第三話:教義の解釈は国それぞれ
―陸視点―
「んあ? ―――陸? あ、西園寺さんも……らっしゃい」
「やほー。奇遇だねェ?」
礼拝の邪魔にならないよう、二人の所へ進んでいき。
僕たち四人は合流に成功した。
どうやら、二人は元気そうだね。
礼拝の時間も過ぎたようで、先程まで熱心にお祈りをしていた人たちも、少しずつ協会から出て行き、減ってきているし。
今なら、お話OKかな……?
ちょっと気になる事があったんだ。
「僕たちはともかく、何で二人は教会に? キャラじゃないと思うんだけど」
ちょっと言い方が悪いけど、キャラじゃないよね。
二人はあまりじっとしているような性格じゃないし、神様にお祈りと言うよりは、「掛かって来いよ神様ッ!」とか「一緒にウェーイ」って感じの性格だ。
どうして大人しく席に座ってたんだろう。
「いや、復活できねぇかなーーって」
「神託くれないかなーーって」
「「……………」」
それは……また、随分と。僕と美緒が反応に困る。
というか、同類?
僕もさっき冗談で神託があるかも、なんて言ったけど。
この場合、本当にあるかもしれないと考えている可能性すら―――いや。
流石に無いかな。
確かに二人は普段から元気っ子だけど。
この年でサンタさん生存説を提唱するようなお花畑な頭ではないし。
「……まぁ、合流できたという事で」
「良しとしましょうか」
「そだね。――あれ……? 先生はどしたの? また迷子?」
だから。
先生は迷子にならないって。
「いつもみたいに、用事があるからと一人行動をしているみたいです。今度、皆で追ってみるのも良いかもしれないですね」
「――おッ、それ良いな!」
「楽しそうじゃん! 皆でやろうよ!」
美緒までが悪戯っ子に毒されてゆき。
三人は楽しそうに笑い合う。
こういう空気って。
本当に良いよね。
まぁ、先生を尾行しても。
どうせ、すぐに見つかって何か言われてしまうだろうけど。
―――と、その時。
先程まで壇上で話していた人。
教会で言う説教をしていた女性が此方へと向かってくる。
彼女はゆったりとした法衣を纏っていて。
一目で神官職だと分かるね。
僕たちが良く通る声で話しているから。
追い出す気なのかとも思ったけど。
彼女の浮かべる表情は実に柔和で、とても怒っているようには見えない。
「―――可愛い冒険者さん達ですね。教会でお祈りですか?」
女性は、藍色の長髪を持つ若い美人さんで。
雰囲気も凄く安心できる。
何で冒険者だと……?
あ、装備か。
今は鍛冶屋帰りで武器だって持っているし。
「……えぇと。話は聞いてたんすけど、良く分かんなくて……ははは」
康太……?
僕と美緒はともかく。
彼は、最初から聞いていたわけじゃないのかな?
それとも、そんなに難しい話だったののだろうか。
「ふふふっ、大丈夫ですよ。今回私が担当させていただいた項は、少し難しい箇所でしたからね」
「やっぱりそうです……?」
「道理で、難しく……」
「えぇ。――皆さんは、六大神様についてはご存じですか?」
「世界を創った神様ですよね?」
名前そのもの迄は分からないけど、一応は知っている。
前にゲオルグさんが名前とか言ってたけど。
何処まで信用できるか分からないし。
余り重要視もしていなかったから、先生にも聞かなかったんだけどね。
今思えば、しっかり聞いておけば良かったかも。
「もしかして、名をご存じなんですか?」
康太や春香はともかく、美緒は女性の話に興味があるようで。
目を輝かせて尋ねる。
やっぱり、彼女は知識欲が旺盛なんだね。
神官職の女性は、その言葉に頷いて答える。
「職業柄、と言うべきなのでしょうね。分かりやすくご説明いたしましょうか」
「「是非ッ!!」」
皆で、口を揃えて同じ事を言う。
聞けるのであれば聞いておくべきなのだろう。
僕たちはこの世界の神様である六大神という存在に召喚されたと聞かされているけど。
今の今まで、その事に触れなかった。
知っておく事が、後々有利に働くのは間違いないだろう。
女性は教会の関係者だろうから。
僕たちにも分かりやすく解説してくれるだろうし。
「では、僭越ながら。六大神様は―――」
六大神は、このアウァロン世界を創生した六柱の神々の総称で。
その神を祀るのが【アトラ教】という宗教。
