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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第三章:過去編 彼と六魔の三百年(壱)

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番外編:天才魔術師は諦めない

―アルモス視点―




「じゃからの、イザベラよ。その理論で行けば……」

「違うわよ、陛下」


「む? では、どういう見解を?」

「投影されるのは壁面なのだから、当然魔核石は―――」



 ……………。



 ……………。



「成程? では―――」

「……………」



 何を言っているんだ? この異星人たちは。

 異文化交流に失敗したのか?


 陛下とイザベラが話しているが。


 俺には、さっぱり理解できない。


 現在開発途中の魔術。

 物体投影の装置。

 まぁ、早い話が映写機なのだろうが……内部機構の話をされて、はい作れと言われても一般人が出来ないのと同様だろう。


 シャルンドアから帰ってきて。


 既に、半年程が経っているが。


 まだまだイザベラ自身に帰る気など無いようで。

 城内に研究室を作り、何やら研究を行っている。


 最初の内こそ、陛下に会うと凄く狼狽していたが。

 ある時を境に魔術の話で意気投合してからというもの、まるで親友のように議論を交わすようになったのだ。


 ……まぁ、何故か。


 忙しい俺を巻き込んで。

 


「―――あの、すみません」

「「?」」

「私は、これでも忙しいのですが。何故陛下の茶会に参加させられてるのですか?」

「……何でって……ねぇ?」

「それは当然、余たちが付き合えと言ったからじゃろう。いつの間にか、仕事魔人になりおってからに」



 「当然だろ?」とでも言いたげに。

 俺を睨みつける陛下。


 流石、魔王。

 部下の業務状況など知ったことではないと。

 

 というか、仕事人間ならともかく。

 仕事魔人ってなんだよ。

 まるで、上位互換みたいじゃないか。


 一応言っておくが。

 俺は、社畜になったりなんかしないからな?

 

 本当は、自由を満喫したい。

 気儘に遊びたいんだよ。

 まぁ、そういった意味では、ただ座って耳を傾けるだけで良いのは悪くないのだが……。



「この時間が、休息と言うであれば……」

「残った仕事など、後で纏めてやれば良いだけじゃからな。其方であれば、死んでも終えようとするであろう?」

「――あら、流石なのね」



 はははッ―――テーブルひっくり返してやろうか? 

 反乱起こしてやろうか?


 この優雅な茶会の場が。

 一瞬で血に染まるんだぞ?


 当然、力関係的に。

 俺の血であることに、疑いは欠片(かけら)ほどもないが。


 ……いや。

 肉片もあるから、欠片はあるな。



「そもそも。固定任務があるのに、次から次へと討伐任務を出してくるのはどうなのですか?」

「修行じゃ、修行」

「あら? 貴方、固定の任務なんてあったの? てっきり、何でも屋だと思ってたのだけど」

「何でも屋言うな。俺は―――」

「アルモス、余計な事は話さんで良い。その件は、他言無用じゃ」



 ―――え? そうだったの?


 皆知ってるモノだとばかり。

 実は、極秘任務だったなんて……おい。


 言えよ、最初に。


 報連相だろうが。


 今まで誰にも言わなかったから良いものの。

 もし、話してたら。

 一体、どうなってたんだ?


 まさかとは思うが。

 俺に知人や友人粛清させたりしないよな?



「……………? 話せない事なの?」

「らしいな。どうしても聞きたかったら陛下にねだってくれ」

「無論、却下じゃ。魔術師は信用するなと古くから言われてるのでな。特に、城内の扉を吹き飛ばしまくるような輩は」

「陛下に言われると、納得いかないわね」



 陛下の言わんとする事は分かるが。


 イザベラの言葉にも一理ある。


 何せ、世界最強の魔術師。

 それは、魔王エリュシオンに他ならぬと言われているのだから。


 俺は、バルガスさんに聞いたし。

 そう間違ってもいないのだろう。


 自分のことは棚上げか? 

 俺自身、彼女が魔術を使っている所を見たことなどないが。



 ―――思えば、今回の指の件と言い。



 何故、陛下は魔術を使わないんだ?

 白兵戦も化物に違いはないが。

 それでも相手を楽に倒すという一点では、魔術の方が効率的だと思うんだが。


 ……あぁ、ヤバい。


 会話を聞きそびれてるな。

 何を言われるか、分かったものでは無い。



「ねっ? ちょっとだけで良いの……!」

「ダメじゃ」

「――指の先だけッ!」

「たわけ、全て余のモノじゃ。魔術バカに渡そうものなら、何をされるのか分かったモノでない」


「……意地悪ね。酷いわ」



 指の先って何? 比喩じゃないよね? 


