第一話:ナクラ先生のお国解説
―ラグナ視点―
「辺りも大分暗くなってきましたね……」
「眠いんで寝ても良いです……?」
我ら、街道を行く勇者御一行。
セフィーロ王国からギメール通商連邦まで。
様々な中間都市を経由して、未だに俺達五人は楽しく旅を続けているわけだが。
現在の時刻は、夜の闇が広がり始めた頃で。
敢えて、魔物の入り易い道を行き。
いつでも迎撃できる環境に身を置く。
……その影響もあってか。
皆、満足に眠る事も出来ない訳だ。
まぁ、若干一名寝ようとしている悪い娘もいるが。
「―――む、ぅ……っ。ギメール迄、後どれ位ですか……?」
「……ぁぅ……気に、なります、ね。君主制でないというのは、知っているんですけど……」
「……そう、聞いたなぁ」
馬車の手綱を握る俺へ、眠気を堪えるようにリクとミオが尋ねてきて。
康太も静かなテンションで相槌を打つが。
幾ら先生でも、今だけは子供は寝る時間ですよ――とは言えないからな。
色々解説して。
眠気を忘れさせてあげることにしようか。
この状態で覚えられるかは分からんが。
セフィーロ王国を出た頃に言っていた西側の国名を覚えるという課題も達成できたようだし。
皆記憶力は良いみたいだし、な。
「じゃあ、運転しながら解説しようか」
「……は、い」
「分かりました……っ」
「よし来た。眠気を堪えている子も、眠ろうとしている娘も。頑張って起きててね」
「……うっす」
「……………あい、あい」
ハルカ―――既に眠ってないか?
彼女の場合は。
他の三人よりも魔力を多用して戦闘するスタイルなので。
精神の疲労が大きく。
負担も掛かるからな。
そこは、しょうがないか。
取り敢えず、聞いているという体で進めよう。
「大陸西部の東側に位置する国家。ギメール通商連邦はだね―――」
あの国は、規模で言えば小国。
これ迄経由してきたような中間都市にも類するような、都市国家程の大きさである国家だ。
そして、連邦という名の通り。
昔は、小さな国々……まぁ、氏族みたいな人々の寄り合いだった。
かつてはギメールも中間都市の一つだったゆえ。
彼等は、古くより物品の収集と売買を専門とし。
そこから利益を得る事を得意としていたんだ。
しかし、その目利きの良さから、いつしか名が広まっていき。
珍しい品や素材に惹かれ。
多くの商人が定住し始める形で住民が増えていき、やがて今の形へ落ち着いた。
それこそがギメール通商連邦―――商人の国という訳だ。
「……商人の国、ですかぁ……」
「楽しそう……ぅぅぅ、ねむ」
余程、初代の者たちが優秀だったのだろう。
現在のギメールは、大陸でも最大級とされる貿易の要所だ。
完成品でも。
又は、中間素材でも。
……或いは命でも、奴隷でも、魔道具等でも。
大抵のモノは揃うと言われるのが、通商連邦。
「で、その政治方針なんだが……―――リク。三時の方角」
「……はい。“風切羽”」
説明を続けようとした時。
オーク種が索敵に掛かり。
馬車の右側から襲い掛かろうとするも。
リクの魔術がその身を切り裂き、両断された魔物は倒れる。
恐らく、ハグレだが。
森でなく、平地であるこの辺に居るのは珍しいな。
……街道に出てくるのは、尚の事。
因みに“風切羽”というのはリクが使えるようになった風の魔術だ。
風属性は殺傷力が高く。
実戦向きな属性だが。
欠点として、扱いが難しくて。
本調子でないのにしっかり標的へ当てるのは、随分成長しているな。
最近では。
ハルカ以外の三人も魔術へ手を出し始めているが。
皆しっかり成長していて。
俺としても嬉しい限りだ。
それに、魔術面だけでなく。
気配を感知する、冒険者としての直感も磨きが掛かっているようで。眠気に苛まれていても、殺気を感じていただけに、対処が早い。
――っと、続き続き……。
リク達が夢という冒険へ舟を漕ぎだす前に、話題を出さんと。
「ギメールの政治方針としては、元々いた氏族の子孫となる家系……その長達による合議制だ。【連邦議会】って言われているね。一般の住民は都市の外側で生活しているが、お偉いさん方は内側で家ごとに生活しているのさ」
「―――あからさまな階級社会だぁ」
「それ、もしかしてドロドロしてません……?」
リクが嫌そうな顔で尋ねてくるが。
まぁ、気になるよな。
歴史とか、ドラマとか。
よくあるお家同士の騒動。
「あるんだろうなー」という楽観的な予測からくる質問なのだろうが……。
「ご名答。どの一族も、自身が上に立つべきだと水面下で工作を続けているから、常に内戦状態さ。どの家も名のある冒険者や傭兵、果ては盗賊や騎士崩れなんかも積極的に勧誘して私兵にしている」
「……ウへェ、昼ドラぁ……」
「絶対に、巻き込まれたくないですね」
真っ先に反応したのはハルカで、どうやらちゃんと聞いていたようだ。
もしかしたら。
そういう系の話が好きなのかもしれないが。
……いや、別に。
昼ドラが全部ドロドロしている訳じゃないからね?
