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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第六章:勇者一行と信仰の王国

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第二十四話:人か、魔か




「―――――もはや、これ迄か……」



 都市全体に忌まわしい結界が張られ。


 その上、作戦成功の合図すらもない。


 自然に考えて、勇者らに返り討ちにされたという事なのだろう。

 初めにこの地を訪れた上位冒険者たちの処理も成功し、炎誓騎士団を抑えることも完全に成功していた。

 

 オークの繁殖も、大きく成功していた筈だった。


 誤算があったとするなら。


 勇者たちがやって来た事。


 何より、()()が勇者達と行動を共にしていたこと。



 ―――そして……最たるは。



 ―――魔皇国エリュシオン。



 何故、あれらがこの国に来たのか分からない。

 この一件と関係があるのは明白だが、果たして何を成す為に? 


 情報収集というのなら分からなくはない。

 だが、六魔将自ら足を運ぶだろうか。

 あの国に、まさか聖女を守ろうなんて考えがあるとも思えない。


 ならば、やはり……自分か?


 この身体に流れる、忌々しい血。


 それを認めてくれた方もこの世にはおらず、忘れ形見も手の届くところにはいない。


 何故、自分はこのような力を持って生まれてきたのか。

 それさえも、自分では分からないというのに。

 


 ―――まあ……良い。



 いずれ、必ず彼女を手に入れる。

 自分の力と、この場所の秘密が在るのならできる筈だ。




「……必ずや、貴方を手に入れますよ―――オフィリア様」




 愛しい少女の名を呼び。


 再び、隠し通路を開く。


 今は此処を去るしかないが。

 この利がある限り、自分は生き続けることが出来る。




 だから、今は再起を―――




「本当に、執着心までそっくりだね。種族特徴なのかな? それは」


「……………なッ!?」



 自分しか居ない――居てはならない空間。

 足を踏み入れた先には、暗い通路が広がっているのみの筈で。

 

 だが、そこに。


 いる筈のない存在の声が響いた。



「―――冒険者……ナクラ……?」

「やあ。こうして直接会話するのは初めてだったかな? ……いや。決闘の折、一言だけ話したか」



 ……………ッ!



 自分は、今も外套を深く被り、幾重もの偽装魔術を行使している。


 にも拘らず。


 

 何故、この男は―――



「――見事なものだね。王家ですら知らない……失伝した隠し通路」

「……………何故」

「数千年もの間、崩落することもなく、見破れることもなく、“蔵匿”の魔術が刻印された此処は残り続けた。流石は、旧世界の遺跡が数多く現存するクロウンスだ。王国の地下が迷宮のようだなんて、ロマンがあると思わないかい?」



 何故―――なぜ―――ッ!?



 誰一人知らない筈だ。


 自分以外の者は知らない。


 例え、王家の人間でさえ。


 この空間を知っていることなどあり得ない。


 そこに確かに存在すると知っていなければ、最高位の魔術師でもない限りは決して見破ることのできない、認識さえできない魔術刻印が施された……旧世界の名残を。



「そんなに意外かい? 君だって、見つけられたのはその良すぎる()のおかげだろう」

「……そういう次元の話じゃない。お前は、魔術師ではない筈だ」


「――まぁ、確かにね」

「……そもそも、お前は冒険者たちを相手にしている筈」



 A級冒険者、暁闇のナクラ。


 個人の戦力としてはS級に匹敵すると言われる化け物だが、万能ではない。

 最も障害となる戦力として、勇者達から遠ざけるように立ち回ったし、その為に態々アイツを囮にしてまで塔から引き離した。


 隊を二手に分けた筈で。

 

 手痛い出費を払わされ。



 ―――しかし。確かに、目の前にいる。



「あぁ、良い計画だったとも。個人が特出していても、複数の戦場で同時に戦う事なんてできないからね。私が半数を相手している間に、隠し通路の一つを使って残りが聖女を……か。うん、賞賛できる。何より、誓約のせいで私は人に話せないからね」


「……キサマ――何故ッ」

「諜報に関しては、此方も優秀な部下が揃っているという事さ。本当に、君はアイツと似ているね。()()()、ミハイル君?」



「―――ッ―――――!!?」



 それは、最も知られてはならない秘密。


 憎み続けた己の血筋。

 それを知っていた者は、オリヴィア様だけの筈だ。

 今となっては、秘密を知るものは一人として生きちゃいない。



「あぁ、そんなに怯えないでほしいな。まるで、虐めてるみたいじゃないか」

「何故だ! 何故私が―――ッ!?」

「考えることは皆同じってことさ。……ね?」

 


 一瞬、空間の揺らぎが起こり。


 先程までは、確かに黒だったそれは。



 ―――赤い瞳に。



 隠し続けていた、偽装し続けた自身のものと同色の瞳。

 この男は、同じなのか!? 


