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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第三章:過去編 彼と六魔の三百年(壱)

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第三話:爺ちゃん師匠は容赦なし

―アルモス視点―




「―――小僧ッ! 足元がガラ空きじゃ!!」



「いや、これは作戦……」

「阿呆がッ!」

「な……っ!? ――ガァッ!?」

「作戦とて、そのように鈍重では魔物の餌同然じゃぞ!」



 どうも、お久しぶりです。


 ナクラ改めアルモスです。


 あの日、俺は魔王の血を受けて魔人へと改造された。

 ……永遠の社畜……軍畜へと。


 あれから年月が経つが。

 現在でも魔皇国最強の武人と言われる【龍公】アダマスにしごかれる毎日を送っていて。


 毎日のようにやっているが……まぁ。

 

 正直、一撃も入れられる気がしない。



「―――爺ならっ! 大人しく茶でも飲んでやがれぇぇぇぇッ!」

「甘いわ小僧!」


「――ちょっ、消えっ!? ガァァァァアッ……!?」



 繰り出すは、フェイントを混ぜた二連撃。

 しかし、悠々と躱す老骨。


 そのまま、強烈な一撃を腹に叩き込まれ。

 紙きれのように吹き飛んだ俺は、堅牢な壁へ激突する。


 内臓全てが引っ繰り返るような衝撃。

 ただの人間なら、これだけで重要器官が破裂して死んでいただろうが。


 しかし、どうだろうか。


 そんな一撃を受けて尚。

 俺の意識は、安定している。


 ……魔人化による身体能力の大幅強化。

 そして、訓練によって魔素が馴染んできたことによる相乗効果。 


 地獄ともいえる訓練の中では、腕が千切れることもざらにあった。

 しかし、あろうことか。

 魔人への変成は、押し付ければ千切れた腕がくっつくほどの変化を俺の身体へ齎した。



 ……マジで人間じゃないよな、俺。



「ほれ、もう一度来い。揉んでやる」

「施設送り込んでやるッ!」



 それで、この爺だが。


 化物とかいう次元を超越している。

 初めて会った時の印象としては、力で押しつぶす系かとも思ったが。


 いざ訓練を開始してみると大違い。

 洗練された剣術により瞬く間に床に転がされ、それからの訓練もまるでまな板の上の鯉のように料理されることになった。


 まぁ、刺身は有情。

 ツミレにならなかっただけマシで。



「――小僧ッ。強力な身体を得たとて、驕るな、溺れるな。力押しで渡り合えるような敵なぞ、高が知れておるぞ。小手先でも良い、ワシが納得できるような技術を身に付けろッ!」


「……なら。ならよ」


「ん?」

「なら! その技術とやらを最初に教えてくれよ!」

「……くくッ、生意気な。――盗め! 奪えッ! 体で覚えいッ!!」



 何度も何度も吹き飛ばされながら。

 それでも向かっていく。

 既に手の感覚なぞほぼなく、意識も会話をすることで何とか繋ぎ止めているくらいだが、それはいつもなので、もはや気にしていない。


 しかも、今日は運が良いんだ。


 なんと、何処も千切れてない。



「こんの、化け物がぁぁぁッ!」

「ほれ、ほれ。今度は肩から上がガラ空きじゃ」



 ―――こうして、毎日死に掛けてるが。



 ここ数か月は、爺以外も相手をするようになってきた。

 主に、魔物とか魔族の騎士とかだ。

 

 彼ら魔族は、自身と同じ種を本能的に理解できるらしく。

 当然、俺が異形だと勘付く。

 陰湿な事もされたし、馬鹿にされたり、見下されたりも日常茶飯事で。


 まぁ、眠れぬ夜を過ごしたが。

 最近では、徐々に変わってきている。


 彼等魔族は、力を貴ぶ種族。

 それ故に、実力を付けてきた俺の事を認め始めてくれる奴らも居て、一緒に馬鹿をやったりするようにもなってきた。



 ―――貴族や上位魔族。



 お偉いさんの頭は固いが……同じ、なんだよな。

 

