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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第三章:過去編 彼と六魔の三百年(壱)

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第十話:※牢屋で酒盛りは出来ません

―アルモス視点―




「よく来てくれた、アルモス卿。こんな所では歓迎もできないが……まぁ、一杯やり給え」

「……お元気そうですね、アインハルト候」



 俺が連れてこられたのは、砦の地下に位置する牢屋。

 壁も床も、黒光りする堅牢な材質で。

 辺り一面の牢には。

 都市の保有戦力である筈の騎士たちが閉じ込められており、中には先の幻惑使いの騎士くんもいた。


 どうやら。

 彼の貞操も無事のようだ。



「――さぁ、グイッと。遠慮せずに」

「……えぇ。頂きます」



 そして、その薄暗い牢の中で。

 コップを差し出してくるこの魔族こそ。


 魔皇国西部の都市。

 カルディナを治める領主、サブナーク・アインハルト侯爵だ。


 有角種の中でも、特に高い背丈で。

 およそ、190は優に超えるか。

 肉体は筋骨隆々そのモノで、とても魔族で言う老齢に入る人物には思えない金髪のイケおじ。


 ……折角差し出されたんだし。


 有難く杯を受け取り、呷るが。



 ―――うん、只の水。



「一緒に牢に入るのを「よく来てくれた」なんていうのは、貴方くらいなものですよ」

「くくッ……そうかも知れんな」


「奥方は、ご無事なんですか?」

「どうだろうな。恐らくは、砦の何処かに軟禁されていると思うのだが。……この首輪を、私自身が嵌められるとは」



 豪快に笑い、余裕を感じさせながらも。

 肩を竦めて自嘲するアインハルト候。


 俺たち全員に嵌まる首輪。


 これは、只の拘束具ではなく。

 常に魔力を吸い続けるという効果のある代物で、魔皇国にかつて存在した旧魔導士団が開発したものだ。


 常に魔力欠乏では、まともに動くこともできんし。

 正直、俺も結構キツイ。



「我々は飼い殺しのケモノでは無いんですが、ねぇ?」

「全くだ。拘束は妻だけに……うむ」

「聞かなかった事にします」

「――ゴホンッ。しかし、まぁ――君が来てくれたという事は、策は有るのだろう?」

「えぇ、勿論。その前に伺いたい事があるのですが、何故一騎打ちを?」



 俺が一番気になっていた事は、ソレだ。

 軍の動かし方にも精通した彼なら。

 

