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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第三章:過去編 彼と六魔の三百年(壱)

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番外編:変な遊びは教えないほうがいい

―アルモス視点―




「―――なぁ。なァなァ、アルモス。暇だし、何かやろーぜ?」

「……忙しいから黙ってろ」



 俺が書類整理に追われているにも拘わらず。

 邪魔をしてくる鬼野郎。


 カルディナの一件から。


 かれこれ数か月が経過したが。


 既にサーガは、外交の任に就き。

 魔皇国の外交官として、多くの仕事をこなし始めていた。


 現在は、粗方できる業務を終えてしまったようで。

 暇を持て余しているみたいだな。

 何でもそつなくこなせる奴らはこれだから……クソッ。



 凡人は、コツコツ仕事するとしますか。



「なぁなぁ、何か付き合ってくれよ」

「そんなに暇なら、部下の鍛錬に付き合うか外で遊んでろ」

「―――お! 良いなッ。()()()やろうぜ、やきう」


「野球だバカ。それだと、別の何かになるだろうが。というか、マジで遊びの方かよ。鍛錬するって発想はねえのか?」



 野球に関しては、教えてしまった俺にも責がある。


 前に、一度だけ。

 何となしにそういう遊びの話をしたが。


 鬼の好奇心旺盛な事、自由なこと。

 実際にやりたがってしょうがない。


 だが、もしもコイツが。

 本当に野球なんぞしようものなら、間違いなく王都の防壁がボコボコになりかねず。


 ……完全に失敗だった。


 気軽に変な遊びを教えるべきではなかったのだ。



「オーガ種の野球チームとか、王都をぶっ壊す気満々じゃないか。絶対にやるんじゃないぞ」

「外交に使えると思ったんだがなァ」



 社会人特有の、接待ゴルフ的な感じか?

 亜人氏族が壊滅するわ。


 都市集落が滅びるからやめろ。


 もしも地球に居た感覚で何かをすれば。

 この世界では致命的な大惨事になる場合が多く、ドッジボールとかは、最早ただの戦争だ。



「……本当にダメ?」

「ダメ」 

「お前が仕事サボってるって陛下に報告しちゃうぞォ?」

「――鬼かお前ッ!?」


「鬼だが、問題が?」

「……いや。こんな真面目に仕事してんのに、そんなことされたらこっちもグレるぞ」



 どういう神経してるんだコイツ。

 ブラック企業も真っ青なパワハラかましやがって。


 そっちがその気なら。

 俺も、お前がサボってるって陛下に―――あれ?


 コイツ連れてきたの俺だし。


 ほぼ、俺の責任じゃん。


 首なんて落とされたくないし。

 これは、逃げ場がない……だと……!?




「………ッ」

「ヘヘヘヘヘェェェ―――ッッ!! どうした? お前も陛下に報告してみるかァ?」

 


 それすらも想定内か、この策士が……ッ。


 改めて俺が八方塞がりを感じていると。

 不意に執務室のドアがノックされる。

 外部での任務ばかりなので、俺の仕事場であるこの部屋は殆ど留守にしている場合が多く。


 これは久々の客だな。

 サーガはただの邪魔者なので、客には該当しないし。



「―――失礼致します」



 俺の返答を経て。

 入ってきたのは、若い有角種の騎士。

 屈強な種族にしては何処か中性的で優し気なその貌には、確かな見覚えがあって―――あぁ、そうだ。



「君は―――ルーク君、だったかな……?」

「はいっ! 覚えて頂いて光栄です、アルモス卿。サーガ殿も。覚えはないと思いますが、お久しぶりです」

「うん? ……あぁ、幻惑使いの!」



 流石、天災―――天才?