この教会もその支部の一つで。
アトラ教は、世界中に信徒を持つ大陸最大の宗教だけど。
実は、宗教は他にもあって。
しかし、それら全ても例外なく。
六柱の神々は要として存在が示唆されているという。
「アトラ教の総本山は極西部にあるヴアブ教国なんですよね?」
「えぇ、よくご存じで」
「他の宗教でも名が出てくるんですか」
「それ程に、六大神様の存在が身近にある―――という事です」
存在していると分かっているなら。
わざわざ空想して、想像上の神様を祀る必要は無いってことなんだろうね。
「そして、六柱の神々は―――」
女性は、話を続ける。
……神様の名前だ。
粛然と智慧を尊ぶ 【叡智神ミルドレッド】
海の全てを支配する 【海嵐神バアルキアス】
全てを優しく見守る 【地母神フーカ】
恐ろしくも懐かしい死【淵冥神デストピア】
戦いと名誉を守護する【武戦神ペンドラゴン】
全てを纏める神々の長【天星神アヴァロン】
「文献による差異は無く。全ての記録において、これらの神々を人は六大神と呼びます」
「「…………!」」
ようやく、その名を聞く事が出来た。
その内二柱の神は、確かに以前も聞いたことがあって。
あ、ゲオルグさん。
疑ってゴメンなさい。
神様の名前、ちゃんと合ってましたね。
浮かぶ巨漢に心の中で謝罪しながら。
今聞いたことを忘れないように、しっかりと頭で何度も復唱し、脳裏に刻む。
ここら辺は得意分野だ。
「――あの、ご質問宜しいですか?」
「はい、どうぞ」
「今迄読んだ本に名前が載っていなかったのは、何故なんでしょうか?」
美緒は、前にもそんな事を言っていたな。
やっぱり、宗教的な方針とか?
地球の方でも。
偶像崇拝の禁止とか、戒律が存在していたし。
「書籍に名前が載ることは稀ですからね。新しく出版される物なら尚の事で。教会の方針として、西側では特にその傾向が強いのです」
「……そうだったんですか」
そして、予想通り。
六大神の名前が本に載る事は少ないようだ。
やっぱり神様が身近な分、逆に畏れ多い気持ちとかがあるのかな。
……畏れ多いと言えば。
世界の漂白化があった。
数千年の時が流れても、未だに語り継がれる話。
それだけ大きな天罰で、人々が神々を畏れるのも無理はない事だ。
僕たちは、普通の人よりも見られている可能性があるし。
神様の怒りに触れる事はしない方が良いかな?
「――あの。俺も質問したいんすけど」
「はい、何でしょう」
「勇者って、神様に加護が貰えるって聞いたんです。じゃあ、この世界で生まれた勇者にはどんな加護が与えられるんすかね?」
話は少しずれるけど、それも興味深い。
勇者は、僕たち以外にもいる。
会った事は無いけど。
この世界で生まれた、現地の勇者。
僕ら異界の勇者と彼等とでは色々と差異があるらしく。
僕たちは地球の神様から加護を受けていて……こっちの神様は、一体どんな力を授けてくれるというのだろうか。
「えぇ、お話しましょう。勇者様には、それぞれ六大神様の権能が一つ授けられるとされています。中には、二柱の神から加護を授かる例もあると聞きますが――」
叡智神は、比類なき智慧を。
海嵐神は、人々を統率する才を。
地母神は、強力な癒しの力を。
淵冥神は、生命力を操る力を。
武戦神は、無双の武力を。
――そして、天星神は。
五柱の力をバランス良く……と言った具合らしい。
「……何か、ゲームっぽい……?」
「勇者って感じだね」
「異能とは、全く異なる力なんでしょうね」
ごくごく声を潜め。
内緒話を敢行。
比較してみると、僕たちとは全然違うと分かる。
僕たちが知る現地勇者と言えば。
やっぱり、200年前の大勇者、至高の勇者と呼ばれた存在。
彼は、果たして。
六柱の内、どの神様から加護を授かっていたんだろうか。
「―――勇者ソロモンは、どの神様から加護を受けていたんですか?」
「……ソロモン、至高の勇者ですか。彼は、天星神様の加護を受けていたと伝えられています」
「如何にも大勇者って感じだね」
「凄く無双しそうだな」
「やはり、とても強かったのでしょうね」
天星神アヴァロン……六大神で一番偉い神様の筈だ。
加護もバランス型で。
やっぱり、世界に愛されていたとか。
そんな感じなのかな?
