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56:でも、遅いわ

 体が宙に投げ出される。

 とっさに『心のチカラ』の強化によって、外傷はない。


 しかし、妙だ。


 先程までの攻撃は、背後への警戒をそらすことを目的としていた作戦。

 本来なら俺は前方に意識を集中させているため、最後の攻撃は明らかなミス。


 そういう『作戦』だった?


 俺が先読みをすることを前提とした作戦?

 ……それにしても博打だ。

 おかしい。


 そろそろ体が落下を始める。

 体勢を整えながら、みんなの方を確認する。


 みんなは俺のことを警戒しながら散り散りになっている。


 狙いを分散させることによって、またさっきのように攻撃のチャンスを?


 先程の攻撃で俺は無傷。


 しかし相手には既に三人も退場者が出ている。


 残りの人数は六人。


 このままのペースで行けば俺に攻撃を与えたとしても、単純計算で後一回のみ。

 先程のような作戦はそうそう取れない。


 それに、残っているのは、堂上、柊、会長、被瀬、美加久市さん、後知らない人(女子)。


 普通、人数的に有利だったらその人数を維持するように戦うのではないか?

 こんなに早く三人もちらしてしまっては大きく不利になるのでは?


 それに、戦うことのできる能力を持っている人が少ないように見える。

 美加久市さん、柊、堂上はどれもが攻撃的な能力の持ち主ではない。


 そして、最初の三方向からの炎の攻撃。

 それはあの知らない人の能力で確定だろう。


 攻撃できるのが半分しかいないのに、みんなの目は死んでいない。


 おかしい。


 相手は明らかに何かを狙っている。

 それは確定だ。

 しかし、何を狙っているのか。


 現状俺の知っているもので挙げられるのは、被瀬と会長の攻撃。


 あの二人の攻撃は俺に届く可能性を秘めている。


 しかし、会長の攻撃は俺の強化と『慣れ』のせいでもう食らうことはない。


 なら、被瀬。


 ”俺の必殺技”を未完成ながらも使うことのできる彼女は、あの中で言えば一番可能性のある。

 さっきのこともある、早めの始末しないと。


「そこか」


 被瀬を見つけた俺は、攻勢に出る。


 地面についた瞬間、素早く被瀬の懐に潜り込み、斬る。


 構える。


 抜刀術の構え。

 しかし、刀はない。


 そのまま、地に足をつけようとした瞬間、


 ゾクリ。


 目の前に、何かを感じる。


 抜く。


 ”俺の必殺技”


 空を斬ったはずの俺の手刀は、何かを斬った。

 感触で分かった。


 炎。


 炎を斬った。

 手刀に残る熱さが、それを物語っている。


 そして同時に、俺の目の前の光景が、布を剥ぎ取ったかのように消えていく。


 みんなが散り散りになっていた光景は、もうない。


 そこにいたのは、


「行くっすよ!」

「はっ!」


 堂上と、柊。


 それぞれ武器を持っている。


 堂上が、槍。

 柊が、盾。


 柊が少し前進している。

 堂上は柊に隠れるような位置取りをしている。


 視線が、柊に向かう。

 しかしそれには『慣れた』


 柊に視線を向けながらも、他に集中する。


 周りには誰もいない。

 ということは、一点突破。


 俺がこの二人捌いた後に待っているのは、後四人の攻撃。


 おそらくこの状況を抜けるには、必殺技が必須だ。

 しかし、必殺技はおいそれと連発できるものではない。

 流石に必殺技だと言うからには、一つ一つに貯めがある……



「隙なんて、ない」


 瞬間、納刀。


 その時間は時間にすれば小数点の彼方ほどの時間。


 必殺技を連発できない?


 一撃一撃が強いから隙ができる?


