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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第三章:過去編 彼と六魔の三百年(壱)

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第六話:腹黒魔女と読書をしよう

―アルモス視点―




「―――ギャッ! グギャァァァァァァッ!」

「キシャァァァ!!」

「ホワァァァア!!」


「帰るっ! 俺は帰るから、着いてくんな―――ッ!」


「「ァァァァァァア!!」」

「ホワァァァア!!」


「お前ら鳴き声キモイんだよ! 特に最後ッ!」



 シャルンドア領に来てから、かれこれ三週間程が経過した。


 付近に生息する魔物を対象に、魔術の訓練をして。

 危なくなったら全力で逃げる毎日。


 ……そもそもが。

 魔皇国は大陸の中でも最東端に存在するので、魔物が馬鹿みたいに強い。


 体躯が巨大で動きが鈍いならまだ良い。

 当たらなければどうという事は無いからな。


 だが、素早い奴なんかは。

 俊敏特化に見えて。

 その攻撃を身体で感じると、バカみたいに重くて。


 まともに喰らってしまえば。


 ―――昔の俺だったら、間違いなく即死コースだった。


 無論、今でもヤバいが。

 普通にミンチだが。



「戻った……ぞっ……、あぁ――死ぬかと思った……」



 既に気力なぞ使い果たしたが。


 挨拶は基本と振り絞り。

 こちらに背を向けて読書に更け込んでいる魔女へ声をかける。



「お帰りなさい。今日の釣果(ちょうか)はどうだったかしら?」

「釣りみたいに言うな」

「あら? 違うのかしら」



 あんな奴らとマッチングしろって?

 馬鹿も休み休み言え。



「どちらかというと、本気で釣れそうになったら俺が逃げてるからな」

「――でも、三年程で極東の魔物と戦えるようになっているのだから。流石は陛下の眷属よね」

「ここに来てからも、相変わらず爺に散々鍛えられてるしな」



 基本的に、俺がすべき事は王都にいた頃と変わらない。

 バルガスさんの代わりにイザベラに魔術を教わり、爺に武術を叩き込まれる毎日。


 後は実戦として魔物狩りだな。

 今日も魔物狩りを終えた後、どこかの扉が吹き飛ばないかビクビクしながら塔を登り、イザベラがよくいる第三研究室に戻ってきたんだが。


 真面目に考えてみればだ。


 毎日扉が吹き飛ぶなんて。



 んな、バカみたいな欠陥工事を……。



 けたたましい音―――そして、叫び声に混じって。

 塔が、微弱ながら揺れる。



「―――あら、地震かしら」

「突っ込まないからな。絶対に突っ込まないからな? ……時に、今は何をしてたんだ?」

「あぁ、コレ? 歴史に関する本を読んでたのよ。研究に役立つわけでは無いけど、昔話とかも好きなの」


 

 それは知っているさ。


 彼女が塔でやっていることと言えば。

 研究と読書とお茶会くらいなものだ。

 

 何とも羨ましい優雅な生活だが。


 果たして。

 彼女は、いつ寝ているんだろうな。



「……娯楽用の本、か。西側で兵士をやってた頃は結構読んだが。こっちに来てからは、文献以外はさっぱりだったな」

「じゃあ、貴方も読む?」


「む? お薦めは……」

「そこの山とか。魔皇国の本が多いわよ」



 椅子に座ったのも束の間、再び立ち上がり。

 イザベラが指した本の山に向かって適当なものを探す。


 流石に魔族領土。

 向こう側では見なかった本ばかりだな。

 これらの本は、何処が出版しているのやら。


 どれ、数冊手に取って……ふむ。

 何か、思ってたよりも普通だな。


 建国騎士と白き龍……子供用。

 荘厳なりし龍公の焔――へ……? これ、爺の本かよ。


 かつての世界を徹底考察第十三版。



「……なあ。もっと良さそうなのは無いか?」

「お気に召さなかった?」

「琴線に触れるものが無いな」



 イザベラに振り返り、一番良いのを尋ねる。

 どうにも子供向け過ぎたり、気に入らないヤツだったり、辞書並みに内容が多すぎたり濃過ぎたりするものばかりだ。


 もしかして狙ってるのか?



