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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第四章:勇者一行と通商連邦

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第二話:するべきことも、やりたいことも

―陸視点―




「―――やっぱチョコだよっ!」

「えぇ、そうですね。この味ばかりは、他の何物にも代えられません」



 香ばしい中にも甘さとコクがあり。

 滑らかな口当たりがいっぱいに広がる。


 ……ギメール通商連邦。

 ここは西側に存在する国家だけど、大陸中から商人がやって来るほどの商業国家らしい。

 

 様々な中継都市を巡り。

 昨日の真夜中にようやく到着。


 宿でぐっすりと熟睡して。

 現在は、観光のような感じで大通りを見て回っていたけど。


 中でも目を引いたのは、チョコレート専門店。

 目にも留まらぬ速さで突撃していった女性陣はこれまた速攻で購入し、チョコを摘まみながら笑顔で批評している。

 

 アレが世にいうガールズトークなのかな。



「んでも、やっぱ高級品なんだよな」

「そうだね……。こんなに高いとは思わなかったけど」



 笑顔の向こうとは対照的に。

 苦い顔で笑う康太が摘まむはビターチョコ。


 そのぼやきは、確かに最もだ。

 女性陣はさして気にしている様子もないけど、大体僕たちの依頼一週間分くらいの報酬がチョコレート一箱に消えた。


 凄い高価なんだね。


 この国では、一日で小国の国家予算にも相当するお金が動くと先生が言っていたけど。

 嗜好品一つでもこんなに値が張る所を見ると、あながち嘘でもないのかも。


 甘いチョコと苦い現実を体感しながらカフェスペースで甘味を楽しんでいると。

 後ろから、誰かが近付いてくる気配がする。



「楽しんでるみたいだね、皆」

「あ、先生。何処に行ってたんですか?」



 僕たちが買い物している間、先生が居なくなっていたのは知ってたけど。

 

 何処へ行っていたやら。

 何も持っていない所を見るに、買い物じゃないと思うけど。



「―――先生。迷子です?」



 ……春香?

 彼は別に方向音痴じゃないと思うけどな。

 一番迷子になるの、いつも春香だったし。



「はははっ。保護者としての立つ瀬がなくなるね、それは」

「違うんです?」

「勿論違うさ。ギルド通商連邦支部の方で職員と話してたんだ」



 ギルドも支部も近いからね。

 大通りを見て思ったけど。

 支部のすぐ傍にこういう高級志向のお店が多いのは、偶然―――じゃ、ないよね。


 お金が入った冒険者。


 間違いなく、鴨だし。


 絶対、早々に巻き上げようって魂胆だ。

 流石商売人、汚い……とは、言えないのかな。


 お客さんは皆笑顔だし、完全合意の取引だ。

 商売戦略って凄いんだなぁ。



「私達の一番最初の目的は達成できましたけど」

「この後どうします?」

「フム、そうだね。私としては、気になることは幾つかあるんだが……まぁ、良いや。―――今日は自由に行動ってことで」



 思い立ったように突然付け足す先生。

 自由な日は凄く良いけど、「気になる事」が僕は気になる。


 彼が大丈夫と言うなら大丈夫だろうけど。


 ……それに、僕だって。

 自分でもやりたかったことがあるんだった。

 


「じゃあ、新しい剣が欲しいんですけど」

「……あ、私もです」

 


 そう、新しい剣だ。

 勿論、武器は持ってるけど。

 この世界に来てから愛用している剣は、教国で貰った物。


 とても質の良い物と先生が評してくれたけど、流石に使い込み。

 結構ガタが来ている気がする。


 最初の使い方が悪かったのもあるけど。

 しっかり手入れをしていても、悪くなってしまうのが武器というモノだ。



「良いね、自分で気付けるのは素晴らしい事だ。リクとミオの剣はそこそこ劣化しているし、戦闘中に壊れないうちに変えるべきだね」

「決まりですね……! じゃあ、これから行きましょう!」 



 思わず声も上ずり、テンションが上がる。

 

 僕も、年頃の高校生だし。

 この辺のロマンは分かるんだ。

 自分の武器を自分で選べるというのなら、猶更嬉しいよね。



「では、予算との折り合いや目利きもお願いしたいので、先生も一緒に新しい物を探してくれますか?」

「よし来た。なら、三人で――コウタたち二人はどうする?」


「俺は観光でもしてますよ」

「あたしもー。二人で行ってきますね?」



 康太は来るかとも思ったけど。

 一緒には来ないんだ。

 まぁ、彼は迷子にはならないだろうし。


 大丈夫だよね。

 ……春香は凄く心配だから、是非一緒に行動してもらいたいけど。

 

