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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第六章:勇者一行と信仰の王国

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第十二話:顕現、黒き災厄の化身

―陸視点―




 それは感じた事のない感覚。


 凄く不思議な感覚と呼べた。


 異質ではあるけど。


 何故か圧は少ない。


 ただ、得体の知れない何かを感じて。

 僕の根本にある本能の部分が、この先へは進むべきではないと告げているような。


 皆それを感じているのか。


 会話が少なくなり。


 顔が強張っている。

 


 ―――そんな時だった。



「―――――っ!! ぁ……あぁ……っ」

「フィリアちゃん!」



 突然、フィリアさんの顔が恐怖に染まり。


 身体が、ぐらりと大きく揺れる。

 間一髪で先生がその身体を抱き留めるけど、どうやら気絶しているようで。



 ……何故、今なのか。


 だって、彼女が気絶? 


 自国の騎士や市民達の亡骸を見て。

 なおも気丈に振舞って見せる程の強い精神力を持つ彼女が失神?


 確かに、この気配は何処か恐ろしい何かを孕んでいる。


 だが、それでも彼女ならば。


 耐えきれぬ程ではない筈で。


 フィリアさんを背負った先生は。

 何処か納得したような、険しい顔で薄暗い奥の通路へと視線を送る。



「……意味わからないんですけど。何で、フィリアちゃんが」

「これは、一体―――?」

「先生、フィリアさんは」

「聖女はね、魔に属する者の気配に敏感なんだ」



 僕たちの疑問を受けて。


 彼は静かに言葉を紡ぐ。



「我々が魔素によって成長してきたように。聖女たちもまた、世代を重ねてその血を継ぎ続けてきた。彼女が気絶するほどの気配とは……まず、ただの魔物なんかじゃない」



 道の先を睨みながら答える先生。

 そのまま先頭を歩き始めた彼に付いて、僕たちも歩み始める。


 しかし、その足はすぐに。


 すぐ止まることになった。



「……春香ちゃん、コレは余り」

「見ない方が…良いな」

「あたしは大丈夫――だけど、フィリアちゃんは見なくて正解だったかも、ね」


 

 ……………ッ。


 これは確かに。



「ホラーゲームじゃねえんだからよ」

「実際に目にするのは――キツイよ」



 視界に広がるのは。


 壁、床、共に鮮血で彩られた室内。

 

 肉片に混じった髪の長さなどから考えて、恐らく女性たち。

 何人分かも分からないような惨状であり、衣類の類は無し。


 トラウマ、なんてものでは語れない。


 血の匂いに混じるのは。


 むせ返るような刺激臭。


 恐らく、ここが大量発生の原因なのだろう。

 潰れているのは――行方不明になった人間の女性たちだ。


 さっきの死体も比較にならない程の怖気が背中を駆ける中で。


 目印のように一直線となった血の。


 鮮血のカーペットが指し示す先へ。



 後戻りなんて、出来なくて。



 もう、只進み続けるだけだ。



 ……………。



 ……………。



 生物の気配など全て、すべて。


 痕跡が消え去った屋内。


 生物が跡形なく逃げ去ったかのような、静謐な空間。



 真紅の直線が引かれた床。



 視線の先に、それは居た。



 あの姿を―――アレとよく似た姿を僕は知っている。

 それは初めて戦った強敵。


 僕たちよりも圧倒的に高い体長。

 隆々の筋肉と浮き出る太い血管。


 牙の覗く下顎。

 僕の身の丈ほどもある鈍色の金属を持ったソレは、まさしく。






 ―――――オーガ種。






 西側には、まず発生しない種で。


 本来C級の上位に位置する魔物。


 あの時戦ったオーガは。

 極西部の希薄な魔素の影響もあり、大きく弱体化していたからこそ勝てたという。


 しかし、アレは――違う。


 あの時のオーガとは違う。



 全く異なるものが二つあった。



 一つは、その特徴的な体色。

 赤銅色ではなく、浅黒い肌。


 通常種の配色ではなく。

 今までに見た事も無いような特異な色の肌を持っている。


 そしてもう一つは。




 ―――今まで一度も感じた事がない。




 ―――圧倒的な…圧倒的過ぎる威圧。

 



 もう、恐怖なんてものじゃない。


 今すぐに膝を屈してしまいたい。


 気絶してしまいたい。

 現実から逃避したい。

 

 楽になってしまいたい。

 そんな感情ばかりが渦巻いて。

 先程までは、全くと言っていい程に感じなかった威圧が肌を刺して。


 僕はようやく理解した。


 アレは、その圧を完全に消せる。

 無理矢理押さえつけられるんだ。


 ……そして、当然に。

 僕たちがそれを感じることが出来るようになったという事は。



 向こうも、また――ッッッ!!