 いや―――違う。

 自分の中に流れる血が、同族では無いと告げていて。



「―――――お前……は」

「私は君と同種ではないけどね」




「で……だ。君には理解できないと思うが、私はかなり怒っている。大人しくしてもらうよ」

「―――ふざけるな――――ッ!!」




 発せられる圧力に怯えを感じた身体を奮い立たせ、全力で()()()


 こんな所で倒れてなるものか。


 もしかしたら、自分はあの男に勝てるのかもしれない。

 だが、そんな希望的観測に委ねるよりも、もっと確実な手がある。



 ―――ただ、逃げ続ければいい。



 あの男が発言したように。


 この地下空間は。


 まさしく迷宮だ。


 常に結界が張り巡らされているクロウンスにあって、魔物が闊歩しているエリアは殆どないが、この空間を知り尽くしている自分であれば。


 幾重もの防衛機構の全てを熟知している自分であれば、戦うことなく奴を消せる。


 なまじ倒しきることが出来なくとも。

 この空間で振り切ることが出来れば。


 奴は、永遠に地下空間をさまようことになる。



 ここは、決して朽ちぬ空間。


 壁を破る事は絶対に不可能。


 例え、最上位冒険者であろうともだ。

 自分を追ってきている男の姿が確かに遠くなっていき、索敵の範囲外に来たところで最寄りの刻印を起動。


 幾重もの防衛機構の中には、この空間を組み替える仕組みも存在する。

 これを自由に操ることが出来る自分が捕まることは決してない。



 ……半魔種として生まれた自分は、親の顔すら知らない。



 女のような白い肌。


 血のように赤い瞳。


 そして、半妖精共のようにとがった耳。


 魔族と同じ特徴を持った自分は、意味も分からず虐げ続けられてきた。

 救ってくれたのはあの方だけだった。

 オリヴィア様だけが理解してくれたのだ。


 あの方に近付くためならば。


 どんな手段でも使ってきた。


 この眼と、忌まわしき血の能力を使って、ここまでのし上がった。

 姿を偽り、名前を偽り、血を吐きながら魔術の特訓を行い続けた。



 ―――自分は、魔術刻印を可視化することが出来るのだ。



 本来であれば、刻まれてすぐに不可視となるはずの刻印。

 それを、幼い時には見ることが出来るようになっていた。

 

 塔、遺跡、宮殿……この都市周辺の至る所に。

 まるで、根のように張られた地下通路を自由に開き、動き回ることが出来る。

 


 この地にいる限り。



 私は、無敵―――!



「半魔種には、今だ謎が多いという」

「―――――――」

「特に、人間種に発現する【固有魔術】……本来であれば、その確率は数百万に一人とも言われるが、半魔種はその多くが何かしらの能力を持って生まれてくるという。その眼は当然として……魔物を操る能力でもあるのかな?」


「――ぁ……ぅ…ぁ」 



 ―――意味が分からない。



 わからない、わからない、わからないわからないわからない……。


 何なんだ、この男は。


 何故……全て分かる。


 まるで、私が此処に来ることが分かっていたとでもいうかのように、扉の先に佇んでいた男。


 その眼は、私の姿を映し続けている。

 私と、同じ色の瞳で。



「ナゼ―――なんで、お前は分かる……?」



 自分以外にいる筈がないのに。


 この空間を知っているのは、自分だけの筈なのに。

 パーシュースの人間ですら、宮殿から伸びる一部の通路を知っているだけ。


 なのに、この男は……。



「それは、聞いたからさ」

「……………は?」

「この国を愛し、全てを知り尽くした女性に聞いたからさ。建国以前――この宮殿が城だった頃から、積極的に抜け出しては束の間の自由を過ごしていた少女たちの一人にね。それに、私は何度もこの国に足を運んでいる」




「―――君が生まれる二百年以上前から――ね」




 何を……言っているんだ……? 


 この男は、一体何を?


 ……聞いた? 少女?

 

 半妖精種や魔族の寿命は三百年ほど。

 二百年ほどは青年期で成長が止まっていて、それを過ぎれば少しずつ年を取る。

  

 だが、そんな事をのたまう男は? 