彼についても。
詳しく知れる機会があれば、調べてみたいな。
「ソロモンって、そんなに凄い人だったんですか?」
「そうですね。異界から招かれた勇者様と共に、多くの問題を解決し、様々な種族から賞賛を受けたとされています。実際、共に行動していた仲間には亜人――半妖精種の方も居たと」
半妖精って―――確か、エルフだよね。
何というべきか。
勇者パーティだよ。
絵に描いたような。
きっと、RPGみたいな感じで。
国々を巡って、人助けしながら強くなっていったんだろうね。
その結末は。
バッドエンドだと聞いているけど……。
「勇者と六大神は、密接に関わっていると」
「その通りです」
「――でも、何故六大神がここ迄身近である筈なのに、アトラ教以外の宗教が存在するんですか?」
美緒の質問は、的確だった。
確かに、神は存在すると。
そう分かっているのに。
何故、他の何かを信仰する必要があるのだろう。
「国が異なれば、文化・考え方も変わるモノですから。他宗教とは言いましたが、正確には流れを汲む宗派……と言うべきでしょうか。アトラ教を大木とするのなら、他宗教は枝、と言った所です」
「対立もありますが」と。
彼女は言葉を括り。
分かり易い説明だから。
関係が浮かんでくる。
やっぱり、対立はあるよね。
向こうの世界でも宗教間の対立はあったし、考え方の違いまではどうしようもない。
無理に強制だとか。
或いは是正だとか。
それこそ、戦争だし。
お互いを尊重し合って、干渉を避けるのが最も賢明なんだろう。
「――何か、すっきりしたね」
「知りたかったことが分かって気持ちが軽くなりました」
「説明も、分かりやすかったしな」
小骨の様だった疑問が解消され。
皆の顔も晴れやかになる。
僕としても。
もしかしたら使う事になるかもしれない知識が増えたので、実に気分が良いし。
ムダ知識だって。
あって困ることは無いのだ。
……無駄とか言ってる時点で。
天罰待ったなしだろうけど。
女性は、僕たちに向かって優雅に一礼をする。
「皆さんのお役に立てたようで、良かったです」
「あの、有り難うございます」
「「ありがとうございます」」
「えぇ、こちらこそ。……では、機会がありましたら、またお会いしましょうね。これからを担う冒険者の皆さん」
女性にお礼を言って、教会を後にする僕達。
少し話した限りでは、暫くはこの国に滞在するらしいし。
また、会う事もあるかな?
そう思うと。
名前だけでも、聞いておけば良かっただろうか。
―――にしても、あの人の説明口調。
なぜかは分からないけど、何処となく違和感があったな。
胡散臭いとか、そういう感じじゃなくて。
もっと……こう……? ――より、外向けに語っている感じと言うか。
例えるのであれば。
違う世界から来た人々に向けて語っているような、そんな感じだ。
―――流石に、考えすぎかな?