 魔族も、人間種も。


 皆、同じなんだよ。


 まだ、人間の兵士をやっていた頃。

 西側で読んだ文献の殆どには、魔族と人間は根本的に思想が異なり、理解し合うなど不可能な種族であるとされていた。


 しかし、俺はそうは思わない。


 分かり合えるはずだ。


 言葉の通じない魔物は別としても、彼等にも心はあって。

 情も、親愛も持ち合わせている。


 俺は、運が良い事にそれに気付けた。



 ―――とまぁ、それはさておき。



「爺さん。この辺の魔物強過ぎないか? マジで死ぬかもしれないんだが」

「当たり前じゃ。群れのヌシにもなれば、上位の魔族でも苦戦するほどの怪物ばかり。だからこそ、お主を放り込んで経験を積ませるんじゃろが!」


「本当に放り込むバカがいるか!?」 

「ここにな」


「この前なんか、指食い千切られたわ!」

「そのうち治してやると言っておろうがッ! 良いから打ち込んで来い!」



 そう、何を隠そう。

 今の俺は、手の指が何本か神隠しに遭っている。


 いくら魔人の肉体とはいえ。

 無い物はくっつけられないのでそのままなのだが、治してくれると口約束をした爺さんがいつボケるかも分からず。


 ポックリ逝くかもしれないので。

 

 出来れば、早い方が良いだろう。



「オラッ! 何時間やんだ! いい加減、終わりにしてくれよ!!」

「まだまだ遊び――戦い足りぬわ! バルガスの担当まで三十秒くらいは残してやるから、その時間で飯を食え!」


「―――っざっけんなごるァ!?」



 いま、このクソ爺。

 遊び足りないって言おうとしたよな……!? 


 食事の時間ねんだぞ?

 只でさえ過密な予定だぞ?

 

 三十秒とか、移動だけで終わるわ。


 あの死霊種、時間に厳しいんだよ。


 怒りをパワーに変換しながら。

 俺は、龍の化け物へと打ち込んでいった。



 ……………。



 ……………。



「―――来た時よりは、幾分マシになっておるか」



 怒声と罵声に塗れた訓練が終了し。

 ようやく一息つく。


 相変わらず飴と鞭の使い方がなっていない爺さんだが。

 これでも、大人しい。

 最上級の誉め言葉なんだよな。


 少しでも手を抜けば。

 訓練の終了後でも、言葉より拳が先んじて飛んでくる筈だし。



「そりゃ、ここにきて三年だぞ? 多少は腕が上がってなきゃ、爺の教え方が悪いんだろうよ」

「……ふん、出来の悪い弟子が。仮にお主が勇者であったなら、三年もあれば上位の魔族とも殺り合えるほどに成長していたであろう」


「はいはい。只の元人間で申し訳ござんした」



 会ったことが無いから当然に分からんが。


 勇者ってのは、そんなに成長が速いのか?


 死地で戦い続けるならまだしも。

 普通の人間は、一か月や二ヵ月訓練した程度では、そうそう強くなどなれる訳はない。



「――んで。今日の反省点は?」

「ふむ……。ワシの動きに気をとられ過ぎ、かの。お主は、相手の動きを読んで動けるようになっておる。勿論見られるところは見るべきじゃが、余りに目で追うのは、時間の無駄以外の何物でもない。動きは常に最小限にせい」


「……分かりました」


「次も、手を抜かずに来ることじゃな」

「えぇ、勿論。……やっている最中もそんな感じの助言なら、尚良いんですがね。じゃあ、失礼します」



 終わった後の方が的確な助言。

 訓練中は罵声のみ。

 これは、果たしてどうなんだろうな。


 反省は次に生かすとして。


 急ぎ食事しなきゃ。


 遅れでもしたら、バルガスさんに虐められる。


 魔族も普通の人間と同じで。

 食事をしなければ、本来のポテンシャルを発揮できない。


 この国の東側にある山脈との間は耕作地帯で。

 実は、魔皇国って。

 

