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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第六章:勇者一行と信仰の王国

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第十八話:防衛戦開始!

―陸視点―




 塔への道のりは、既に魔物が。

 オーク種を始めとした魔物たちが多く存在していた。


 それらは示し合わせたように都市へと向かい、僕たちを見つけると襲い掛かってくる。



 ―――明らかに本能だけじゃない。



 明確な目的をもって攻撃してくる彼らは、何者かがけしかけたのか。

 教えられたことを必死に思い出しながら、馬車を運転する()はそれらを回避していく。



「うん、いい運転だよ、リク。後はしっかりと練習をすれば、ドリフトだって出来るようになる」

「……絶対にやりません……っと!」



 良かった、無事だった。



「――ドレッドさん! 大丈夫ですか―――ッ?」



 塔の麓に馬車を付けた僕たち。


 そこには警備としてドレットさんたちの隊が防御を固めていた。

 どうやら、まだここにはオークたちは来ていない……というより、僕たちが入るのを待っているのだろう。


 それ自体が、敵の作戦の筈だ。

 


「皆様! ご無事でしたか。都市は―――ッ!?」

「………よもや」

「私が塔の機能を回復させますので、皆さまはお戻りください」


「「――オフィリア様―――ッ!?」」



 心配するように近寄ってきた彼らは。

 真っ先に馬車から降りた少女に目を留め、驚愕に目を見開く。


 この状況下で、少数行動の僕たちに同行しているとは思わなかったのだろう。



「……えぇ、まぁ――そういう事なので」

「ここは僕たちに任せて、ドレットさんたちは都市の援護をお願いします」


「………! ――承知しました!」



 彼らの判断は早かった。


 塔に残るとは言わない。


 ここにフィリアさんがいることも問わない。

 ただ敬礼をして帰還の準備をしていく彼等の手付きには迷いがなく、練度の高さと……何より。


 僕達に対する信頼を。


 感じることが出来て。


 そして、馬へ飛び乗った彼らは。

 そのまま大急ぎで都市へと走り去っていく。



「……格好良いよね、この国の騎士さんは」

「はい! 私の誇りです!」



 今一度だけ。


 皆でその後姿を見送り。



「――では、私たちも行きましょう」

「オッケーだ。先生は、此処で?」

「あぁ、この国を頼むよ? 私も私で、やるべきことをしてくるから」



 頷いた彼は馬たちを馬車から離し。


 一頭を残して解放する。


 何でも、この馬たちは何らなの事態で放されたとしても、勝手に都市へと戻っていくらしい。


 そのまま馬車に繋いでいても。

 オークたちに襲われてしまうだろうし、これで良いのだろう。



「馬に乗っていくんですか」

「騎士みたいで格好良いだろう?」

「「そっすね」」

「……皆なら、絶対に大丈夫だ。勇者としての初仕事、油断しないようにね」



 手綱を引いて去って行く彼を見送ることもなく。


 僕たちは走って塔を駆け登る。

 前は多くの人々で溢れていた此処も、今は僕たちの足音しか聞こえない程に静かで。


 前回の来訪で。

 大体の間取りを把握していた僕たちは、迷いなく最上階にたどり着いた――けど。



 ……………これは。



「……あんまり壊れてない?」

「ですね。(ひび)が入っているくらいでしょうか」



 中心に据えられた聖女像。


 それは、確かにそこに存在している。

 破壊されたとは聞いていたけど、粉々に砕かれたという訳ではなさそうで、大小のひびがいくつも走っているといったくらいだろうか。


 小さな掌で、ひたひたと。

 石像に触れていたフィリアさんは、納得したように口を開く。



「――ええ……と。この像は、最上位の攻撃魔術でも完全に破壊するのは容易では無いと言われているんです。試そうとする人なんていませんでしたから、私も初めて見ますけど」