「…………………」



 僕たちに背を向けていたオーガは。


 確かな知性を感じさせる瞳を。


 此方へ、僕たち五人へと向け。






 ―――ニヤリと笑った。






 その瞬間、全力で脳が警鐘を鳴らす。


 今すぐに此処から逃げろと。


 本能が叫び続けているんだ。


 でも、身体がいう事を聞かない。

 自分の身体…その筈なのに、指令がまるで出鱈目でバラバラ。

 早く行動して、今すぐに逃げないといけないのに、魔術でもないのに、命令しても身体が動いてくれない。



 こんなの、どうすれば―――



「康太。オフィリアを背負えるか?」



「「……先生?」」

「――え? 先生―――?」



 何とか恐怖を押さえつける僕たち。


 それとは異なる動きを取った彼は。

 気絶したフィリアさんを康太に背負わせると、前へと進み出て行く。



「今すぐ、全力で逃げるんだ。決して後ろは振り向かないように、拠点まで走れ」

「「……………ッ!」」



 彼は、こちらを一瞥もしない。

 

 一瞥もせず、ただ目前の敵へ……。



「―――早く行けッ!!」



 初めて聞く、怒号にも似た…焦りに満ちた先生の大声。


 その言葉を受けて。

 ようやく体が自由になった僕たちは走り出した。


 決して後ろは振り返らず、恐怖でもつれる足を叱咤して走り続ける。

 後ろから聞こえてくるのは物が破壊される大音響と、激しい金属音。



 森の中に飛び出しても。


 僕たちの足は止まらず。



 そのまま、後援の騎士さんたちが待機している拠点まで走り続けた。




   ◇




―ラグナ視点―




「あれこれ言ってたが、随分いい感じに成長してるじゃねえのか? あの勇者たちは」

「……………」



 久々に会った同僚―――サーガは。


 リク達の逃げた方を見ながら呟く。

 


 確かに、素晴らしい成長だ。

 コイツと相対してもああして思考を巡らせる事も出来る。


 恐怖で膝を屈する事無く。


 最終的には、逃げられた。



 ………だが、だ。



「――少々、威圧が強すぎなかったか」

「……あ? あんだって?」

「やり過ぎだろう、アレは」

「適量だろ。お前は過保護なんだよ。此処で一発かましておいた方が、後々大きな耐性になるさ」



 先日のヴァイスとの会合で。

 コイツとだけは会わないように計画を立てた筈だった。


 だが、この鬼にとっては。


 まるで関係ないのだろう。


 むしろ、嬉々として彼から情報を聞き出したはずだ。

 この辺は仕方が無いと割り切るべきだろう。

 

 確かにサーガの言う通り、リク達があの威圧を乗り越えられたのは事実だ。

 あれなら、勇者たちは精神面で更なる成長を遂げることになるだろう。


 だが、一歩間違えば。


 彼らが完全に折れてしまった可能性すらあって。


 それが怖くて少々焦ってしまったが。


 今回は結果オーライとしておこうか。



「それで、サーガ。ここのオークたちは?」

「俺の顔見るなりみーんな逃げちまった。女抱いてるときにとか、もう立ち上がれねえだろうなぁ――色々と」

「……なら、その娘たちは」

「んなの、楽にしてやるくらいしかできねえよ。もう、人としちゃ生きられねえ」



 そう……か。


 行方不明者が現れ始めて。


 既にかなりの日数が経つ。


 もう限界だったのだろう。


 比較的初期で救出された場合でも。

 精神に異常をきたしてしまう者は多く、それを考えれば、例え生還出たとしても長くは生きられない。

 

 サーガの選択は間違っていなかっただろう。

 俺たちは、聖女のような優しい救いは与えてやれないからな。



「なぁ、ラグナよ。あのちっこいガキは……」

「――多分、な。初めて会った時は驚いたが、どうもそうらしい」



 俺の返事に感じ入ったのか。

 呑気に「因果だなー」なんて呟いているサーガ。


 明るく振舞っていようとも。


 長い付き合いだから分かる。


 種族差などまったく気にしない彼からしてみれば。

 たとえ人間であろうとも同情するし、心も痛む。


 確かに、命は残り僅かだったろう。


 それでも、サーガ自身が手を下すのは。


 これ以上苦しませない為という慈悲だ。


 一つ間違えていれば。


 コイツとその一族も。


 同じ事をして。

 いずれは、非業の最期を遂げていたかもしれないから。

 


「お前はこれからどうする」

「そうだなぁ……一旦戻るとするか。残りの任務はヴァイスに任せて大丈夫そうだしよ」



 元から全部任せてたようなもんだろうが…と。



 言いたいことは幾つかある。


 だが、それが良いだろうな。


 コイツは、これ以上この国にいるべきではない。

 超低確率とは言え、ラスボスレベルとその辺の草むらでエンカウントとか、クソゲーも良い所だ。



「ん? 何だよジロジロ見て」

「いや、何も。じゃあ、俺も帰るから――」



 これ以上は碌なことが無さそうなので。


 俺もサーガに背を向けて。


 スタスタと歩き出す…が。



 ―――その瞬間。



 膨れ上がった殺気が体を襲い、俺は剣を走らせる。


 交じり合う剣と棍棒が。


 凄まじい金属音を発し。


 部屋全体が大きく揺れる。

 もしも防御していなければ、俺は今頃壁のシミになっていただろう。


 家屋への攻撃だったのなら、金を掛けることなく撤去できる威力で。

 今からでも、一族と共に悪徳不動産会社に転向したらどうだろうか。



「………何のつもりだ?」

「へへへ――ッ。久しぶりに会ったんじゃねえか。ちょっとくらい、良いだろ?」



 だがこんなモノ。


 サーガにとってはただの挨拶。

 もし六魔将同士が本気で戦えば、比喩なくこの一帯は吹き飛ぶから。


 余程鬱憤が溜まっていたのだろう。


 憂さ晴らしのために武器を構えたサーガ。

 

 まあ、仕方ない。


 友人として。


 同僚として。


 ちょっとくらい付き合ってやることにするか。




 ………今ので剣折れたけど。

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