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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第六章:勇者一行と信仰の王国

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第十九話:暗躍する影




「―――なあ~、俺たちは何時になったら行くんだよ」

「早くしてくれよ」

「ウズウズしてんだからなぁ」



 思い思いに暇を潰している者たちからあがる不満の声。


 ならず者にしては予定よりも早く到着するまめな連中もいるようだが、それでも文句が次々と出てくるあたり、やはり落伍者だな。


 集合場所である廃砦。


 ここは、かつてクロウンスが大国であった頃の名残だ。

 今にも崩落しそうなほどのバランスで立っているように見えるが、多少の衝撃で崩れることは無い。常しえの塔と同じ材質だからな。


 本来ならこの周辺には騎士たちがいる筈だが。

 この混乱下にあってはそんな余裕もない。

 恐らく、全ての者が都市の防御に当たっているはずだ。



 ―――当初の予定とズレがあることを知っているのは俺だけ。



 だからこそ分かる。

 

 オークたちの数が想定よりも揃っていない上に、動きの統制が取れていないように感じる。

 やはり、準備に掛けた時間の分だけ質が下がっているようだ。


 まあ、それはここに集まった者たちもそうだが。


 冒険者、騎士崩れ、山賊……。

 何れも脛に傷を持つものばかりで、これまでの人生でふるいから落ちた落伍者たち。 


 報酬だけしか興味が無い者。

 ただ憂いもなく敵を斬りたいだけの者。

 後がなく、今にも発狂しそうな者。


 そして、成り上がりを夢見る()()の者。


 一般で言う『まともな感性』というものを持ち合わせている人間は、この場には一人も居やしない。

 そんな連中が何十と集まっていれば。

 自然と喧嘩もいがみ合いも発生するわけで―――



「テメェ! 今なんて言いやがった!」

「お前みたいな奴はすぐに死ぬって言ったんだよ。どうせ、碌な依頼も受けられないような――あが――ッ!?」


「うるせぇ! 死ね! 死ねェ!」

「……おい、静かにしてくれよ」

「せっかく服を新調したのに、血で汚れたら聖女ちゃんに嫌われるかもしれねえだろ?」



 ……既に何人か戦闘不能になっている者、息の根が止まっている者も居る。


 今ナイフを刺し続けられている冒険者も死ぬだろうな。

 いくら経験を積もうが、危機感知の才能が無いC級冒険者が遠距離からの射撃であっさり死んでしまう、宿人の恨みを買って寝込みを襲われ喉元を掻っ切られる……ふとしたことで命を落とすなんてことは日常茶飯事だ。


 人間は脆い……脆すぎる。 


 魔物のように、深々と剣を突き立てられても活動できるようには出来ていないから。

 どれだけ強くなろうと、最上位に至ろうと、攻撃を受ければ血が出るし、当たりどころが悪ければ死ぬから。


 そんな簡単なことに。

 何故、昔は気付くことが出来なかったのだろう。


 思い出されるのは暗い過去ばかり。


 それを振り払うように立ち上がる。



「……さぁ、そろそろ出発するぞ」

「あぁ~、やっとかよ」

「早く行こうぜ? オークどもがおっぱじめてねえとも限らねえだろ」

「ははっ! そりゃあ良い! 俺たちも混ざろうぜ。異界の勇者っていうのはまだガキなんだろ? 俺は男でもイケるぜ」


「んなこと言ってる暇があったら早く準備を―――」




「全く、どうして国家機密っていうのはこうも簡単に流出していくんだろうねぇ」




 ―――日が没するのを待ち。

 そろそろ行動を開始しようとした時、廃砦の入り口から声が響く。



「――誰だ―――ッ!」



 開いた扉から覗く月明かり。


 その光に照らされながら立っていたのは知っている男だ。


 ギルドの酒場で出会った男。

 安酒を飲みながら暇を持て余していた冒険者。

 勧誘したが来なかった者は他にも数いて、特に気にも留めていなかったのだが……。



「誰、とは酷いな。誘ってくれたのは君だろう?」

「……………お前は」

「あれかい? お前なんか仲間に入れてやらないよってやつか?」

 


 ……なんだ、コイツは。


 本当にあの時の暗い雰囲気を纏った男か?

 同じ外見の筈なのに。

 まるで別の人間が中に入っているのではないだろうかと思う程には、全く違う印象を持っていた。


 男は剣を抜き、構える。


 明らかに同志としてこの場に来たようには見えない、敵対の意思を見せる行為。

 その剣も前に見た錆び付いた鈍ではなく。


 一目で業物だと分かるような長剣。


 刀身が月明かりに照らされ、青白い光を放つ。


 想定外の状況に俺が混乱する中。

 集まっていた者たちの一人の叫びが耳に届く。

 


「――コイツ……暁闇だ―――ッ!」

「……は――!? 何でA級冒険者がこんなところにいるんだよ!」



 A級冒険者?

 

 コイツが?


 大陸ギルドでもほんの一握りしか認定されないような怪物。

 最上位冒険者には劣るものの、戦闘力は間違いなく一騎当千の猛者ばかりで、固有魔術(ユニーク)などの一芸に特化した者も数多く存在する強者。


 才能無くしては到達できない領域。


 振るいに残った人生の勝利者たち。



「………何のつもりだ」

「最初からこのつもりだったんだ。済まないが、君たちが塔へ向かうことは無い」



「「―――――ッ!?」」



 その言葉と同時に。

 幾人かの人影がなだれ込んでくる。


 先程まで扉の外に待機していたのだろう。



「なん――ッ。何なんだよお前ら!」

「――ガァ―――ッ!?」

「……くっ! クソ! ――来るな―――ァ!?」



 ……だが、全く気配を感じることが出来なかった。


 顔さえ伺えない程に深く外套を被った人影たち。

 奴らは、次々に仲間たちを拘束していく。

 この場に集まった者たちを次々に無力化していくそれらは、間違いなく個々がC級より強く。


 上位冒険者に匹敵する実力者であることが伺えて。


 何で……何故なんだ?