「じゃあ、これをやった人は」

「それくらい強いって事……?」



 答える声はなく。


 でも、そうであるのなら……かなり厄介だ。

 何せ僕たちは、今だにそれの正体に辿り着いていないのだから。

 

 フィリアさんが準備する間。


 皆で周囲へ気を配っていると。


 吹き抜けになっている展望台を覗いていた康太が何かを見つけたようで、前のめりになっている。


 かなり高いし。

 出来るだけ見たくないんだけどな。



「―――おぉ……これは、これは」

「……聞きたくないけど、どうしたの? 康太」

「覗いてみ?」


「「………うわぁ」」



 彼に言われて下を覗いた僕たちが見たのは。


 数十は下らない数のオークたち。

 魔素の影響で、この距離からでもしっかりと確認できる程視力が強化されている僕は、そのぎらぎらと輝く瞳までしっかりと確認することが出来て。


 彼等は真っ直ぐこちらへ向かってきている。


 その先頭はもう暫くすれば塔に至るだろう。



 覗かなければよかった。

 


「――おーくさ……えぇ……と……」



「では、私はこれから治癒に入りますので、宜しくお願いしますね」



 慌てたよう外から目を逸らし。


 像の前で跪いたフィリアさん。


 ……逃げたとは言うまい。

 彼女には彼女の、僕たちにはそれぞれの役割がある。

 認めるのはちょっと嫌だけど、あれらの相手をするのは僕たち以外にはいないのだ。



「じゃあ、作戦――は陸と美緒ちゃん、頼んだ!」

「頼んます!」

「……美緒、お願いできる?」



 僕はこういうの苦手だし。

 クラス委員とかすら務めたことが無い僕に、仲間たちを指揮して役割を与えるなんてことが出来るわけもない。

 前線で使われるのが性に合っているのだろう。

 唐突な無茶ぶりにも彼女は動じることなく、考えを巡らせているようで……。



 やはり、美緒は頼れるね。



「――まず、この塔の構成を考えると。いくら数を揃えても一度に攻め入ることは難しい筈です」


「元々、外部からの攻撃を防ぐシェルターだもんな」

「はい。私たちの優秀なタンクさんに入り口を塞いでもらうことも考えましたが、負荷がかかり過ぎれば桐島君でも耐えきれないですし……春香ちゃん?」


「あい、あい?」

「やはり水属性だと―――」

「オークさん達には効きが悪いね。ふぃじかるっていうの? 結構固いから戦線復帰しちゃうと思う」

「そういう訳なので、やはり新手が来る可能性も考慮して、短期で殲滅するために私と陸君で行きましょうか」

「「――ヒュー!」」

 


 賞賛してるのか茶化してるのか。


 いや、納得できる最善手だ。

 全員で行ってフィリアさんを一人にするわけにもいかないし、迎え撃つ場所によっては仲間の動きを阻害する可能性もある。


 連携に慣れた組み合わせで行動するのが良いのだろう。



「屋上の守りは、桐島君にお願いします」

「オッケー、任せろ。今回の俺は奥の手があるからな、補正が掛かってる筈だ」

「それ、前も同じような事言ってたよね?」

「願掛けだと思うよ」



 それ言ってれば負けない気がするし。


 でも、たとえ死亡フラグなんて言うものが立ったとしても、彼がやられるとは思えない。

 ほんの一瞬とは言え、六魔将と実際に相対した今となっては、僕たちは大抵の事では動じなくなってきている。


 これは大きな進歩なんだ。


 ……で、残った春香は―――



「春香ちゃんは最終防衛ラインです。フィリアちゃんと一緒に居てあげてください」

「おーし、任せろ!」

「ハルカちゃん、ちょっと頭撫でてもらっていいですか?」



 案外平気そうだね、フィリアさん。


 額に汗を浮かべているのに。


 彼女は、未だ笑顔で。

 「はいよー」なんてノリ良く、いつもの調子でそちらへ向かった春香も……いや。


 皆が自然体だ。


 僕たちに暗い空気なんて似合わないもんね。



「――では、私たちは行きましょうか」

「そうだね。康太? 脳が破壊されないように気を付けてね」

「うるせー、頭くらい……頭くらい――俺も入り口んとこ立ってるわ」



 やっぱり羨ましいんだ。

 

