッ! 春香ちゃんッ!?」



 どうやら、此方の言葉を理解していて。

 本当に無事で良かった。


 春香の名を呼びながら飛び起きた彼は。

 宿の一室を見渡すけど。

 此処に彼女の姿は無く、僕たちの顔には緊張が走っている。


 ――やっぱり。


 ――康太は知っているんだ。


 

「先生……。俺はッ――」

「コウタ、まず落ち着いてくれ。此方としても、君が落ち着いてくれないとどうしようもない」



 彼は、何かを吐き出すように口を開くけど。

 その先の言葉が続かない。


 後悔しているような。

 

 恐れているような。


 今迄見る事の無かった表情。

 それは、自信に満ちた彼からすると、まるで考えられないモノで。


 諫める先生の顔も硬い。


 

「今回の一件は、計画的な物である事は疑いようもない。康太、襲撃の経緯と相手の特徴を頼めるかい?」

「………ハイッ!」



 一つ、深呼吸した康太は。

 自分を奮い立たすように声を出し。


 そのまま経緯を語り始め。


 暫しの間。

 僕たちは、耳を傾ける事になった。



 ………。



 …………。




「――という感じです。そのあと春香ちゃんがどうなったかは分かりません」

「…こども…モドキ?」

「鋼糸って…どういう武器でしょう」


「……俺にもサッパリだった」



 襲撃の話を終えた康太は。

 項垂(うなだ)れるように顔を下げる。

 

 目の前に居ながら。


 助ける事が出来ない。


 立場が同じだったのなら。

 僕も、同様だったろう。

 しかし、本来の武器もなく、圧倒的格上だった何者かに立ち向かっていった彼を軽蔑するような人間は、この場には居ない。


 考える素振りを見せていた先生は。

 やがて、確信したように口を開く。



「探知に引っ掛からなかったわけだ。康太、命があって本当に良かった」

「……あのガキを、知ってるんですか?」



 康太は余程恨み心頭らしくて。


 相手の姿が無いにも拘らず。

 射殺さんばかりの眼で、虚空を睨む。


 彼の語った経緯では。

 ゲオルグさんと同等の殺気を持つ存在。

 此処は大陸でも中央寄りだけど、今迄に得た知識に頼るなら、街中に【魔族】が現れて勇者を攫うというのは考えすぎだ。


 ……ならば、やっぱり。



「――最上位冒険者、なんですか?」



 或いは、他にも居るかもしれない。

 S級に匹敵する戦力が、この国に。

 でも、それを予測するには、僕はこの世界を知らな過ぎるから。


 今は、この予想が手一杯。




「その通り。間違いはないよ、リク」

「………ッ!」

「……S級冒険者」

「そうだ。子供のような体格と声…。これだけなら、他の人物でも幻惑をつかうでも偽装は可能。だが、鋼糸使いとなると、幅が大きく狭まる。この世界にあっても、そんな際物を使っている存在は多くないからね」




「―――奴の名は、【閃鋼】のサーレクトだ」




 当然、二つ名を持つ存在。


 ……サーレクト。


 二人目の最上位冒険者。

 春香を攫って、康太を瀕死に追い込んだ敵。



「――確定、なんですか?」

「今のリク達なら、勝てないまでも、上位冒険者の動きを追うくらいは可能だからね。でも、コウタはその動きを捉えることができなかった。……責めているわけじゃないよ?」 


「ウッス、大丈夫です」


「だから、奴なのは間違いない」

「今回は味方ではなく、敵がS級冒険者ですか」



 今まで会ってきた冒険者たちは。

 理由もなく、こんな事をする人たちではなかった。


 かつて戦った奴隷狩りの用心棒。


 アレは、あくまで元冒険者だったし。


 だからこそ、足りていなかった。

 その自覚と言うべきものが。

 ギルドに所属する、現役の最上位冒険者が、こんな残酷な事をするなんて。


 予測が……自覚が。


 足りていなかったんだろう。



「――でも、何故春香ちゃんだけなんですか?」 

「……そう言えば」

「そうだね」

「はい。通商連邦に雇われているなら、同じ勇者の桐島君も一緒に攫う筈では?」


「そこが、奴のS級たる所以(ゆえん)さ。アイツは依頼の内容が何であれ、女性以外は処分することを信条に掲げている。最上位冒険者の中でも一二を争うほどに狂った怪物、それが【閃鋼】のサーレクトだ」

