70:常人でありながら、狂人
「あ、ども」
「……あぁ」
教室に入ってきた瞬間、俺はその顔を見て、前の戦いを思い出す。
あの戦いで、俺が一番すごいと正直に思った人。
「えっと、座ればいいですかね?」
「あ、はい。
大丈夫ですし、敬語も必要ないですよ」
「あー、確かに……。
分かった」
それがこの大手城後さんだ。
茶色がかった髪の毛に、優しそうな表情。
かっこいい部類に入るであろうその顔は、とても争いを好みそうな顔ではない。
「大手さんは、自身が戦うとして、どうすればいいと考えていますか?」
「俺自身が……どうやったら勝てるか、ってことですか?」
能力は単純な『身体能力強化』
お世辞にもその強化率は高くない。
当然、被瀬と戦えばその強化率の差は明らかである。
更には、その能力に何か知らない部分があるかと言われれば、ない。
彼の能力は、現状で打ち止め。
成長の余地といえば、能力の効率の向上、心のチカラの活用といった、能力そのものとは関係ないものばかり。
だからこそ、彼の成長に関しては単純であるが、その幅が広い。
「俺は正直、みんなとは違って能力に関しては、あの三人の誰にも敵わないと思います。
強化倍率、近接戦しかできない、精神干渉系の能力に対する耐性がない。
いろいろ考えてみても、俺に勝てる要素があるとすれば、超能力以外のところかなって」
ちなみに大手さんはソロとカルテットに出場している。
一人でもそこそこ戦えるし、サポート要員としても優秀。
そんな器用貧乏な人である。
「すごいですね。
俺らの思っていることをしっかりと把握しています」
「……まぁ、俺は限界になるのが早かったですから」
基本的に能力は時間を経るごとに自然と成長する。
そして同時に身長と同じように、どこかで打ち止めになる。
厳しいけれど、それが現実である。
「それでは、それを前提として、本題に移ります」
そこで宵が話を切り出す。
普通に考えれば、大手さんがあの三人に勝てる要素は少ない。
だけど、それは能力に限った話だ。
もし能力を数値化して、その数値を比べれば、彼は弱い。
もしかしたら生徒会に入っている生徒の中で一番弱いのかも知れない。
だから、彼には数値で出ないところで戦ってもらう。
「あなたが望む戦い方は、なんですか?」
「俺の……望む?」
「そうです。
あなたは確かに能力的に見て弱い。
しかし、その年にして能力の扱いという点においては頭一つ抜けています。
安定した能力の使用。
効率化、心のチカラの使い方。
もし、生徒会の中で誰を戦場に連れて行くかを考えた時に、ワタクシはあなたを連れていきますよ」
数値に出ないところ。
それは技術、技、といった戦闘に関わるが、数値として出ないところ。
「なんで……俺を?」
「今更能力の発動を失敗しますか?
能力の持続時間が不安定になりますか?
ものすごく強い敵に、火事場の馬鹿力で勝てますか?」
戦いの……命のやり取りの場で求められるのは、安定。
出すべき時に力を出して、確実にやることを遂行する。
「俺も、宵の言葉に賛成です」
「えっと、どうして……。
俺は覆瀬……くんにボコボコにされたんですよ?」
「そんなことは当然です。
誰もがあんな状況で俺に立ち向かったら、当然ボコボコにされますよ」
俺は、宵と違って訓練を見たわけでも、その人柄を知っているわけでもない。
だけど、戦った。
「正直、俺は大手さんのことが生徒会の中で一番凄いと思いますよ。
なんせ、俺にあんだけ振り回されても、手を離さなかった。
結果としては大きな成果を残せなかったとしても、大手さんは自分のオーダーを完遂した」
それは、『無体』だろうがどこだろうが絶対のルール。
求められたことを完遂する。
死なないと言っても、あんな子供がおもちゃを振り回すように扱われたら、心が折れる。
もしやりきったとしても、俺に対して何らかの苦手意識を持っていたりすると思う。
だけど、見た限り、その様子はない。
隠しているのだとしても、隠せていることがすごい。
「……正直、死ぬかと思ったよ。
あんなに振り回されて、何度も意識を手放したし、転移室に行ったあとも体の痛みがしばらく消えなかった」
「でも、結果はやりきった」
「しかも、俺はそれなのに深奥に至りたいとは言えなかった。
死ぬのが怖かったから」
「……死ぬのが怖いのは普通ですし、死なないようにするのは普通ですよ」
「……はい?