……………。
……………。
「彼らが、そうなのですね。とても綺麗な眼で、確かな意志を感じさせるようで。確かに、聞いていた特徴とそっくりで……。頑張ってくださいね? 勇者様方」
◇
―ラグナ視点―
「――クロウンスに? お前がか……?」
『おう。相も変わらず、趣味の悪い連中がいるらしいからなァ』
「………趣味、ねぇ?」
『今回の狙いは聖女らしいから、結構な騒ぎになりそうでな。こちらも、偵察に来たって訳よ』
リク達と鍛冶屋で分かれた後。
俺は、“念話”を繋いでいた。
相手は、六魔将のサーガで。
久しぶりの会話でもある。
……鉄錆臭さから目を背けつつ聞く所によると。
奴は現在、セキドウに近い中央寄りの国家である【クロウンス王国】に居るらしい。
クロウンスは、四聖女の一人。
火の聖女を代々継ぐ国家で。
アトラ教の総本山たるヴアヴ教国との関係も強い。
そして、セキドウに近いという事は。
この国からも近いという事で……下手したら、次の目的地にもなりかねないんだがなぁ。
しかして、そこには居るのは。
魔皇国の最高戦力たる大妖魔。
六魔将の一角が偵察で来るとか。
RPGだったら、全滅確定のクソゲー認定イベントも良い所だよな。
……うん、絶対リク達に会わせたくない。
「言うまでもだが、あまり目立つなよ?」
『……ん? あんでェ?』
「何でもかんでもあるか。ギルド総本部からS級が派遣されてきたら、華のクロウンスが滅茶苦茶になるぞ」
サーガの心配などはしていないが。
もし、彼等と戦えば。
最悪、一帯の地形が凄惨な事になりかねないからな。
大人しくしてろ。
『――問題ねェよ。潜入なら、そこそこ得意だしな。何なら、久しぶりに直接会いてぇし、お前も勇者達連れてこっち来たらどうだ?』
「……いや。どうだじゃねえよ」
この馬鹿、本気で言ってんのか?
確かに、勇者の力量は肥大し……リク達は、凄い速度で強くなっているが。
まだ、六魔将に相対は無理だ。
もしも此処でトラウマでも植え付けようものなら、計画が頓挫する可能性すらあるだろう。
俺が皆と一緒に居られるのは。
魔術で色々と誤魔化した上で、極限まで殺気や威圧を抑制しているから。
その分、能力も抑えめで。
只の冒険者さんと化しているが。
そこは、甘んじて右手が疼くプレイを楽しませてもらっている。
「………んで?」
『まぁ、そういうこった。最近は黒曜の方も、何とかって組織を追うのに掛かり切りだしよ』
「そこは、スマンな」
『いんや、良いさ。ただ、こっち側に来ると身体が怠くてしょうがねェ』
奴が自ら動いているのは、ある種俺の所為でもあり。
念話越しに。
如何にもダルそうな声を漏らすサーガ。
耳元で声が聞こえるので。
此方の気分も駄々下がりだ。
囁かれるなら、野郎なんかじゃなく。
優しく囁いてくれるような女の子の声が良いんだがなぁ。
で、何故コイツがやる気を失っているかと言うと。
魔素の影響が大きいだろう。
高位の魔族・亜人である程に魔素の薄い地では制約が大きい。
サーガは文句なしの化け物だし。
彼程の力を持つと、制限も多いのは仕方ない事だろう。
中央でもこれなのだから。
西側なんて行けば、まともに活動すらできない。
まぁ―――いい気味だな、ざまぁみろ。
『……んで? お前さん。陛下への報告は大丈夫なのか……?』
連絡を繋いできたのはあちら側。
近くへ来たから。
久しぶりに会いに来たとか、そんな感じなのだろう。
サーガは魔術が不得手で。
魔力も少ないから。
魔皇国くらい距離があると、念話もできないしな。
……俺自身も。
色々事情が重なり。
カツカツなので、長話は出来ないので。
頭の中で情報を整理しつつ、返答する。
「報告は、さっきマーレに頼んでおいたし、大丈夫だろ」
『……それで良いのか?』
「ははははッ。――何が?」
『お前が居ないと、色んな奴が不機嫌になるから、早く帰って来て欲しいって事だよ。特に―――な? 分かるだろ?」
「……あぁ、うん」
「そういう事だから、任務頑張れよーー』
ちょっと怖い台詞を発しながら別れを切り出すサーガ。
これでも、心配してくれているのだろう。
悪友の言葉に礼を言ってから、俺は“念話”を解除する。
……………。
……………。
そろそろ、日も落ちる。
リク達も戻っているか?
先生は、門限に厳しいのだよ。
この国に来てからはずっと見られているし。
これは、ひと騒動あるよな。
今のリク達であれば、上位冒険者には勝てないまでも、逃げる事くらいは出来るだろうが……。
注意しておく。
それに越したことは無い―――か。
火属性魔術の発動を確認し。
肉の焼ける臭いに背を向け。
人気のない裏通りを後にして、俺もまたゆっくりと帰路に付くことにした。