 サーガも覚えていたようだな。


 彼は、カルディナ所属の騎士。

 俺とイザベラを案内してくれた、有角種の騎士くんだ。


 あの時、捕まってからは。


 牢屋に放り込まれたんだったな。



 ―――今更だが、申し訳ないことをした。



「いやー、俺と君は顔合わせとかは無かったからな。――そう言えば、部下の一人が君にゾッコンだったみたいで……どうだ?」

「……遠慮しておきます。カルディナに恋人がいるので」



 ……何が、「どうだ?」なんだよ。


 言われても大抵の魔族は断るぞ。


 屈強なオーガ種の雄に迫られて。

 喜ぶ魔族の男性が、多数派な筈もないだろうが。


 答える騎士くんの反応は当然だが。

 まるで、死亡フラグ。 

 これが小説とかだったら、故郷(カルディナ)に居る恋人にビデオレター的な何かが届きそうで。


 我ながら、考えるだけで吐き気が。


 ……それで、何故。

 カルディナにいる筈の彼が、此処にいるのだろうか。



「君の勤務はカルディナだっただろう。どうして王都に?」

「……んァ? おう、確かにな」

「はい。宮廷魔導士団から勧誘を受けまして、暫くは王都でお世話になる事になりました」



 成程、魔導士団のスカウトか。


 未だ団員が不足していて。

 王都以外からも募集していると言っていたな。


 なら、こういう事もあるか。

 この場合は、地方からの栄転と考えてキャリア的にも喜ぶべきだし。



「それは実に喜ばしい事だな。―――所で、君は……ふむ」

「いかがされましたか?」



 いや、前々から気になってはいたんだが。

 彼は白兵が得意な有角種。

 それは間違いない筈なんだが、魔力消費の激しい魔術を使えるのが、実に不思議で。


 ちょっと顔を注視するが。


 ……うん、イケメンだな。



 考えられる理由としては―――

 


「宮廷魔導士団に勧誘される程って事は、血縁に妖魔種がいるのかな?」

「えぇ、祖母が妖魔種でして、その遺伝が濃かったようなのです。……その分、白兵戦が不得手になってしまいましたが」


「妖魔種と有角種―――?」

「稀だが、そういう事もある」



 サーガの疑問通り、珍しい事。

 異例とも言えるな。

 魔族は、大抵同じ種が(つがい)になる事が多く、彼のような例は特殊。


 俺自身、様々な魔族を知るが。

 実際に混血に出会ったのは、僅かに数回ほどだ。



「―――あの。それで、要件なのですが」

「すまない、忘れていた」

「いえ、団長がお二人をお呼びなのです。魔術研究室の方で」

「……イザベラが? こっちもこっちで忙しいって言っているんだが―――サーガ? 一人で行って確認して来てくれないか?」


「おいおい、堅いこと言うなよ」

「いや、面倒だし」

「仕事サボれる大義名分ができただろ? 俺だけで行くと、何かされそうなんだよ」



 俺は陛下の眷属として当然だが。

 オーガの変異種であるコイツも、あの魔術師からすれば垂涎(すいぜん)物の資料で。


 サーガの戦闘スタイルは、イザベラと相性が悪く。

 決闘などを行った場合。

 一方的に封殺される可能性が高いだろうし、一対一で会いたくないのだろう。


 ……いや、マジで。

 捕まったら何されるか分からん。 



「……まぁ、ルーク君の顔も立てて息抜きとするか」

「おおっ、行く気になったか!」

「ありがとうございます、アルモス卿」



 助けてやると思ったか?


