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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第三章:過去編 彼と六魔の三百年(壱)

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第二話:悪の幹部は爺ばかり




「―――ラグナ・アルモス……ね。どういった関係で?」



 当然ながら、俺は全く知らぬ外国人の名だ。


 そして、関係性も見えぬと。

 反逆者とかだったら流れ弾来ると。


 ビクビクしながらも問いかけるが。



「余の最初の部下にして、魔皇国の基礎を築いた建国の父、といったところかの」

「いなくなったんですか」

「あぁ、とても残念な事にな」



 なるほど、簡単に国を亡ぼすような魔王にも情はあるらしい。

 居なくなった存在を。

 数百年以上も探していることから。


 それが、伝わってきた。


 ……それ程までに見つけたい存在なのか。



「しかし、魔族がいくら長命でも、そんなに長く生きているとは思えないんですが」

「……そうじゃな」

「え?」

「余は例外としても、可能性は低いじゃろう」


「――じゃあ、なんで……いや。何でもないです」



 まるで、幼い少女のように俯く魔族の王。

 そんなに悲しそうな顔をされては、これ以上言う訳にもいかないじゃないか。


 

 ……………。



 ……………。



 まあ、俺にできることくらいはやるか。

 墓荒らしとか? 

 ミイラがどっかの博物館に展示されてないと良いんだがなぁ。


 普通に、魔族だろうし。

 人間国家とか、マジで展示されてそうなんだよなぁ。



「しかし、余の捜査では限界があるからの。人間であった其方の方が、この分野は向いていると判断したのじゃ」

「やはり、国から出れないとかですか?」

「そうじゃ。今回西側へ赴いたのも数十年ぶりじゃからな。そのような周期で捜索したところで、痕跡など見つかりようもなく、配下を向かわせるのも危険なうえ、適任がいなかった」



「……成程。それは、確かに。危険でもすぐ見捨てられますからね」



 その適任が俺という訳で。

 調査に必要な知識や能力は、これから付けていくということなのだろう。


 ともかく。

 俺がその人物を探すことは決定事項となったようだ。



「――そうだ。じゃあ、俺は魔素の薄い西側でも大丈夫なんですか?」

「まだ検証の段階じゃがな。其方であれば、問題なく活動できる可能性が高い。そも、魔人など我らに近づくために愚かな人間達が作り出した劣化品ばかりだったからの。其方は、魔族の王である余が造り出した正真正銘の完成品じゃよ」


「……人の事を品って言わないでくれます?」

「何故じゃ?」

「なんだか、奴隷になったような……」

「余の指先一つで自由自在。似たような者じゃろう?」



 おぉッ! 確かに! 

 なんだか惨めになって来たぞ。

 この魔王の事は助けてあげたくなってきたけど、いつか絶対に泣かしてやりたいとも思うようになってきた。


 これが矛盾する心ってやつなのかな。



「っと、着いたぞ。ここが謁見の間じゃ」

「―――ぇ? あの、この人……いや、魔族? ――いや。そのまま王の廟とやらに繋がっていたんですね」

「あの空間こそ、魔皇国の中心じゃからの。そして、お主の目の前にいるのが、この国の宰相であるバルガスじゃ」

「………そっすか」

「いつまで無視されるのかと思いましたよ? 陛下」



 謁見の間――魔王が座るのであろう玉座の後ろから。

 階段で上がってきた俺たち。

 目の前にいる老人を無視して話を継続したのには驚いたが、この人宰相じゃん。


 メッチャ偉い人じゃん。


 なんで無視したんすか?



「……ぁ、えと……私は名倉と―――」

「あ、そうじゃ。其方、これからはアルモスと名乗れ。その名は格好がつかんからの」

「……俺は湯屋で働くつもりはないんだがな」


「ゆや……? どういう事じゃ」



 何故俺は名前を奪われなくちゃいけない。

 そんなに贅沢な名前でしたか?


 というか、その名前って。

 この国の基礎を築いた魔族の名前じゃなかったかな。



「その名前って、確か……」

「この国では民の名前としても当たり前に使われとるのじゃ。タナカとかイトウみたいなものじゃろう」

「もしかして、陛下転生者?」

「違うぞ」

「……ははは。陛下が、転生者ときましたか――ふふっ」



 ここまで知識豊富だと。

 疑いたくなるのも仕方がない。

 向こうの世界でもそんなこと言ってくる人は居たしね。


 アニメ映画だけど。


 ―――んで、何時までも老体を待たせるのはダメだろう。

 挨拶は大事だしな。


 俺は、何か笑ってる老体に話しかける。



「……では、推定アルモスです」

「はははっ。陛下にも困ったものですな。よろしくお願いしますアルモス殿。私は魔皇国宰相のバルガス・アルシディアと申します。種族は死霊種ですね」



 なぬ? 死霊種だと?