「「………ッ!」」

「その意味でも、コウタが生きていたのは完全に偶然。より長く苦しんで殺すために、トドメを刺さなかったに過ぎない」



 その言葉に、僕たちは絶句するしかない。

 前に先生が言っていたけど。

 ゲオルグさんが、どれだけ良心的だったのか思い知らされた。


 今更ながらに分かる、その有難み。



「それ、マジもんの狂人じゃないっすか」

「……狂ってますね」

「そう、狂っている。だからこそ厄介だ」


「厄介……S級ですからね」

「それもある。この一件の黒幕は、間違いなく通商連邦の権力者の一人で、サーレクトはそいつに雇われたんだろうが…S級が居るとなると、当然相手は私がすることになるだろうし、この都市の権力者は多くの私兵を抱えている」



 ――腕が立つ連中をね…と。


 その言葉が重くのしかかる。


 つまり、サーレクト以外は。

 僕たちが如何にかすると。

 敵の正体が全く分からないながら、容易な相手ではない事が理解できる。



 ……と、その時。


 

 横になっていた康太が起き上がり。

 身体の具合を確かめ始める。



「康太。動いても大丈夫なの?」

「問題ない。まだ完全に傷が塞がったわけじゃないだろうが……先生、良いですよね?」



 確かに、巻かれた包帯から血は滲まない。

 でも…本当に大丈夫?


 質問を向けられて。


 先生は、頷いてから口を開く。



「本当は安静にしていて欲しいんだが、一緒に行動しないと逆に危険だからね。だけど、まだ激しい運動はダメだよ?」

「うっす!」

「激しく動かないでくださいね」



 元気に挨拶する康太だけど。

 美緒の言葉も最もだ。

 出来るだけ、目を離さないようにしよう。


 今の彼は、要介護だから。



「――では、先生。これからどうするんですか?」


 

 これからどうするのか。

 先生に尋ねる美緒。


 それは、僕も聞こうとしていた事だけど。

 先生の中で、既にどう動くかは固まっているようで、何時もの冷静な表情に戻っていた。



「いくら都市国家と言っても、国である事に違いはないから、当然広大だ。それに、お偉いさん方は国を分割で領地のように扱っていて、其方(そちら)に一般の住民が入り込むことは出来ない。お伺いを立てないとね」


「では、手当たり次第にお伺いですか?」

「……いや、一つ手がある」


「その手とは、どのような?」

「借りを作ることにはなるが……まぁ。今はなりふり構ってられないしね。無事にハルカを助ける事は、他の何よりも優先される」



 何時もの冷静な表情に違いは無いけど。


 これは…怒っている。

 初めて、こんな真面目な彼を見たと感じる程に。


 少なくとも、今回は。

 穏便に済ませるつもりなど無いのだろう。

 部屋に立て掛けてあった長剣を手に取ると、彼は旅装のマントを着て僕たちに振り返る。




「――連邦議員の一人、(タヌキ)に会いに行こう」




  ◇




「先生。狸っていうのは」

「もしかして、狸ジジイ的なアレっすか?」



 先程から気になっていた疑問だから。


 前を歩く先生へと、質問する。


 人間で狸なんて言われると。

 それしか思い浮かばないし。

 ……或いは、狸の亜人さんかもしれないけど、この国がお金大好きって事は、既に理解しているからね。

 そっちの方が正解に近いだろう。



 ギメールに来る直前に聞いたけど。

 この国は、外側に一般の住民。

 内側に名家の一族が暮らしている。

 現在、僕たちが歩いているのは内側の方で、街並みは教国寄りの荘厳な感じで、下町のようなゴチャゴチャした活気は無い。


 ……でも、何処か。

 神聖さと言うより俗っぽさがある。


 滲み出ている気がする。



「――そうなんですか? 先生」

「あぁ、その狸だよ。権力者の一人…その俗称さ。因みに、私だけが呼んでるわけじゃない」



 僕たちの質問に答えながらも。

 どんどん進んでいく彼。


 遅れないように付いて行くと。


 やがて、一際大きな屋敷が見えてきた。



 ――あぁ、コレは。



 門の前に立つ守衛さん達も。

 皆、明らかな実力者で。

 優秀な人材を手当たり次第に集めているという話も頷ける。



「――A級冒険者のナクラ殿とお見受けします。本日はどのようなご用件で?」



 彼等の内、一人が話しかけてくる。


 口調は慇懃だけど。

 慣れていない印象。

 本業は別の事で、護衛の為に役を演じているんだろう。


 にしても、やはり。


 先生は顔が知れている。


 前に「息を潜めて」なんて言ってたけど。

 この人には、無理なんじゃないかなぁ。


 守衛の声を受けて。


 先生は、いったん足を止める。



「クリフォード・モルガンに会いに来た。――通してくれるかい?」

「「―――ッ!」」



 ばら撒かれる威圧の声に。

 彼等は、一斉に身構えた。


 後ろに居る僕たちに。

 彼の形相は分からないけど。

 守衛さん達の顔には冷や汗が流れていて……お伺いに来たんですよね?


