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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第三章:過去編 彼と六魔の三百年(壱)

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第十三話:魔王の器

―アルモス視点―

 



「アルモス卿! 作戦は上手く行ったようだな―――っ!」

「えぇ、お陰様で」



 俺達がサーガを伴って合流地点へ戻ると、予定通りアインハルト候が待っていた。

 彼は俺の背をバンバン叩くと。


 そのまま隣の鬼へ視線を移し。


 一瞬で体育会系のノリを切り替える。



「―――そして。サーガ殿、と言ったか。貴殿の能力には感服したぞ」

「……はぁ」

「素晴らしい武者(もののふ)――否、将の器だ。敗北した私が言う台詞ではないがな。これからは、是非肩を並べて戦いたいものだ」



 かつて、恥辱を受けた敵に。

 まるで邪念を感じさせぬ笑顔で話しかける騎士。


 普通、まともな精神をしていれば。

 プライドが邪魔してこんな真似は出来ないが。


 流石に、この騎士は器が違い。

 逆に、サーガは。

 言葉をかけられ、どのように返せば良いのか分からないようで、俺に耳打ちしてくる。



「……俺がいう事じゃねんだが」

「ん?」

「魔族ってのは、こんなに開放的なのか?」 

「――まぁ……。有角種は、皆こんな感じであるというのは間違いないな」



 白兵戦や、前線での戦いを得意とする彼等。

 有角種に多い傾向だが。

 魔族という種自体、全体的に強者に惹かれる種族特徴がある。


 それは、腕っ節でも頭脳でも。 

 とにかく、優秀であれば多くの者たちから賞賛され、尊敬されるという実力主義の典型。



 それが、魔皇国エリュシオンだ。



 ―――ほんのごくごく一部だけ。

 


 上層部が腐っているが。

 そこも、いずれ取り除くつもりだしな。



「………あーー……う、ん?」



 未だ魔族を理解しきれない男は。

 納得しきれないように頷く。



「そう、なのか。……アインハルト候って言ったか?」 

「あぁ、そうだ」

「一族を殺さないでいてくれた事、感謝する」

「……クククッ。それは、こちらも同じことだろう。これで一勝一敗。引き分けになった勝負は、いずれ我々だけでつけるとしよう。負けっぱなしは性に合わんのでな」



 どちらも多くの命を預かる身。

 繋がるところはあるのだろう。

 二人の間に(わだかま)りは殆どないように見受けられた。


 ……で、もしも殺り合うなら。

 他者への被害が無い所で頼むぞ? マジで。



「―――では。今日の所は休み、明日に王都へ戻ることにしましょう。戻ったら、オーガたちは一時的に王都の何処かに逗留してもらうとして……ふむ」



 カルディナへ来た当初は、俺としても。

 色々考えを巡らせていたが。

 まさか、一日と経たずに平定し終わるとは思っていなかったので。


 この後の事を、どうすべきかと考えていた。


 今回の件に限って言うのならば。

 サーガが俺たちをすぐ捕らえる程に警備を強化させていた故に、こうまで早く決着したとも言えるし。


 こればっかりは。

 裏目に出たなんて言えん。



「アインハルト候もご同行願えますか?」

「……そうだな。陛下からどのようなお叱りを受けるか分かったものではないが、領主の責任は果たさなければ。暫し、都市の防御を強化するように言っておこう」



 若干怯えを見せながら彼は頷くが。

 それが妥当だろうな。


 領主が王都へ行っている間に。

 また、都市が墜とされました――なんて。


 笑い話にもならん。


 そもそも、この都市の防壁はかなり優秀で。

 飛行してくる魔物以外なら、大抵は簡単に撃退できる筈なんだがな。


 だからこそ。

 任務を聞いたとき俺も衝撃を受けたのだが。



「―――サブナーク様。やはり、鬼たちが」

「……そうだろうな」

「何か、あったか?」

「いやな、サーガ殿。オーガたちに顔を見せてやってくれんか。「大将をだせ」とうるさいのらしいのでな」



 伝令の騎士から報告を受けたアインハルト候がサーガに向かって苦笑する。

 どうやら、捕虜……オーガ達も元気そうだな。


 本当に、サーガは部下に信頼されているらしい。

 まだ、空想段階の話だが。

 コイツなら、いずれ魔皇国周辺の亜人士族どもを完全に纏めてくれるかもな。



「……はっ。全く、手のかかる奴らだ。―――とぉ、良いのか? 変なことを考えないとは……」

「無論、俺も一緒に行くさ」

「サーガ殿も、問題ないな?」

「――あぁ、それなら――じゃなくてだなァ。何で俺が心配しなきゃいけねえんだッ! お前ら警戒心なさすぎねえかぁ!?」



 うるせェ鬼野郎だな。

 もう少し、小さな声で話せないのか?