「――じゃあ、貴方が気に入りそうなのは武器関係かしら」

「お、そういうのがあるのか?」


「……男の子って、本当に好きねぇ」



 まぁ、ロマンだからな。

 伝説の聖剣とか、魔剣の伝説とかがあるなら。


 是非とも本で見たいものだ。

 この世界なら、実際に見つかりそうというのもあるし。



「魔皇国に伝わる宝剣の話とかならあるけど?」

「そうッ! そういうの探してたんだ」

「……子供向けの絵本でも良い気がしてきたわね」


「――で、どちらに?」

「そっちの棚の何処かにあったはずだけど?」

「あぁ、そこ……多すぎて滅入るな」



 壁に目を向けると棚、棚、棚。

 中には当然とばかりに本がぎっしりと詰まっていて。


 宝剣探しの前に本探しですか。

 気は乗らないが、取り敢えず適当にガサガサと棚を探していく。



「見つからなかったら棚の上に積んであるかもね」

「整理してくれないですか? 司書さん」



 本当にどうしようもない。

 流石は引き篭もりだ。

 少なくとも、図書館の司書さんは「見つからなかったら棚の上に積んでありますかね」とは言わないだろう。

 軽いバイトとは、プロ意識が違うんだよ。



「……うーーむ。上って言ってもな。とりあえずこの辺を――っと」

「あら、大丈夫?」



 棚の上に乱雑に積まれた本に手を伸ばした瞬間。

 それらが束になって落ちてくる。


 だが、これでも改造魔人。

 持ち前の身体能力で危なげなくキャッチする。


 騎士をクビになったら。

 図書館で働くのも良いな。



 ―――俺の場合。


 

 クビは殉職を指すだろうが。


 本で両手を塞いだまま。

 心配そうにこちらを覗くイザベラへ返答する。



「問題ない。本も落とさなかったしな」

「そう、良かったわ。――あら? その本」

「……ん、これか?」



 俺がキャッチした本の一番上に。

 彼女の視線が注がれる。



「剣が好きなら、綺麗な女性も好きなんじゃない?」

「……否定はしない」

「なら、それも楽しめるかもしれないわよ? 剣の本、もしかしたら別の書庫に持って行っちゃったかもしれないし」


「…………そうか」

「ゴメンなさい。探しておくわ」



 やらせておいて、まさかの探し損かよ。

 クレーム入れんぞ管理人。

 

 しかし、直接言っても仕方ないので。

 それは意見箱に入れるとして。

 抱えた本たちを棚の上に戻し、薦められた書籍を持って席に戻る。



 タイトルは『初代聖女の謎』……か。

 当たり前だか、魔族の言語。


 ……今更ながら。

 バルガスさんは何でも教えるのが上手だったよな。


 ゴブリン公用語は除き。

 三年で、色々な言語を話せるようにしてくれたのだから。



「――ん。まぁ、ひとまず読んでみるか」

「やっぱり好きなのね?」

「揶揄うな。それに、薦めたのは君だろう?」



 若干高揚を覚えているのは確かだが。

 それを敢えて言われるのも癪なので、言い返しつつ。


 適当なイスに座って、本を広げて読み始める。

 

 この世界に来てから、何度か聖女の話を聞いたな。

 その始祖の話ってことなのか。


 俺たちは両者とも読書に没頭し。

 暫く、部屋の中は静寂に包まれることになった。



 ―――稀に聞こえる爆発音以外は。

 


 この塔は、年中花火大会でもやってんのか?




   ◇




 ……………。



 ……………。



「あ、終わった? どうだったかしら。満足できた?」

「……騙したな?」


「いいえ? 嘘は言ってないわよ?」



 性格悪過ぎるだろ、この魔女。


 この本の内容は簡単。

 言うなれば、ジャンヌ・ダルクの物語みたいなものだった。


 お隣の聖女は。

 史実で色々おかしなことをやったみたいだが。

 この本に描かれている女性は、真の聖者だったらしく。戦争ではなく、民の心に寄り添った奇跡を起こして、人々へ幸福を齎したらしい。



 ―――最後に処刑されているが。



「奇麗な女性……ッ。だが、後味の悪い話だったことは確かだな……!」

「やっぱりそう思う? 仲間ね」



 しかも、確信犯かよ。


 若干鬱が入る程落ち込んでいる俺を。

 同類が如く見てくる腹黒魔女。


 上手い具合に引き摺り込まれたな、これは。


 この魔女へ何を言っても無駄。

 そう判断した俺は、仕方なく話題を変える。


 

