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96:頑張ったじゃないか

 翌日。

 準備はいらない。

 今日、俺はいつも通りに過ごし、いつも通りに試合をして、いつも通りに勝利する。


 そこにはいっさいの油断も何もなく、ただ、俺は圧倒するだけだ。


「なんでそんなにいつも通りなんすか? むーさんは」

「別に今更気張る必要もないだろうよ」


 昼休み。


 俺に関しての騒動は、いつの間にか被瀬の噂にかき消され、俺は1人で教室で昼飯を貪っていた。

 そこに現れたのは、堂上。

 購買のパンを持っているところを見るに、教室で食べようということなのだろう。


「……離れようか?」

「別に今更いらないっすよ」


 堂上は気を使った俺にため息交じりで言葉を返す。


「今更俺が挑んだところで、結果は変わらないと思うっすから」

「それなら俺に挑まなければいい。

 別に俺に挑まなくても勝てるやつはいるだろう?」


 俺の言葉に、堂上は自身のパンを開けながら、


「俺はむーさんに勝ちたかったんすよ?」

「だから無理だよ」

「……むーさん、そこらへんは本当に清々しい話しかたっすよね」

「……まぁ、俺としては問題の答えを教えているような気持ちだからな」


 堂上は、俺の言葉を聞いて少しムスリとしながら、パンをかじる。

 俺も話すことはこれと言ってないため、特に会話が無いまま二人で昼飯を食べる。


「……真冬が」

「ん?」

「真冬が、昨日、泣いてたんすよ」


 堂上が、唐突に話しだした。

 思わず聞き返したが、その話とは昨日の柊との話の内容だろう。


「昨日はなんとなく、外でぼんやりとしてたら、真冬と会って。

 その時の真冬が、泣いていたんすよ」

「何か会ったんじゃないか?」

「別に何か聞いたわけじゃないっすけど、気になって」

「……もしかして、それで俺のとこに来たのか?」


 頷く堂上。


「別に俺は何も知ってないし、俺が泣かせたわけじゃないからな?」


 当然だが、柊には安心させるための名目として少しばかり話した。

 本来なら基本的に依頼内容は他言無用が絶対だ。


 しかし、柊は被瀬の事を見た。

 その時の様子は非常に有益な情報だった。

 そのため、協力者として、多少の情報を提供しただけのこと。


「……ほんとっすか?」

「本当だよ」


 俺だって、正直今回関わっている人にこの話はしてやりたいとは思っている。

 けれど、内容が内容なだけに、うかつに話すことも危険であり、また危害が加わるかも知れない。


 今更危害がどうのと言ってられる関係でも無いのは分かっているが、これに関しては規模が違う。


「……うそっすね」

「……なんでそう思うんだよ」

「嘘だと少し声が上ずるっすから」

「嘘をつくな」


 堂上の言葉に、思わず説教臭く返す。

 ちなみに俺にそんな癖はない。


 その手の癖は基本的に戦場に出るうえで必要が無いことであるので、消した。

 特に嘘をつくときなどの癖などは徹底的に排除したため、俺にその手の癖は残っていない。

 つまり、今の一連の言動は堂上が俺の事をハメる為にやったことであり、


「なーんだ。

 やっぱり無理じゃないっすか」

「やっぱりってなんだよ、やっぱりって」


 堂上は先程までの真剣な表情はどうしたのか、いつものおちゃらけた状態になる。

 先程までの塩らしい態度は嘘だったのか。


 以外に演技派だな。


「だって、こんな事しても引っかかるとは思えなかったっすもん」

「もん、じゃないんだよ。

 ……ん? もしかしてこれって堂上1人の考えじゃないのか?」

「俺はあくまで駆り出されただけっすよ。

 話に関しては本当なので、心配はしてるっすけどね」

「……誰が主犯なんだ?」

「会長っす」

「あぁ、だからその携帯も通話中なのか」


 あはは……バレましたか、と携帯を取り出した堂上は、その通話している相手を俺に見せる。

 そこには『秋元茜』と書かれている。


『やぁ』

「なんでこんな回りくどいことをするんですか?」

『別に回りくどい事、ではないよ。

 情報収集だから、ここまでやらないと行けないだろう?』


 電話越しの会長の口調には焦りや動揺は感じない。

 この状況になるのを予想していたのか?


