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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第三章:過去編 彼と六魔の三百年(壱)

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第九話:作戦開始、おれ奴隷

―アルモス視点―




「―――なぁ、イザベラさんや」

「どうしたの?」

「これって、本当に一番良い手なのか?」

「……勿論……よ? オーガ種ならこれが一番通用する? でしょう?」



 本当のホントかよ。

 コイツ引き籠りだし、絶対に聞き齧った知識だよな?


 陛下から任務を拝命し。

 俺とイザベラは西部の都市カルディナへ。

 現在は、オーガ種によって占領されたと推定される都市部への侵入を試みようとしているわけだが。


 俺自身は、当初の考えとしては。


 隠れて何処かから、と思っていた。


 しかし、魔女の考えは違ったようで。

 俺に首輪を嵌めて、奴隷へと扮させ。

 自身は幻惑魔術を行使する事で、巨躯のオーガに変装。


 これは、明らかに。

 声と身体のギャップで笑わせに来てるよな。


 まぁ、潜入できるなら何でも良いと言ったのは俺なんだが。



 それにしても―――



「……やっぱり、楽しんでないか?」

「あら、そう見える? ふふっ」



 ダメだ、メッチャ愉しんでる。


 大きな腹部を抱え、さも可笑しそうに笑うオーガ。

 それは、かなり奇妙な光景で。

 声が若い女性のモノなら、猶更奇妙。


 どうやら、この腹黒さんは。

 こんな趣味も持ち合わせていたようだな。


 女王様って呼べば良い?


 俺はそんな趣味は無いが。

 世の中広いし。

 もしかしたら、相方が見つかるかもしれないな。



「――というか君。オーガ公用語話せるのか?」

「…………」

「おいッ! 一番重要な所!」

「……大丈夫よ。「お前デブだなぁ」と「土に還すぞ」くらいなら話せるから」



 それの何処に大丈夫な要素が? 


 肝心の部分が欠落しては、救出作戦を決行する以前の問題だ。

 扉にぶつけ過ぎて、頭がおかしいのがデフォなのか?


 コレだから、妖魔種って種族は。

 魔術の研究よりも、絶対に吹き飛ばない扉を開発するのが最優先じゃないのか。


 ……仕方が無い。



「なら、俺が話す。君は魔族との戦いで喉をやられたって説明すればどうにかなるだろ」



 不自然では、ないはずだ。

 何度か話した事もあるが。


 オーガ種などの亜人も。

 何かの不都合で話が出来ない場合は、代役や通訳を立てたりもする。


 文字という概念がないので。 

 筆談こそ出来ないモノの。

 東側のオーガは、そこそこ話が分かる。


 ……まぁ、馬鹿だけど。



「そう? なら、お願いするわ。声まで誤魔化すのは消費が激しいし、後々の魔力の事を考えれば温存しておきたいしね」

「あぁ、了解だ。じゃあ……行くぞ」



 ようやく取り決めが完了したので、外壁部の門まで進んでいく俺達。


 隣でのっしのっしと歩く亜人は。

 普段の優雅な所作とは余りにかけ離れているため、思わず笑ってしまいそうになるが。


 我慢の為所(しどころ)だな。


 今の俺は、オーガ様の奴隷。

 靴でも何でも舐められる状態だ。


 現在地、外壁の正門には。

 オーガ三匹が警備をしている。

 だが、城塞都市の名を冠するカルディナでは侵入口も限られるので、やはりそこから入るつもりだ。


 通行許可証代わりに。


 ちょちょいと手を伸ばして。

 その辺の草を調達しまして………と。



「なんで、そとにいた?」



 普通に外出してる連中も居るらしく。


 それらの列に混ざる事暫し。

 俺らの番になり、質問を受ける。



「えぇ、えぇ。ご主人様が先の戦いで喉を傷めてしまいまして。私が薬草を取っていたのです。慈悲深いご主人様もご一緒に」

「……薬草、どれ?」

「えぇ、こちらに。貴方も一つどうぞ、喉に良いですよ?」

「……ムグ……とおれ」



 なんて事はない雑草をモグモグ。

 ちょっと可愛いな。

 完全に気を抜いたオーガたちに門の小扉を開けてもらい、イザベラと共に都市の中へ。


 何故あれで上手く行くのが。


 我ながら意味不明。

 彼等でも見たことがあるような雑草な筈だが。


 むしろ、何故気付かない?


