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60:よぉ少年。 お前、『能力』はなんだ?

「分かりづらいですわよ」


 みんなの表情が曇る中、発言したのは宵。


「分かりづらいって、事実を言ったまでだろ?」

「それが分かりづらいって言っているのですわ」


 ムッとしながら返すと、宵は呆れたように首を振る。


「ムスビは、皆さんに『殺す』人間になるのか、『勝つ』人間人るのか考えてほしいのですわ」

「……俺らを『無体』に誘っているってことっすか?」

「んなわけなかろうが、流石にそれだけはないわ」


 堂上の言葉を思わず一蹴してしまい、宵に睨まれる。


「『無体』に関しては後に話しますが、入るための条件が存在するので、今の皆さんでは無理ですわ」

「へぇ……入るための条件、ねぇ」


 何やら会長が少し興味ありげにしているのを感じる。

 ……というか興味があるんだろうな。


「まぁ、とりあえずこいつが、私達、ひいては『無体』の壱としての話をしてくれると思いますわ。

 それを聞いて、皆さんには比喩ではなく、将来に関して考えて欲しいということですわ」


 宵がさっさと始めろと言わんばかりに捲くってくる。

 俺は小さく息を吐き、


「正直、この話に関しては確実にみんなの将来に影響を与える話をすると思う。

 だから、気を楽にしてくれ」


 みんなは、俺の言葉に少し疑問を感じている。

 まぁ、それもそうだ。

 これから大事な話をするというのに、楽にしてくれ、だなんて。


 でも、俺としてはそれくらいの気持ちで聞いてほしいのだ。


「だって、これから話すのは、ただの昔話だぞ?

 面白いくらいが丁度いいだろ?」


 それは、笑い話と言うにはあまりにも笑えない、一周回って苦笑いしてしまうほどのも物語。

 だけど、俺にとっては人生の半分以上をそこで過ごしたんだ。


「まず話さなきゃいけないのは、俺が特別な人間じゃなかったって話からだ」



☆☆☆☆☆



 俺は普通の子供だった。

 特に貧しいわけでも、豊かなわけでもなく、暮らしに困らない程度の家計の、一人息子。


 愛情を注いでもらったとは思う。


 そして、その時が来たのは、忘れもしない誕生日の一ヶ月前。

 俺がちょうど7歳になる、一ヶ月前だ。


 子供の頃は『首輪』をする。

 例に漏れず、俺も同じ様な『首輪』をしていた。


 『首輪』は強制的に超能力の力場を低減する。

 その時のエネルギーが一定以上になり、超能力が使用できるようになると、超能力の検査が始まる。


 本来なら。


 でも俺は、覚醒したその時から、自身の能力を理解していた。

 これも特段珍しいことではない。

 『能力』は『心のチカラ』を使用している。

 中にはそれが潜在的な欲望の現れだ、なんて言っていて、それの応用で子供が潜在的に能力の使い方を理解できる、なんて論文もあるくらいにはありふれた話だ。


 そして気づいた。


 俺の能力は、『慣れ』だと。


 一度見た光景なら、比較的『慣れ』やすい。

 一度味わった経験や失敗は、『慣れ』ているから回避しやすい。


 その程度の能力だ。

 使えそうな場面、と言われれば、せいぜいが学校で覚えが良くなる、程度だろう。

 ……まぁ『腕輪』のせいで使えなくはなるだろうけど。


 当然、当時の俺には友達が存在していて、能力に目覚めるとみんな誰彼構わず『どんな能力?』なんて聞くお年頃だ。


 だから俺は、何も話さなかった。


 特にわからない能力にでもしておこう、と心に誓った。


 だって、かっこ悪いだろ?


 『慣れ』なんて誰がかっこいい能力だと思う?


 そこで、だ。


 あいつが現れた。


「よぉ少年。

 お前、『能力』はなんだ?」


 夏の暑い中、ライダースジャケットを来た変な女だったことは今でも鮮明に覚えている。

 俺はそんな怪しい女に相対して、


「は?」


 当然のように意味がわからなくなり、思考停止した。



☆☆☆☆☆



「ん?

 まず、質問いいっすか?」

「俺の幼少期に関して質問でもあるのか?

 ちなみに成績も特にいいわけでもないし、運動も飛び抜けてうまかったわけでもないぞ」

「……まぁ、そこらへんも含めての質問っすけど。

 むーさんの『能力』、ほんとにそんな能力っすか?」


 俺が始まりの幼少期を少し話したところ、堂上から質問が来た。

 別に質問をしてはだめ、とは言わないが、こういう時に水を指すかね? 普通。


「俺の昔話に関しては一切の嘘をつかないよ。

 別に知っている人は……もうひとりしかいないけど、断じて嘘ではない」


 周りの人たちもその質問に同意だと言わんばかりに賛同している。


 ……まぁ、知らない人からすればこの話は信じられないか。


 『能力』ってのはそれほどまでに難しいものだからな。


「そこら編に関してはワタクシも証明はできませんが、同じ様な境遇でしたわよ?」


 現に、と宵は付け足して、自身の持っているスマホを空中に放り投げる。

 目の前でスマホを放られた柊は思わずキャッチしそうになるが、一向にスマホは落ちない。


 よく見ると、スマホは空中に浮かんでいた。


「ワタクシも、能力は『自身の手の届くものを掴む』くらいしかできない能力ですし」


 その言葉に、何を言っているのか理解できないという表情のものであふれかえる。

 ……あんまり話したことなかったけど、知らない人からすれば俺らのことってこういうふうに見られているんだ、と思う一瞬でもあった。


「まぁ、別に隠すようなことでもありませんし、そもそも『無体』の人間に『能力』による格差はありませんわ」

「そう言われてみれば、『強化』とか『炎』とかわかりやすい超能力のやつはいないな」


 確かにあの時話しかけてきた女も、ろくな能力じゃなかった。


 なんだよ、『空気を読む超能力』って。

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