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67/110

67:強さが欲しいけど、深淵は強さじゃない。

「それで、これはどういう状況なの?」

「まぁまぁ、そんなツンケンしないで」


 朝から柊に怒られた、その日の放課後。


 俺は『至らなくても良い派』を集めた。

 ちなみに、宵もしっかりといる。


「……多分ですけど、ムスビはいつものように何も説明はしていないのですね?」

「もちろんです、四杯先生」


 柊のチクリに、宵はこちらを向く。


「そんなに睨んでも何も挙げないぞ」

「別になにかほしいから睨んだわけではないんですが」

「いや、別にみんなに一斉に話すから大丈夫かな、と」

「それだとしても朝のうちに説明してくれても良かったんじゃない?」


 柊からの視線も加わったところで、攻撃力が増える、というわけでもなく、一人分俺に刺さる視線の量が増えただけだ。


「……協とは席も近いから今日はどうやって過ごそうかとヒヤヒヤしていたんですよ、四杯先生」

「まぁ、その中でもムスビはいつも通りにしていたのでしょうけど」

「……流石にわかりますよね」


 柊の言葉通り、今日は柊にとっては辛い日だったのかも知れない。

 柊は堂上に少し辛く当たっているが、それは仲が良いからこその接し方なのだろう。

 それに今まではなんだかんだ言いながら堂上は柊と共にいた。


「だからってそんなにそんなツンケンする話じゃないだろ?

