82:会長負けたっすか?
「会長負けたっすか?」
会長への第一声は、そんな失礼なことだった。
試合が終わって、転移室を出て真っ先に向かったのは、会長と被瀬さんのところだ。
二人は今日同じ体育場で試合をするらしい。
俺が付いたときには会長は試合を終えていた。
更に、次の試合として被瀬さんが出てきていたのを確認した。
その時の彼女の表情は、少し苦々しいものだったので、恐らく真冬が勝ったのだろう。
「あぁ。
私には回避ができなかったよ」
「……そうっすか」
真冬の能力は、未だに理解ができない。
なぜ『人の目を惹きつける』能力でそこまでの力が出るのかは分からない。
だけど、戦った連中は大きな恐れを抱いたという。
一瞬、俺と同じような能力かとも思ったけど、同じ精神干渉系の能力だとしても、俺と真冬のは性質が違う。
真冬は体に働きかけ、俺は精神に働きかける。
これはにているようでかなり違うため、それで同じ結果を得られたとしても、恐らく似たようなことをしているとは思えない。
「というか、堂上くんは今日試合だったんじゃないかい?」
「あぁ、それなら全部終わったっすよ」
「早くないかい?」
「それは……」
「俺がいたからですよ」
「ひっ?!」
思案していると、会長から話しかけられる。
俺の方から見ると後ろから来ているむーさんがいるのを確認した。
ちらりと視線を向けながら、受け答えしていると、むーさんは会話に入ってくる。
「ムスビ……」
「どうもです」
変に会長が意識してしまっているため、むーさんも意識している。
というか、意識しないほうが変だが、
「何そんなそっけない返事してるっすか。
別にそっけなくする必要なんてないっすのに」
「それは……そうかな?」
「そうっすよ」
「どうでしょうか?」
あえて仲良くやっていきましょう、というスタンスを取る。
被瀬さんの話では、真冬も同様のスタンスを取っていたと聞いた。
それに、むーさんとのさっきの試合からも、あちら側は連携を取っているとは言えない。
つまり、あちらはもうすでにこちらを意識していないということになる。
それは舐められているようにも感じていたが、むーさんの話からも分かる通り、覆瀬結という存在がそれを助長させているらしい。
というか、あの五位というところにむーさんがいる限り、あちら側は勝敗を気にしない。
「気まずいものじゃないか?」
「……そうですか?」
「仮にも勝負なんだからその相手と仲良しをやるというわけには行かない……と私は思うよ」
会長はむーさんの言葉を知らないため、俺の意図を測りかねている。
「俺だったら大丈夫なんじゃないですか?」
「どうしてっすか?」
「だって、別に俺と仲良くしたって結果は変わらないと思うし」
それをむーさんは察したかのように、話した。
そして同時に、苛立った。
どこまでも上からの視点。
確かに実力ではそうだが、だからといって……
……危ない。
苛立ちに心が飲まれるところだった。
すぐさま感情を把握し、苛立ちを抑える。
「さすが覆瀬ムスビだな」
「……それ、褒め言葉ではないですよね」
「もちろんじゃないっすかー」
最近の付き合いで恐らく察した会長は、おどけたように話す。
それに対してむーさんは訝しげな視線をするが、俺がそこでおちゃらける。
「はぁ……。
それで、会長は負けたんですか?」
「ん? あぁ、残念ながらね」
「そうですか……」
むーさんはため息をつきながら、話を変える。
だがその様子は、どこか悩んでいる様に見えた。
正直、悩む理由が分からない。
そこで、俺は探ってみる。
「何を悩んでいるっすか?」
「ん?」
「いや、別に真冬が勝つのはむーさんにとっては嬉しいことじゃないっすか?」
素直に話す。
経験なのか、彼に腹の探り合いをしても意味がないことは分かってきた。
「別に……嬉しいではあるんだけど……」
「だけど?」
「……いや、これは話してもどうにかなる問題ではないので」
むーさんは話を切った。
……正直、その先を聞きたかったので、俺としては問題がある。
「ちなみに今日の被瀬の試合は誰かとやったんですか?」
「……被瀬さんは今日は空汰さんと試合をして勝っていたっすよ」
「そっか、助かる」
一応こちらは三人で誰と戦うのか、ということに関しては全て共有している。
そのため、スラスラと言葉が出るが、むーさんの言葉に違和感を感じた。
「ムスビは誰が誰と戦っているのかは把握していないのか?」
そこで、会長が同様の疑問をいだいたので、切り出した。
「えぇ。
ここまで来ると後は戦いたいやつと戦ってください、と言っているので」
「ちなみにむーさんは今日も人気だったっすね」
「お前含めて2回も戦ったわ」
「お疲れ様っす」
会長は、すでにむーさんが2試合終えたことにでも驚いているのか、難しい顔をしていた。
「ムスビは誰と戦ったんだ?」
「こいつと美加久市さんです」
「露と?」
「えぇ。
なんで俺らが戦っているのかは本当に俺も謎です」
むーさんの会話から、何か真冬の能力のヒントや、美加久市さんの弱点を知りたいものだ。
「それにしてもなんでそうまでして早く終わるんだ?」
「いや、別に特別なことはしてないですよ」
「……いや、アレのどこが特別なことをしてないっすか……?」
思わず口を出してしまった。
俺の能力が効かないのに特別なことをしていないって……。
「俺の能力が効かなかったっす。
それに、間合いを詰められたらそのまま手を緩めることのないひたすらな攻撃っすよ」
「うわぁ……」
「別に俺も喜んでやっているわけじゃないんですよー」
むーさんの物言いに腹が立たないではないが、彼はそういう人なのでもう慣れた。
「露にもそうしたのか?」
「いや、美加久市さんに関しては俺を実験台にしているみたいです」
「……あれ以上に恐ろしいものが出るのか?」
「見てのお楽しみですよ」
……それは良いことを聞いた。
美加久市さんはあの戦闘の先を考えている、のか。
何が出るかは分からないが、警戒する要因にはなる。
「……露も強くなったということか」
「強くなった、というより悪いことができるようになったという方が正しいですよ」
……訓練は強化ではなく、能力の使用の工夫?