 数で迎え撃つ事も出来ただろう。


 立て籠もる事すら出来ただろう。


 如何に住民が囚われていたとはいえ。

 最も合理的なのがソレで。

 あの鬼野郎に聞く事も出来ただろうが、頭の回る奴の事。


 何処まで本当のことを言うかは怪しいモノだしな。


 尋ねる俺に対し。

 アインハルト候は苦笑して答える。



「本当なら、その選択もあった筈なのだがね。――街が占領された段階で、既に黒鬼は単体で砦内に入り込み、多くの騎士たちを戦闘不能にしていたのだよ」

「……電撃作戦。部下に町の占領を一任して、一人で城攻めとは……」



 何を目指してんだ? あの鬼は。


 一騎当千とはこの事だ。



「一騎打ちというのも、奴が言い出したことでね。あの時点で降伏するしか選択肢が無かったのは間違いないが。仮に私が勝っていても、状況は変わらなかっただろう」

「……あぁ、そういう」


「然り、上手く嵌められたものだ」

「俺に勝てれば手を引く――などと称して貴方(トップ)の居場所を炙り出し、占領を更に迅速にしたという事ですね」

「……敵ながら感服する。黒鬼が、あそこ迄のモノだったとは」



 オーガ種は、肉体的に強靭な種。

 その中に在って。


 特異な変異を遂げた存在、黒鬼種。


 何故、歴史を返してもその事例が少ないか。

 それには、既に定説というべきモノが存在する。


 黒鬼は、生まれる割合で言えば珍しいが。


 超希少という程ではなく。

 ならば、何故歴史の表舞台に殆ど姿を見せないのか。



 答えは、実に簡単。

 ―――その恵まれた頭脳に反して、弱すぎるからだと言われている。



 腕っ節の強さを至上とする彼らに在って、正反対の適性を持ち、生まれる。

 そんな黒鬼が長生きする例など、ほぼ皆無で。


 だからこそ。

 死線を潜り抜けて生き延びた黒鬼ほど厄介なものは無い。


 そう語ってくれたのは。

 黒鬼種の事を教えてくれたバルガスさんで。



「――まぁ……貴方も騎士も、無事で良かったです」

「そう言って貰えると……」

「来てみて全員殉職してました、だったら。どのような顔で陛下へ報告すれば良いか、分かりませんでしたからね」

「……私も、今から不安になってきたな」



 精強な騎士にあるまじき顔で、子供のように怯え、不安を吐露する騎士。

 そりゃ、陛下からすれば。

 全員子供みたいなものだしな。


 我ら、魔王被害者の会。

 ……なんて、馬鹿な事をしている暇は無いか。



 牢屋の入り口が明るくなったので。

 視線を向けてみれば。

 どうやら見張りが交代する時間だったようで、数匹のオーガが入れ替わる。


 再び鉄製の入り口が閉まり。


 篝火の灯りだけが、空間を照らす。

 


「……して。これからの作戦は?」

「今更過ぎません?」



 見張りがいるのを思い出したか。

 彼は、今更声を潜めてきて。

 

 その辺は問題ないんじゃないっすか?


 ……オーガ種だし。

 こっちの言語が分かるかも疑問か。


 それに。

 もう、潜める必要はない。



「―――ではッ! 作戦開始!!」

「「……ッ!」」

「私は黒鬼の相手を、アインハルト候たちは砦内に軟禁された者たちの救助をッ!」


「―――アルモス卿ッ!?」

「おまえら、なにへんなことをはなしてる!」



 話に耳を傾けていた騎士たち。


 見張りとして立つオーガたち。


 この牢の全員へと聞こえるよう。

 大声で言い放った俺。

 当然それに反応したオーガたちは、元々騎士たちが持っていたであろう剣を振りかざしながら、こちらへと近づいてくる……が。


 

 もう、手遅れなんだ。



「そういう事なので―――イザベラ、早く」

「はいはい、ちょっとお眠りなさいな」

「「ッ―――!?」」



 俺の呼びかけに答え、魔女が催眠系の魔術を行使。

 一瞬の間に監視は沈黙し。


 ドサドサと。

 痛々しい音をたてて、崩れ落ちていく。


 ……よくもまぁ。

 複数体へ、一度に掛けられるものだな。



「―――成程……な。ローレランスの令嬢も来ていたのか」

「そういう事です」

「道理で、悠々と牢に入るわけだ」

「あら、サブナークおじさま。お久しぶりね。――アルモス? どうして、私が居るのが分かったのかしら?」

「見張りが交代した時、外の灯りで影が映ったからな。透明化は本当に消えるわけじゃなく、影だけが残る。今後は対策したほうが良い」

「……潜入なんてしないし、気付かなかったわね」



 イザベラは、確かにそうだよな。

 最高位の術者ではあるが。

 魔物以外での実戦経験や、潜入などの任務経験は皆無。


 だからこそ。

 今まで、気付けなかった事もある。

 その辺の不足が、付け入る隙にならないと良いんだが。



「時に、アルモス卿。町の住民はどうするのだ? 見捨てるという選択は……」

「勿論ないですよ」

「では、どのように対処を」

「それは――イザベラ。例の黒鬼は見たか?」

「えぇ、勿論。近付くのは危ないと思ったから、遠巻きに見ていたのだけど」



 それで十分すぎる。

 むしろ、最高の展開だ。


 近づいた場合。

 アイツなら、或いは気付いたかもしれないからな。



「なら、ここの大多数の騎士を動かし、街の奪還を頼む。黒鬼に化けて、な」

「……また、鬼なのね」

「おおッ! 彼女が居るなら、そういう事もできるか」

「ここの鬼たちは、サーガ……黒鬼の指令が無ければ、野生種と違いありません。だから、私が押さえておきますよ」


「でも、どうして街を? 砦からでも……」

「砦内のオーガは、“幻惑”で変身した者を見破れるように訓練されているらしいからな。人質の多さからも考えて、町の方を優先してくれ」

 


