第十四話:魔皇国と六魔将
―陸視点―
「この文献とか、どうですか?」
「――あぁ、それもアリだ。中々正確な情報が載ってる」
僕たちは、喫茶店を出た後。
調査のため図書館にいた。
アレフベートは、大都市で。
道路が舗装されているほどに栄えているからか、図書館も広い。
勿論、蔵書も膨大だ。
この世界は、娯楽が少ないし。
本は、暮らしに根付いているんだね。
図書館の中に広がる書架。
一番上の本へは、全くと言っていい程に手が届かないので。向こうでは見たこともない大きな脚立を使って本をとる。
「いやぁ。メッチャ多いな、ここの蔵書量」
「ほんっと。凄いよねー?」
「そうだろう。だが、これでも少ない方さ。セキドウにある【アルコンの塔】なんかは、ここの数十倍の書架があるからね」
「「えぇッ!?」」
「……いつか、見てみたいですね」
先生の話に、驚きの声をあげる康太と春香。
本好きの美緒なんかは。
一度、見てみたいようだ。
……アルコンの塔。
前に、聞いたことがあるね。確か、大陸ギルドの前身となった組織の研究機関だったとか。
二百年の歴史と言うし。
確かに、その蔵書量は凄いだろうね。
聞きながら本をかき集め。
下にいる先生へと、問いかける。
「もう、この位で良いですか?」
「十分すぎるよ」
広いテーブルに広げられた本の数々。
子供用の絵本から始まり。
六法全書のような分厚いものまである。
もし、これが落ちてきたら。
今の身体でも、無事じゃすまないかもね。
「じゃあ、そろそろ解説に入ろうか。皆、席に座って」
「…先生、本当に何でも知ってますね」
「知っていることだけだよ。冒険者にとって、彼らを知らないというのは、命取り以外の何モノでもないからね」
「……それ程、ということですか」
先程、初めて六魔将という単語を聞いた。
当初は、何のことだろうと。
首を傾げもしたけど。
それが、大陸の極東…。
魔王が治める国家の、最高幹部たちの事だと聞いた時。
僕も、知りたいという欲求が膨れ上がった。
席に座るのは僕たち勇者組。
あと、コーディ。
彼女は熱心に本を読んで――?
それ、恋愛相談誌?
……深く考えないようにしよう。
直感を信じて。
取り敢えず、先生の話に耳を傾けることにした。
「まず、魔皇国についてだ。大陸の極東にあることは、聞いたね?」
「エリュシオンっていう魔王が治めているんすよね?」
「あぁ、その通り。国の名前も、魔王と同じだ。魔王は千年以上を生きる【吸血種】の魔族と言われており、文献によると女性らしい」
「「えッ!?」」
「女性……だったんですね」
そうだったんだ。
僕は、てっきり。
ゲオルグさんみたいな、筋骨隆々の男性かと思っていた。
本当に女性の魔王っているんだね。
創作の中だけだと思っていた。
でも、そうなると。
気になるのは、やっぱり……。
「――やっぱり、美人なんすか?」
(ナイス、康太ッ!)
「……まぁ。リクとコウタは気になるよね。――男の性だから、三人は睨まないであげてくれ」
何故、だろうか。
発言したのは康太なのに。
一緒に睨まれてしまう。
もしかして顔に出ていたのかな?
女性って、そういうのに鋭いって聞くし。
……これからは、気を付けることにしよう。
「過去の文献によると。魔族特有の紅玉のような瞳と、月に反射する銀色の髪は比類なき程の美しさを放っていた…と、言われている。体型とかの逸話は無いらしいね。残念な事に」
「……銀色の髪かー」
「女性からしても、憧れですね」
「……じゃあ。ここ最近で、魔王に会った人間はいないんですか?」
「記録の上ではね。色々と噂が飛び交うことはあるが…確実に魔王が目撃されたのは、300年以上前の国家が滅亡した文献が最後だと言われている」
ああ、国が滅ぼされてる。
やっぱり魔王なんだ。
でも、三百年前って。
本当に、途方もない歳月だよね。
もしも僕がそんなに長く生きたら…果たして。
―――精神は、無事でいられるかな。
「……あの。さっき、先生は魔王を吸血種だって言ってましたけど。魔族って、一つの種族じゃないんですか?」
「あぁ、気になるよね?」
「「気になるッ」」
「彼らは、絶対数の少なさが人間にとっての救いと言われる程だけど。その中で、最も多いとされるのが【有角種】っていう武人肌の種。二番目が、【妖魔種】っていう魔術が特異な種だ。あと、特殊なものでは【死霊種】っていうのがいるね」
「うーん。結構多いっスね」
「因みに、妖魔種は恵体が多いって言われてるよ」
「「ッツ!!」」
「リクお兄さん? けいたいって何ですか?」
「………さあ、何だろう。僕も、ちょっと分からないね」
春香に睨まれながら。
康太や先生と目配せを交わす。
