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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
第六章:勇者一行と信仰の王国

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第八話:ライバルは聖女

―陸視点―




 調査から夜が明けて、僕たち一行は。


 皆で書斎に足を運んでいた。


 それは勿論、調査のためで。


 クロウンス王国はアトラ教との関係が深いけど。

 この国が宗教国家として発展してきた背景の一つには、国内に多くの遺跡を保有していることが挙げられる。


 その多くは観光名所として。


 一般にも公開されているが。


 中には保護という目的もあって、未だに森林の中に存在する場合も多いとのこと。 


 つまり、魔物に取っては。


 格好の住処になりうると。


 騎士団では、こういう場所も重点的に調査しているけど。

 何分、数が多いのでまだ半数ほどしか進んでいないらしく。


 僕たちも情報収集をしようと。


 文献をひっくり返して調査中。


 遺跡に潜入する可能性を考えて。

 予め知識を蓄えておくつもりだ。

 最初は皆でやっていたけど、約二名が頭から煙を上げていたので予定変更。こういう調査が得意な僕と美緒が一纏めに分析している……けど。



「――むむむむむ………っ」

「どうかしたんですか? フィリアさん」



 何故か、フィリアさんが頬を膨らませている。

 問いかける美緒の声でそれに気付いたのだけど……頬が、凄くもちもちしていそうで。


 彼女の視線の先にいるのは康太と春香。


 二人は競うようにして本のページをめくり。

 何かの記述を見つけては舌戦を繰り広げる。

 僕たちからすればいつも通りの光景だけど、フィリアさんは何を思っているのだろう。



「ミオさん。あのお二人は、何時もあれ程仲が良いのですか?」

「そうですね、いつもあんな感じです」

「気が合うからね。自由行動の時も、二人で出かけたりするし」


「――な――っ!? 一緒……お出掛け」

 


 衝撃の表情で固まるフィリアさん。


 何らかのショックを受けたようだ。


 自由行動と言う言葉に惹かれたのかな?

 多分ない可能性を考えていると、春香が椅子から立ち上がる。



「――あたし、ちょっと外の空気吸ってくるねー」


「落ちないでよね?」

「迷子になるなよー」

「行方不明は絶対にダメですよ……?」



 先生に劣らず僕たちも過保護だ。



 でも、春香はよく居なくなるし。


 そもそも、かなりの方向音痴だ。


 しっかりと念押ししておいて損はないだろう。

 怒涛の心配を受けて、口をへの字に曲げた彼女はそのまま歩いて扉を出て行く。

 

 確かに掃除は行き届いているけど。


 古い本もあるから、ちょっと埃っぽいよね此処。



 ……………。



 ……………。



 春香が部屋を退出した後で。


 暫くの間、動きは無かった。


 黙々と調査を続ける僕たちは立ち上がる用事もないし。

 部屋の中には紙を捲る音と、身じろぎをする音だけがささやかに響くのみで。


 だが、とうとう…。


 動き出す者が居た。


 それはフィリアさんだ。

 彼女は席をゆっくりと立ちあがると、迷いのない足取りでと康太へと歩み寄っていく。

 僕も美緒も彼女が何をする気なのか興味しかないので、本を読むふりをして覗いていて。


 こういう時の僕たちのノリって。


 案外、春香と康太に似てるよね。



「コウタさん―――っ!」


「――は、はい――ッ!?」



 僕たちの見ている前で、今までで一番大きな声をあげるフィリアさん。


 その音色にはどこか威厳が感じられて。

 康太も感じたのか、思わず背筋を伸ばして立ち上がった。



「私と勝負してください!」

「はい! フィリア様と勝負…………へ――っ?」



 が、続くのは意外過ぎる一言。


 何を言われているのか。

 彼は全く理解できないといった感じで首を傾げて長考してみたものの。

 やっぱり理解できなかった様で、間抜けな声を出している。


 というか、こっち見ないで。


 見てる分には面白いけど。


 今は巻き込まれたくない。


 でも、視線を向けられた僕も困惑は同じだ。

 当事者という訳ではないけど、外野として一部始終を見ていた立場としてもやっぱり分からない。


 果たして、彼女の狙いは何なのか。


 隣の美緒と顔を見合わせ首を振る。



「――あの、それってどういう……?」

「どちらがハルカちゃんに相応しいか、此処で決めようではないですかっ!」



 それは迷いのない宣言だった。



 ……これって、そういう事なのかな。

 いや、そういう事なんだろうけどさ。


 漫画や小説の中でしか見たことが無いような展開……いや。


 ここ異世界だけどさ。


 僕たち一応勇者だし。

 フィリアさんは聖女だけどさ。


 漫画や小説の中そのモノな光景に、ちょっと頭が回らない。


 

「……つまり、フィリアさんは春香ちゃんが好きで、桐島君をライバル視していると?」

「「そう、それ――っ!」」



 美緒の解説でようやく得心した僕と康太。

 これは、僕たちが恋愛に対して知識が無さすぎるのが問題なのだろう。



「――でも、フィリアさんは女性だろ?」

「ふっふっふ…パーシュース家は恋愛自由なのです」

「あ、そっか」



 そういえば、確かに。

 

 そんな事言ってたな。


 でも、これはアリなのかな?