 

「―――何であれで上手く行くのかしら……」

「気にするな。オーガだ」



 周辺を砦に囲まれた町……城塞都市カルディナ。

 有角種の上位魔族たるアインハルト侯爵が治めるこの都市は、レンガ造りの歴史的な街並みを有する美しいものだが。

 浄水設備も整っていて。

 高度な文明を有する都市でもある。


 立地という点でも優れ。


 攻めるに難く。

 護るに易い都市――の筈なんだが。


 見事に攻め落とされたな、これは。


 都市中がオーガさんだらけだ。


 先のザル警備をボヤくイザベラに返答し。

 しかし、すぐに声を潜める。

 奴らは耳も良いし、オーガから異種族の……しかも女の匂いがするのは不自然。


 気を付けて立ち回らないとな。



「……でも。本当、随分普通に生活しているのね」

「そうだな。意外だ」

「オーガ種なら街中でハッスルして、お祭り騒ぎだと思ったのだけど」

「魔族がそのままオーガに変わったみたいだな。治安も良くて、統率も取れてる。一応、魔族を連れてる奴らも居るし、目立ち過ぎる事は無いだろうが――ハッスル言うな」



 戦闘の形跡も殆ど片付けられ。

 オーガばかりなのを除けば。

 異常と呼べる点は、まるで見受けられない。


 本来の住民たちは家屋に閉じ込められているのか?



「それで、どうするの?」

「今考えてる」

「サブナークのおじさまを救助するのが優先だと思うのだけど」

「……あぁ、そうだな。救助をしつつ、頭を潰せれば一番良いんだが」



 敵の首魁と思われるのは、黒鬼種のオーガ。

 ソイツを見つけてどうにかするのが最重要任務で。


 ここの領主は、まぁ。


 死なないだろ、多分。


 あの騎士がそう簡単にくたばるとは思えない。



「―――よし、決めた。町での調査は無しで中央の砦に行くぞ。牢屋があるのはあそこくらいだしな」

「そうなのね。来たことが無いから、分からないわ」



 一人は無理だったとはいえ。

 何故、俺はこの魔女を連れてきた。

 

 もしかしたら……どうにかすれば。

 地理も言語も理解していないような引き籠り以外の選択肢があったかもしれない。



 ―――考えるだけ損か。



「んじゃ、怪しまれないうちに行くぞ」

「えぇ、そう――あら、ごめんなさい」

「何処に角付けて歩いてんだバカヤロウ! きをつけろッ!」



 ……いや気付けよ、明らかに同族の声じゃねえだろ。


 前を見ていなかった魔女が。

 すれ違った巨漢にぶつかるものの。


 まるで気付くことなくすれ違う。

 本当に、オーガってのは――っと。


 流石に、マズかったよな。

 一匹のオーガが異変を察知したのか、こちらへと近付いてくる。


 流石に、誰にもバレないという訳には……あれ?



 このオーガ種……。



「―――もし……もし。よもや、貴方は」

「守衛の騎士か?」

「やはり、アルモス卿でしたかっ! 首輪があり、虜囚になってしまったとばかり……」

「中々、良い魔術を使うわね」

「………っ!? そちらも、幻惑をッ!」



 色々勘違いもするよな。

 俺を知る騎士からすれば、さぞや意味不明な光景だっただろう。



「ねぇ、彼は知り合いなの?」

「いや、こちらは存じ上げてない。君、近くに隠れ家とかは無いか。我々も色々と聞いておきたい事があるんだが」


「はい、勿論です。私に付いて来てください」

「やっと休憩できるのね」

「休憩じゃない、立て直しだ」



 こちらも勘違いしている者が居るが。

 引きこもり故、仕方なし。

 

 オーガ種に扮する騎士に案内され。


 俺達は、一つの民家へ入る。


 だが……この騎士君、中々。

 幻惑をここまで維持できるとは。

 かなりの魔力量を持っているのだろうが、有角種にしては珍しいモノだな。




   ◇


 