 今にも討ち入りしそうな雰囲気に。


 先生を止めようか迷っていると。

 屋敷の中から、一人の男性が出てきた。


 ……彼は、また格が違う。


 上位冒険者クラスだ。


 本当に、世界が広いと実感するね。

 それが分かる程度には、僕も成長しているのだろうけど。


 屋敷から出てきた男性は。

 先生を見て一瞬だけ顔を引く衝かせるけど。すぐに平静を取り戻したようで、守衛さん達を脇へと下がらせる。



「……威圧をまき散らしながら来訪されるお客様は珍しいですね、ナクラ殿」

「やぁ、スミス。急ぎだから、モルガン氏の所に案内してくれると有難いな」



 交わされる、一言ずつの会話。


 どうやら、知り合いみたいだ。


 男性…スミスさんは門を開けさせ。

 僕たちを招き入れてくれる。

 屋敷に入れば、アニメとかでしか見た事が無いような二階へ吹き抜けたエントランスホールに、無数の部屋が覗けて。


 更に、上の階まであるらしい。


 ……本当に、凄い屋敷だ。

 どれ位のお金をつぎ込めば、こんな家が建てられるのかな。



「……はぁ。要件は、後で伺うとしましょう」

「そうさせてくれ」

「モルガン様は、三階の書斎に居りますので、ご随意に」

「あぁ、どうもご丁寧に」


「「………すごっ」」

「――皆、はぐれないようについて来てくれ」



 僕たちは、殆ど言葉を発しなかった。


 話す事が無いのではなくて。

 見入ってしまっている感じ。

 見回して目に入ってくる調度品が、素人目にも全て価値あるモノだと理解できるから。


 ……スミスさんって。


 この家に仕えてるんだよね。


 一介の冒険者を見張りもなしで。

 家主の元へ行かせて良いのかな。

 「ご随意に」とか言っちゃってたけど。


 先生は迷いなく廊下を抜け。


 書斎と思われる部屋の前で止まる。



 ――何で、こんなに詳しいんだろう。



 彼はノックだけして。

 そのまま、部屋へと入って行く。


 

「――おや、ナクラ殿。随分お急ぎの様で、如何されましたかな?」



 そして、部屋に入った僕たち。

 目に飛び込んできたのは。


 書斎の名に違わぬ量の書架。


 そして、その奥には。

 一人の男性が座っていた。



「……これは…タヌキだな」



 先生の背中に隠れるようにして。

 こっそりと康太が僕に耳打ちしてくる。


 僕も思ったけどさ。


 灰色の髪をした壮年の男性は。

 やや、恰幅が良くて。

 愛嬌のある顔立ちは確かにタヌキのソレだ。……先生が狸と呼んだのは、そういう事ではないのだろうけど。



「聞きたいことが、二つ程あるんだ」

「……ほう、ほう?」

「人探しを頼みたいのと、ある冒険者を現在は誰が雇っているのか」



 探し人である春香の行方。

 そして、サーレクトを雇っている家の二つ。



「まぁまぁ、まずは、其方にお掛けください。貴方が来たのであれば、礼を失するわけにはいきません。――お連れ様も」

「……三人は座ってくれ。私は、立ったままで大丈夫だ」



 先生は明らかに警戒している。

 やはり、それだけ。

 油断ならない相手という事なのだろうか。


 彼の言葉を聞いた男性は。


 満面の笑みを浮かべて口を開く。



「おぉ、流石はナクラ殿。自分よりもお連れを優先するその――」

「あまり何時もの腹芸に興じるようなら、今回は半壊では済まさないぞ?」



 あ、やっぱりイライラしてる。

 いつもの先生でも言わなそうな冗談だし、今回は冗談でもないかもしれない。


 実際、彼なら。


 不可能ではないのだろうし。




「………では。本題を詳しくお聞きしましょう」




 先ほどまでの態度とは打って変わって。

 冷や汗を垂れ流す男性。


 やっぱり、穏便に済ませてなかったんですね。


 どうやら、この男性は。

 先生に痛い目を見せられているようで。


 僕たちが席に着くと。



 先生は、向かいの男性に向かって事情を説明し始めた。

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