 楽しそうに並んで歩く二人を見送り。

 僕は、美緒と一緒に先生の薦める鍛冶屋へ向けて歩き出した。




   ◇




 武器という戦闘道具に在って、剣ほど色々な種類が存在する物も稀有だろう。


 大きさ一つとってもそうで。

 素材も多種多様ながら。

 頑丈さに重きを置いた物、扱いやすさ優先の物……特殊な効果が付いた物。


 本当に、様々だ。



「私は軽くて振りやすいのが良いですね」

「なら―――この際だから、刀とかどうだい? 日本人のロマンが詰まってるよ」


「――おぉ、カタナ」

「イエス、カタナ。トウケン」

「「いえーい」」

「……お二人とも? そういうのは分からないですけど、振りやすくて良いんですか?」



 さて、鍛冶屋に来たわけだけど。

 謎の刀推しをする先生。


 確かに、ファンタジーで言えば。

 刀は転生者とか転移者が使っているのをよく目にするね。


 でも、僕たち。

 先生が使ってるのなんて一度も見た事ないけど。



「敢えて理由を言うなら。刀のような耐久力を犠牲にして斬ることを重要視した武器は、下手な使い方一つですぐに悪くなるからね。【ラウン】を使えるミオは、正確な振りを求められる武器が合ってると思うんだ」

「……ちゃんとした理由があるんですね」



 刀の特徴は、鋭い切れ味と脆さ。

 スピード型で、精密な動きの出来る彼女とは非常に合っているんだと先生は言う。


 そうして彼にアドバイスを受け。

 美緒は、柄の形状にもこだわって武器を選び始める。


 さて、僕も選ぼうかな。

 ……でも、さきに先生に聞きたいことが。



「―――先生。こういう刀があるのは、やっぱり転移者とか勇者の影響なんですか?」



 刀を見たのは、別に初めてじゃない。

 この鍛冶屋以外にも、こういう武器が置いてある場所は、沢山あって。


 召喚は数百年前からっていうし。


 やっぱり、そういう事なのかな。



「その影響で広がったという考えもある。けど、それ以前から形状が同じものは存在していたという説もあるね」

「考えることは同じってことですか?」

「そういう事かもしれない」



 世界は広いから……文字通り世界が違うけど。


 そういう事もあるのかな。

 僕は歴史学者でも、剣術とかを習っていたわけでもないから、深くは研究をしないけど。

 偶然武器が同じ形に収束しても不思議はないのか。



「で、リクは今まで通り両刃の剣でいいんだよね?」

「……ぁ、はい。耐久があるのが良いです」



 もうモヤシとは言わせない、僕は変わったんだ。


 この世界に来てから、大分経つし。

 身体にも、筋肉が付いてきていて。

 後は身体強化の影響もあるのか、重い武器でも問題ない程に成長しているので、多少手荒な戦いをしても大丈夫な剣が欲しい。


 康太には劣るけど、僕は一応パワー型。


 美緒のような動きは出来ないし。

 綺麗にも使えないから、己の持っている物の範疇(はんちゅう)で考えないと。



「なら、この辺だな。グリップの下に“堅牢”の魔術を刻印してある」

「ということは? 魔力を流している間は、耐久が飛躍的に上がると。……うん、良いですね」



 魔術の基本概念の一つ。

 【刻印魔術】は専門の魔術師や技術者が行うモノで。


 特定の魔術効果を、半永久的に付与できる。


 大抵の場合は補助・付与魔術系。

 魔力を流している間だけ効果が発動するような仕様だ。


 幾つかの剣を持ちつつ。


 扱いやすさを確かめる。


 愛用の剣と同じくらいの長さで、柄が握り易い物。

 銘は……ソリッド・ソード?

 何だか、潜入系の依頼を受けたくなるね。


 重過ぎもせず、とても扱いやすそうだ。



「――じゃあ、僕はこれにします」

「うん、そこそこ値は張るけど予算内だね。これでも他の店より割り安だろうし、良い買い物だよ」



 主婦かな? ……主夫か。

 属性を盛りたいのかな。 

 本当に、話していて退屈しない人だ。



「先生。私は、これにします」



 こちらの選択が終わる頃に美緒が持ってきたのは、やはり刀だった。

 黒髪でお淑やかな雰囲気の彼女が持つと、何だか絵になるね。



「二人とも、中々に目が肥えてきたみたいだね?」

「使いこなせますかね」

「美緒ならきっと大丈夫だよ」

「その通り。自分でしっかりとした武器を選ぶ鑑定眼があるんだから、リクだって大丈夫さ。じゃあ、この二つでお願いしまーすッ!」



「――あーい、ちょいお待ちを……」



 先生が鍛冶屋の店員さんに話しかけ。

 少し待ってからお会計が行われる。

 この世界に来てからは鍛冶師さんに会う事も多いけど、寡黙で怒りっぽい感じ――如何にもな職人気質って人はまだ見た事が無いな。


 もしかしたら、偏見なのかもしれないけどね。

 


