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72/110

72:割と思いは、武器になる

「ようやく、最後ですわね」

「そうだな」

「あら、何か不安なことでもあるのですか?」

「別に。

 ただ美加久市さんに関してはやられたな、と」

「まぁ、それこそがあなたの思惑を外すための作戦ですから」


 ようやく最後の人となったところで、俺はなんとも言えない表情をしただろう。

 そう、最後の人は、美加久市さん。


 俺が今回の戦いで一番してやられた人である。


「失礼します」


 俺が声を出そうとしたその時、美加久市さんは現れた。


 黒髪ロングヘアーに、少し眠そうな目。

 顔立ちは整っており、美人という分類になるだろう。


「あ、じゃあこちらにどうぞ」


 座るように促す。

 彼女は淀みのない動きで椅子に座る。

 そしてこちら……具体的には俺の方を見て、


「ふふん」


 勝ち誇った表情をした。

 前に会ったときから、表情の機微の少ない人だな、と思っていたが、そんな人に勝ち誇った表情をされると、


「……相談は終わりで大丈夫ですか?」

「ムスビ。

 流石にそんな大人気ないことをしないでください。

 つゆさんも、面倒なことをしないでください」


 その言葉に、美加久市さんは表情をもとに戻す。


 美加久市みかくし つゆ


 生徒会二年唯一の女子。

 そして同時に一番生徒会の中では優秀な成績を収めている、らしい。


 宵からの情報なので又聞きになってしまうが、能力を知れば確かに優秀な成績を取れるのは納得だろう。


「美加久市さんに関しては、事前にソロの登録をして少しだけ戦って放置していた、のですよね?」

「はい。

 ソロに関してはある程度の身体能力者の人と戦えれば十分だったので、今ではかなり下のランキングになってます」

「了解しました。

 今回は半分の人がソロに関しては初登録なので心配でしたが、良かったです」


 宵の言葉に美加久市さんはスムーズに答えていく。


 そのやり取りに、俺は小さくため息を付き、


「で、美加久市さん的にはソロでどうすれば勝てると思いますか?」

「……私の能力は、幻影の能力です」


 美加久市さんは俺の言葉に、強めの口調で答える。


 それはまるで、俺が美加久市さんの能力を『隠蔽』の能力と見誤ったことを嘲笑うかのようで、


「……それで、幻影の能力でソロランキングでどうやって勝とうと?」

「個人的には私は一番能力的に勝ち目はないと思っているので、皆さんのサポートに回ろうかと思っているのですが」


 そこで、俺が怒りを飲み込んだのを察したのか、美加久市さんは嘲笑う感じの話し方をやめ、自身の意見を述べた。


 その言葉は、最初の宵の提案と同じものであり、


「えぇ。

 確かにあの三人に対して美加久市さんの能力は非常に相性も悪く、バレているとどうやっても勝ち目がないと思います」


 俺もその提案を呑んだ。


「はい。

 私の能力の性質上、時間を稼ぐことはできても、決め手にかけます。

 しかも、覆瀬さんとの戦いですでに私の能力の全貌は割れていて、私の能力はこれ以上の変化を起こすことはできません」


 だけど、ムカつく人だけど、


「今回は皆さんの戦闘状況の把握と、日程の把握、訓練周りのサポートを「待った」……どうしましたか?」


 見りゃわかる。


「諦めきれない」

「でも、私の能力はソロランキング向きでは……」

「勝ちたい」

「能力がバレると無力……」

「そういうことじゃない」

「私自体の戦闘能力が強くない……」

「だけども」


 隠しているその負けず嫌いな感情を見るのは、『慣れ』てんだよ。


「宵。

 昨日は美加久市さんに関してはサポートに回すことに、俺賛成したよな?」

「えぇ。

 確かに現状の能力と身体能力では勝てる見込みは一番低く、それよりだったらサポートに回したほうがいい、と」

「撤回」

「……何を根拠に?」


 俺は美加久市さんの方をじっと見つめ、答える。


「一番この人が勝ちたいと思ってる」

「思いで結果が変わるとでも?」


 宵の言葉は呆れている。

 一方、美加久市さんは俺のことを見る。

 その表情は、驚いている。


 済ました表情に浮かぶ、驚愕の表情は、わかりやすい。


「変わらないね。

 いつでもあるのはコンディションと能力と、積み重ね」

「そうですわね。

 いつもいつもそれに関しては口うるさく行っていますよね」

「だけど」


 美加久市さんの方を、俺はじっと見る。


「割と思いは、武器になる」

「……?」

「ムスビ。

 あまりにも言葉が足りないですわ」


 宵は、美加久市さんに説明するように、


「心のチカラ、というものは存外精神に作用するもの、というのは知っていますよね?」