 残念、その逆だよ。


 息抜きついでに。

 サーガをイザベラに売り渡し、回復薬でも処方してもらうことにしよう。


 これぞ、完璧な計画だな。




   ◇




「―――では。私は他の部署に用がありますので、これにて失礼致します」



 イザベラが束ねる研究室の前に立ち。

 別れの言葉を切り出すルーク君。



「ご苦労様。いずれ、ゆっくりと話すことにしようか」

「……喜んで」

「んじゃ、またなー」



 基本的に真面目な魔族ほど割を食うのは。

 人間と殆ど同じだな。


 何かから逃げるように、忙しそうに去っていく騎士君。

 その後ろ姿を見送りながら、俺はサーガに入室を促す。


 この部屋は。

 ノックしようが意味ないしな。



「おぉぉっす、お邪魔……ガァアア―――――ッッ!?」



 予想通り、金属製の扉が弾け。

 入室しようとしていた鬼ごと吹き飛んでいく。


 実は、この扉。

 登録された者以外が入ろうとすると、吹き飛ぶのだ。

 サーガはいつも登録者の付き添いとかで来ていたから、気付かなかったんだろうが。



「はははっ。楽しそうだな? サーガ」

「……なァ。お前、扉吹っ飛ぶのに慣れ過ぎじゃねえか?」



 逆立ちに失敗したような形で壁に寄りかかり問いかけてくる変態。

 恐らく、鬼の趣味だろう。


 ……まぁ、妖魔種も変態揃いだしな。

 長い付き合いだし。

 こういう良く分からないセキュリティだって、慣れてしまえば可愛いもんだ。



「お前もじきに分かるさ。妖魔種の生態ってやつが、な」

「悟ってんじゃねえよ」



 如何にサーガが天才であろうと。

 知らない事までは対策できない。

 城内の自動迎撃機能は殆ど妖魔種の管轄だから、そのうち聞いておいた方が良いだろうな。


 マジで、命が危ない。


 実力主義ってこえー。



「―――で。何時まで貴方達はそこで――立ち……話? をしてるのかしら。面白い体勢ね、サーガ」

「元はと言えば全部お前のせいだろうが、イザベラァ!!」


 

 そりゃ、扉が吹き飛べば誰だって気付くだろう。


 俺達がワイワイやっていると。

 研究室の主が顔を出す。


 ここ数か月で仲良くなったもんだな。

 俺の中では、既に問題児二人組となりつつある連中だが。 



「それで? 今回はどんな要件だ。俺が忙しいのは知ってるだろう?」

「そうね。貴方が忙しいのは知ってるから、サーガが絡んでくる頃に呼ぶようにしたのよ。そしたら二人で来るでしょうし」

「「……………」」

「ルークに行かせたのも正解だったわね」



 俺の周りにいる連中は天才ばかりだが。

 どうにも、努力の方向性を()()()()間違えている。


 マジで、使わないのなら。 

 その脳みそ分けてくれよ。

 俺も、陛下から下賜される任務(ムチャぶり)サボる口実に使うからさ。



「……下らない用事なら、俺は帰るぞ」

「貴方はともかく、サーガは気に入ると思うわよ? ――さぁ、こちらに」

「へへッ……。魔導士団のお手並み拝見といこうか」



 自信ありげなイザベラに案内され。

 警戒しつつも室内へ招かれる俺達。


 研究や定義を行っている魔術師たちの傍を通り抜け。

 そのまま、試作品の並ぶ区画へやって来たが。


 どう見まわしても。

 ガラクタにしか見えない機械たち。


 その一つの前で。

 イザベラは、足を止め―――おい、これって……。



「―――なぁ……コレは?」

「前に貴方達が話してた、何とかっていう攻城兵器を再現した新型の射出機なのだけど。試作でも、岩くらいなら貫通できる程の威力が出たわ」


「おぉッ! やきう出来そうッ!」

「……………」

「お気に召したみたいね?」



 目の前にあるソレは。

 どう見ても、大きめのピッチングマシーン。


 投石器(カタパルト)の小型版と言えば良いのか。


 魔術機構を合わせたからか。

 途轍もない威力になっているのだろう。



 ……まず、声を大にして言いたい。

 ピッチングマシーンは攻城兵器じゃないんだが?



 どういう勘違いで?


 何故生まれ落ちた?


 悲しき怪物、恐ろしき殺戮兵器、みんな()オモチャ。


 言い方は数あるが。

 この世界じゃなかったら死人が――この世界でも死人が出るんだが?


 あと、やっぱりサーガは。

 野球に関して、根本的に何か勘違いしている気がする。


 

「目を輝かせるなバカ其の一。……なぁ、其の二。何に使うんだ? これ」

「ホラ……アレよ。攻城戦―――とか……?」



 何故か製作者自身が疑問形だが。

 彼女は大規模戦闘や攻城戦の経験がないから当然の事だ。


 このバカ其の二は。

 経験というモノが致命的に欠如している。


 研究者が、自分の造った武器の性能を知らないのと同じ。

 用途を考えないのと同じ。

 ただし、無尽蔵に造り過ぎるというのは、一体どういう了見だろう。



「分かんねェなら、いっちょ使ってみれば良いだろ?」

「そうね。威力自体は問題ないでしょうし、実際に外で試してみるのが良いと思うわ」

「……おい、どこ行く」

「「おそとぉぉッ!」」

「おい! おい? ちょっと待て―――……ハァ。何か、嫌な予感がするんだが」



 楽しそうに準備を始めるイザベラと。

 兵器を屋外に運び出そうとするサーガ。


 俺の第六感が、囁いている。

 今すぐ逃げろと。

 だが、逃げても無駄だ。コイツ等の責任は、何故か全部俺に回ってくるからな。


 いま俺が出来る事は。

 少しでも被害を減らすことだ。

 