 アイツが、色々と話してくれたからな。

 こういう作戦も立案しやすい。

 

 何故、そこまでペラペラとも思うが。

 今迄、そういう事を話せる相手が殆ど居なかっただろうからな。


 周りは只のオーガ種ばかり。


 そんな連中に。

 戦術や作戦など理解できない。


 承認欲求は誰にだってある。

 自分の頭の良さをひけらかしたいってのは、当然のことなのだ。

 

 今回は、それが裏目に出たがな。



「後は。私が黒鬼の相手をして、無力化しても良いんじゃない?」

「いや。鬼野郎――サーガの相手は、私がする。イザベラの魔術は加減が効かないからな」


「倒してしまっても構わないのではないか?」

「……いえ。アレは惜しいですから」

「惜しいって?」

「出来る事なら。味方にして、魔皇国のために働いて貰いたいって事だ」


「……ふッ。また面白いことを考えるな、君は」



 イザベラだと間違いなく殺してしまうし。

 もしも……万が一に。

 油断した所を、肉体面に勝るアイツにやられる可能性もある。


 その可能性は低いだろうが。


 そういった場合を考え。

 打たれ強い者が相手にするに越した事はない。


 社畜は社畜を求めるモノ。

 アレを説得して、永遠に働いて貰おう。



 ―――安住の地を求めているらしいし……な。



「では、皆を出してあげますか」

「「…………」」

「どうやって?」

「……あ、頼める? ついでに、この首輪も」



 牢屋の中では動けないので、外にいるイザベラへ頼む。

 この牢は、凄まじく堅牢な素材なので。


 無理やり壊すなど、俺やアインハルト候にも無理なのだ。

 奴もそれを理解しているから安心していたんだろうがな。


 ……取り敢えず、コレで。

 虜囚全員が牢屋から出ることが――狭ァ……!?


 君たち、牢に戻ってくれ。

 むさ苦しいし圧が苦しい。



「アインハルト候。編成の分割は任せますが、作戦は大丈夫ですか?」

「あぁ、それは私の仕事だな。……では第一班は全員揃っているか? 君たちは私と共に―――」



 冷たい床と重い枷。


 それが外れた事で。

 生き生きと指揮を執り始めるアインハルト候。


 やはり、彼は生まれながらの指揮官だな。

 纏うカリスマ性が、俺なんかとは別格だ。



「―――で、イザベラ。もう一つ頼みがあるんだが」

「あら、何かしら」



 彼が編成を行っている間に、俺はイザベラへ話しかける。


 サーガと戦うために。 

 ちょっとした仕掛けを頼むためだ。



 ……………。



 ……………。



 で。簡潔に説明を終えて、あるモノを手渡す。

 自分でも頭のネジが外れているとも思うが、これ位の方が意表を衝けるしな。



「……と、そんな所か。――アルモス卿、編成は終わった。ローレランスの令嬢に任せるのは、そちらの者たちだ」

「分かりました。……イザベラ?」

「あと、ちょっと。もう少しで、出来るわ」



 ―――はっや。

 不機嫌ながらに答える彼女は、流石最上位の術者だな。


 時間が掛かると言ってたし。

 いきなり言われて。

 困惑だってしているだろうに。


 流石は、マッドサイエンティスト。

 


「……これで、良いの?」

「あぁ、ありがとう。――では、作戦開始と行きますか」



 名付けて鬼の手(オーガズハンド)作戦。

 

 俺の目論見が全て成功するか。

 それは、運と奴次第だが。


 分の悪い賭けじゃない。




 ―――――ただ、勝てば良いだけだしな。

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