 ある意味では。

 ツッコミ要因を確保出来たって事でも、良い収穫だったな。



「ふーーん♪ ふふ~~ん」



 ―――んで、イザベラ。


 さっきからなにも話さないと思ってたら。

 何時まで空間石を弄り回してんだ?

 それ、もうそろそろ取り上げようと思ってんだが……これは。


 暴れそうなので。


 面倒は後にして。 

 

 俺は、サーガと共に。

 捕虜となったオーガ達の居る牢へ向かって歩き出した。




  ◇




「―――おいおい……! ここが――魔王城ってやつか……?」

「そうだな」

「随分きらびやかなもんだなぁ……! スゲェ……」

「……そうだな」



 何分、引き連れる人数が多かったので。

 行きよりも多くの日数を要し。


 滅茶苦茶疲れたが。

 俺達は、何とか無事に王都へ戻ってくることが出来た。


 全てに興味を持って近づく鬼連中も厄介だが。

 やはり、オーガ種はこういう巨大な都を知らないらしく、サーガすらも興味深げに辺りを観察していて。



 所謂、おのぼりさんてヤツだな。



「―――おい、目的は王都見学じゃない。早く行くぞ」

「えぇ~~?」

「物見遊山は後だ。既に、謁見の準備も整えられているからな。今のうちに、出来得る限りの覚悟しておいた方が良いぞ。……アインハルト候も」

「………わたし――? はは、は……。で、出来ている決まっているだろう」



 俺には、とてもそうは見えませんけどね。


 既に緊張している様子だが。

 アインハルト候の顔には、更に青さが混じっていて。


 歴戦の騎士と言えども。


 魔王様は怖いと見える。


 今回は、俺が怒られる謂れは無いし。

 こちらには飛び火してこないだろう。



 ―――恩赦(おんしゃ)の話以外は、な。



 城門を潜ったあたりで俺たちは馬車から降り。

 その足で王城へ入って行く。

 隣を歩いているイザベラは、()()()一言も発さないが。


 さて、何故なのやら。



 ……………。



 ……………。



「―――アルモスよ。カルディナ領における混乱の平定、大儀であった」

「……は」

「此度の働きは、中々のモノであったぞ。――無論、イザベラもな」

「……………」

「……勿体ないお言葉です」



 すぐに通された、広い謁見の間には。

 近衛騎士と内政の重鎮が並び。


 俺とアインハルト候。


 イザベラとサーガ。


 四人で跪き、国王に対する例を取るが。

 無言のイザベラに取り合う事もなく。

 今回の陛下は、中々に機嫌が良さそうで――これは、イケそうじゃないか?



「―――サブナークよ……。不覚を取ったらしいの」



 ……あ、もしかしたら無理かも。


 引き込まれる紅く鋭い瞳を向け。

 アインハルト候を見下ろす陛下。

 絶世の美しさを持つ彼女だからこそ、その射殺さん視線には直接向けられたわけでない俺ですら肌が(あわ)立ち、背筋が凍て付いていく。


 本当に、いつも思うが。

 公私で性格違い過ぎるよな、陛下。



「全ては私の無力さ故です。処罰はいかようにも」

「……ほぅ?」



 しかし、既に覚悟がキマッている騎士の眼は、陛下の言葉にも動じない。

 こういう所で、生まれつきの騎士は覚悟が違う。

 流石は侯爵位貴族様。


 ……で、彼はああ言っているが。


 今、彼の首をとばすのは下策だって。

 俺にだって分かるぞ。

 陛下がどうするかを推し量る事は出来ないが、彼のクビは本当にカルディナが終わる。


 世継ぎはまだ子供で。

 成長にはもう少しの猶予が必要……。


 と、真正面から己の眼光を受け止めた領主へ対し、魔王は「どう料理してやろう」といった笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ。



「……くく―――ふふふッ……良い。これ迄の功績を考えれば、些細なことじゃ。勿論、ある程度の処罰は必要じゃが。まだ体が動くうちに、後進の育成に努めよ。お主も全盛期は過ぎた身じゃからの」


「―――御意」 

 


 その言葉、誰よりも年上の陛下にだけは言われたく……おぉぅ。

 何か、睨まれた気が。


 ……気の所為か?