 なに、この不穏な会話。

 何故か寒気がしてくるのだが。 


 嫌な予感しかしないのだが。



「……あの。何の話をしてるのです?」

「貴方の身体を研究させてほしいって、陛下にお願いしてるのだけど、許してくれないのよ。本当に酷いわね」

「国家機密というやつじゃ」

「だから、余計に気になるのよ」


「おい、アルモス。其方が話したのが悪いんじゃぞ? どうにかせい」

「……なら、言うなって事前におっしゃってください」



 何故か、俺へも飛び火しているが。


 うちの王様は報連相をご存じない?


 あと、当たり前のように。

 (マグロ)の競り感覚で、俺を取引しないでくれ。


 貴族の遊びなのか?

 この世界では、優雅な茶会の席でこの部位が欲しいとか会話するのが常識なのか?


 労働組合は何処だ。

 福利厚生の強化を要求する。


 何で、どの臣下も疑いなく忠誠誓ってんだ。

 この魔王、マジ魔王だぞ。

 国民全体が社畜なのか? この国は。



 ロードウキジュン砲の威力を見せてやるよ。

 俺が臣民を先導してデモを―――ぁ……?



 ―――ただの謀反(むほん)じゃねえか。

 


「―――失礼いたします、陛下」

「メノウ。どうしたのじゃ」

「お楽しみの所、申し訳ありません。アルモス殿に、連絡がございまして」



 俺がこの場から解放されたいと切に願っていると。

 扉がノックされて。


 陛下の了承を受け、入ってきたのは。


 過労死枠の一角にして。

 情報統括局を束ねる賢者メノウさんだ。


 相変わらず、目元に皺が寄ってるな。

 尊敬する人物の一人ではあるのだが、俺はこんな風な軍畜にはなりたくない。



「メノウさん、どうかされましたか?」

「いえ。本日はバルガス殿が忙しいようなので、私が座学を教えることになったのです」

「メノウおじさま、久しぶりね」


「イザベラ殿も、お元気そうで何よりです。王都は如何ですか?」

「えぇ。毎日が新鮮で、とても良いわね……。近々、大書庫の方にも顔を出すと思うから―――」



 二人は知り合いだったのか。

 種族も同じ妖魔種だし。

 性格的にも、似たような所があるのかもしれないな。


 まぁ、普通に考えて。


 引きこもりのイザベラに。

 情報収集なんてのは、絶対に無理だろうが。



「―――ねぇ、アルモス」

「いや、何も? では、陛下。私は失礼しますが、宜しいですね?」

「……まあ、いいじゃろう」

「またお茶しましょうね」


「メノウよ。思い切り詰め込んでやるといい」

「――は。仰せのままに、陛下」




 ―――メノウ……さん? 

 陛下のそれは、多分冗談だと思うんですけど。


 目がマジになってんじゃん。


 この妖魔種は礼儀正しいし。

 凄く、話しやすいんだけど。

 陛下の事を崇拝しすぎている節があるので、命令をマジで受け取ってしまうようだ。


 そのまま、彼は優しく。

 しかし、力強く俺の腕を引く。



 ……妖魔種の何処に、こんな腕力が。



「あの、メノウさん? お手柔らかに……」

「さあ、参りましょうか」



 あ、これ、ダメなヤツだ。

 俺はただ黙って出荷――もとい。


 連れていかれることしかできなかった。


 その後、大書庫にドナドナされ。

 精神的に死に掛け。

 めでたく、頭が爆発する程の課題を出された俺は。



 ―――睡眠時間が半分になった。

 



   ◇




「……――――きてる?」



 ……また、侵入者だ。

 前のは処分したが、今度は何の用だ。


 これで、敵が多い身なので。

 俺は、寝ている間でも侵入者に迎撃できるようにしているが。


 しかし、害意が無い場合は別。


 今回も、偶々目覚めただけで。


 それに、この声って……イザベラだよな。

 まさか、依頼を持ってくるなんてこともないだろうし―――何かしらの連絡でも頼まれたか?