「―――アルモス卿が来てくださるとは。これで、サブナーク様への面目も立ちます」

「だと、良いな。全ては終わった後だ」

「……それに、イザベラ様まで。お話しできて、光栄です」

「私は只のついでよ」



 互いの自己紹介もそこそこに。

 席に着いて話を聞く。


 途中、オーガに化けていたのが、かの天才イザベラ・ローレランスだという事に気付いた彼が感激の余り叫びそうになるという一幕もあったが。


 やはり、魔術を扱う者からすれば。


 カリスマらしいな、この魔女様は。


 全くそんな気はしないが。

 只の夢遊病ストーカ引きこもりにしか見えないが。



「では、何から話したものでしょうか」

「どうするの?」

「陥落からここ迄の流れを、簡潔に頼む」


「はい、承知しました」

「あと、首魁についても。有れば」

「そうですね―――我々は、一重に油断していたとしか言いようがありません。あれは、十日程前の事なのですが……」



 彼の言葉を纏めると、こうなる。


 宵の、都市外壁部の警備が交代する時間。

 幾匹かのオーガが静かに城壁へ近づき。


 彼等は追い払おうと言葉を。


 続いて、矢を射かけたが。


 どれだけ追い払おうと。

 何度追い払おうとも、しつこくやって来るオーガ達。


 余りにしつこくやって来る彼等に痺れを切らし。

 遂に、門を開いて討伐をしようとした所。

 今迄は影も形もなかった筈の、大量のオーガたちが門へと雪崩れ込んできた事で、数に押され、瞬く間に街が占領。


 住民を人質にとられて。


 降伏を迫られたものの。


 敵の首魁である黒鬼が。

 領主であるアインハルト候に対し、「俺を倒せば占領を止める」という提案を出し。


 引く事も出来ない提案だった事から、受諾。


 激しい一騎打ちの末に。

 あろう事か、領主は敗北。

 戦意を完全に失った兵や領民も降伏し。


 都市は丸ごと陥落した……と。

 


 ―――控えめに言って鮮やか過ぎる陥落。



 思わず、マッチポンプを疑う程に。

 だが、アインハルト候を始めとする有角種は、決してそんな姑息な事をするような種族ではないし、協力のメリットもない。


 まぁ、だからこそ。

 俺達はあんぐり口を開けて驚愕しているのだが。



「………マジ?」

「はい、本当の話です」


「本当に、陥落したのね」

「……はい。私は幻惑の魔術が使えるという事で、救援が来た時のために逃がされたのですが。他の者は、皆捕らわれているでしょう」

「王都へ辿り着けた報告と合わせても二人だけ、か。随分と頭の回る奴だ」



 少なくとも、只のオーガには不可能。

 頭の悪い部下隅々まで。

 末端まで命令を遵守させるカリスマ性と、魔皇国でも屈指の実力者を降す程の戦闘力。


 まぁ、流石は。

 ()()()()()黒鬼と言った所か。



「ねぇ、アルモス。この子、わざと見逃されたって線は無いかしら」

「あり得るな」


「―――え……?」

「私たちは既に監視されている可能性も――間違いなく監視されてるな」

「――そんなッ!?」  

「やっぱり、そうよね」



 当然、話を聞きながらも外部へ注意を払っていたが。

 どうにも、周辺を固められているな。


 何処まで見てやがる? 

 まさか、転生者か? 

 前世はストーカーか盗撮魔だったのか……?


 とにかく、マズい状況だな。

 どうやってこの状況を。


 いや……むしろ、打破しなくて良いな。



 ―――よし、捕まろう。



「イザベラ。君には、救出役を任せて良いか」

「……私は良いのだけど、大丈夫かしら」

「流石の黒鬼種でも、最上位の術師である君の居場所を特定するのは不可能だろう。どれだけ進化しても、オーガ種は魔術適性が無い。――外れてたら……まぁ、その時だ」



 彼女一人であれば、どの様な見張りでもすり抜けられる。


 ここは、本当に。

 黒鬼とやらが転生者でない事を祈るだけだ。


 そういうヤツに限って。

 種族関係なく、チートとか異能とか使ったりするしな。



「じゃあ。私は、貴方達が捕まっている場所を特定して助けに行けば良いのね?」

「そういう事だ。恐らく、俺は黒鬼に接触できるだろう。実際に会って色々と判断させてもらうとするさ」


「……ぁ、え……?」

「君、大丈夫か?」

「―――え……えぇ。卿たちは、考え方からして逸脱していますね」



 ありがとうね、それが誉め言葉かは知らんが。

 凄いとは思われているのだろう。


 ……そういえば。

 騎士君、どうしてもらうか。



「君は、どうする? 捕まるのが一番安全だと思うが」

「……お供します」



 そんな青ざめた顔で言われてもな。

 俺が虐めてるみたいじゃないか。

 ちょっとしたパワハラを楽しんでいる間に。


 幾匹ものオーガが。


 雪崩れ込み、囲み。


 哀れな俺と騎士くんへ向けて、無慈悲にも棍棒を振り上げる。

 