でも、オーダーは完遂するって」
「あれは死ににいけ、というオーダーでしたか?」
どうやら、大手さんは少し勘違いしているようだ。
大手さんは、思い出しながらと行った様子は話し始める。
「あのときは……
覆瀬の思考時間を与えないために……俺が体にひっついて攻撃を仕掛けろ、と
だから必死にしがみついて……。
攻撃を仕掛けようと何度も手を伸ばしたけど……受け身を取るのに必死で……」
「そう、受け身ですよ」
「え?」
「オーダーをこなすために、生きて完遂する為に、受け身を取った。
退場を少しでも遅らせたその行動は、オーダーの意味を確実に果たしていたんですよ」
命令を完遂するためには、生きていないとだめ。
そして、命令は完遂するためだけではなく、その意味に沿ったそれ以上を求められるときもある。
「それが俺に思考時間を設けさせることを阻止して、最後にはあの仕込みを完成させた。
あの時の石神さん二人以上の働きを大手さんはしたんですよ」
「……そう、か」
大手さんが何を思っているのかは知れないが、このことに気づけば、あとは簡単だ。
「で、話を戻しますけど、大手さんはどうやって強くなりたいですか?」
「……俺は、ひたすらにずっと戦えるようになりたいです。
死なずに、誰かの役に立てるように、誰かを助ける時間を作れるように」
その言葉に、俺と宵は驚いた。
確かに、その可能性は会った。
しかし、それは影の道だ。
俺たちは、正直大手さんは一人で誰よりも強くなりたいと話すと思っていた。
さっきまでの話も、一人でも十分に強いということを伝えるためだった。
「正直に言うと、その道は険しいです。
それも、果てしなく。
誰からも応援されないかも知れませんよ」
「……それでも、俺は小さな可能性を大きくできる人間に、なりたいです」
大手さんの表情は、晴れ晴れとしたものだった。
宵はその言葉に更に話をしようとしたが、
「わかりました。
では、やることは2つです。
ピアスをした状態でもいいので、能力を使い続けてください。
それも、最小限に、なるべく心のチカラを使わないように」
そこに割り込んで、俺は話をする。
ピアスは、体の内部で能力が作用する人間のための腕輪の代替品だ。
効力は変わらないため、その状態でも能力を使用することはできる。
「そして、それと同時に武術を覚えます」
「武術って、今からでも大丈夫なのか?」
「いえ、武術と行っても、体術です。
それも、『掴む』体術です」
俺はそこまで話して、宵に視線を向ける。
「はぁ。
ムスビがそう判断したならわかりました。
先程話した『掴む』体術に関しては、ワタクシが「いや、俺が教える」……へ?」
あえて話を振り、途中で切り上げる。
「その道は果てしなく辛い道ですが、行くと決めたなら本気で行きましょう。
四肢くらいは日常的にちぎれますが、絶対に死なない戦いができるようにしましょう」
宵も、決意をした大手さんでさえも、顔を青くしていた。
「さ、それでは今から能力を使用してください。
次の方にお願いします」
☆☆☆☆☆
「なんでそんなにやる気になったんですか?」
大手さんが教室を去ると、宵は俺に話しかけてきた。
「別に、やる気になった、ってことはないよ。
ただ、あの人には少しだけ、人柱になってもらう」
恐らく、一番訓練がキツイのはあの人だ。
しかし同時に、それは周りの人間にいい影響も与える。
「大手さんよりはマシ、ならこれくらい、という気持ちを出してもらって、周りの訓練の密度を上げる」
「……でも、大手さんが耐えられるかどうか……」
「それに関しては徹底的に、それこそ痛覚を意識的に切れる程度にはなってもらう」
「そこまでやるのですか?」
宵の心配はもっともだ。
痛覚を消すほど。
その言葉の重みは宵も知っている。
あれは何度も何度も生死を反復横とびすることで身についてしまう。
いわば現実逃避の術だ。
一学生ができるようになるには少し荷が重いと思う。
というか壊れても仕方がない。
「たぶん、あの人はやれるんだよ」
「……どうして分かるのですか?」
「あの人と戦って、それで今回話して、分かった。
あの精神性は超能力犯罪者と同じものを感じる」
「言われてみれば……」
超能力犯罪者。
それは世間的な犯罪者と何ら変わらない。
しかし、そいつらは超能力を使う。
数が多いわけではないが、いないわけでもない。
というか、超能力を使用した犯罪に関しては、通常の犯罪よりも刑が重い。
だからというか、超能力犯罪者には共通して、ある精神性を内包している。
「常人でありながら、狂人」
それこそ、どれだけ傷を付けられてもオーダーを完遂する精神性。
それを行った相手を目の前にしても、気にしていない心。
「確かに現状当てはまってはいますが、そうだとは言い切れない、ですわよね?」
「そうだな」
「だけど、やるのですか?」
そう、だとしても、彼は犯罪者ではないし、キツイ訓練をさせる理由にはならない。
そう言わんばかりの宵の視線に、俺は観念し、思ったことを素直に話す。
「あの人は言ったんだ。
小さな可能性を大きくできるようになりたい、って」
「……そういうことですか。
なら、止めませんよ。
でも、ワタクシがいる状態で訓練は行ってくださいね」
おせっかいでも、少し人道に反していても、
その言葉を話すなら、俺はそれを叶えさせてあげたい。