 年を取っているようには見えない。


 増してや、人間が……。

 人間種がいくら強くなったところで、それ程長き時を生きられる筈がないではないか。


 自身の抱えた疑問を他所に。


 男は、ゆっくりと歩み寄る。


 それは――こちらを。

 まるで、此方を警戒していないとでもいうかのように、自然体で。



「―――来るなぁぁ―――――ッ!」



 懐に収めていた短剣を抜き、突き出す。


 渾身の一撃刺突。


 渾身の踏み込み。


 それは、まるで抵抗なく男の胸に吸い込まれ―――確かに、突き立った。



 突き立った―――筈で。



「さあ、答え合わせだ。君なら分かるだろう? 私の正体は――何だと思う」


「―――ま……じ、ん」



 ナイフを突き立てた腕を抑えられ、その様子を目の当たりにした。


 突き立てられた刃、滴る血液。

 だが、肌と金属の隙間は瞬く間に埋まっていき、血も止まる。


 ……………。


 ……………。


 教国やクロウンスなどの宗教国家に伝わる古い伝承。


 曰く、決して倒れぬ不死の怪物。

 曰く、ソレ顕れし国は地図より消滅する。


 浄化の力によってのみ。


 ソレを払う事が出来る。

 

 だが、ソレ等は全て意思持たぬ抜け殻の存在である筈で。

 


「――私は、見ての通り酷い化け物だ。君みたいなのは、まだ可愛い方だろう?」

「……………ぁ」



 男の手が、頭に伸びてくる。

 それが触れた瞬間、ゆっくりと体の感覚が失われ……。


 力が、抜ける。


 意識が遠のく。



「君の痛みを、苦しみを。私が理解してあげることは出来ない。だが、引き会わせてあげることは出来る。まあ、その前に()()の前でお説教だがね」

「―――なに……を」

「今は、ゆっくり寝ると良い。目が覚めた時には、もう少し前向きに考えられるようになっている筈さ」



 意識が、遠くなっていく。


 最後まで、意味の分からない男で。


 なのに……何故か、安心することが―――出来て。




   ◇




―ラグナ視点―




 倒れ込んできた青年を抱き留め―――そのまま横たえる。


 女性ならまだしも。

 野郎を抱きしめたままは、ちょっと気分がアレだ。


 確かに、顔は整っているが。


 それはそれでムカつくしな。



 ―――取り敢えずは、これで任務完了。



 大臣補佐ミハイル。

 彼こそが、この事件の黒幕。


 彼の捕縛、塔の復旧。


 そのどちらも完了で。


 クロウンス王国に渦巻いていた陰謀は潰えたわけだ。


 ……数年前に俺がオフィリアの警護任務についていた頃、彼は居なかった。

 恐らくは地方で文官としての経験を積んでいたのだろう。


 大臣の補佐というのは誰にでもできることではない。


 俺には出来ないからな。



 ―――最初に違和感を覚えたのは、この国へ来た初日。



 例の如く陸達が風呂へ行ったのを確認したので、裸の付き合いでもしようと向かった時の事だ。



 偽装魔術で青い瞳に変えても。



 耳の形を変化していようとも。



 全身を覆う程の魔術を維持する事は、最上位の魔術師でも容易ではなく。

 四六時中かけるのはまず不可能。


 だからこその局所的な偽装なのだろうが。


 綻びが出てしまうのは仕方ないことだ。


 それに――魔族特有の白い肌も。


 俺は魔術師ではないので、看破は難しく。

 面識がなかったので、探りを入れるのも骨だった。

 だが、疑問を覚えればとことん調べる性分なので、彼の身辺調査を第四部隊に依頼した。


 専門ではないので手間取ったらしいが。


 しかし、結果はこの通りで。

 部下が優秀で真面目だと、肩身が狭いね。



「―――さぁ、行くか」



 彼を背負って地下空間を歩き出す。


 目的地は、廃砦に最も近い出口だ。


 かつて幾度となく足を運び。

 何度も、何度も、その順路を頭に叩き込んだ。俺にとっては庭のような空間。



 ……ミハイル君自身が気付いているかは分からないが。



 彼は、恐らく先祖返り。

 両親ともに普通の人間だったんだろうが、そのどちらかの祖先に魔族が居たのだろう。


 その生は過酷なものであっただたろう。


 幾度となく迫害を受けてきたのだろう。


 俺の部下の一人も半魔種だから。

 もし俺に会っていなかったら、アイツもこうなっていた可能性はある。


 ……若干、育て方を間違えてしまったのかもしれないが。


 この子は、ヴァイスにでも頼んで。


 魔皇国に直送してもらうとしよう。


 あの国であれば、彼も理解者に巡り合える筈。

 まあ、変態(キース)のバカが移らないように配慮する必要はあるだろうが。




 ―――――さあ……合流だ。

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