 まぁ。向ける方向さえ間違えなければ、どうとでも―――



 ……………。



 ……………。



「おい、三馬鹿。言い残すことはあるかの?」

「「……………」」



 銀色の長髪を逆立てて、お怒りを表現する陛下。

 怒髪天を衝く……ってやつだな。


 少しでも王都への被害が無いように。

 防壁外で性能調査した筈だったのに。

 弾丸のように射出された弾は、そこだけは忠実にサーガが打ち返したことで、遥か上方へとへと飛んでいき。


 偶然、城の一角へと……うん。


 陛下の自室へと飛んでいった。



 ―――わーい、ホームラン。



 ふざけんなよッこのヤロウ!

 どんな確率だよッ!?

 

 俺、完全に被害者ァ!!

 何でコイツ等と一緒に正座させられてんの―――ッ!?



(サーガ、お前如何にかしろ)

(……はッ?)

(こういう時こそ、普段碌なことに使わないその脳の使い所だろ!?)

(――勘弁してくれッ! 全部力で捻じ伏せられて終わりだ。それに、俺とお前は一蓮托生……だろ?)



 マジで、コイツ連れてきたの誰だよ。



「……えと、陛下? これには、深い訳がありまして」

「ほう? 余の自室に、轟音をもって物を投げてくるような輩は何処の命知らずなのかと思ったが……どんな訳じゃ?」

「ええーー……っと。兵器の性能テストを―――」



 自分だけが助かりたい一心か。

 これまでの経緯を陛下に説明し始めるイザベラ。


 だが……それ、逆効果じゃないか?

 俺とサーガの畏怖に反して、陛下の顔がだんだん怒りの表情から戻っていくのは大変結構なのだが。

 アレは許しているわけではなく……。


 良からぬ事を考えている顔だ。


 面白い玩具を見つけた顔だ。



「――ふむ、成程のぉ……。結構なアホ道具を作ったものじゃ。魔術式の無駄遣いそのモノじゃな」

「はい、その通りで」

「仰る通りだと愚考します」


「なんで、すぐ解体するために失礼――」

「じゃが、興味は沸く。打ち返した結果がアレなのじゃろ?」

「「…………」」

「サーガよ。得物をちょいと借りるぞ?」



「……なぁ? アルモス」



 冷や汗を流すサーガの言葉には耳を貸さず。

 俺は、既にその場からダッシュで撤退を敢行していた。


 これは、ダメなヤツだ。

 陛下の命令は絶対だから「逃げるな」とか言われれば、それ迄だが。


 バレてない今なら。


 何とか逃げおおせる筈―――



「おい、イザベラ。余に向かってそれを発射せい。出来うる限り高威力でな。……さぁ、逃げるでないぞ? アホウ共」

「……へ? ……はぁ―――ッ!?」

「……まぁ、そうなるよなぁ」 



 逃げおおせる筈がないだろうが。

 世界最強の魔王様だぞ?

 

 これで逃げ道は無くなった。


 次々に射出される弾を。

 俺とサーガに向かって打ち返していく陛下。

 そのスイングは、かつてバッティングセンターで見た風景そのもので……。



 しかして、威力は比較にならない。



「ハハハハハ―――ッ! これはッッッ!」

「ちょッ!? 陛下ッ!? 当たったら―――死んじまうッ!」

「確かに、中々楽しいのう」

「いや、マジで当たったら死―――危ねェェッ! デッドボールとか言ってる場合じゃねえッ!?」



 陛下の表情は、まるで初めての遊び道具に喜ぶ少女のソレ。


 音速で飛ぶ殺人弾を。

 俺とサーガは、その場で回避しながら慈悲を乞う。


 やっぱり、この世界で。


 球技のスポーツは無理だ。


 俺たちの背後は芥子屑になり。

 根こそぎ吹き飛び。

 破壊の魔王に偽りはない凄惨な結果となった。


 これ以上。

 勘違い野球擬きが広まらないと良いんだがな。




 ―――――で。勿論、後始末は。




 ―――――俺とサーガとイザベラがやることになった。

第三章、完結

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