 そんなことはもう発見済みだ。

 現にそれで死にかけたこともある。

 だから、


 ”俺の必殺技”


 二回目が遅いなんてことは、ない。


 呼吸するまもなく放たれた必殺技は、柊の盾に当たる。


 思ったより頑丈だったそれは、ほんの少し抵抗を感じるが、斬れる。


 そのまま俺の手刀は盾を持つ柊の腕に当たろうとする。


 しかし、


「ごめんなさいっ」


 柊は、手を離した。

 盾から。

 それは武器を手放すということと同じ。


 柊は盾の扱いに関しては同学年の中では確実にトップクラスだった。

 聞いたところに寄ると、『風紀委員』との戦闘でもかなり役に立ったということだ。


 だから、その柊が盾を手放す?


 思考が始まりそうになるが、中断する。


 俺の手刀は、盾のみを真っ二つにする。


 ”変則返へんそくかえし


 そこで、俺の振り切った手刀が、動きのベクトルを真反対に変える。

 そして、一歩踏み込む。


 これこそ変則返へんそくかえし


 燕返しとも言うこの技は、よく必殺技として扱われるが、俺はこの技が嫌いだ。

 返しの一撃が必殺だなんて、ぬるい。


 やるなら一撃で仕留めよ。


 そう思っていたが、必殺技で多くの敵を相手にする時、一回一回納刀していては効率が悪いと思い、開発した。

 これは技術ではない。

 単なる筋力。


 必殺の一撃とまでになる速度の手刀を、一瞬で反対の方向に向ける。


 通常なら筋肉が悲鳴を上げる代物だが、『慣れて』しまったため俺にとって問題はない。


 柊は大きく後ろに下がる。


 堂上も同様の動きをしているのか、二人がぶつかって連携が崩れることはない。

 再度振り切ってしまった手刀を、俺はそのままの勢いで、納刀する。


 そう、これはあくまで攻撃を主目的とはしていない。

 納刀するついでに攻撃しているだけである。


「「”俺の必殺技”」」


 おかしい。


 俺の言葉が二重に聞こえる。


 それも、背後から、女子の声で。


 気づく。


 失態に。


 能力を弱められていた。


 柊の能力は慣れた。

 しかしそれは効かないということではない。

 あくまで俺が無視できるということだ。


 そこで柊は、あえて弱く能力を使っていた。


 俺が違和感に思わない程度の出力で、俺の意識を自身に割かせていた。


 しかし、背後の気配は突然現れた。

 流石に俺も背後の気配に気づかないと言うほどではない。


 そう、まるで瞬間移動のように……


 そこで思い出す。


 被瀬は、人の能力をコピーできる。


 だからそれで瞬間移動を。


 思考はそこで途切れる。

 俺は手刀を後ろに強引に向ける。


 体勢が悪いが、気にするな。


 瞬間移動系の能力は、基本的に連発ができない。

 そのため、今回の移動で能力を使っていることは確定。

 次は使えない。


 ”俺の必殺技”


 変則でもなんでもない普通の必殺技が、体勢を崩しながら、被瀬に向かっていく。

 被瀬は構えたまま動かない。


 相殺?


 俺の脳裏にその言葉がよぎる。

 しかし、体勢が崩れていても、俺の必殺技が被瀬のモノマネに負けるなんてことはない。


 被瀬を退場させたとしても、柊と堂上の二人が俺に襲いかかる。

 しかし、そこはお得意の『心のチカラ』の収束によって防ぎきろう。


 ……やけに時間がゆっくり感じる。

 もう被瀬に攻撃は当たるというのに、俺の思考は早まっている。


 なにかに、疑問を感じている?

 なにかだ。


 俺の頭は、何かに引っかかっている。

 それは、何だ。


 会長?

 違う。


 柊?

 違う。


 堂上?

 違う。


 被瀬?

 違う。


 美加久市さ……


「くっそぉ!」

「あら、気づいたのね。

 でも、遅いわ」


 俺の手刀は、空を斬る。


 被瀬の『幻影』を斬った。


「”俺の、必殺技”」


 その言葉は、俺の背後から聞こえた。

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