石神豪雷さんの戦い方も、真冬の戦い方も今までのものと違っていた。
それはつまり……
そこで、俺は試合が始まりそうな気配を察し、
「そろそろ始まるっすよ」
体育場に出た二人は、始まる前に何か話しているようだった。
その言葉は聞き取れないが、ふたりとも真剣な表情をしているのは分かる。
「何か話してるっすね」
「そうだね」
会長の同意に、後で聞いておこうと考えていると、
「……へぇ」
「え?
むーさん分かるっすか?」
「ん?
唇見て予想しているだけだけどな」
……そんな事もできるのか。
ほとほと覆瀬結というものには呆れる。
「なんて言ってるっすか?」
「能力の正体について言及している様子だったよ」
「……教えてもらえるかい?」
「……後で本人に聞いてくださいよ」
後で聞くつもりだが、どこまでできるのか確認しておきたいので、聞いてみるが、失敗。
できるのだとしたら、今後のむーさんとの戦闘にも役立つかもしれない。
というか、むーさんができることを知らないからこそ、対策が打ちづらいから、少しでもむーさんの情報を知っておきたいではある。
「けちっすね」
「あぁ、本当にケチだよ」
「いや、言わないですよ。
ケチとか言われただけで言わないですよ?」
少し煽れば話すかと思ったが、話してくれない。
『開始!!』
そこで、試合が開始した。
急いで視線を体育場に戻す。
恐らく、今までの傾向から、被瀬さんが真冬の能力を破れなかったら、跪く。
だけど、
「おっ」
「ほう……」
「なんでだ……?」
三者三様のリアクションを見せる。
その対象は、被瀬さんだ。
被瀬さんは、立っていた。
「被瀬さん、破ったみたいっすね」
「いや、まだ完全ではないのだろう。
その証拠に、動いていない」
安堵から話したが、会長の言葉でよく見てみると、被瀬さんはまだ動いていない。
……これは、破れたのか?
というか、会長もそれで破れていないというあたり、何か掴んだのか?
あとで聞いておかないといけないことが多い。
「……これは、やられるパターンっすかね?」
「私のときは呼吸困難になってやられた。
それをやるのかもしれない」
……今までは真冬は降参を誘っていたが、会長には呼吸困難という方法を取った?
というか、そんな事できるのか。
真冬とは戦わないといけないが、それでも嫌だなと言う位気持ちが高まってくる。
会長の言う通り、被瀬さんが呼吸困難になるのかを見ていると、
「何を起きない」
「何も起きないっすね」
「……やるじゃん」
むーさんの口から、賞賛の言葉がでた。
つまり、被瀬さんは真冬の能力による呼吸困難を克服した?
むーさんには分かっているようだ。
話を聞きたいが、試合から目を話せない。
「さ、こっからが正念場、かね?」
むーさんの一言とともに始まったのは、真冬の攻撃。
真冬はその強化も何もかかっていない拳と蹴りで被瀬さんを攻撃していく。
その様子は、まるで銅像にいたずらをする子供のようだったが、
「えっ?」
会長の声。
その声は、今目の前の現象に対しての、疑問だ。
少しの間続いた真冬の攻撃。
そろそろ退場するのか? と思っていると、
真冬が消えた。
そう、先程まで何も動けない被瀬さんに攻撃をしていた真冬が、消えたのだ。
なぜだ?
これも真冬の能力?
そんな疑問が頭を駆け巡る。
でも、観測できる変化もある。
被瀬さんが、手刀を振り抜いていた。
それは、まるで必殺技を放ったむーさんのようで、
「くっそあの女」
むーさんが駆け出した。
俺は何も考えられなかったが、むーさんについて行った。
真冬は、こんな状況になろうが、友達だし、大事な人だ。
だからこそ、心配が胸の中を染める。
むーさんの走りになんとかついていく。
その先は、転移室。
敗者が、来るところ。
そこには、人だかりができていた。
少し騒がしい。
俺は、むーさんが作った道を後ろからついていき、中を見る。
そこに、
あったのは、
血に染まった真冬だった。
「あぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁ?!?!?」
そこから先は、覚えていない。