 かつては通常の魔族や他の種族であった者が、何らかの未練や外的要因によって再び動き始めた例外的な魔族、か。

 激レア種族じゃない?


 しかも、物腰も柔らかで話しやすそう。


 イザとなったら頼ることにしようかな。


 あ、でも。

 こういう普段は優しそうな人程、実は裏でコソコソとかがファンタジーの鉄板……。



「バルガスには、空いた時間で其方へこの国での常識を教え込んでもらう。宰相を務めていることからも分かると思うが、もう一人の男と並んでこの国最高の頭脳と呼ばれておる」

「空いた時間ですか。では、公務の時間を考慮して、二日で一時間が限界ですね。それ以上は、国家運営に響きますので」

「……すまぬな、バルガスよ」



 ―――あ、この魔族社畜だ。



 どんだけ忙しいんだよ。

 明らかに上司の仕事を押し付けられているような感じなんだけど。


 もしかして、この人が死んだのって。

 死霊種になった原因って、過労死じゃないですか?



「――では、ここよりバルガスに案内してもらえ。余は疲れたでの」

「お疲れ様でした。陛下」

「バルガスさん? NOと言える部下になりましょう」


「息抜きですから問題ありませんよ」

「……そっすか」

「はい。では、城内の案内をしながら人物紹介と行きましょうか」



 どうやら、すっかり調教されているようだ。

 そのうち、肉も無くなって。

 骨だけにならないと良いけど。

 ……しかし、死霊種も当然初めて会ったけど、肌が青白い以外は普通の魔族とも変わりないんだな。



 かつて聞いた話では。

 大抵の魔族……下級魔族は目が赤いらしく。


 それが魔族の指標となるらしい。

 だが、上級の魔族にもなると眼の色も違ってくるから、耳の形で見分けるとか。

 本当に魔族の耳って尖ってるんだな。


 エルフみたいだ。

 まぁ、そっちも会ったこと無いけど。


 宰相バルガスさんに覚えきれぬほど次々と案内されて魔王城を歩き。

 俺たちは、大扉の前で立ち止まる。



「――そして、ここが大書庫です。紹介したい方がおりますので、入りましょうか」

「……凄い蔵書ですね」

「読書が趣味の者も多いですからね。特に、ここを管理している方は――ああ、メノウ殿」



 歩いている俺達の前に現れたのは。

 見た目、三十代ほどの魔族。

 武人や騎士には見えないので、察するところ妖魔種だろうか。

 

 積み上げられた文書へ。


 次々とサインをしていて。


 如何にも文官といった風体。

 しかも、その速度は異常なまでに速く……本当に確認しているのか?



「おや、バルガス殿。――その青年は?」

「あ、アルモスです」

「本日より見習い騎士として働き始めることになった青年ですよ。()()()を追うため、陛下がお連れになったのです」


「ほぅ――なるほど。アルモス殿、私はメノウ。この大書庫の管理と国内外の情報を収集する情報統括局の局長を務めています。以後、お見知りおきを」



「……………? あ、はい。よろしくお願いします」



 うん、礼儀正しい……けどさ。

 ―――バルガスさん?


 見習い騎士って何すか? 


 おれ、初耳なんですけど。

 もしかして、意地でも情報を伝えない虐めですか?


 疑問はそのまま、目の前にいる魔族に自己紹介をし。

 そのまま部屋を退出していく俺たち。


 ……メノウさんか、覚えておこう。

 というか、国内外の情報って。

 魔族って結構そういうこともやるんすね。ずっと引きこもってるだけだと思ってた。



「次は、どちらへ?」

「ええ、ひとまず紹介は次で最後です。魔皇国最強の武人ですよ」



 うわぁ……会いたくねぇぇ。


 これまでの流れから考えて。


 どうせ、次も爺とかだろうし。

 戦闘狂だったら目も当てられないからな。



「――もし、アルモス殿。大丈夫ですか?」

「あ、問題ないです」


「左様ですか?」

「えぇ! いやー、楽しみだなー。最強の魔族ですかぁ」

「はははっ。やはり、若いとそういうモノへ憧れるのですね。あ、因みに、その方は魔族ではなく龍種なので」



 ………龍種だと?


 魔物の中でも、最強と言われる幻獣種の一角だ。

 なんでも、生まれた時は人型だが、年月を重ねると龍化できるようになり、災厄にも匹敵する化け物に成長するとか。


 ……うん。

 やっぱり会いたくない。


 最強とか伝説とか、陛下に殺されかけた時に無理だと悟ったし。

 さらに心を折る必要はないだろう。



「頼むから不在で……ぁ、此処ですか?」

「ええ、こちらです。大体の場合はここにいますので」



 やって来たのは、大書庫から十分ほど歩いた部屋。

 他の場所よりも堅牢な材質の壁だ。


 というか、この城広すぎないですか?