「―――モス? 起きてないの?」



 ……何故か寒気がする。

 彼女はどうやら、俺が起きているかを確認しているようで。


 おいどういう事だ、明らかに何かする気だろ。


 害意マシマシじゃねえか。


 しっかりしろよ気配感知。



「―――じゃあ、頂いちゃっても良いわよね」

「良いわけないだろ」

「………あら? 起きてたの……? なら、反応してくれれば良いのに」



 突然反応した俺に驚いた様子を見せ。

 手を後ろに回して、何かを隠すマッドサイエンティスト。


 これは、もう。

 現行犯逮捕で良いんじゃないだろうか。 



「さぁ、何を後ろに隠したか言ってごらん?」

「……何も、ないわよ?」

「そうか?」

「えぇ、何も……無いわ」

「なら、良かった。ちょっと待っててくれ。いま地下牢の空き具合を調べて……」



 壁掛けのコートをへと手を伸ばし。

 そのまま扉へ向かう。


 しかし、まわりこまれてしまった。



「違うのっ! 気付いたらこの部屋にいたのよっ!」

「手に持ってんのは? ……採取キットかよ。夢遊病とかのレベル越えてんだろッ!」



 必死の説得なのだろうが。

 所詮は引きこもりの戯言。


 語彙力が皆無で。

 あまりにも、誤魔化しが下手すぎる。


 小学生の言い訳レベルだ。

 どんな無意識状態になったら、サンプルを採取するための道具を持って、俺の部屋に来られるんだよ。



「―――さぁ、ゴメンなさいは?」

「……ゴメンなさい」

「今回だけだぞ。本当に、諦めが悪いってレベルじゃないよな。頼むから寝かせてくれ。今日は疲れてるんだ」



 仕方なくベッドに座り込むが。

 疲れがのしかかるのを感じる。


 明日……もう、今日なんだが。

 指令が山ほど入ってるから、少しでも休まないと。


 マジで、死にかねない。


 死霊種へ変化しかねない。



「じゃあ、私が回復してあげるわ」

「……回復?」

「そう。疲れが取れるやつ」

「変な事しないか?」

「大丈夫よ。安全が確認されてる、一番良いのがあるの」



 それ、逆を返せば。

 安全が確認されていないものもあるわけか。


 少しでも元気が出るなら。


 こちらとしても、有難いが。


 前科が前科なだけに、信用しにくい。

 とは言え、何時までも問答を続けるわけにはいかず。


 苦渋の選択の末。

 俺は、渋々許可することにした。



「……分かった。変な事をしたら、叩き出すからな?」

「決まりね! ――じゃあ、ベッドに横になってくれるかしら」



 どうにも思考が定まらんが。


 水を得た魚のようなイザベラに言われた通り。

 うつ伏せで、ベッドに横になる。


 そして、彼女は俺に布団を掛け。

 自身はそのまま、俺の上へと覆い被さり……いやいや、待てッ。



「おい、同衾はマズイッ」


「え?」

「バレたら爺に殺される」

「―――ち、違うわよっ! 全身で密着したほうが効果があるの……!」



 なんだ、その羨ましい設定。

 変態施術士の謳い文句みたいじゃねえか。


 リンパがどうとか言い出さないか?


 詳しいわけじゃないから。

 嘘だと言い切ることもできんし、相手は間違いなく絶世の美女。

 中身がマッドな魔術師でないと思えば、悪い気はしないんだが……なぁ。


 彼女の頬が若干赤く染まっているのは。

 果たして、どっちの意味だ?

 男に密着しているからなのか、極上のサンプルが目の前にあるからなのか。



「なぁ。あと、どれくらい……」

「暫くこのままなの。寝てても良いわよ? 時間になったら、私が起こしてあげるし」

「……信用、してるから……な?」



 これは、もう無理だな。


 思考が全然纏まらない。


 まだ寝不足で、確かに背中に感じる人肌の温もり。

 それだけの要素があれば、ウトウトし始めるのには十分で、相手が相手だけに本気で抵抗するという選択肢も頭にはない。


 性格はともかく。

 信頼してる同僚に違いはないからな。




『――貴方、無防備すぎないかしら』




 思考が遠のく一瞬の間、何か聞こえた気がしたが。

 それを頭で考えるより早く。


 俺の意識は、夢想の彼方へ溶けていくことになった。



 ……………。



 ……………。



「良く眠れたかしら?」

「……何か、納得いかん」



 服を着替え、頭がすっきりしてから。

 よくよく考えれば。

 イザベラの目の前で寝るなど、愚考も愚考だったと分かる。


 何故、寝る前の俺はそんな事すらも……あぁ。


 思考力の低下、だな。

 それ以上でも、以下でもない。


 とは言え、身体は確かに軽くて。

 気分も晴れやか。

 本当に納得がいかない事この上ないのだが、手段が手段でなければ、毎日やってほしい程だった。



「一応、礼は言っておく。ありがとうな」

「えぇ、任務頑張ってね」

「……………」

「どうかしたの? 早く行かないと、遅れちゃうと思うのだけど」



 気味が悪い程の笑顔を湛え、俺を見送ろうとするイザベラ。

 彼女の言葉を受け。


 俺は、そのまま扉へと手を掛け。

 未だ暗さの残る回廊へと進む。


 さぁ、今日も任務は山積み。


 片付けるために、頑張るとしましょうかい。




「―――私も、良い物を見られたし……ね?」




 ……小声で呟く彼女の声も、俺の耳は正確に聞き取っていたが。


 その言葉の意味を。

 深く考えず。

 振り返って尋ねることもせず。



 ただ、前へと進み始める。




 ―――気にならなかったわけではないが、な。

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