「おとなしくしろ。おまえらつかまる」

「お、いいおとこ。おまえ、俺がかってやろうか?」



 しかも、残念な事に。

 優男な騎士君は。

 趣味の悪い巨漢のお眼鏡に(かな)ってしまったようで。


 只でさえ青かった顔が。


 五割り増しで青くなっていく。



「はい、観念しますー。命だけはお助けをーー」

「お慈悲をくださいっ!!」



 おやおや。中々の演技だよ、騎士君。

 結構ノリ良いね、君。


 本当、真に迫った名演技だ。


 イザベラは魔術で姿を消したが。

 俺と騎士君は抵抗することなく。

 そのままオーガに縄で縛られて、砦に続く道を真っ直ぐに引っ張られていく。


 お隣さん、泡吹いてるけど。

 本当に大丈夫かな。

 余程きつく縄を絞められているみたいだ。



「――おい、大将どこ? こいつらつかまえた」

「しつむしつってばしょにいる」

「しつむしつってどこだ?」



 ……何だ、コイツ等。

 仕事嘗めてんの? 

 俺が社畜の何たるかを教えてやろうか? こちとら高校生から大学生までずっとコンビニバイトだったぞコラ。


 三十連勤余裕ですわだぞコラ。


 マジで馬鹿なんだな、本当に。


 だが、このままなのもアレだし。

 道に迷ってるんだから、ここは俺が親切心を出してやるとするか。



「執務室は上の階にありますよ。ご案内しましょうか?」

「「…………?」」



 困った顔の強面たちが一斉に振り向いてくる恐怖。

 あいや、棍棒はやめて下さい。


 痛いモノは痛いので。


 思わず冷や汗を流す俺に対して。

 そのまま、オーガの一匹が俺の首輪の鎖を持って後ろへまわる。



「……しつむしつにあるけ」



 おい、マジか。本当に案内させるか?

 何故こんな奴らに占領されているんだ?

 

 都市で見たオーガ達だって、そうだ。


 女性に乱暴狼藉を働くでもなく。

 男を甚振って殺すでもなく。

 ただ普通に生活しているだけに思えて。


 それが、余計に。

 敵の首魁―――黒鬼の不気味さを際立たせる。


 騎士君はこちらとは別に、何処か他の方向へ連れて行かれ。

 俺だけが執務室へと連れられていく。

 

 ……まぁ、何故か。

 先頭歩いて引き連れてんの、俺なんだけどな。



「大将? つれてきた―――」

「遅ッェェんだよバカッ!! 道に迷ってたんだろ? 執務室の場所位いい加減覚えてくれってんだッ!」

「……おこったぞ、にげろにげろ」

「「にげろにげろーー」」



 目の前に現れた姿は、通常種と殆ど変わらぬ体型の存在。

 紛れもなく、オーガ種だ。


 強いて挙げるのであれば。


 赤銅色の身体ではなく、浅黒い特徴的な肌の色。

 筋肉の付き方も、やや異なっているか?


 俺を連れてきたオーガ共は。

 何故か、罵られるなり逃げて行ったが。


 マジで何なんだ?

 先生に怒られた小学生か?

 