「えぇ」

「じゃあ、逆に精神状態が心のチカラに作用する、というのは?」


 美加久市さんは、良いの問いに少し考える様子を見せてから、


「それはない……です」

「根拠は?」


 意地悪な質問だ。

 宵のことをちらりと見るが、表情を変えずに話している。


「精神的に辛いときにも、能力は使えます」

「でも、使いづらくはなる。

 思い当たることが、あるでしょう?」


 女性特有のやつ、というものだ。


 男性だと戦闘による高ぶりなどがそれを打ち消すので、実感しづらいが、女性の場合は色々あるため、思い当たることは多いだろう。


「でも、それだったらそれこそメンタルケアこそを能力の使用における中心にするんじゃ?」

「でも、それの最終到達点は?」

「……あっ」


 超能力の成長に置いて、メンタルケアを教えることは、国際的に禁止されている。


 しかし、それを超能力を使用する人が知ることはない。


「薬……」

「えぇ。

 最終的にはそこに到達するのですよ」


 薬を使用した脳の開発。


 割と今でも盛んに行われている脳の開発は、国際的に禁じられていると同時に、それに抵触しているのが判明した途端、極刑が確定する。


 これはとある事件が元なのだが、それに関して教えるのは酷なことでもあると同時に、背負うには重すぎる。

 それに……


「それで、天下無敵のムスビさんはどうやって彼女を勝たせようというのですか?」

「……あぁ、それに関しては能力に関して話を聞いた時にもう思いついてはいたんだよ」


 だが、可能性が低すぎると同時に、彼女に強いる負担が大きいため、控えることにした。


 ちなみに、辛さで行ったら大手さんのほうが身体的には百倍辛い。


「極限まで能力の可能性を追求します」

「……そうですか」


 宵は、分かっていたかのように、ため息を付いた。


「えっと、よくわからないんですけど……」

「端的に言うと、能力の可能性に賭けるんですよ」

「能力の……可能性?」


 美加久市さんの言葉に、頷く。


「能力は、一つのことしかできません。

 例えば、俺なら『慣れる』事。

 宵なら『掴む』事。

 そして美加久市さんなら『惑わす』事」


 例えば、通れは続きを宵にパスする。


「ワタクシの能力は、御存知の通り掴むことですが」


 宵は虚空に手の伸ばす。

 その能力が発動を示すように、宵の手が薄く光る。


 そして掴んだ先は、


「かはっ」

「握力、持ち上げる力に関してはワタクシの身体能力に依存しているので、この状態では持ち上げることはできません」


 俺の首だった。

 完全に油断していた。

 それにしても、


「ぢからっ……つよくないかっ?」

「ですが、私の能力はあくまで『手』を作ることではなく、正確には"掴んでいるのと同じ状態を作ること、ですの」


 俺は密かに一段階を開放して、首に強化をかける。


「つまり、この能力の本当の効果は、”手で掴んだのと同等の圧力を生じさせ、持った物体に手と連動した物体移動をする能力”なのですよ」

「つまり、だよ。

 原理を解き明かせば、その分能力の可能性は大きく上昇し」


 俺がケロッとして話そうとすると、


「そして、この能力に置いての心のチカラの使用量と連動するのは」


 宵は心のチカラを追加で注ぎ込み、


「圧力を生じさせる部分の増加。

 わかりやすく言うと、手が大きくなるのですよ」


 俺の体が押しつぶされそうになる。

 四方八方から圧力がかかり、俺のことを潰そうとしてくる。

 だが、体全体に強化を回すことにより、ダメージを軽減。

 力をいれれば逃げ出せるが、待ってみる。


「そして、ここからが掴む能力にはできない方法を、実現する方法」


 やっぱり、と思いながら、俺は更に心のチカラによる強化を増やす。


「掴む、というのは力を込める。

 つまりは、徐々に力が加わることですわ。

 それを心のチカラの操作で速く、速く、速くすると……」


 ゴッ


 それは、殴打の音。

 明らかに俺からなっているし、俺の服には何らかの打撃根があるが、俺は誰にも触れられていない。


「攻撃に転ずることができます」


 ありえない理屈のように見えるが、これこそが能力の拡大解釈。

 堂上や柊に教えたのは、ただの延長線上。


 これは、能力の根本にたどり着く作業。


 辛さで言えば、こちらのほうが上。

 それは、


「ちなみに、自身の能力が本当は何なのか、を考えるのではなく、何ができて何ができないのかを考えなければ、これらの応用はできません」

「それに、できたとしても戦力になるかはわからない」


 もともとダメージもなく、拘束から解かれた俺は、不安を掻き立てる発言をする。