「しかし、聖女っていうのは、勇者と行動するものだと思っていたんだが」

「そういう場合もあるわね。人間国家には世代的に四人の聖女が存在しているのだけど、その始まりが彼女らしいわ」



 その話は確かに聞いたことがあった。

 この世界には地水火風になぞらえた聖女がおり、それぞれが個別に特殊な力を持っているのだとか。


 無論、会ったことはないが。

 興味惹かれるものだから覚えている。


 美人さんだったら最高だな―――と。



「結末だけやや唐突だったが。彼女が処刑された理由は?」

「邪魔だからでしょう? 彼女は何処までも正しくて、優しすぎたのよ。腐敗した人間国家が彼女をどうするかなんて、容易に想像できるでしょ?」


「……感情籠ってるな」



 イザベラの言葉には多分に棘が含まれている。


 それは、まさしく。

 人間たちに対する暗い感情。


 彼等人間種が魔族に向ける恐怖と、ある意味同一のもので。

 未知に対するモノ。

 得体のしれないモノに対する恐怖と、嫌悪。


 ……だが。

 魔族の大半もこんな物だから。

 理解できないものは怖いから。

 大半の魔族は人間種と会った事もなく、幼い頃から相容れないと教えられたから。

 

 やはり、彼女もそうなのか。


 この辺も。

 いずれ、変えられたらいいのだが……。



「昔は、よく読んでたのよ。沢山読み過ぎて、彼女へ感情移入しちゃってね」

「……あ、そういう怒り? てっきり、人間とかいう劣等種族滅びればいいのにとか言うのかと」

「人間にも良い子は居ると思うわよ?」

「意外性の塊かよ」


「――それに、貴方も元人間じゃない。貴方は私の事を何だと思っているのかしら?」

「腹黒魔女」

「……………」



 だって君、実際黒いし。

 さっき騙されたことを俺は一生忘れないからな?


 そんな目で見ても、どんな風に睨んでも。

 コイツどう料理してやろうかみたいな目で見られても、絶対に。


 俺は了見が狭いんだ。



「……まぁ、良いわ」

「お、ヤバい事言われるのかと思ったが、割とすんなり……」

「次に起きた時の貴方は、私の言う事を何でも聞いてくれるようになっていると思うからね」


「――シャレにならん」

「考えなくて良いって、楽だと思うわよ?」



 マジで改造人間コースじゃねえか。

 仮面ヒーローよろしく。

 正義に目覚めて悪の組織と戦うにしても、それの悪って魔皇国だよな? 


 勝てる気がしないんだが。

 聖女よろしく結末バッドエンドしか待ち受けてないんだが。



「冗談――冗談だよな? ……は、さておき。こんな本が作られてるって事は、人間国家での彼女の名誉は回復してるんだろう?」

「えぇ、今では信仰の対象にもなっているわ。聖女たちの始祖ですもの」

「それはそれで都合が良すぎる気はするがな」



 名誉が回復しているというなら。


 多少は、浮かばれるのか? 

 この本には祟りがあったとかの話も書かれていないし、死霊や悪霊が普通に存在しているこの世界にあって。


 化けて出ていないという事は。

 それだけ聖人だったということだよな。



「でも、何処に遺体があるかも分からないから、聖地巡礼とかはできないでしょうけどね」

「ん……? 墓とか無いのか?」


「そう思うの?」

「彼女の遺体は、大陸の東に埋葬されたってあるんだが」

「どうでしょうね。私は、ここと王都以外の話はあまり知らないもの。陛下とかならご存じでしょうけどね?」

「……凄く聞きづらい」



 話すだけでも命の危機を感じてならないのに。

 疑問を何度もぶつけようものなら。


 俺は、恐怖で壊れるかもしれない。


 末路から目を逸らすわけではないが、再び本へと視線を戻す。

 まだ気になっていた事があるからだ。



 装丁……裏表紙……巻末などを確認してみるが。

 やはり、この書籍は……。

 


「この本を読んで思ったが、魔族っていうのはやっぱり知識欲が凄いんだな。これ、完全に人間国家の書籍だろ?」



 翻訳されているが、間違いないだろうな。

 多少の食い違いや(あら)が存在する。


 

「そうね。あちら側の本を様々な手段で持ち込むのはよくあることよ。逆の例もあるけど」

「逆となると――人間が魔族の本を読むのか?」

「案外ね。不思議なモノよ」

「ふむ……? 例えば、怪しい宗教団体とかか?」



 我らが魔族に近づくために、彼らの知識を吸収して……とか。

 確かにやっていそうだな。



「子供向けの絵本も渡ってるらしいわね」

「……宗教団体って恐ろしいな」



 それは……あれか? 


