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39:もしそうなったら申し訳ないけど、泣きを見てもらうわ

「ということだ」

『何を話すのかと思ったら、どういうことですの?』


 校長と話した夜。

 俺は宵に電話をかけた。

 宵は何やら肌のお手入れをしているとのことだったが、そんなことは電話しながらでもできるだろうと話をした。


 その反応は、当然ながら困惑。


「あぁ、確か宵は校長……膳材流と絡んだことがなかったか」

『存在自体は知っていますけど、ワタクシは実際にあったことはなかったですわね』

「……ん?

 でもこの学校に来るときに話はしたんじゃないか?」

『……会った記憶がないですわね。

 集会では見た気もしますが、顔が思い出せないですわ』


 その言葉に、少し考える。

 宵がここで適当なことを言うということはありえない。

 だからそれは宵の方に問題が在るか、


「校長の能力かもな」

『……どういうことですの?

 聞いた話では存在の操作、としか分かっていないとばかり……』

「あの人の能力は異常だよ。

 おおかた、自分の存在を記憶されないものに書き換えているだけだと思う」

『……ってことは、ワタクシは今後校長のことを記憶することが難しい、そういうことですか?』

「そうなるな。

 こっちから解除は基本的にできない」


 校長の能力は強い。

 あまりにも強すぎる。

 校長のことを知っているのは、『無体』創設前だったから、俺も幼かったために本人から聞くことができただけだ。


「でも、絶対危害は加えない人だ。

 それだけは安心してもいい」

『それだけ言い切れる、ということで信頼はしますけれども……。

 それで、その人の発言がどうしたんですの?』

「そうか、本題そこだったわ」


 これでは校長に関しての話を舌だけになってしまう

 別にそんなことで電話したわけではないので、本題に移る。


「あの校長が、平等である校長が、俺にヒントを渡したんだ。

 恐らく、これは無視していいものじゃない。

 それに、俺らはきっと何かを見落としている」

『見落としている、ですか?

 私に限ってそんなことはないとは思いたいですが……』

「でも、校長、膳材流はヒントを出した。

 それは俺らが不利だということだ。

 あくまで膳材流は平等を優先する」

『それで、なにか思いついたんですよね?

 なにか思いついたから電話したと思うのですが』


 俺の言葉に、半信半疑ながらも信じてくれた様子の宵。

 良かったと思いながら、


「何も思いつかん」

『は?』

「何も思いつかないんだよ。

 負けることに精一杯だったから、全体が把握できていない。

 そんな状況で考えても何もわからないから、電話した」

『……あなたって人は』


 電話の向こうで額に手を当てている光景が目に浮かぶ。


「で、宵は現状で誰が怪しいと思っているんだ?」

『ワタクシは、あくまで外部の人間の仕業だと考えていますわ。

 この学園内で基本的にウィクトゥスを扱うのは難儀。

 可能性のある先生に網を張っていますが、何も収穫はないですわね。

 学生がウィクトゥスを扱うには、それなりの立場や金が必要ですから、学生のみという線も考えにくい。

 だから現状は校内の人たちに、それとなく不審な人間の出没情報を調査して探している最中ですわ』


 まとめられた内容に聞きやすさを覚えつつ、俺は何か見落としがないか考える。

 というか、見落としと言っても、重大なやつではない。

 あくまで些細なものだ。


 誰も思いつかないような、些細な見落とし。


「……生徒は『神の涙』って言って使ってたよな」

『そうですわね。

 名前を言い換えることによって薬の仕様の罪悪感を消したかったのではないですか?』

「でもさ、生徒に配ってたウィクトゥスって、副作用が限りなく小さいものだったよな」

『……確かに、そうですわね』

「で、前のみんなの反応からして、ウィクトゥスって知られているのか?

 日本で」

『それでも、調べれば十分に出てくる名前ですわ。

 素直に名前を教えないことにしっかりとした理由はつくと思いますが』


 なにか引っかかる。


「円城と小出さんの二人って、その手の薬を受け取った情報って出てきてないんだよな」

『えぇ。

 だから最初は校内を睨んだのですが、学園は経歴から能力まで管理されています。

 申請して調査しましたが、特にそれらしき人物はいなかったですわね』

「で、外部の人間だと」

『そうですわ。

 今の段階でも見つからないということは能力に寄る何かを考えないといけないと思うのですが』


 でもそうしてしまうと、すべての調査が無になってしまう。

 宵の考えていることを察しながらも、頭を働かせる。


「現状『ランキング戦』には大きな動きはないんだよな」

『えぇ。

 薬が出回れば『ランキング戦』は荒れる。

 そう予想していたのですが……』


 情報がない。


 それだけだが、それが一番きつい。

 戦いにおいて情報は大きな意味を持つ。


 それが握れないのは、正直状況はよろしくはない。

 そして、


『確かに後もかわされると何かを見落としている気がしなくはないですわね』

「あまりにも情報が少なすぎる。

 相手が気づいているとしか考えられなくなるが」

『だとしたら相手の動きが上手すぎますわね』


 『無体』一の情報屋の宵は、単純に悔しいだろう。

 学園内で足りない人員でやっているとはいえ、現状はまるで手のひらの上のよう。


「……なんでこんなにうまく立ち回れているんだ?」

『どういうことですの?』

「いや、相手の立場だったら、この状況になることがおかしいだろ。

 薬の存在は学校に知れ渡っていない。

 宵の動きはあくまで俺らが何も知らない体で行動している。

 裏切り者?

 いや、それだったら宵がわからないわけがない」

『情報を違う形で仕入れている?』

「能力だとしたら俺が理解できる。

 そして校長の『もうすぐ』って発言。

 来ないとは言っていない。

 むしろ来ることを前提としているような言い方だ」


 無言。

 俺も宵も考えている。

 様々なパーツが揃っていく。

 何もわからない、ということが分かった。


 後は校長の発言と、俺らの動きの整理。


『もしかしたら……』

「なにか分かったのか?」


 宵の明らかに何かを思いついた顔。

 それは何か理解できない話を思いついたときのような声。


『もしそうだとしたら。説明が付きますが、それでもワタクシがたどり着かないなんて……あぁ、だから『神の涙』なのですね……』


 宵の独り言が始まった。

 俺は電話を切らずに、耳から離し、自室の窓から空を見上げる。


 暗い空だ。


 『心のチカラ』が使えればもっと満点の星空だろうに。


 でもこれはこれでいいものだ。

 暗い空は見えないから照らそうと思う。

 見えればその必要さえなくなってしまう。


 でも、見えない者は見えるようになりたいと願う。


『壱』


 電話から、俺を呼ぶ声が聞こえる。


「なんだ」

『明後日。

 動きがあるとすれば』

「そうか」

『もしその最中にワタクシの『縛り』が解けたら、敵だと思う者全員やってくださる?』

「いいのか?」

『えぇ。

 もしそうなったら申し訳ないけど、泣きを見てもらいますわ』


 電話が切られる。


 俺は肩をすくめる。

 かわいそうに思えてきた。


 犯人が。


 これは宵のマジギレが見られるかもしれない。

 そうなったら、


「俺か、止めるの」

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