110:お前らは、二人だ
膨大な心のチカラ。
複数の能力。
理不尽な能力。
それらは全て深奥にも通じる要素。
「もう俺と同格になったってのか?」
「いいえ。
ここまで来たから分かる」
「適わないってか?」
「えぇ」
次の瞬間、被瀬はこちらに向かってくる。
二段階まで開放しているから、難なく対応ができる。
右拳、左拳、隙。
俺からの攻撃。
なんてことない、ただのボディブロー。
だが、俺はその拳を止めた。
「やっぱり」
そうして隙は過ぎ去り、俺は再度攻撃を受ける。
顔を蹴られる。
ダメージはない。
というか、食らってもすぐに再生する。
「前も言ってたけど、あんたの能力は強すぎる」
被瀬からの連撃。
こいつに絡まれ始めてからあった体育の授業。
そこで対峙した被瀬まんまな攻撃だった。
それが少し早くなって、少し強くなっただけ。
対応できないことはない。
「あんたはこっちが隙を見せても、手が出せない」
被瀬の攻撃の威力はだいたい把握した。
別に食らっても問題ないと思い、無防備に受ける。
「それは強すぎるから。
その一段階と二段階の間には、強さの差が隔絶している」
被瀬からすれば、俺がダメージを受けないということは絶望することに等しいはずなのだが、そんな者はお構いなしとこちらを攻撃する。
確かに、被瀬の言う通り、一段階と二段階の間には、大きな力の差がある。
そもそも、一段階というのは、俺が操作する膨大な心のチカラを使って、能力を持たない人間を強化したようなものだ。
それに比べて、二段階は俺の持つ身体能力と、能力を使っているだけだ。
それだけでも、人にとっては最大の驚異になりうる。
「そっと、そっと攻撃するだけだけど、それまでの思考が私からすれば隙だらけ」
「だな」
「それでも、私はあんたに攻撃を通すこそができない」
「だな」
「だから、使う」
でも今の現状は硬直状態。
あちらの攻撃は通らず、こちらは攻撃する暇がない。
「あんたの深奥を」
その言葉とともに、被瀬の体に異変が起きる。
腕が膨らんだ。
風船のように。
すぐにしぼんで、俺に攻撃をする。
ゴッ
明らかに今までと違う音がする。
それは、攻撃をしている音で、
「効いた?」
被瀬の顔は苦しそうだが、おそらくは進化による体の暴走を押さえているのだろう。
それに対して俺は、
「少しな」
「じゃあ」
被瀬の足が、膨らんだ。
そしてすぐにしぼんだ。
次の瞬間、俺の体が、吹き飛んだ。
それは数メートル。
だが、この状態の俺の体が吹き飛んだ。
明らかに異常な現象。
「これで、倒す」
一方の被瀬は、俺に思考の時間を取らせまいと距離を詰め、攻撃を行う。
流石に受け止めきれなくなり、俺も回避や防御を行う。
「良い判断だけど……」
被瀬の体は、不思議な挙動を繰り返す。
まるで、体の仕組みが変わっているかのような挙動は、発生しては収まりを繰り返し、
「くっ」
「そろそろね」
俺の体にダメージを与えてくる。
「さすがは俺の能力」
「どうも」
皮肉に返すが、被瀬の表情は芳しくはない。
それはそうだろう。
生物が行うであろう進化を、この短期間に急激な速度で行っているのだ。
精神が苦痛を感じるのは仕方がない。
「はぁ」
ため息。
それと共に、被瀬の蹴りを俺が掴む。
「何よ。
ため息をついて」
「いや、そろそろ準備が終わったなって」
俺が今の今まで被瀬に反撃をしなかったのは、被瀬の話したとおりに、俺が強すぎるために手加減をしようとすると、隙が生じてしまう、という事もあった。
「被瀬」
「何よ」
「俺の深奥は進化だ」
「知ってる」
「で、今お前がコピーしているのは、その一部の機能のみを真似たもの」
正直、やろうと思えば被瀬を倒すことはできる。
それこそここを多少は破壊してでも、な。
「何が言いたいのよ」
「つまり、だ」
でも、それをやらなかったのは、待っていたから。
宵が、下準備を終えるのを。
体育場の結界越しに見える会場に、宵が見える。
宵は、呆れた表情をして、こちらに手を振る。
それはつまり、この会場の結界を宵が支配し、強度を上昇させたことを意味し、
「俺がいつ、身体能力以外を進化できないと言った?」
俺が、『三段階』を使えるということでもある。
「見ていろ。
これが、俺がしっかりと戦う時の状態だ」
進化。
俺はそれを先取りする存在である。
つまり、俺にできることは将来的に人類ができることである。
「あんた……」
先程から二段階担っているのに出ていなかったマントが、出てくる。
このマントは、俺が本来担うはずの身体が詰まっている。
今の人からすれば未知の内臓だったり、筋肉がここに詰まって、俺の体を逐一最適に組み替える。
これも人類の進化の過程に存在する。
それで、ここから今から引き出すのは、とある機能。
「今は、我慢してくれ。
いずれ、これができるようになる」
複数能力を保つ機能。
人類は、いずれ複数の能力を持てるようになる。
肉体の進化が、そうさせてくれる。
「お前らは、二人だ」
俺は手を合わせる。
『集団催眠能力』
『時間停止能力』
『空間固定能力』
『能力抽出能力』
『人体生成能力』
『物質情報保存能力』
『物質創造能力』
『調整能力』
『対世界能力』
『過去否定能力』
「そして、これからのお前らは、二人だ」
☆☆☆☆☆
「それにしても、色々派手にやってくれましたね」
一週間後。