「で、要件とかあるんですか?」

『いや、要件は特別無いのだが、気になるものを見つけてね』

「気になるもの?」

『あぁ。

 生徒会の仕事として、一日のランキング戦の確認というものがある。

 これは全校生徒のものではなく、実力者の試合に限ってチェックするのだが……』


 基本的にランキング戦は当日に組み合わせは発表される。


『覆瀬ムスビの今日の試合回数は、7回だ』

「……多くないですか?」

「あぁ。

 それも何故かムスビが試合届を出していないのに、だ」


 ランキング戦は、基本的にランキング上位5位にまで勝負を挑むことができる。

 そのシステム上、5試合以上を挑まれることはない。


 だが、俺の今日の試合は7試合。


 基本的にランキング戦の一人あたりの一日の試合回数は2回。


 ランキングは上に行けばイクほど苛烈を極める。

 そのため、連続しての試合となると生徒が十分な力を発揮できない。


「7試合自体は規則に則っているが、生徒会的には6回もの試合をするのは止める方針となっている」


 ランキング戦は、体よく言っているが、本質は殺し合いだ。

 だからこそ、生徒の体調面は気をつけなければ行けない。


「……別に大丈夫ですよ?」

『……君ならそう言ってくれると思っていた』


 会長は呆れたのか何なのか分からないセリフを吐き出し、何かを書き込む作業をしている。


「ちなみに、誰が挑んできたのか、わかりますか?」


 流石に俺だってまだ人間だ。

 一日に7試合やれば、疲れる。

 だからこそ、少しでも心構えはしっかりしておきたい。


『十位、創路衣良

 九位、堂上協

 八位、石上空汰

 七位、石神豪雷

 六位、美加久市露

 三位、秋元茜

 一位、被瀬結』

「……ん?」


 参加メンバーを聞いて少し理解が遅れた。

 今更勝負に関わっているメンバーだけど、というのは面倒なんで省くとして、


「なんで会長が?

 というか被瀬?」

『私も驚いている。

 同じことを考えているのがね』

「えっと……上の順位の人が下の順位の人に挑むことって可能なんですか?」

『別にだめというわけではない。

 しかし、やったとしても何かメリットがあるわけではない。

 むしろ負ける可能性を作ってしまうリスクしか無い』

「それでも挑むんですか?」

『あぁ』


 会長は楽しそうに返事をする。

 その様子に呆れながらも、堂上の事を見る。


「俺はむーさんに勝ちたいだけっすよ。

 だから、挑むっすよ」

「……いいんだけどさぁ……」


 ランキング戦の試合はシステム上、低い順位から処理されていく。


 つまり、被瀬と戦う頃には俺は6戦している後なのだ。


「……断るかな」

「別にいいが、その場合は上からの申し出から切らせていただくぞ?」


 何かを知っている?

 頭に過ぎったのはそんな可能性。

 けれど、どう考えても会長は知らないはずだ。

 教えたとしても、それならアプローチの方法を変えているはず……


「会長ともやりたいので、ぜひ受けさせてもらいます」


 会長は少し黙る。


 ……うん、ひっかけか。


 間を開けないで回答したけど、それで正解だったのか。

 心の中でホッとしていると、


「何かあるみたいっすね」

「……?」

『あぁ、見つけたのかい?』

「いや、別に癖ってわけじゃないっすけど、なんとか変化に気づいた、ってくらいっす」


 俺の事を見ながら会長と話している堂上。

 よく見ると能力を使っていた。


 腕輪をしているし、微弱にしか使用していなかったので分からなかった。


「何が分かったんだ?」

「俺の能力を使って人の感情を読み取ることにしてみたんすよ」

「……堂上の能力でそんなことができるのか?」


 堂上の能力は感情を変化させる能力だ。

 それを他人の感情の読み取りに使う、ということはどういうことなのだろう。


「流石に実践レベルじゃないんで話すっすけど、能力を使った時、相手の感情が強いと俺の能力って打ち消されちゃうんすよね。

 だから、それを利用して、どんな感情に打ち消されたのかを知ることができないか試してるんすよ」


 だから能力を使って打ち消してもらおうとしていたのか。

 納得しながらも、ふと思った、


「俺はそもそも能力が効かないから意味ないんじゃないのか?」

「そう思ったっすけど、感情を変化させようとはしているっすから、それに反応するっすよ」


 そんな器用なことができるのか……? と思っていると、堂上の額から汗が出ているのを見た。

 それほどまでに疲れる精密な能力の使い方、ということか。


「たぶんだけど、その能力まだ精度が低いよな?」

「……確かに、集中して1人の事を知るので精一杯っすけど」

「なら、その診断内容は完全に信じられるわけではないよな?」

「そうっすけど、判断材料にはなるかもって」

「……まぁ、確かに判断材料にはなるだろうが、それだけを頼るのは止めろよ。

 現に今の感情の動きだって、嘘、とかではなく他の可能性も考えられる」


 堂上は少し悔しそうにしている。

 確かに、能力の本来の使い方とは別に、能力の応用を進めるのはわかる。

 能力はこれから先、人生で長く付き合っていく。

 だからこそ、可能性を知りたい、というのはよくある話だろう。


「だが」


 でも、それをしっかりと使っている堂上に、


「頑張ったじゃないか」


 称賛は贈りたいと思った。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「何か会ったんじゃないか?」 →何かあった ランキングは上に行けばイクほど苛烈を極める。 →上に行けば行くほど
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