 魔王城だから漆黒だと思ったら。

 ほぼほぼ真っ白だし。

 思っていたのと大分違うというのが、正直な感想だ。


 まあ、広いのは当たり前か。

 因みに、エンカウントで戦闘とかははしない。

 たまに有角種や妖魔種の魔族とすれ違うくらいだ。


 ……っと、バルガスさんが部屋をノックする。



「失礼します、アダマス殿」

「バルガスか。何用じゃ? 茶でも―――、……!」

「彼を紹介するために参りましたので、それは次の機会で」


「……ふむ。では、こやつが例の件を?」

「ええ、陛下がそう仰いまして。私共は、その通りに」



 出てきたのは、二メートルを優に超え。

 三メートルに達する巨人。

 後頭部で結われた髪と長い髭は共に、銀に見紛う灰色で……うっわ。


 何とむさくるしい。

 本当に、どうして爺と男ばかりなんですかねぇ。


 普通、こういう悪の幹部って。

 美人魔族とかいるものじゃないのか? 今のところ陛下しかいないじゃねえか。



 俺の純情を返してほしいものだ。

 あと、さっきから言っている例の件ってマジで何なんですか?

 

 俺、当事者の一人だろ?

 教えてほしいのだが。

 もしかして、陛下の言ってた人探しの事なのか? 


 ……と、巨人がこちらに視線を向ける。

 その黒い双眸は鋭く、威圧的だ。



 ―――正直、逃げ出したいくらい怖い。



「おい、わっぱ。名は何と言う?」

「……アルモスです」

「あの方の名か? ……贅沢な名前じゃの。お主は、わっぱで十分じゃ」



「―――――マジか」



 思わず変な声が出てしまった。

 本当に、その言葉を言われる日が来るとは。


 どうやら、何時の間にか。

 俺はお風呂屋さんで働かされるために連れてこられたようだ。



「アルモス殿? この方が、貴方の師として戦闘技術を伝授してくださいますので」

「……血反吐吐くだけじゃすまなそう」

「その点は了承しておる。お主は無事に朝日を拝めるように祈っておくんじゃな」



「……程々で、お願いします」



 こういうところで。

 魔人になったのが良い事なのか、悪い事なのか分からなくなってくるな。


 腕がねじ切れたり、内臓が飛び出たり。

 それで生きてるような化け物ボディは勘弁だが。


 一瞬でバラバラな人間ボディも勘弁。


 特に、それを可能とする怪物が。

 巨大な龍種様が、俺に稽古を付けてくれるなんぞのたまっているときは。



「では、座学は私が、武術はアダマス殿が担当することになりましたので」

「……よろしくお願いします、バルガスさん」

「おい、儂は?」

「………おねがいします」



 本当はお願いしたくないです。



「――では。(しば)しアルモス殿には騎士見習いとして動いていただきますが、その期間が終了次第、騎士として各地で職務を遂行して頂ますので。そのおつもりで」

「……あの。因みに、どれくらい掛かるとお思いで?」


「私の方は、基本を教えるくらいなので……五年程ですかね?」

「稽古は根本からやり直すと考えて……二十年は欲しいかの」


「―――へ……? はッ……!?」



 時間の流れも爺基準ッ!! 

 魔族は長命種だから、五年とか二十年とかは、普通に下積み期間なのか!?


 確かに人生は一生修行だともいうが。

 それはそれだろ、おかしいだろうが。


 本当に基本中の基本だけなんだよね?



「あの、冗談―――あ、違いますか? そうですか」



 ちょっとした出来心で尋ねたのだが。

 おふざけ禁止らしい。


 巨漢筋肉爺に睨まれ。

 バルガスさんには、ニコニコした目で見つめられた。


 正直、筋肉爺より彼の方が怖い。

 あの死霊種は絶対に怒らせないようにしよう。



「――では。私は公務に戻りますので、アダマス殿。これからお願いしますね」

「うむ。付いてこい、わっぱ」

「………へ?」 

「何を呆けておる、小僧。早く来い」



 ……………。



 ……………。



「―――今からですかッ!?」

「当然じゃろう。時間が惜しいわ」

「終わり次第、私が教える時間ですから。先程紹介した執務室へいらしてくださいね?」

「………ふぁい」



 どうやら、俺の人生は苦難の連続のようだ。


 取り敢えずの前菜で。

 スパルタだと思われる化物の戦闘訓練。


 その苦行が終われば。

 今度は、一時間の詰め込み式マンツーマン指導と。



 ……あれ? おかしいな。




 ―――すみません、ご飯の時間ってありますか……?

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