25:……ほう、君は力を出すのかい?
「真冬ちゃん……」
「茜さん。
今は勝負ですよ」
柊は、会長の背後にいる。
会長は柊と対面している。
柊は、何も仕掛けない。
会長も、何も反応しない。
それは敵意がないから。
いつものように、自然な振る舞い。
それなのに、柊と会長は対面している。
柊から、目が、話せない。
「それはどういうっ?!」
会長の体が、くの字に曲がる。
背後からの回し蹴り。
脇腹に食らう蹴りに会長は反応できなかった。
「ナイス」
「うっわ、その両手……大丈夫?」
柊は俺の姿をしっかりと見るなり、引いた表情をする。
柊がしたことは単純だが、かなり高度なことをしている。
能力の緩急と、完全な未発動、更には能力の拡大発動。
『人の目を引きつける能力』
それしかできない能力に見えるが、その能力の有用性は『クラス戦』で証明されている。
「真冬ちゃんの能力は、なんだ?」
会長の声。
凛々しい声なせいで、やけに通って聞こえる。
「さぁ?」
通常、超能力は一つのことをするしかできない。
『高温』なら温度を上げる。
『感情を強要する』ならあくまで強要……しかも自身のものしかできない。
超能力は意外と用途が狭いのだ。
強化は強化。
弱体化は弱体化。
だから、会長は悩んでいる。
柊の能力は『存在感を大きくする』ものなのか、『存在感を小さくする』ものなのか。
「教えて……くれないかっ?!」
会長の身体強化は恐らく『高温』をうまく利用して副次的な作用としてしているのだろう。
会長が迫ってくる。
しかし、その速度はさっきと変わらない。
そう、全力の速度。
一回見たら、慣れる。
会長は依然俺に向かってきている。
攻撃は基本的に俺しかしていない。
だから、俺を潰すのが得策。
……しっかり考えているが、
「視野狭窄、ってやつですね」
俺は会長の手がこちらに迫る前に、しゃがみ込む。
同時に、会長の足が来るであろう場所に、足を突き出しておく。
会長の能力は、あくまで『高温』
感覚器官が拡張されるとは思えない。
だから、その判断も『強化』の能力者よりも圧倒的に遅い。
「あっ」
会長が俺の突き出しておいた足に引っかかる。
俺に向かって倒れ込んでくる。
このままでは、地面に手をつこうとした会長の能力の餌食になってしまう。
だから、
「せいっ!」
横から柊にタックルしてもらう。
いくら女子とはいえ、体重の乗っているタックルだ。
倒れ込む方向は変わり、
「チェストっす!」
堂上の蹴りが決まる。
体勢を崩した状態での男子の蹴りは普通に痛いだろう。
地面に倒れ込む。
俺たち三人は距離を取る。
「っふふふふ……。
あははははは!」
距離を取り、俺を先頭に、柊、堂上の順で隊列を組むと、立ち上がったのか会長が不敵に笑う。
「舐めていたよ!
君たちの中で邪魔なのは、私の能力を恐れない覆瀬くんだけかと思っていた。
しかし、それは違った」
会長は、先程まで紅く光る両腕は、もう光を失っている。
能力を解除したか?
そう思える光景。
だけど、違う。
会長の体から、陽炎が上がっている。
「三人が、いや三人だからこそ、邪魔なのか!」
俺らは戦うときに、役割を決めた。
俺が時間稼ぎ、兼体勢を崩す。
柊は、隙を作る、
堂上は、能力の解除と、攻撃。
最初は作戦の事情から俺が攻撃していたが、これから先はアドリブ。
「行くぞ」
会長は、早く動かない。
しかし、隙を見せない。
油断が、ない。
「どうするっすか?
あの状態は一番懸念してたっすよね」
「あっちは近寄るだけで勝てるから、仕方がないよね。
カウンターできるなら、攻撃をしない」
堂上と柊の話のとおりだ。
俺らのやることは、あくまでカウンター。
最初のように攻め立てたのは、相手に冷静さを失ってほしいがため。
冷静さを失い、俺を狙い続ければ、動きになれた俺は体勢を崩すだけだったら両手がなくともできる。
「だから?」
その後ろの二人の様子を、俺は切り捨てる。
「『訓練』より、きつい?」
その言葉に、後ろの二人がヒッと息を飲む音が聞こえた。
「おやおや。
攻め手がないように見える」
そんな話をしている間も、会長は迫ってきている。
あと、三メートル。
「確かに君たちはよくやった。
現に、さっきのような攻撃をあと三発も喰らえば、私の負けだったろう」
『ランキング戦』の敗退基準は超能力を使用したときが基準である。
そのため、生身の攻撃だと、あれだけやろうとも、まだ負かすことはできない。
あと、二メートル。
「でも、ここで私も上級生としての威厳を見せなきゃいけないのでな」
あと、1メートル
両手を失った俺は、構える。
その姿は、抜刀術。
しかし、刀はない。
「……ほう、君は力を出すのかい?」
返答はしない。
会長の手が、少し恐る恐るだが、こちらに近づく。
……もちろんだが、一段階を開放していない。
ハッタリだ。
だけど、この技の恐ろしさを知っているものならば、
ザッ
これほどのすり足でも、
手を止める。
「柊!!!」
俺はあえて大声で後ろの柊に声を掛ける。
柊は会長の横に回り込む。
しかし、距離は少し開けて。
でも、
会長の視線は柊の方を向く。
俺は、突進する。
いきなりの突進に受け止めようとする。
しかし、遅い。
俺は受け止めようとする手を、両手で止める。
もちろん、会長の能力によって、俺の手を更に炭化する。
そして、追い打ちとばかりに、足を払う。
体勢を崩す会長。
「堂上ぃ!!!」
「はいっすぅ!」
堂上は、すでに能力を解除している。
それも、会長が能力を気合で使用した瞬間に、だ。
何故解除したのか?
それは、一度解除することによって、
「っ?!」
もう一度発動すれば、高確率で会長の能力を解除することができるから。
そして、会長の顔を見る限り、成功している。
俺の背中が踏まれる感覚。
そして聞こえるのは、打撃音。
視線を上に上げると、
そこには会長の顔面に膝蹴りをしている堂上の姿があった。