 農業国家なんだよな……と。


 座学での纏めはそこそこに。

 俺は、駆け足で王城の回廊を進んでいく。

  



   ◇ 




「……あの、バルガスさん。ゴブリン語って役に立つんですか?」

「覚えて損は無いと思いますよ?」


「ギャーとギャャーの違い分からないんですけど」


「強弱の問題ですね」

「……それで、意味は?」

「挨拶と挑発ですね。しっかり区別しておかないと、後で痛い目見ますよ」



 そう言われても良くわからない。


 というか、なんで似てるんだよ。


 挨拶したと思ったら相手を挑発していましたとかギャグにもならないし。

 似てちゃダメだろ。

 

 ゴブリン語というのは俗称で、正確な言語ではないが。

 それも、覚えにくさの原因だろうか。


 オーガやオーク等の氏族言語は比較的分かり易かったが。

 ゴブリン氏族の公用語はいまいち理解できん。


 そもそも。


 「ギャオー」とか。

 「クギャー」とか。

 言われて理解できるか?

 すぐに対応できるような奴が、この世界にどれ程いるだろうか?



「この分野は、私も得手ではありませんからね。アルモス殿は言語学の上達が非常に早いのですから、私よりもうまくなってもらわねば」

「陛下と同じくらい長生きしている貴方に追い付くには、どれ程の時間が掛かると思います?」



 魔皇国でも最古参である爺とバルガスさん。


 彼等は長寿で。

 陛下と同じくらい生きているらしい。


 特に、爺なんかは。

 建国前から陛下に仕えているとか。

 首脳陣の仲が良くて未だ健在とか、そりゃ、繁栄もするわな。


 事実として、城下なんかは。

 毎日凄い賑わいで。

 国民たちは、笑顔溢れるままに暮らしている。



 本当に凄いんすね、千年国家。



「……時に。指は、未だ治っていないのですね」

「えぇ。持つにも書くにも不便で……バルガスさんは治せないんですか?」

「接合や治癒の魔術なら知っていますが」

「……無理そうで?」

「はい、無理です。生やすともなると……生憎、私は専門外ですね。陛下なら可能だと思いますが」


「じゃあ、無理ですね」



 彼女が治してくれるとは思えない。

 なんせ、血も涙もない方だ。


 あの魔王は、基本的に。

 一日中玉座の間でふんぞり返っているか、自室で本を読んでいるかなので。声を掛けるのも憚られるし、話しかけた瞬間面倒な仕事を押し付けられたことは一度や二度ではない。



 なら、あの爺は。

 どうやって治すつもりなのだろう。



「バルガスさん。あの爺の伝手で、治せそうな者に心当たりとかありますか?」

「……伝手で――フム? ――あぁ!」


「いるんですか?」

「確かに、()()なら治せるでしょうね」

「……彼女、ですか?」



 ここにきて、まさかの女性フラグですか? 


 魔王城に勤めている者は。

 基本的に、男性が多い。

 勿論トップが女であるため、男尊女卑の考えなどこの国にはないのだが。


 ただ単に。

 今は、そういう感じだとか。

 前に酒盛りした有角種の男魔族が悔し気にボヤいていた。



 魔族も人間と同じで。

 自身の欲望には正直。


 お見合い結婚とか恋愛結婚とかもざらだ。 

 出生率が極めて低いのが種族的な問題らしいが。



「アダマス殿の遠縁の子孫に、妖魔種の女性がいましてね。現在は南方のシャルンドア領にて魔術研究を行っているのです。彼女なら、指を直接生やす魔術も可能かと」

「それは……また。凄いですね」



 指を生やすってどんな感じだ?