 

 計画は完璧だった筈。


 そもそも、俺は指令通りに仲間を集めただけだ。

 ヘマなど一回たりとも犯していない。

 そこには必然しか存在するはずがなく。

 偶然が介入する余地など――いや、それ以前に、こちら側に捜査の手が入るときは。



 必ず、事前にアイツが情報を―――ッ!!



「……………あいつか?」



 それなら、全てが説明できる。

 俺を動かしていたあいつなら、それが出来る。


 もしも、こうなることを承知の上で。

 俺とこの男を引き合わせたと……会うように仕向けたというのなら、それは明確な裏切りということに他ならない訳で。



「――アイツ―――ッ! 俺を嵌めやがったのか!」

「……もう、喋らなくていい。それ以上は止めておけ」



 まるで、俺を気遣うように。


 此方へと声を投げかける男。


 だが、一度爆発した感情を抑えるのは容易ではない。

 口汚く罵ることで、少しでも怒りを鎮めようとした俺は、言葉にもならないような叫びを止めることが出来なかった。



「――アイツは―――ァ? ……ァ……ァア」



 ………そして。



 何かが弾けた。



 広がるのは鉄の味。


 喉元まで出掛かった声が出ない。

 体がいう事を聞かなくなり、意思に反して足が曲がる。


 斬られたわけじゃなくて。


 攻撃されたわけでもない。

 

 ただ、自分の不注意だっただけだ。



 ―――結局、最後も不注意で……いや。



 これが冒険者としての、俺の末路か。



 視界が、鮮血に染められていく。

 


 だが、不思議と痛みは無くて……。




   ◇




―ラグナ視点―




「―――閣下、その冒険者は」

「あぁ、死んでいる。淵冥神の“誓約”によるものだろう。余程多くの秘密を交わしていたと見えるな」



 首元に手を当てて確認するが。


 脈は、完全に無くなっていて。


 ほんの一瞬で命を刈り取る。

 ……神様は怖いものだな。

 救いがあるとすれば、痛みもなく、安らかな死に顔であることだろうか。


 淵冥神は確かに死を司る恐ろしい神であり、六大神の中でも最も恐ろしい存在とされているが、地母神と並んで慈愛に満ちた存在とも言われており、信徒も多い。


 死は一つの救いであり。


 次の冒険への旅立ちでもあるから。



 ―――彼は、黒幕の事を話そうとしたのだろう。



 だが、それは誓いを破る行為だった。

 これがあるから、俺はあまりこの魔術を使いたくないのだ。

 記憶力に自信があるわけでもないので、うっかり喋ってしまおうものなら彼と同じ末路を辿る可能性すらあって。


 使うにしても。

 出来る限り代償の軽い契約しか結ばないようにしている。



「魔物たちの動きはどうなっている?」

「は! 連携自体は拙いものですが、やはりオークたちは支配の影響下にあるようで、互いに争うこともなく塔と都市へ真っ直ぐ向かっています」



 ……やはり、支配ねぇ。


 聞くだけだととても恐ろしいものに聞こえるが。

 そう簡単にできることではない上に制約も多い。


 増してや、あの数の魔物たちを皆操ることはまず無理。

 恐らく、リーダー格のオークのみに術を掛けているのだろう。

 魔術で魔物を操ることは案外簡単に出来るものだが、大体は意思疎通の取れ、あまり強力でない個体である必要がある。


 人間なら、最高の術者でも。


 B級の魔物が関の山だろう。


 D級であるオークならば。

 適性があれば、使役できるものは多い。


 そして、今回の黒幕は魔物を操る力を持っているのだろう。



 恐らく―――



「……ヴァイス、計画通りに頼む」

「了解しました。――では、各自は準備に入れ。可能な限りオークたちを回収する」


「「……………」」

「いや、私じゃなくてね?」



 ―――あいつらはコントでもやっているのか?



 意気揚々と、指令を出す隊長。

 その腹を一斉に掴む隊員たち。

 騎士団としてはいささか緩い雰囲気であるが、各隊の実権や統制方式は完全に一任しているので、それぞれがユニークな特徴を持っているのは仕方ないだろう。


 実にホワイトな職場だな、うん。


 もう現実逃避するしか――こっち見んな。


 もしかして、俺を笑わせるためにやってんのか?



「……私は予定通り捕縛に行く。引き渡しはこの地点で行うので、任務完了次第帰還するように」

「「――は―――ッ!」」



 先の寸劇は何処へやら。


 恐ろしい切り替えの早さで敬礼をする部下たち。

 これが魔皇国内では近衛騎士団と並び称される騎士達だと思うと、頭が痛くなってくる。


 自分の部下なら、猶更。


 あちらは団長であるシンシアが真面目だから、団員一人一人が騎士の見本のような振る舞いをしてくれるのだが。

 こっちと来たら………ハハッ。


 第一部隊と第五部隊がまともとは言え。


 やっぱり、団長がいけないのだろうな。


 国内にいることの方が少ない自分の不甲斐なさを感じつつ。

 俺は、探し人の探索へと向かうことにした。

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