 康太はその一言で納得してしまったみたいだけど、僕は微妙だ。


 外野だから黙っておくけどさ。



 二人はそのまま不敵に笑って。



 相手を見据える。



「――美緒、あれって大丈夫だと思う?」

「恋愛には身分の差も性別の壁も無いですから。私は問題ないと思いますよ?」



 ……何と言う男前。


 まるで僕がおかしいみたいだな。

 いや、春香が幸せならそれも良いし、フィリアさんがやる気なら応援もするけどさ。



「だが、やるからには俺は全力で行くぜ……?」

「望むところです!」



 康太も、もう認めてるようなものだよね?


 どうやら二人はやる気のようだ。

 勝負と言っても、フィリアさんと彼では差異が大きいし、両者が公平な条件の元にできる勝負が望ましい。


 僕は康太の恋を応援しているけど。


 それとこれとは、話が別なんだよ。



 ―――この試練、乗り越えてみるがいいさ。




「やほー、只今……え? 何これ。どういう状況――?」


 


   ◇




「……ゴメンなさい、ハルカちゃん。私、負けちゃいました」

「康太君サイテー」

「女性の敵ですね」



 瞬く間に攻め立てる体制が出来てしまった。


 フィリアさんはトランプ初めてだから仕方ないよね。


 初めのうちは本当に戦おうとしていたけど。

 流石に、それは不味いので皆で止めた。

 フィリアさんが戦闘出来るとは思えないし、万が一怪我でもさせてしまおうものならネレウスさん達に合わせる顔が無いから。



「というか、あたしの知らないところで話が進んでたのは何で?」

「……コウタさん、貴方は強い人です」


「――おーい?」


「今はハルカちゃんを預けますね」

「あぁ、任せろ。絶対に守り抜くって決めたからな」



 春香の「無視ー?」という言葉が響く中、二人は握手を交わす。



「でも、私は諦めませんからね。パーシュースの女は諦めが悪いのです!」

「いつでも相手になってやるさ」



 ……もしかしてなんだけど。


 あの二人って波長が似てる?

 

 最初に出会った頃のフィリアさんは優雅な所作もあったし、もっと大人しめの人だと思っていたんだけど……こうして素の状態で話しているとノリがよく似ている。


 と言うか、奇妙な友情さえ生まれていそうで。


 迷いなく握手する二人は。


 まるで同性の友人の様だ。



「――さ。そろそろ訓練いこーぜー」

「そうですね。騎士さんたちも居るでしょうし」

「うん、そのまま行っちゃおうか」

「では、私もご一緒しますね」


「ねぇ、皆聞こえてるよね? 虐め? ――何で囲むの?」

 


 という訳で、残りの時間は。


 対人訓練へ費やす事にして。


 春香が迷子にならないように。

 皆で囲んで宮殿の通路を歩く。

 修練所は一階なので、勿論階段を使う訳なんだけど。


 この世界には、エレベーターとか。


 簡単に移動できる機械無いのかな。



 毎度の昇降をやや面倒に思いつつ。



 一階に降りて回廊に差し掛かった時。

 丁度、僕たち五人の正面から歩いてくる人たちがいて。


 白い肌に。


 青い瞳と。


 あの人は…大臣の補佐をしているミハイルさんだっけ。

 先日と変わらず侍従の服を着ていて、中性的な容姿と相まって女性に人気が出そう。


 もう一人の男性は……僕たちよりも年下に思える少年だ。


 ごく自然な薄茶色の髪。

 海のように深い青の瞳。

 やや低めで細身の身体という特徴を持つ少年の表情には自信が漲っていて――。



「ミハイル、お仕事は大丈夫なのですか?」

「はははっ。現在も、そのお仕事中ですよ? オフィリア様」

「「……………」」

「――勇者様たちも、お元気そうで」



 フィリアさんが前に進み出て。


 ミハイルさんと言葉を交わす。


 どうやら、二人はかなり親しい関係のようで。

 両者の顔には柔らかな笑みが広がっている。


 ……凄く絵になる感じだ。


 でも、フィリアさんが好きなのは春香らしいし。

 当の本人はさっきまでの件のせいか、ややご立腹の表情を浮かべている。



「ミハイル? その方は――?」



 世間話のような会話が終わり。

 彼と共にいた少年に興味を移したフィリアさんが尋ねる。


 どうやら、フィリアさんの知り合いではないようだ。



「えぇ。此方の方は……」



 紹介とばかりに一歩下がるミハイルさん。


 が、彼の説明が終わるより早く。


 茶髪の少年が前へ進み出て来て。


 彼がその眼に収めているのは……僕達四人。



「四人ってことは、あんた達が今代の異界の勇者か?」

「……あぁ、そうだが――あんたは?」



 こちらを測るように。

 まるで、敵視するように見据える少年。

 

 彼の疑問に対し。


 前へと出る康太。


 タンクとしての役目はこういう所にまで及ぶようだ。


 ……さっきミハイルさんが僕たちを勇者と呼んだことからも察することが出来るかもしれないけど、彼は最初から異界の勇者が四人であると知っていた。


 つまり、彼は何らかの手段で。


 それを知ることのできる立場。


 ひとしきり康太と視線を交わし合った彼は一つ頷くと、笑みを浮かべる。

 



「――初めましてだな。俺はシンク……海嵐神様の加護を授かった勇者だ―――っ!」

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