第二十一話:四人で答えを出すこと
―陸視点―
「皆さん、飲み物は如何ですか?」
「ふいー、頂きます」
「僕たちも…いるかな? 康太」
「……あい、頂んす」
殿をしていた親友。
彼の疲れは人一倍。
仲間たち以外誰もいない談話室で深くソファに沈みながら、皆で身体を休める。
あの後、僕たちは撤退し。
依頼の件は保留にしてもらった。
早期解決は大切なことだけど。
まずは、話を整理する時間。
それが一番必要だ。
僕たちがこの国にいるのは?
近々開かれる大陸議会に備え、エルシードからも代表者に出席してもらうため。
リザさん直々の頼まれ事だ。
そして、その為に提示された条件。
と言うより、緊急依頼?
エルシードの女王であるセレーネ様から依頼されたのは、上位種という神輿を得たことで活発化したトロル種の討伐。
先の偵察は、その為の下調べ。
だが、その過程で。
いくつもの疑問が浮上した。
「本当に、トロルさんは凶暴化しているの?」
「………いや」
「自分で見たことを信じろって言うのなら――してないな。ありゃ、攻めるってよりも…無理して守りを固めてる感じだ」
「言うなれば、総動員…ですね」
物騒な話だけど。
それは、僕たちの世界でも知られたもの。
戦闘者ではない一般人をも戦いのために前へと出す考え方。
あのトロルたちの戦い慣れていない様子から察するに、そう外れてもいないだろう。
―――気になるのは、もう一つ。
「発言も、気になりましたね」
「「へ?」」
「うん。あの時、トロルは「人間は倒す」って言ってたんだ。ここは冒険者とか迷い人がやってくる可能性のある場所ではあるし、そいうことはあるのかもしれない。じゃあ、エルフだったら…どうしたんだろう」
「……言われてみれば、気になるな」
捕まえるでもなく。
殺すでもなく。
倒すというのは、防衛的なニュアンスで。
前情報はなかった。
女王もリディアさんも。
或いは、先生だって。
人間なら油断する筈とは言わなかったし、奇襲になるとも言わなかった。
僕たちを試すと言っていたから。
情報を渡さないというのもある意味では納得できることではあるけど。敢えてそう行動することで、どのような益が出るのかは分からない。
「こちらから攻めるというのも、難しいですね」
美緒の考えは最もで。
誰かが指令を出してくれるなら良い。
脳死で突っ込むならまだ良い。
でも、僕たち四人は。
今は、そうじゃない。
誰かの命令ではなく、自分たちの意思で行動していくことが大切だと教わってきた。
何処から攻められるかという恐怖は無いけど。
その分、攻め入る側の怖さと危うさを知った。
「でも。あまり考えても答えなんて出ないし」
「やすみますです?」
「はい、少し休みましょう」
「……んにゃ、おや……フゴー」
すぐにソファーへと。
もたれ掛かる康太。
平時なら、幾ら休んでも良いって教わったんだ。
本当に安心できるからこそ、こんな無防備に…。
―――寝入るの早過ぎない?
◇
「――ふん~♪ ふん、ふん~♪」
それから、少しの時間が過ぎて。
可愛らしい鼻歌が聞こえる。
春香にしては随分と女の子。
……でも、ちょっとアレだ。
「やっぱり、物騒だよね」
「あぁ。現役JKが鼻歌歌いながらナイフ磨いてんだぞ? 軽く恐怖が」
「聞こえてますよ、お二人さん」
いや、そう言われても怖いんだけど。
彼女の前にはずらりと並んだナイフ。
取り分け輝く紅い刀身の短剣。
普段から多量に持ち運んでいるのに重さを感じさせない動きも凄いけど、戦闘スタイル的にそれだけの量になるのも仕方ないし、念入りに手入れするというのも当然のことだ。
でも、見る側からすれば…。
それはちょっと異常な光景。
「落ち着きますからね。こうしていると、他の事を忘れて考え事に没頭できます」
美緒の手には、柄から外された打刀ミカヅチ。
彼女もまた、武器の手入れ。
油の付いた布で刀身を拭い。
アニメなどで見る打粉を軽く当てていく。あの球体の中には砥石の粉が入っていて。
切れ味を保たせるための処置。
こまめに手入れが必要なのは、やはり現実ゆえだ。
「…陸はともかく、康太君は楽で良いね」
「はははっ、褒めないでくれ」
僕の武器は長剣で、康太は大剣。
頑丈ではあるけど、手入れが手間だ。
長剣は研ぐ音がうるさく。
絶対に野外でやるし。
大剣に至っては手で研ぐのが難しいので、専用の回転台などを使う。
だから、今はできないわけで。
まぁ、出来たとしても康太はやらないだろう。
斬るのは勿論、様々な用途で活用できる武器だ。叩きつけたり、押しつぶしたりすることの方が多いので、研ぐ手間があまり掛からない。
トロルさえ、余りのショックで。
気絶を余儀なくされる威力だ。
そういう使い方をしているから。
大剣なのにポッキリいくんだろうけどね。
本当に大雑把と言うか…あ!