「じゃあ、もしあたしたちが勇者だってバレたら……?」
「「―――あ……ッ」」
「そりゃあ、間違いなく。どこの家も勧誘してくるだろうね」
それこそ、無理やりにでも。
あの国の権力者共は、そういう輩だ。
誰一人として、例外なく。
高潔な精神の持ち主なんて、いやしない。
果たして、何が彼等をそうさせると言えば―――そりゃあ、欲望で。
「……やっぱり、先生も勧誘された事があるんですか?」
「一応名のある冒険者だし」
「あぁ、勿論。ドラフト一位通過さ。S級よりも扱いやすい上位冒険者は、むしろどの国でも引っ張りだこだからね」
「超次元野球はマズいんじゃないっすか?」
そりゃ……まぁ―――間違いなくマズいな。
グラウンドはぶっ壊れるだろうし。
サッカーのような超耐久のゴールネットは無いし。
だが、言えることとして。
ギメールの狸や狐。
あれらは、手段なんて択ばない。
俺が冒険者としてあの国に滞在していた時なんかは、仲の良かった現地の友人や呑み友なんかを買収されたり、人質に取られたりもしたからな。
「いやぁ……本当に。私が穏便に済ますのに、どれだけ苦労―――」
「本当に、穏便に済ませましたか?」
「半壊させたりしてませんか?」
……………。
……………。
何故、俺はこんなにも信用が無いのだろう。
そんな事をする人間に見えるか?
残念、魔人さんだ。
あと、精々三分の一壊くらいだ。
「―――この顔は、言い訳を考えている顔ですね」
「明らかに、一般的な穏便じゃないな。三分の一壊とか心の中で言い訳してそうな顔だ」
「うん。そういう感じだよね? コレ」
思った以上に見透かされているな。
どうやら、自慢の弟子たちは戦闘以外でも逞しく成長しているらしい。
社会に揉まれるのは良い事だが。
先生としては、余り痛い腹を探らないで欲しいな。
今バレると、マズい過去ばっかりだ。
「―――まぁ、バレなければ問題ないさ。向こうに着いたら、私も出来るだけ息を潜めて活動するつもりだからね」
「絶対バレると思うんですねどねェ……?」
だろうね、隠れるのは無理だ。
俺自身だって。
ギルドの方では、重要指名手配犯のように顔を知られてしまっているわけだし。
都市とギルド支部はズブズブ。
バレずに国を出るのは、不可能だと思って良い。
流石にこの子らが勇者という情報はバレないとしても。
俺自身は……出来る限り、上手く立ち回るとするさ。
「あれっ……? ―――先生。あの光って、もしかして……」
「……んみゅ……ん、何々? 着いたの?」
既に時間は真夜中で。
馬車に備え付けたランプが無ければ、先も見えない景色の中。
やがて、見えてきた風景は。
先程とは、まるで異なるモノで。
「凄い、綺麗ですね……。都会の夜景みたいだ……!」
ギメールは、様々な二つ名を持っているが。
その中でも特にメジャーなのが、【眠らない国】だろう。
常に煌々とした灯りが夜を照らし。
どんな時でも光を失わぬ。
まさしく、眠らない国家で。
それ自体も、彼等の習性が現れ出たもの。
「そう、あれがギメール通商連邦だ。夜でもお金は動き続けるし――むしろ、夜の方が本番という人もいるね」
「「……うわぁ」」
「……お金大好きかよ」
そう、お金大好き。
金でも喰ってんのかってくらい稼ごうとするからね。
我々は冒険者だから。
お偉いさんの政治闘争は関係ないが。
……にしても、な。
この任務を受けた時から思っていたが、やっぱり魔皇国に居ないと、陛下に無茶ぶりをされることもないし、馬鹿な遊びに付き合わされることもないから。
とっても平和だな―――ッ!!
小さな幸せを噛み締めながら。
丁寧に舗装された街道へ入り。
そのまま、都市の検問へと馬車を走らせていく。
「さぁ、守銭奴の巣窟に到着だ。あぶく銭の用意は良いかい?」
「「……………」」
―――返事がない、既にお休みのようだ。
どうやら、もう魔物は出ないと気付いたようで。
皆、スヤスヤと眠ってしまっている。
へへ、我慢勝負は俺の勝ちだな。
御者が寝たらエライ事になるが。
「ゆっくり御休み――……じゃねぇよ。宿を探すよ? こんな所で寝たら風邪ひくし。ホラッ! 起きた起きた!!」
可愛い弟子たちの成長を見守りながら。
今は、今だけは。
この自由という幸せを噛み締める事にしようか。
計画のためとはいえ。
彼等とは、いずれ必ず袂を分かつ身だからな。