「それでもやるなら、美加久市さんはあの三人に勝てる可能性を十分に見出すことができます。

 でも、これは非常に茨に道でもあります。

 自分の能力に疑問を持つ。

 それは、今までの戦い方を否定することになったり、もしかしたら能力を使えなくなる可能性もあります」


「やる」


 小さな、声だった。

 それは小さな声だったけど、


「私は、ムカついてる。

 だって、あんだけいい戦闘ができて、もっと訓練すればなんとかできそうだったっていうのに、自分は深奥に至りたい、だなんて。

 それってつまりは私達の力を借りるのが無駄だって行っているように思った。

 そう思ってなくても、そう聞こえる。

 現状の自分に足りないものを、自分で見つけるのではなくて、強い人に頼る。

 それは悪いことじゃない。

 だけど、その前に私達に、話すべきじゃないのかな?」


 それは、美加久市さんのみならず、みんなの抱いている思い。


 でも、それはこちらがわからみた時の感情でしかない。


 あちら側から考えれば……


「力を手に入れて私達を勝たせたい、とか思ってるのかもしれないけど、それもムカつく。

 みんなで協力して勝つことを目指していた、と私は思っていた……から」


 少しだけ、宵から聞いた。

 美加久市さんは生徒化に入ろうとは思っていなかったらしい。

 それなりに強い能力を使って、それなりに良い成績で、適当に卒業できたら良かったらしい。


 でも、そんな彼女が生徒会に入った。

 それは、必要のないこと。

 生徒会は、誰もが憧れるが、その分忙しいことも明白だ。

 彼女の言うとおりだと、適当に卒業するには必要のないことだろう。


 だけど、彼女は見ていた。

 その能力は、自分のことを隠す。

 だからこそ、見えるのかもしれない。


「深奥なんてなくても、覆瀬くんを倒すって、したかったのに……」


「よし、それじゃあやってやりましょう」


 俺の言葉に、美加久市さんは、コクリと頷いた。



☆☆☆☆☆



「また酷なことを言いましたね」

「できないことを押し付けるのが、酷なことだと思うけど」

「……なまじできる可能性があるから酷なこと、なんですよ」


 宵は用意していた資料を見返す。

 そこには、ペンで様々な線と文字が書かれていた。


「あー、申し訳ないです……」

「何を……ってあぁ」


 宵は俺の視線の先を理解して、そっと小さな手で資料を隠した。

 その姿に更に申し訳なくなりながらも、


「でも、みんな色々思ってるね、ほんと」

「唐突に何を言い出すかと思えば」

「普通に考えれば、あの三人に関しては放って置いても問題ないはずなんだよな。

 なのに、どんな形であれ、みんな心配してる」

「……自分は心配されていないのに?」

「うるせいやい」


 こちらを見てくる宵に、視線を返さずに答える。


「でも、これで大丈夫なのですか?」

「大丈夫って?」

「皆さんの方向性は少しは変わりましたが……」


 宵の視線は、未だにこちらを向いている。


「ムスビの役割が増えますのよ?」

「……まぁ、なんとかなるだろう」


 今回の戦いでは、ランキングを上げるために、俺がめちゃくちゃ頑張る必要がある。

 ランキングを上がる理由は、保険。


「大手さんに、衣良さん、更には美加久市さん。

 三人の成長のための労力が増えて、一人あたりに使える時間が減りますのよ?」

「まぁ、同時にやったりとかしたらいいんだよ」


 本来は衣良さんに関しては適度に成長できるが、勝てる可能性は低いものとして、全体を見る役目を任せるところだった。


 大手さんは能力の精密操作によって被瀬に勝てるように仕込むようにする予定だった。


 美加久市さんに関しては、先程も本人が話していたように、サポートに回って貰う予定だった。


 だけど、こうして俺らがやることが増えた。


「しかも今回の相手の練習相手としてできるのはムスビしかいませんのよ?」

「……だから俺が同時に相手をすればいいだろうに」

「まぁ、たしかに連続で化け物みたいな時間動けるのは知っていますが……」


 俺の役目は、三人に勝てなかった場合に俺がねじ伏せる役目だ。


 俺が能力を使わないと会長や被瀬に勝てないと思っているようだが、それは違う。


「まぁ、最初の一週間での出来上がりを見るよ。

 それまではしっかりよろしく」


 一段階に至らなくても、俺はあの二人に勝てる。


「はぁ……なんで今更になって昔の戦い方を思い出すのに付き合わなきゃいけないのですか」

「それに関しては本当にすいません」


 必殺技は、『深奥』に至ってから作ったものだからな。


「パフェ、まだ覚えていますからね」

「ちっ」

「今舌打ちしましたわね?!」

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