成程、覚えておこう。
あくまで、戦闘になった時のために覚えておくだけ。
それ以上でも、以下でもない。
「では、死霊種というのは何が特殊なんですか?」
「彼らは生まれながらの魔族では無く、魔族…又は、人間や亜人などが死後に再び動き出したものだ。脆弱なゾンビとかとは区別してそう呼ばれているが、厳密には魔族ではないとも言えるね」
「……じゃあ、吸血種は?」
「現在では、魔王以外の個体が確認されていないらしい。ほぼ絶滅した種だと言われている」
魔族にも、様々な種があるんだ。
この辺の話は。
コーディには、難しいようで。
彼女は、読んでいた恋愛に関する本を閉じ。
積んであった文献から、絵本を引っ張り出して読んでいる。
『白き龍と黒の騎士』
男の子が好きそうなタイトルだね。
「リクお兄さんも、気になります?」
「え? …うん、ちょっとね」
実際、気が取られていたようで。
彼女に尋ねられているし。
「……お。それは、世界中で読まれているメジャーな絵本だね」
「そうなんですか?」
「あぁ。何処の国が題材になっているのかは分かっていないが、導かれた騎士が魔皇龍っていう白龍を退治する話だ。多分勇者が魔王を退治するっていうのを基にしてるんじゃないかな? 魔皇国と似た名前だしね」
「……竜退治? 読んでみたいッ!」
「じゃあ、あとで貸しますね」
「うん!」
春香とコーディも、仲良くなったよね。
女性同士だから。
感じるものがあるだろうし。
……僕も、後で貸してもらおうかな?
偶には絵本も読みたい気分だ。
―――と、先生が咳払いをする。
「……では。話を続けるよ?」
「「はい」」
「魔皇国は魔族自体が少ないことから、国家自体は小規模だが、盟約を結んでいる亜人国家や氏族たちの領土も含めるとするのなら、大陸の東側の多くを所有しているとも言われている」
「俗に言う、連邦的な?」
「まぁ、近いかもね。各種族の拠点は分散して存在するらしいし。――で。それらを管理するのが、今回の本題…国の最高幹部たる六魔将だと言われている」
「じゃあ、やっぱり管理職みたいな感じか」
「板挟みで気苦労が多そうですね」
「つらー」
「……うん。君たちも結構色々あることが分かったよ」
現実世界の社会に例えると。
六魔将というのは、国家運営に携わる管理職。
会ったことはないけど。
もしかしたら、悩みとかあるのかも。
……相談なんてされても。
勇者が聞いている絵面なんて、想像もできないけどね。
「六人いるんですよね? 名前とかは分かっているんですか?」
「あぁ、俺も気になります」
「実は、文献自体は少なくてね。判明しているのは、この西部側を担当する亜人族のオーガ種、【黒戦鬼】サーガと、北部のロスライブズ領って所に住んでいる死霊種の【魔聖】エルドリッジ。あとは……」
「――暗黒卿アルモス、ですか?」
先生の説明に合わせるように。
発言したのは、美緒だった。
図書館を良く利用しているから、知っていたのかな。
……でも、三名だけ。
しかも、亜人族のオーガって。
僕たちが倒した、あのオーガ?
魔族の頂点と言える彼らに、亜人族もいるのか。
進化系だと思うけど。
どのように強くなっているのか、想像もつかない。
そもそも、あの時のオーガですら。
極西部に居た影響で、かなり弱体化した個体だというし。
「よく知ってたね、ミオ」
「フィネアスさんの話で出てきたので、前に一度だけ暗黒卿について調べたことがあるんです。…殆ど文献はありませんでしたけど」
「まぁ、彼……暗黒卿は、男性の魔族だと言われているけど。彼の存在が最初に人間国家に知られることになったのは、二百年前の勇者ソロモンとの決闘からだからね。そこからは断片的に目撃されてるが、あまり多くの事は分かっていないんだよ」
「…‥まず、名前が凄いよな。中二病の塊みたいだ」
「格好良いよね」
「陸たちは、そう思うんだ?」
「――私は…良く、分かりませんけど」
ふふふッ。
こういうのは、男のロマンだよね。
だって、伝説の勇者よりも強い暗黒騎士って。
なんか、カッコ良いじゃん。
絶対に戦いたくは無いけど。
一度くらいは会ってみたい…なんて、考えなくもない。
「亜人国家の人は、会ったことがあるんじゃないですか?」
「そうかもね。…しかし、秘密主義の国が多いのさ。特に【半妖精】……エルフとかは、自国の情報を人間国家に殆ど流さない、永世中立国らしいから」
「おおッ! エルフいるのかッ!」
「あたしも、会いたいかもッ」
「機会があれば良いけどね。中には、国外で冒険者をやっている変わり者の個体もいるし」
「くくッ……エルフか。――これは、厚くなるな」
「「何が?」」
……康太?
