23:……相手は一年生ですよ?
三日後、放課後、体育場。
そこに俺らはいた。
「おぉ、しっかり来てくれたか」
そんな偉そうなことを宣うのは、会長。
すでに会長は体育場で準備をして待っていた。
俺、柊、堂上は急いで準備をして、体育場に入っていった。
すでに観覧席はかなりの人がいる。
見る限り、学年関係なくいるようだ。
「会長、随分と早いですね」
「いやいや、私はもう三年生だからね。
授業も君たちとは違うんだよ」
「何言ってるんですか会長」
待っていたのは会長だけではなかった。
会長と、メガネを掛けた、長身の男子。
どちらも学生服でなければ体育着ではない、白いマントを羽織っている。
「……だれだ」
「バカ、副会長で『カルテット』ランキング一位のチームの耳道さんだよ」
柊から注意される。
貯信の眼鏡の男子は俺らに近づいてくる。
「あぁ、はじめまして。
知らない人もいるみたいだから自己紹介すると、僕は耳道甲午。
所属は『ドールメイク』。
よろしく」
「あ、こんにちは。
覆瀬結です」
「堂上協っす」
「柊真冬です」
明らかに俺のためにされた自己紹介。
それに対して、俺らも一応とも言える自己紹介を済ませる。
「ちなみに今日はみんなと授業は同じ時間に終わるはずだったんだが、茜さんが無理言って授業を早く終わらせたんだ。
別に気負いしなくてもいいからね」
「茜さんらしいですね……」
聞きたくなかった早く来た理由を聞かされると、思い出したかのように耳道さんは話す。
「今回僕がいるのは、審判役だ。
本当は教員がやるものなんだけど、今回は『エキシビジョンマッチ』だし、『生徒会』は審判もできるからね」
「よ、良かったっす」
「どうしてだ?」
「どうしてって……。
むーさん、目の前のこの人は現『カルテット』一位のメンバーっすからね……
もしこれで参加するなんて言われたらもう勝ち目がないっすよ……」
そういうものか、と思いながら目の前の男子を見上げる。
……他の生徒よりもやるようだけど、特段やるやつだというふうにも見えない。
能力で押し切るタイプか? なんて呑気なことを考えていると、
「ははは。
そんな熱烈に見られると僕も参加すればよかったかな、なんて思っちゃうよ」
「あ、すいません」
「いや、別に怒ったわけじゃないよ。
……この審判はもしかしたらラッキーだったのかな?」
目の前で笑う耳道さん。
それにつられて俺らも微笑していると、
「私を除け者にして楽しそうじゃないか」
耳道さんの後ろから声が聞こえる。
驚いて振り向く耳道さん。
「な、なんだ茜さんか。
びっくりさせないでくださいよ」
「あぁ、すまない。
別に驚かす目的はなかったんだが、そんなに夢中で話しているとなると少し気になったものでな」
少し嫌味な感じで話す会長。
その姿に耳道さんは苦笑いしながら、
「俺とこの子達は初対面なんですよ。
だから多少なりとも話すのは当たり前じゃないですか」
「だからといって仲良くなりすぎるのも悩みだなぁ。
審判の贔屓が見られるかもしれないぞ」
「そんな事しませんよ、この学生服にかけて」
そう行って耳道さんは自身の羽織っているマントを見せる。
生徒会のみが身につけることのできるマント。
一つのクラスから一人飲みが所属できる『生徒会』。
現在は一年生はまだ所属していないので、8名しか学園にはいない。
「それ、学生服なんですね」
「……確かに学生服に見えないよねぇ?」
「私は好きだがね、このマント風なの」
会長が自身のものをひらひらと揺らす。
確かに真っ白なせいでよくわからなかったが、袖もあるし校章もある。
改めてしっかりと見た、そのデザインに不思議がっていると、
「今日は宜しくおねがいします」
「お、なんか呑気な雰囲気で忘れていたけど、今日は戦うんだったね」
「そうですよ茜さん。
あんまり呆けないでくださいね」
「何を言っている甲午。
私はいつだって全力で戦うさ」
「……相手は一年生ですよ?」
耳道さんの視線は怪しいものを見る目になっていた。
現状を見るだけでは確かに会長の勝利は揺るがない。
だが、会長からすればそうとは言えないだろう。
俺の存在が、彼女の計算を狂わす。
「それじゃあ、準備しようか」
「はいっす」
「わかりました」
耳道さんの言葉に俺以外の二人は頷く。
俺はと言うと、まっすぐに会長を見つめ、声には出さずに、
『かかってきてください』
そう、挑発した。
当然、会長のリアクションは、
……会長、中指はダメですって。
☆☆☆☆☆
場は体育場
今日行われるのは、一方的な力の行使。
観客席にいるものはそれを疑って止まなかった。
A、Bクラスのメンツでさえ、学内最強とされる秋元茜にはかなわないと考えている。
確かに、柊真冬、堂上協の両名は強い。
クラスの中でも力があり、自身の能力を活かす戦い方をしている。
特に堂上は最近になって動きが明らかに変わっているのはクラスでも周知の事実だ。
だけど、それでも。
そんな考えがみんなの中をよぎる。
「それでは、今回は通常の『ランキング戦』のルールに則った上で行われる『エキシビジョンマッチ』です!」
生徒会副会長からの話が始まる。
その内容は、当然のような内容のもの。
そんな話を聞きながらも、勝負の行く末を純粋に見守るものがいた。
被瀬結。
彼女は、この勝負がどうなるかを全く予想できずにいた。
それはあの場にいるたった一人の人間。
覆瀬結。
一文字違いの、隣のクラスのやつ。
そうであるはずだった人間。
被瀬がこの学校に転校してきて、初めて見た時の感想は、
言いようのない恐怖。
自身の持つ能力を呪った日だった。
あれにはかなわない。
だからこそ、知るためにも、強くなるためにも、接触した。
結果は、まだわからないでいる。
でも、わかることは一つ。
強い。
それも、果てしなく。
円城の暴走の時、被瀬は理解できなかった。
一瞬にして、すでに物事が終わっている。
自身の超能力を使用してもなお、知覚ができない。
「それでは、以上の内容で始めます!」
説明が終わる。
被瀬は、彼を見る。
どうやら、前回のような力を出すわけではないようだ。
少しホッとする。
前回からわかったこととしては、円城のときと同じ状態になってしまえば、相手は生きてられない。
つまり、もし彼が何かを思い違えれば、会長は死ぬ。
それだけはわかっている。
だからこそ、被瀬は色々と画策した。
彼の力が何なのか。
また、彼のように強くなるためには、どうすればいいか。
偶然にも開催されたこのエキシビジョンマッチ。
被瀬としては想定外ではあるが、ラッキーでもある。
『訓練』と言う名の地獄。
それを経て強くなれるのか。
本人はそれで強くなったとは言うが、本当なのか、それを確かめることができる。
……もちろん、巻き込まれた二人は少し可愛そうだとは思う。
だけど、その反面、羨ましい。
自身もその中に立ちたかった。
そう思いながらも、
「それでは、はじめっ!!!」
開始の宣告は無情にも始まる。