 素直じゃない親友とハンドサインを交わし、僕たちは屋上を後にした。



 ……………。



 ……………。



「―――陸君」

「ん、なに?」

「先ほどのサインは、どういう意味なんですか?」



 戦線として選んだのは階段と大部屋の(さかい)

 まずは階段前でオークらを向かい打ち。

 攻撃を避ける余裕がなくなったら、大部屋に後退していくといった作戦だ。


 敵を待つ間話をしていた僕は。


 彼女の質問に対する答えに詰まってしまう。



「ええ…と――頑張れよ、みたいな?」

「……怪しいですね」



 本当は、『格好良い所見せてやれ』のサインだ。


 偶に夜更かしをして遊んでいるときに、二人で開発していた戦闘用のハンドサイン……なのだけど、いつの間にか一般生活で用いるようになってきた。


 意味としては頑張れよでも通じるけど。


 どうやら納得してくれてないね、これ。


 先ほどのサインを真似る美緒。

 これ、問い詰められたらマズいかも――康太の方が。


 凄く素直だから。



「私も男の子に生まれていれば、もっと……」



 確か、美緒はお兄さんがいるんだっけ。

 性別も違うし、家庭環境とかも、色々あったのかもしれない。



 ―――でも、僕としては。



「僕は美緒が女の子で良かったと思っているよ? まともに話せる女性が春香だけになっちゃうし、女性だからこそ分かることを教えてもらえるから。……春香はちょっと、アレだし?」

「――ふふっ……陸君?」



 彼女は笑っているのが一番―――



「後で春香ちゃんに言っておきますね?」

「………あれ?」



 地雷? 藪蛇?

 どうしてそういう流れになったんだろう。

 僕を揶揄うように楽しそうに笑う彼女は、もしかしたらこの前の復讐を果たす機会を狙っていたのかもしれない。


 そうこうしている間にも。


 此方へ近付いてくる気配。


 大きくなっていく足音たち。

 全てを聞き取れるほど熟達しているわけでは無いけど、明らかに十で足る数ではないだろう。



「ニンゲン……ニンゲン」



 剣を構える僕たちの前に現れたのは、やはりオーク。

 ごつごつした肌で髪の毛などはなく。


 垂れた耳や牙といった特徴があるが。


 何より……下、隠しきれてない。

 纏っているのは使い古したようなぼろきれだけで。


 女の天敵と言ったところだろうか。


 でも、これまでの冒険でそういうものに耐性がついている美緒は……若干顔を赤らめているだけで、特に取り乱してはいないので問題ないだろう。



「セイジョ、チガウ」



 やっぱり、狙いはフィリアさん。

 立ち止まった彼らは僕たちを一瞥するけど、探し人では無いと判断したようだ。


 やっぱり、コレは。

 よくよく見ると愛嬌のある顔立ちで、くりくりとした瞳が……。



「結構可愛いんじゃないかな」

「そうですか? 二番目のオーク、目つきがいやらしいですけど」



 そうなのかな。


 見比べてみても、僕には違いが良く分からない。

 いや、そういう目でオークに見られたいわけではないんだけど、こうして向かい合っていると。


 話が出来るのではないだろうかと感じて。

 