それで思い出したのが一つ。
「康太? 早く先週の100円返してよ」
「……いやぁ、すいやせん」
「先々週の50円でも良いよ」
「借り過ぎ!」
「……陸君も、貸し過ぎですよ?」
彼は金遣いが荒くて。
基本カツカツだから。
借金も嵩む現状。
珍しいものがあるとすぐに買ったり食べたりしたがるから、増えていく一方で。
そろそろ首が回らないらしい。
前衛だから、ちゃんと回してもらわないと索敵で困るけど。
「あたしだって陸にお金借りてるんだからさ? 足引っ張んないでよ」
「……春香ちゃん?」
「違うよ! 五百円だけ!」
勝手に自爆した春香は。
美緒に射竦められ、小動物のように丸くなる。
本当にこの仲間たちは。
一緒に居るだけで安心できるね。
「――陸君、余り甘やかしちゃダメですよ? 及時雨は良い事ばかりじゃありません」
「はは、ゴメン」
中国の有名な話…水滸伝だね。
やっぱり彼女は色々読んでる。
……まぁ、僕は別に欲しいだけ与えられる程の甲斐性があるわけでは無いんだけど――ッ!
「そ……そう言えばさ」
「なんですか?」
「ほら……」
「なんですか?」
「ははは。ええと……オークの時も、馬車の中で同じように悩んだよね」
美緒のあの目はダメだ。
逆らえる仲間はいない。
心中を透かされたのか。
とてもいい笑顔で見つめてくる彼女は、とっても怖い。
語彙を失うくらいには。
「でも、凄かったんだよね?」
「俺も、聞いたぞ。二人で何十も倒したーって」
「かなり危なかったけどね」
「気を付けて、手狭にならないうちに後退はしていたんですけど、どうしても足を滑らせてしまって」
床の血溜まりに足を取られ。
増してや、不安定な階段で。
あの時もギリギリだった。
それより、何より。僕たちが手加減出来なかったせいで、実力不足で、機会が失われて。
本当は、彼等とも。
話し合いたかった。
「――でも。挨拶でアレだったからなぁ」
「アレですね」
男は殺し、女は捕まえる。
その時点でお友達は無理だった。
でも、今回はまだこじれていないのだ。
もしかしたら、対話の可能性が存在するのかもしれない。
「話し合うのって、本当に難しいんですよね」
「……だよねー」
出来るだけ軽いニュアンスで言ってるけど。
二人共、それに対して恐怖があるのだろう。
どちらも、対話において傷を負ったから。
普段の明るさからは伺えない闇が、確かに存在していて。
美緒は家族と折り合いを付けたいと言った。
普段は全く対人関係に難を見せない春香だって、小さな頃のほんの一時は。
……凄く酷かった。
もう二度とあんな彼女は。
そもそも、女の子にあんな顔をさせちゃいけないんだと思ったし、言われた。
「「……………」」
だからこそ、二人の悲しみを。
僕と康太が祓えればと思った。
……うん。だからこそ。
此処で立ち止まるのは、ダメだよね。
「今回は。今なら、間に合う」
「んだよな。少なくとも、こっちは単純……俺たちが聞きに行きゃあ良いんだから」
まだ始まっていないから。
今、こちらから呼びかければ間に合うかもしれない。
「皆で行ってみよう。話し合いに」
「「……………!」」
それは、誰もが思いつつ。
中々言い出せなかった事。
危険なのはわかっていて。
でも、最初はそれが何より大切だと同様に理解している。
だからこそ、三人の顔は。
「しょうがないなぁ」、「仕方ないなぁ」なんて顔で。
考えは纏まったけど。
問題はこれからだ。
「じゃあ、方針決定という事で…誰が言う?」
「「え?」」
「いや、女王様に」
当然、説明の義務がある。
それが一つ目の関門でもあるから。
要約してしまえば。
一国の王様に対して、「貴方の言う事は聞きません」と言いに行くようなモノ。
その意味を理解し。
元気っ子たちは顔を青くして首を振る。
「「無理無理無理!」」
「では、伝えたいことを纏めておきますね」
「僕も手伝うよ。二人には、その分向こうで頑張ってもらうという事で」
元々、二人の役割は別だし。
真面目な交渉に期待はしてない。
それを補って余りあるモノが備わっているからね。
僕たちは広げていた荷物を纏め。
謁見へと備えることになった。
もしかしたらセレーネ様たちの反感を買うかもしれないけど。
今僕たちがすべきこと、勇者として成すべきことを模索するために、皆で出した答えなのだから後悔など無い。