 

 その辺が落とし所だとは思うが。

 俺に政治の話だとか王の裁量なんてのは分からん。


 しかし、少なくともこの国。

 魔皇国にとって、彼女の言葉は絶対。


 彼女が決めた事には誰も逆らえず。

 故に、好きな処罰を降せる。

 それで尚この国が健在なのは、魔王エリュシオンの政治手腕がそれ程のモノであり、決して揺るがぬ権威である証明に他ならない。 


 そんな、神にも近い魔王陛下が。


 次に視線を向けるは矮小な鬼で。



「して―――ふむ、黒鬼か。直接会うのはいつ以来かのう。――其方、鍛冶は得意か……?」

「……ァ、いえ……そちらはからっきしで」



 陛下の言葉を直接受け。

 ビクビクとしながら答えるサーガ。

 やはり、数々の死線を潜って野生の感覚が研ぎ澄まされた分。


 圧倒的強者を前に、感じるものがあるのだろう。


 しかし、黒鬼って鍛冶も出来るのか?

 そんな話は文献に載っていなかったが。



「アルモスよ。其方の提案であることは分かっておるが。何故(なにゆえ)、黒鬼をこの場に連れてきたのじゃ」



 ……んで、とうとうお鉢が回ってきたが。


 俺の答えは、既に出来ている。

 元より、この国を。

 より良くしていきたいなんて、大層な事を考えている身。


 二十年以上居れば、そりゃ愛着も沸くというもの。


 此処は、俺も。

 覚悟を決めて向き合うとしようか。



「恐れながら申し上げます、陛下。黒鬼たる彼の統率力、並びに培われた戦闘能力には多くの可能性があります。あの場で首を飛ばすには、あまりにも惜しかった」

 


 スラスラと言葉を並べ立てるが。

 それは、偽りのない本音。

 サーガにはやってもらいたいことが山ほどあるし、コイツなら実際にやり遂げてくれるだろうと確信を持っている。


 だからこそ。

 そのために、俺もクビを賭けてやる。



「魔皇国近辺の亜人氏族を武力で抑えること。コレを得策では無いと陛下はお考えなのでしょう」

「………ふむ」

「でしたら。同じ亜人である、この黒鬼に任せてみてはどうでしょうか」


「……成程、の。言い分は分かった」

「では……」

「―――して? もし、じゃ。もしも、この黒鬼めが率いた亜人共が再びこの国に仇なした時は?」

「……その折は―――私が剣をもって鎮め。この首をもって深謝いたします」



 つい先日まで、国家に仇なしていた不届きモノ。

 その首魁(しゅかい)が、コイツで。


 それを、更に自陣営に引き入れようとしている張本人が俺だ。

 故に、そのくらいの覚悟は当然の責だと分かっている。


 如何に、魔人な俺でも。


 首が落ちれば当たり前に死ぬだろうが。

 その時は、潔く死んでやるさ。




「首、首とな―――ククッ―――ふふッ……! そう、か。其方の首をな……ふふふ……ははッ」



 

 しかし、続く彼女の言葉に。

 さっき迄の威圧はなく。


 何がおかしいというのか。


 くつくつと笑いながらこちらを見る陛下。

 ……俺の言葉の何かが、彼女の琴線にでも触れたのだろうか。



「そうか。其方にはそれ程の自信がある、という訳じゃ。ならば――黒鬼、名を何という」

「サーガと言いま――申します」

「では、サーガよ。其方には、これより亜人氏族たちに対する外交の任を与える。仔細は後程取り決めるものとして――成果を出せれば、相応の報酬を与えよう」



 ……………。



 ……………。



 以上、と。

 陛下が今ので言及したのは。

 外交が成功した場合のみ。


 もし、失敗すれば。

 どの様な処罰が下るかも言わない――あくまで、成功が前提の話だ。



 だが、この男なら



「は。決して後悔させないことを約束いたします。このサーガ、これより魔皇国に絶対の忠誠を」

「期待しておるぞ、黒鬼よ」



 いや、マジで頼むぞ……?