 痛みとかはあるのだろうか。


 最近では痛みに慣れ切って。

 気にもならなくなったが。

 それでも、イザ痛みますよとか言われると。


 尻込みもするな。

 


 ―――南部のシャルンドア領と言えば。



 妖魔種の名家が多い地域だったな。

 魔族の中でも、妖魔種は魔術への知識が豊富な種族。


 現在こそ存在しないが。

 かつては、宮廷魔導士団なる組織が設置されていたらしく。その所属者は、殆どが彼等妖魔種だったとか。


 まぁ、これは有角種にも言えて。


 武人肌の彼らなどは、騎士団向き。

 近衛騎士団員は、ほぼ彼等で。


 ある種の棲み分けが成されているという。



「じゃあ、その女性を紹介してくれるんですかね?」

「えぇ、恐らくは。彼女以外となれば、後は陛下くらいなものですから」

「……いや。まぁ、陛下は―――」



「余が、どうかしたのか?」



 噂をすればなんとやら。


 声に振り向くと。

 部屋のドアを開けて、陛下が中へ入ってきていた。


 ノックとか無いんすか? 

 王様特権?

 やっぱり、数百年以上も王位に就いている国王ともなると、礼儀作法とかは気にしなくなるのだろうか。



「――アルモスよ。其方、失礼なことを考えとらんか?」

「いえ、そのようなことは」


「陛下、どのようなご用件で此方へ?」

「うむ。近いうちに、こ奴が治癒のために南部へ赴くと聞いたのでな。ついでに、幾つか任務をと思って探していたんじゃよ」



 やはり、シャルンドア領へ?


 で、任務……任務か。

 陛下が俺に課す任務。


 その殆どは、冗談のような無茶ぶりの連続だ。


 前に、すぐ北に発生した竜の討伐をして来いと言われたときは。

 絶望したもんだが。


 翼の飛膜を破って墜とし。


 魔物と共食いさせ。


 何とか、漁夫の利を獲得した。

 ……もとい、討伐した。

 もしもそのまま戦ってたら、間違いなく死んでいただろうが。


 そんなこんなで。

 本当に、無茶ぶりな任務ばかりなのだ。



「死なない任務でお願いします」

「其方なら、死んでも死霊種になって戻ってくるじゃろう」


「希望的観測で進めないでください」



 その頭のおかしな信頼は

 果たして、何処から出てくるのだろうか。


 というか。

 人間から魔人に改造されたと思ったら。


 今度は死霊種ですか? 

 そのうち、有角種とか妖魔種になって来いとか無茶ぶりされるんじゃないだろうか。



「情報元はアダマス殿だと愚考するのですが。やはり、彼女のもとへ?」

「うむ。余は治してやるつもりなどないからの」

「……その心は?」

「面倒なうえ、魔力の無駄だからじゃ」


「…………」

「ふむ。反抗的な目をしておるな」



 よし、クーデターだな。


 バルガスさんなら。

 或いは、協力してくれるんじゃないだろうか。


 彼も無茶ぶりの行き先だ。



「アルモス殿。どうか、落ち着いて。陛下にもそれなりの理由があるのですよ」



 バルガスさん、そういうのもっと早く言った方が良いですよ。 


 あと少し、それが遅れていたら。

 俺が陛下に飛び掛かって。

 貴方の執務室が、エライことになるかもしれなかったんですよ? 


 勿論、俺の血とか肉片で。



「まぁ、任務である以上は受けざるを得ないんでしょうが」

「当然じゃろう。余の命じゃ」


「……指の治療は?」

「ついでに、済ませろという事じゃ」

「本来の目的がついでになっているんですが」

「余の命令は、どんなことよりも優先されるのじゃ」



 ……………。



 ……………。



 そっすね。



「―――はは……。お気をつけて、アルモス殿」



 あくまでも、治療はついでと。

 流石陛下。

 臣下への言葉が素晴らしい。


 ほんとにこの魔王。

 いつか、絶対に泣かしてやるからな? 



 魔皇国唯一の良心。

 バルガスさんのくれる同情だけが、俺の救いとなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです [一言] 視点の切り替えがあると物語が中々進んでいかないように感じました。
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