 別に誰か死ぬわけじゃあるまいし」

「……私達が負ければ、結果としてみんなは死ぬ可能性があるんですよ?」


 その言葉に、俺は確かにそうだと気づく。

 その様子に柊は腹を立てているようだが、


「恐らくそれはほぼありませんわ」

「四杯先生?」

「前の戦いは相手がワタクシでも勝てないムスビだった。

 だけど、今回は相手があの三人。

 それだったらいくらでもやりようはありますもの」


 それは偶然にも、俺が朝に言った言葉。

 同じ言葉のはずなのに、柊は何も言わないで、少し納得したような感じだった。


 なんでだろうかと聞きたかったが、流石に本題に入らないと面倒だとは思っているので、


「さ、まずは本題に入るよ」

「……なんで、私一人なの?」


 柊の疑問はもっともだ。

 今、この空き教室は俺と、宵と、柊しかいない。

 他の人は別室で待機してもらっている。


「今回はソロ、ってことで、それぞれに違う訓練の内容を出す。

 かなり他の人と違う内容だから、他の人の内容を聞いて自身の訓練の内容に疑問を持つかも知れないから、こうやって一人ずつに話している」

「別に聞いても疑問は持たないと思うけど……」


 その言葉に、俺は付け足すように、


「ソロ、ってことで最後に頼れるのは自分自身になってくる。

 だから、極力みんなにはお互いのことを知っていてほしくないんだ」

「それに、今回は皆さん同士にも戦ってもらうつもりなので、基本的には協力ではなく各個行動を取ってもらいます」


 その言葉に、柊はまたも不安そうな顔をする。


「確かに、柊さんはその能力から一人で戦うことに苦手意識を持っているかも知れません。

 しかし、私達は一番あなたに期待しているんですよ」


 宵はその表情を見るなり、優しく話した。

 柊は、その言葉にぽかんと口を開けていた。


「私に、期待?」

「えぇ、私達はふたりとも、一番強いのは柊さんだろうと思っているのですよ」


 昨日は、みんなで解散したあと、宵と少し時間を設けて、みんなの成長の方向性を考えた。

 その中で、柊は一人だけ俺らでもその成長の方向性を決めきれなかった。


「柊さんの能力は、その性質上人間であれば大体の人間に作用します。

 しかも、私が見たところ、その能力はもし目が見えない相手であろうと発動します」


 柊の能力は、『目を惹きつける能力』だった。

 俺も最初はそう思っていたし、実際にそうだった。


 しかし、改めて相対して分かった。


「柊さんの能力は、『注意を引く能力』である可能性が高いです。

 その能力は、鍛えれば最強の能力になりますよ」


 柊の能力は、そんなものではなかった。


 これは能力の変化ではない。


 もともとそういう能力であったが、勘違いや力量不足でその一部しか能力を使えていないという能力者。

 そこに該当する。


「私が、そんな能力だと?」

「えぇ。

 もちろん、柊さんは他人に干渉する能力者であるため、自身で確認する事ができないと思います。

 しかし、私達が自身を持って言います。

 あなたはまだ自分の能力を全部出しきっていない」


 そして、この手の能力者は、この程度の能力ではないということも多い。


 つまり、だ。


「柊さんだけはこの先の伸びしろが大きすぎて私達では測れない、そう思っています」

「はぁ」


 容量を得ない返事。

 確かにあなたは自分が思っているより大幅に強い、と他人から言われても、実感はわかないだろう。

 だが、それを今回は否が応でも知ることになるだろう。


「だから、私達はあなたにいくつかの訓練を課します。

 それも、能力による負担が大きく、その辛さは大きいものです」

「……はい」


 そう、だから柊の訓練の内容は、基本的に基本能力の底上げ。

 そもそも前からその訓練を行っていたのが、更にきつくなって続くだけだ。


 それに、


「ソロで戦うために、格闘術を並行して身につけます。

 盾の持ち込み自体はOKでしょうが、それだけではあのバカみたいな身体能力とは渡り合えないでしょう」


 コクコクと頷く柊。


 そう、朝の話題にも出たが、あの三人のうちの二人が身体能力を強化できる。

 それに、一人に至ってはその状態で他の能力も使うことができるらしい。


「みなさんが疑問に思っているのでお答えしようと思いますが、身体能力を持っていようとも案外簡単に負けるものなのですよ?」


 宵の言葉には、大きな説得力がある。

 それはそうだろう。

 俺の進化の深奥は、それこそ身体能力だけで言えば、あの二人と比べるのもおこがましいほどのものだ。


 それと共に訓練をしたものが、自身を持って身体能力がそんなになくても勝てる、と言っているのだ。


「詳しいことは紙にまとめてありますので、読んでおいてください」

「……ありがとうございます」


 柊はそんな言葉に自身がついたのか、宵から渡される髪をまじまじと見る。

 見た瞬間、苦い顔をしていたが、まだ最初の方でそんな顔をしているのでは先が思いやられるな……。


「ちなみに」


 そこで俺は柊に言っておこうと思ったことを話しておく。


「安藤……ランカーの安藤な。

 あいつは、深奥に至ってないけど、ものすごい強い。

 それは知っていると思うけど、そんなあいつでも、深奥に至りたいとは言わなかった」

「……なんでですか?」

「深奥に至らなくても無体の連中ごとき倒してやりますよ、って言ってたよ」


 安藤の強さは、深奥に迫るものだった。


 ちなみに、話はしないが、安藤も実は深奥に至りかけた時があった。

 あいつは一人で誰に教えられるでもなく深遠に至りかけたのだ。


 だけど、あいつはそこで深奥にあえて至らなかった。


「強さが欲しいけど、深奥は強さじゃない。

 柊はランカー一位と同じこと言ってるよ」


 柊は、その言葉に少し驚いた表情を見せてから、


「……がんばります」


 先程の資料に視線を落としているが、その表情は暗くない。

 どうやら、覚悟が決まったようだ。


「それでは、今日からその紙の訓練の内容を初めてください。

 時間は今回は長めにありますが、その最中にソロ戦で上に行かなきゃなりません。

 だから、その訓練を行っている間も、試合の方は負けないように頑張ってください」


 柊の表情は、また折れそうになっていた。



☆☆☆☆☆



「柊はどんな感じになるだろうかね」

「分からりませんが、圧倒的に強くなっていきますわね」

「まぁ、皮肉なもんだけどな」

「……それを言わないでくださいよ」


 俺と宵は柊の出たあとの空き教室で二人会話する。


 その内容は、柊のものだ。


「前までは全体的に負荷をかけることによって能力の底上げをしたんだろ?」

「えぇ。

 正直、みなさんの能力の出力では中途半端な作戦しかできそうになかったので」

「だけど、今回はそれにプラスして能力操作ね」

「柊さんの能力はワタクシのものと同じで、応用力さえ身に着けてしまえば深奥に至らずとも強いですわよ」

「確かに。

 それにこの前の戦いでも十分能力は強くなっていたしね」

「ムスビの『慣れ』を持ってしても視線が行きましたものね」

「そう、それな」


 柊は前の戦闘では明らかに揺動だった。

 そんな事を思いつかないわけではない。


 あのときは確かに慣れたから、視線を外せると思っていたが、俺は目を取られた。

 それくらい柊の能力は強くなっている。


「でもまぁ、もしこの能力が俺らの予想の最大のとこまでポテンシャル持ってたら、これ大変だぞ?」

「……それはあとのお楽しみでしょう」


 宵との訓練方法で一番悩んだのは柊だったが、逆に一番話しが短かったのも、柊だった。


 正直、あの能力で成長が見られるなら、最終的な能力はこれしかない。


『存在感の強化』


 もし、本来の能力がこれだったら、恐らく柊はこの学園では誰も手出しができない存在になるかも知れない。

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