 俺も、ただ腕を吹き飛ばすのは良いが。

 自分の頭を斬り飛ばすのは御免被る。


 深く頭を下げるサーガを横目に。


 俺もまた、首を垂れつつ冷や汗を流した。




 ……………。



 ……………。




「―――して。何故イザベラは一言も話さぬのじゃ?」



 謁見の間での堅苦しい話が終わり。

 俺とイザベラは陛下に呼ばれ、彼女の自室へと通されていた。


 此処に来る事と言えば。


 無理やり連れてこられる茶会の時くらいだが。

 相も変わらず、如何にもな王様の自室だよな。


 調度品は、豪奢ではないが。


 素人目にも高級だと分かり。


 まるで、女気が感じられぬ空間。

 少しは女性らしい趣味とか無いのだろうか。

 見回してみても、それらしき物品は欠片も見受けられないぞ。



 ……んで?

 引きこもりが喋らない理由?



「私が空間石を取り上げたので、へそを曲げているだけです。お気になさらず」

「………ムゥ」



 カルディナで空間石を取り上げてからだ。

 全く話さなくなったのは。

 謁見の間で陛下に声を掛けられてさえ何も言わなかったのは流石に俺も驚いたが。


 子供じゃないのだから。

 いい加減、機嫌を直してくれても良いのではないだろうか。


 事の次第を聞いた陛下も。


 呆れたように嘆息する。



「……予想以上にくだらんかったの」

「くだらなくないわよッ! 陛下は陛下で簡単に渡してるし、アルモスはアルモスで全く使わないんだもの。それの価値が分かってるのかしら―――ッ!?」



 激昂した悪役の台詞みたいだな。


 まぁ、俺だって。

 凄いアイテムだっていうのは分かるぞ? 


 しかし、今回使わなかった通り。


 戦闘では生かせないだろうしなぁ。


 取り敢えず、陛下に返しておくか。

 俺が持ってたら、身体とのハッピーセットでイザベラに狙われそうだ。 



「陛下。空間石をお返ししておきます」

「良い。それは、任務の褒美じゃ。王都を起点としておけば、すぐに戻ってくこともできる。――さらに任務が捗るの」

「……はい、そっすね」



 ニマニマと笑う陛下の顔に。

 冷酷な表情で相対していた王の影は無い。


 もしかしてだが。


 最初から、そのつもりで。

 俺を軍畜の深みに堕とすつもりで、コレを渡したのだろうか。

 

 俺には陛下から受けたあの任務があるし。

 確かにいずれは西側へ赴く事も増えるだろうから、持っておくのは良い―――のか?



「……もう。貴方ばかりズルいわ」

「俺だって、渡せるなら今すぐにでも君に譲り渡したいところなんだがな」

「ほう……? 余から下賜された魔道具を了承もなく譲るとな?」


「はははっ、まさか。これを渡すなんてトンデモナイ」



 ……まぁ、この通りだ。

 今後イザベラの手に渡ることは無いだろうし、諦めてくれ。


 俺も、諦めるから。


 そして、いつか。

 この魔王を共に泣かせようぜ。



 ……なんて思考を。

 (おくび)にも出す事なく。



「有難く使用させて頂きます、陛下」

「それで良い。今後も其方の働きには期待しておるぞ、我が騎士よ」



 そうやって特別扱いみたくするから。

 変な勘違いを受けて。

 俺が、暗殺者とか刺客に狙われるんじゃないですかね?


 イザベラが拗れて、最強の刺客にならんと良いが。

 殺してでも奪い取る思考にならないと良いが、な。



「―――では。私もサーガの所で話し合いに参加してきますので、この辺で」



 話もひと段落したので。


 これが機会と。

 俺は、転進の一手を選ぶ。



「うむ。……イザベラよ。先日の魔術式の事なのじゃが―――」

「あぁ、それはね陛下―――」



 魔導士団も発足したばかりで。

 サーガの亜人総括計画に関しては、机上の空論みたいなもの。


 俺自身も忙しくなり。


 やる事は、山積みだ。



 ……不安も多いが。

 精々、平騎士として頑張るとしましょうか。

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[気になる点] 下の方、消し忘れ?>うるせえな〜 上の方と繋がってないし、すぐ上に同じのがある >俺は、サーガと共に。  捕虜となったオーガ達の居る牢へ向かって歩き出した。  うるせえな。もう…
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