 魔族に近づくためには。

 一度童心に戻って、彼らが幼少期に読んでいた絵本を読んで勉強することにしようバブとかやっちゃうのか? 


 それはもう、特殊性癖集団だろ。

 なんて恐ろしい連中なんだ。


 人間とか、やっぱりヤバいっすね。



「貴方が何を想像しているのかは分からないけど、たぶん間違っているわ」

「……うん、そんな気はしてた」

「本当に何を想像してたの?」

「さてな。……しかし、魔人といい、人間達は、そんなに魔族になりたいものかねぇ?」



 俺はなりたくてなったわけでは無いので分からないが。

 そうまでしてこちら側になって。


 人間たちは、何をしたいのだろうか。



「それは、貴方が一番理解してるじゃない。人間は脆いし、寿命も短いでしょ? 運命から逃れたいと思うのは当然じゃないかしら」

「……寿命が延びたところで、死ぬのは変わらんのにな。延命したいのなら、冒険者にでもなって強くなれって話だ」

「出来るだけ楽な方に逃れたいのよ」



 その辺は、この世界も向こうと一緒だよな。

 藁にも縋る思いで。

 少しでも寿命を延ばしたい老人たちが出資するだろうから。


 怪しい団体が無くなることはない。  


 犠牲になるのは。

 いつだって、何も知らない弱者なのだろう。



「――なあ、イザベラ。陛下の血で俺が魔人になれたってことは、俺の血を誰かに与えたらどうなるんだ?」

「……そうねぇ。魔力の形は個人によって違うもの。他人の魔力を与えられると体調が悪化するという研究結果も今では基本だし、血液には多くの魔力が含まれているわ。多分、大量に摂取すると死ぬでしょうね。あなたの血、粗悪品でしょうから」


「……何か、傷付くな」

「今更気にする事なの?」



 そう単純な話でもないらしい。

 俺は誰かに血を与える予定などないが。


 もし与えたら。

 陛下にどやされそうだな。

 地球にいた頃は、よく献血に行っていたのだがね。



「そもそも、陛下の血ですら適応できる確率は殆ど無いと思うし、貴方はそれだけ特別な存在よ? だから、是非助手に欲しいのだけど」

「君の言う助手は、動けないようにして手術台の上に乗せられる立場の人なのか?」



「―――おう。ここに居たか、わっぱ。時間は空いとるかの」



「あら、お爺様。どうかしたのかしら」

「お爺ちゃん、訓練なら既に終わってるだろ。そろそろボケたか?」



 何時ものやり取りをしていると。

 爺が部屋に入ってきた。

 俺と訓練してない間は茶を飲んでいるか、シャルンドア領の外を徘徊しているかなので。


 大して気にしていなかったが。

 果たして何用だろうか。



「イザベラも一緒だったのか。……わっぱ」

「別に、何もしてない。というか、俺から何かすることは無いと何度も言っているだろう?」

「――まあよい。なに、そろそろ王都に帰る頃合いだと思っての」


「……そう、帰るのね」



 確かに、そろそろ頃合いだろう。


 基礎的なことは大体教わったし。


 後は、自主練でどうにかなる範囲だ。

 最近は寝ている時に聞こえる爆発音や、起きた時に改造されていないかといった恐怖にも慣れてきたので。

 そういう意味合いでも、帰るのが良いだろう。


 これ以上慣れたくない。

 この、べらぼうにふざけた環境に。



「――なら、明日だな」

「そうじゃな。明日の朝早くに帰ることにする。今のうちに準備はしておけ」

「あぁ、問題ない」



「……どうしようかしら」



 俺達が軽く話す傍ら、何かを悩むように首を捻るイザベラ。

 悩まし気な表情は、さも別れを惜しんでいるかのようだが。


 この滞在期間で。

 彼女の思考回路が分かるようになったので。

 そんな優しい悩みでないとすぐ理解できる。


 いま魔女が考えているのは。

 俺たちに付いて来るかどうかではなく……。



「今日は徹夜するつもりだ。何かしようとしても無駄だぞ」

「――あら……? 相手の心を読むような魔術は教えていなかった筈なのだけど」


「……マジでやる気かよ」

「ちょっとした出来心よ」

「のう、イザベラ。この小僧は、とても優良物件とは言いづらいぞ?」



 おうコラ、どういう意味だ爺。

 お前も親族なら。

 このマッドサイエンティストな姪孫を止めてくれないか? 


 こちとら、ここ三週間寝不足なんだぞ。


 (くま)が消えなくなったらどうしてくれんだ。

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