小さい子もいるんだからさ。
それは、良くないと思うんだ。
僕も、全く想像しなかったわけじゃないけど。
でも、エルフって言えば…やっぱり。
凄い美形なイメージ?
やっぱり、僕たちが知っているエルフなのかな。
「まぁ、容姿は皆が想像している通りだと思うよ。基本的に胸は貧――」
「先生?」
「…何でもないです」
「もう。それより、六魔将ですよ。西側担当のサーガって亜人は、どんなオーガさんなんです? 前の個体とは何か違うんですか?」
「――あ、あぁ。一番文献が多いからね」
複数の文献からの情報では。
【黒戦鬼】は、通常のオーガと同じくらいの背丈。
肌は名の如く浅黒くて。
剛腕から繰り出される攻撃は、辺り一帯を軽く吹き飛ばす程だとか何とか。
……やっぱり、規格外?
「――だから、まず野球は出来ないだろうね」
「この世界にあるんすか?」
「東側では情報が残っているらしいよ。何故かは、良く分からないけど」
……いや、そもそもだ。
この世界の冒険者とか。
身体能力おかしいし。
野球なんてやった日には、グラウンドが無事では済まない。
僕は球拾いしかしたこと無いけど。
この世界では、それすらも大変そうで。
「――じゃあ、エルドリッジっていうのは?」
「女性らしい。彼女が治めるロスライブズっていうのは、大陸でも最大級の鉱山地帯らしく、貴金属や宝石が産出される。そういった背景から、結構な数の冒険者が目指すんだ」
「無事に戻れます?」
「東側ですから、魔物も強いですよね?」
「だからこそ、許された冒険者…少なくとも、上位であるB級が向かうのさ。魔物に喰われなければ、殆ど帰ってこられるらしいよ」
「……え? そうなんですか?」
殆ど帰れてるってことは。
あまり危険じゃないのかな?
魔物にさえ気を付ければ。
案外、どうにかなるような場所―――
「帰ってきた冒険者は、会話するのも困難な程に精神が狂うと言われているけどね」
「「…………」」
「じゃあ…ゲオルグさんは――」
「あれは元から狂ってる。…というか、あれはまだS級の中でも良心的な部類だからね?」
ゲオルグさんを引き合いに出す春香。
凄く悲痛な顔だ。
まぁ、多分冗談だと思うけど。
本当にそう思っている可能性が捨てきれないのが彼女だ。
―――初対面で冒険者たちを気絶させ。
弱い僕たちと戦おうとして。
発言自体が狂っているようなあの人。
あの人で、まともな方なのか。
「――いろいろ言ったが、最後に。もし六魔将と出会うようなことがあれば、全力で逃げるんだ。彼らがその気なら逃げることは難しいが、何もしないよりは良い」
「…でも、先生やゲオルグさんとか」
「S級冒険者とかでも、駄目なんですか?」
「難しい。高位魔族くらいならどうにかなるが――」
六魔将クラスになると。
その強さは、桁が違い。
最低でも、S級が二人は欲しいと先生は言う。
「彼らは、それ程の脅威なんだ。もし、単身で勝てる冒険者がいるならば……そうさな」
「「…………」」
「ギルド総長か、S級最強と言われている【深淵狩り】くらいなものかな?」
二人だけ……なんだ。
僕たちが召喚されたとき。
フィネアスさんさんが言っていたことは正しかった。
人類最強の使い手たちでも勝てない。
そんな戦力が六人。
しかも、その後ろには魔王まで存在していて。
改めて、思う。
僕たちの目的が、魔王討伐じゃなくて良かったと。
「――私たちの旅は、どの辺りまで行くつもりなんですか?」
「僕も、気になります」
「そうだね……うん。大陸東側の、亜人国家がある辺り迄かな。そこまで行けば、上位冒険者として十分過ぎるだろうし、多くの経験が積み重なっているはずだ。」
「だから、そこまでは私も同行する…と思う」
質問に答える先生は、何時もの調子で。
しかし、分かっている。
彼も、いずれは。
僕たちの元を離れ、活動をしなければならない。
何時までも頼ってはいられない。
早く、一撃入れられるくらい強くならなくちゃ。
―――出来る気がしないけど。
「……亜人。楽しみだなッ!」
「下心見えてるよ?」
「でも、確かに。色々なものを見て回りたいですね」
これからも、僕たちは。
色々悩んで。
色々な敵と戦うだろう。
「暫くは、この都市で勉強だ。着いてこられるかな?」
「「お願いしますッ!」」
「――あの、頑張ってくださいね?」
でも、時間はあるから。
悩むのは先で良い。
これからも、皆が居てくれるから。
絶対に、大丈夫。
冒険は、これからだから。
コーディの心強い激励に感謝しながら、頑張ることを誓った。