俺の家。
ここには俺と、宵がいる。
宵は俺の部屋に似合わないゴスロリのドレスを来て、座り込んで俺を見下している。
まぁ、見下されているということは、
「すまねぇ」
「……いつものことなので、良いですが、今回は本当にありえないですわよ?」
俺が寝転がっているということである。
他の人から見れば、俺が看病されているというふうに見えるが、俺のことを知っている人間であれば、まずそれはない、と言うだろう。
それはそうだ。
俺は人類の進化だ。
あの程度の傷なんて即座に治しているから、本来であれば俺は寝込むなんてことはない。
ならば、なんで俺が寝込んでいるかというと、
「ほんと、今回は本当に無茶しましたわね」
「いや、あれくらいのことをやるのならば、致し方ない代償だよ」
俺の体は、進化しすぎたのだ。
俺の体は、確かに進化した。
肉体は強靭になり、最強の体へと変貌を遂げた。
しかし、魂は別だった。
俺という存在は、あるラインで進化を止めている。
それ以降の進化をしてしまえば、俺の存在が進化に耐えきれず、消滅する。
二段階から俺の深奥はそのラインを越えようとする。
自身の手で止めているのだが、完全に押さえ込むことはできない。
一度使えば、一週間は安静にして、俺自身が退化して調整しないと行けない。
だから連続での使用は控えろと言われているのだ。
「それにしても、三段階なんて久しぶりに見ましたわ」
「いつも使ってるんだけどな」
「そのいつも、がだいぶ前でしたから」
三段階。
それは、二段階までは俺が安全に簡単に使用できるものであったのに対して、これは俺も一呼吸用意しないと使えない代物。
その力は、『複数能力の開放』
進化の過程で身につけた複数能力は、既に数え切れないほどになっている。
これを使用することによって、今までウィクトゥス絡みの事件もかなりの被害を押さえることに成功している。
ピンポーン
「あら、来ましたか」
「宅配?」
「そんなところですわ」
俺が目覚めたのは、つい先程だ。
それまで俺は無意識下で存在の消滅を回避するため、生きることを停止し、能力の退化を行っていた。
宵も俺の看病でここに来ているということは恐らく、そこで何か配達を頼んだのだろう。
宵には大変迷惑をかけた。
後でお礼をしなければいけない。
「あら、来れましたか」
「はい、大丈夫でした」
「あの、大丈夫ですか?」
「えぇ。
先程目覚めましたわ」
配達だと思っていたが、何やら話し込んでいる。
……配達のやつと仲良くなったのか?
いや、それにしても声が女の声だ。
どういうことだ?
玄関までの距離のせいで妙に聞き取れない声に、疑問をいだいていると、誰かが家に入ってきた。
足音的に、宵と同じくらいの背丈の女子と……それより小さい子?
「ほら」
宵の言葉とともに、俺の視界に2つの顔が現れる。
「ふんっ、ようやく起きたのね」
それは、被瀬と、
「大丈夫?!」
被瀬によく似た、小学生くらいの女の子だった。
「被瀬と……被瀬……って呼べばいいか?」
表情が緩む。
大丈夫そうだな。
「私?」
「あぁ」
小さな女の子は、自分のことを指差し、ニコリと微笑む。
「どんな名前がいい?」
「……まぁ、お前が本当の被瀬だから、そっちの被瀬の名前を変えるのでもいいけど……」
「まぁ、私はどっちでも良いわ」
「ううん。
今ここにいる被瀬結は、こっち」
「だから、こっちに名前をつけてってか?」
「うんっ!」
「……じゃあ…………
いゆ。
被瀬とは逆さま。
漢字でも、カタカナでもない。
ひらがなで、いゆ」
「……」
「気に入らなかったか?」
「呼びづらい名前ね」
「ネーミングセンスが陳腐ですからね」
「お前ら?!」
「ううん」
「気に入った!」
「むーさーん!
お見舞いに来たっすよー!」
「ムスビ!
起きているのかい?!」
「おおいせくーん!
みんなで来たよー!」
「あら、みんな来ましたわね。
もうちょっとかかると思っていたのですけれど」
「まぁ、一週間も寝込んでいれば、こうなるわよ」
「あの、俺動けないんだけど……」
「そんなのどうでもいいじゃない」
「よくなくない?」
「まぁ、起きていれば良いのですよ、起きていれば」
「遊ぼ!」
「あ、今突撃されると……
今回は少し長めのあとがきになります。
まずは、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
本作は去年の11月から始まり、ここまで少し休止期間がありながらも細く長くやってきました。
大人気作品、とまでは行かなくても、それなりに皆さんに読んでいただき、評価ももらうことができました。
ですが、自分はまだこの作品を色々な人に見てもらいたいです!
総合日間ランキングとか超載ってみたいです!(強欲)
評価ください!
感想ください!
誤字報告ください!(これから少し休むのでそこで見直します)
徐々にお気に入りとか評価とかもらっています!すごくありがとうございます!
ですが、もっと多くの方に知ってもらいたいので、こんなに長い長文になりました!
長い長文とか矛盾していますけど! これからもよろしくお願います!
あ、新作投稿したので宜しくおねがいします!
範馬勇次郎がそのまま異世界転生する、みたいな作品です!→https://ncode.syosetu.com/n1207gm/