「はい、ソリッドソードとミカヅチをお買い上げねェ、まいどさん」



 ミカヅチ? ……あ、刀の名前か。

 店員さんが名前を読み上げ。

 僕は、さっき先生が話していた言葉が脳裏を過る。



「先生? やっぱり刀の方は……」

「我々のせいかもね」



 僕の買った長剣はともかくとして。

 刀の方は、やっぱり。

 どう考えても、日本神話に出てくるタケミカヅチって神様の事だね。


 そんな名を付けるのは同郷の可能性が高く。


 やっぱり、影響力あるんだろう。

 僕たちは買い取った装備に「ここで装備していく」コマンドを使って。




「あーりがとうございやしたーーッ!!」




 元気な声に見送られて三人で鍛冶屋を出る。


 まだ、時間は昼だし。

 元気も有り余っていて。

 自由行動らしいけど、これからの予定どうしようかなぁ。



「……これから、どうしましょうか?」

「うん。どうしよっか」


 

 頭に浮かんでいた疑問を丁度美緒が言ってくれて。

 

 今は康太たちも居ないし。

 訓練所で新しい武器を手に馴染ませるのも良いかなぁ。


 ……でも、やっぱり。

 自由な日だし、来たばっかりだしで観光も捨てがたいしなぁ。



 先生は、どうするのかな。



「自由に回ると良いさ。私は、知人に挨拶回りをしてくるけど……二人は観光でも楽しんできたらどうだい? ギメールは大通り以外の活気も凄いし、買い物しながらハルカとコウタを探すのもいいかもね」


「そうですね……どうします? 陸君」



 まだこの国に来たばかりだし。

 迷っちゃうね、これは。


 美緒は何処かウズウズしていて。

 これは、観光か――新武器か――どっちの意味だろう。


 ―――うん。

 此処は、観光に賭けてみよう。


 

「じゃあ、観光にしようか。せっかくだし」

「はいっ! 色々見て回りましょうか」



 彼女は、嬉しそうに辺りの景色を見回す。

 どうやら選択は間違っていなかったみたいだ。



「夕方には宿に戻ってくるんだよ。先生心配しちゃうから」

「はい」

「ははは……」 



 保護者のような事を言いながら背を向けて歩いていく先生。


 ……挨拶回り、ね。


 彼がああ言って僕たちの所から離れる事は多いけど。


 そんなに友達が居るんだ。

 ちょっと、羨ましいと思ってしまう。


 けど……僕の予想としては、隠れて何かやっている気もするね。

 彼の事だし、尾行した所ですぐにバレてしまうと思うけど。



「―――私も気になりますけど。取り敢えず行きましょうか? 陸君」

「そうだね。とりあえず適当に見て回って、二人を見つけたら合流しよう」



 どうやら、美緒も気になるみたいだけど。


 考える事は同じで。

 尾行は、無理。

 

 先生を追うのは。また次の機会にして。

 僕と美緒は、並んで大通りを散策していくことにした。



 ……………。



 ……………。



「深紫……深紅……トゲトゲ、ははは。この花屋さん、すっごく毒々しいね」

「見た事ない物ばかりで……えぇ。鮮やかと表現するにも、やや色味が強すぎる気がします。この国では、こういうのが好まれるんでしょうか」


「で、次のお店は……ぁ、此処までかな?」

「先は住宅地のエリアみたいですね。このまま進むのも良いですけど―――あれは……?」



 先を気にせず、色々見ながら大通りを進んでいるうちに、活気のある区画を外れたようで。


 目の前には住居群が現れて。

 雰囲気も静かで、心地良い。


 ……と、そんな住宅街の一角で。

 彼女が見つけたのは石の彫刻が施された建築で、この世界へ来た時に沢山見た建造物群と類似しているモノ。



「教会―――ですかね。お祈りしていきますか?」

「神様って、僕たちをこの世界に連れてきた元凶みたいなものだよね」


「凄い力はあるかと」

「……罰当たる方が早そう」



 僕たちは、六大神と呼ばれる存在に選ばれてこの世界へ来たらしいから。


 そういう意味では恨むべき対象かもしれない。 

 けど、苦しい事以上に楽しい事も沢山有って。


 今となっては。

 さほど恨みには思ってないかな。



「ちょっと覗いてみるのも良いかもね。もしかしたら神託とかくれるかもしれないし」

「ふふっ、どうでしょうね?」



 無いとは思うけど。

 方針も固まったみたいだし、冗談を話しながら敷地に入っていく。


 うん、やっぱり教会だ。


 静かだけど、そこそこ人が入っていて。



「―――あれ、春香ちゃんと桐島君ですね」

「え……? あ、本当だ」



 両開きの扉が解放されているので、入らなくても中は覗けたけど。

 美緒の指す方向を見ると、確かに教会の中には康太と春香が居た。


 左右で分けられ、対称に存在する長い木製の座席。

 二人はその中程に座っていて……どうやら、僕達と同じ感じで最終的にこの場所へ行きついたみたいだ。



「……合流、しましょうか」

「そうだね。四人でお祈りしよう」



 二人も楽しかったけど、四人ならもっと楽しいと。


 お祈りの邪魔にならないよう。

 僕と美緒は、小さな声で会話しながら教会へと足を踏み入れていった。

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