「本当に。子供だよなァ、アイツ等」

「……………」

「おう、すまんな。囮役の騎士は別に話す事も無いから、侵入者たるお前だけを連れてこさせたんだ。俺はサーガ。――お前は?」

「……アルモス。王都の騎士だ」



 随分馴れ馴れしく話しかけてくるな。

 ……しかも、魔族の言語で。


 いつ覚えたかは知らんが。


 俺が日常に支障がない位を覚えるのに、一体何年掛かったと思ってやがんだコイツ。


 魔皇国上層部が、軒並み人間種の言語を話せるから良かったものの。

 陛下だけだったら。

 今頃、どうなっていた事やら。


 しっかし、まるで親友だな。

 どんな意図があってこんな話し方なのやら。



「オウト―――王都か。俺はあんまり詳しくねえんだが、そこの騎士ってことは強いのか? 魔皇国で何番目くらいだ? あの爺騎士より強いのか?」

「知識欲旺盛なことだな、流石は黒鬼種だ」


「俺の事、知ってんのか」

「多少は、な。……アインハルト侯は強かったか?」



 それは、最も重要な問題。

 彼の騎士を苦も無く倒したのであれば。


 それは、とんでもない事。


 うちの国でも勝てるのは片手で数える程。

 しかし、苦戦したのであれば。



 ―――俺でも、何とかなるだろう。



「めッちゃ強かったぜ! あんな強ェ奴と戦ったのは初めてだったなァ!」

「そうか。俺は、彼よりも強いぞ」


「………マジかー」

「あぁ、マジだ」

「―――因みに、お前より強い奴は? どれくらい魔皇国にいる」

「少なくとも、四人はいるな。うち二人は圧倒的だ。アインハルト候に苦戦したのなら、逆立ちしても勝てないだろうな」



 陛下に爺は当然として。

 メノウさんも最高位の術士らしい。


 イザベラが言ってたし。


 その辺は、間違いない。


 彼女自身も、戦えば俺より一歩上。

 そんな訳で、まだまだ上が居る……と。

 俺の言葉を聞いた黒鬼―――サーガは、ワクワクというよりは、何かを諦めているようで。


 戦闘狂じゃないな。

 

 どちらかというと。

 バカっぽく振舞う知恵者……か?



「……んじゃ、諦めるしかねェな。そんな国を相手にはできねぇ」

「随分とあっさり諦めるな」

「ん? そうか?」

「あぁ。そもそも、何故あの騎士を逃がした?」

「そりゃあ、次に来る奴らがどれ位強いか見極めるためだろ。都市は綺麗に保ってるし、大軍が来た場合の逃げる準備は済ませてある」



 ……コイツ、マジでオーガか? 

 変異しすぎだろ。

 例え人間の知能があったとして。


 考える事は出来ても。

 実行するのは難しく。

 馬鹿な配下に命令を出すのなら、余計に大変だ。


 それを、コイツは簡単にやってのけ。


 あらゆる状況への備えも行っている。



「魔皇国と本格的に戦うのを避けるとして……その先は、どうする?」

「今は荷車の量産と武器の調達をしてる。後は西側に向かって、国でも都市でも集落でも創れば良いかなって」

「……わぉ、この天才。――で、この都市は?」

「女は軒並み頂いてくが、残りは返してやるよ。俺は勇敢な奴は好きだからな、騎士共も生かしてある」



 悪党の見本みたいな言葉だな。


 殺さないだけ有情と言えるが。

 それでも、コイツ等に連れて行かれる女性の末路は想像に難くない。


 そっちがその気なら。

 こちらも、退くわけにはいかなくなったな。



「――そうか。なら、逃がしてやるのは無理そうだ。生け捕りについては感謝してるが、西側の空気は御婦人方には毒だ」

「……ま、そうだよな、そうなるな」



 魔皇国……ひいては、強力な魔族。

 彼等が来れない場所へ逃げて、住処を作る。


 東側に住むオーガの強さなら可能だ。


 魔族の女性に関しては。

 移動する前に子供を産ませるのは無理だが、逃げた先で死なないうちに……って事だろう。


 とても合理的だし。

 実際、コイツはやりかねない。

 短い会話で、それだけは理解できる。



「口の堅い爺と、情報を持っていない騎士共よりはずっと有益だったぞ」

「……だろうな」

「後は、お仲間の騎士たちと楽しくやっててくれ。俺たちは明日頃にはこの都市から出る」

「……………」

「オーガに化けてたお仲間も、すぐに送ってやるさ。砦の警備は偽物の挙動を見破れるように仕込んでるから、すぐ俺に報告が入るんだ」



 アナログだが、悪い手じゃないな。


 ……しかし、まぁ。

 相手が只の魔術師ならそれで良かったが。


 それじゃあ、無理だ。


 不可能とすら言える。


 魔皇国最高クラスの魔術師について。

 もっと勉強しておくんだったな。

 コイツは、それが出来る環境にいなかったんだろうが。


 ……本当に、この鬼野郎は。


 殺すには惜しい。 



 

 ―――――やはり、やめだな。

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