 案外、話次第では。



 引き返してくれるかも―――



「女、ツカマエル。男、コロス」

「……やっぱり、仲良くなれそうにないや」



 恐らくリーダー格なのだろう。

 最前列に居たオークの言葉を機に、一斉に襲い掛かってくる彼等。


 それは確かに強力な数の暴力だけど。


 重なってくれているのは好都合だ。



「“風切羽”――三列風切(さんれつかざきり)―――ッ!」



 僕の言葉と共に射出された三枚の刃が、前方のオークたちを一気に斬り裂く。


 僕が得意なのは風属性の魔術。

 瞬間的な殺傷力と応用力、扱いづらさに定評のある属性で、一つ間違えれば仲間も傷つけてしまう危険な魔術。


 でも、だからこそ僕に向いていると言える。

 どんな時も、決して油断せず。

 気を抜いてはいけないと再確認できる存在だからこそ、その恐怖を忘れずに戦うことが出来る。


 分厚い脂肪の層。


 筋肉、骨を断ち。


 貫通してもまだ足りぬとばかりに後方へ飛んでいく風の刃は、都合八体のオークを斬り裂いて塔の壁面へ。


 やはり、この塔は元々頑丈な素材で出来ているらしい。

 細い三枚の線を刻んだものの、魔術はそこで霧散した。


 結果として残ったのは血を吹いて倒れたオークたちの死骸と、茫然とした様子でそれを眺める後方のオークたち。



 それから……暫くして。



 彼らが出した答えは―――




「「――コロス―――ッ!」」

「出来れば帰ってほしいんだけど」



 それを期待して一番強力な奴を使ったのに。

 どうやら無理だったようだ。


 仲間の死を目の当たりにして。

 むしろ興奮して目を血走らせた彼らは、僕に視線を集中させて飛びかかってくる。


 だけど、それこそダメだ。

 僕たちの中で一番剣術に秀でるのは彼女。


 軽快な音と共に床が鳴り。

 

 美緒が中空へと跳躍する。


 その斬撃は、先の風魔術にも引けを取らない鋭さで―――舞うようにオークを斬り裂く。

 彼女から注意が外れていた彼らは抵抗なく急所を断たれ、声も上げずに倒れていった。



 これで二度目の反撃。



 流石の彼らも多少は慎重さを取り戻したようで、間合いを図り始めている。

 先程まで隙間なく押しかけていた行列は至る所に空間が発生し、仲間同士で前を押し付け合う。



 ―――それも、僕らの狙いだった。



 消極的になった彼らに対して。


 僕たちは、同時に躍り掛かる。

 第二陣が来る前に、少しでも数を減らしておかないといけないから。




   ◇




「………まだ来そうですね」



 血に濡れた刀を優しく拭っていた美緒が下を覗く。

 確かに、まだまだこんなものではない筈だ。


 戦う場を整える為に。

 倒れ伏したオークたちの死骸を下の方へ運んでいた僕は、それを確認しながら辺りを見回す。


 既に、斬った敵は二十は下らない。


 美緒と合わせるならば。


 その倍は存在する訳で。


 当然、階段は(おびただ)しいほどの血で溢れていて。

 これ以上此処で戦おうものなら動き回っている最中に足を滑らせる可能性もある。



「じゃあ、最前列にちょっかい掛けたら、すぐに大部屋に後退しようか」

「そうですね。まだまだ()()()()()()から、節約する必要もないでしょう」



 この階はまだ塔の半ば程。

 まだまだ防衛に適した空間は上にある。


 それを再確認して。

 余裕をもって後退していくことを決めた僕たちは、やがて現れた第二陣に視線を向けて、並び立つ。



「「――――ッ―――ッ!?」」



 やって来た彼等は、動揺の色を。


 混乱をまるで隠しきれていない。


 それは当然だろう。

 この場に転がった同族の遺骸……血に塗れ、生気をまるで感じさせない虚ろな表情。

 もしも逆の立場だったら、僕も震え上がっていた筈だ。


 でも、だからこそ有利に働く。

 

 彼等にとって、僕たちは多くの仲間をたった二人で葬った怪物にしか見えないのだから。



「……じゃあ、美緒?」

「はい、此処から先は」




「「絶対に通さないよ?(通しませんよ?)」」




 ―――まだまだ、体力には余裕がある。

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