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104/110

104:誰だ、てめぇ

 最初に感じたのは、違和感だった。


 開始の合図から一秒と経たず、距離を詰めて接近戦に持ち込もうかと考えていた。

 だからこそ、いつものように走り出した。


 が、


 俺はなぜか開始位置から動いていない。


 おかしい。

 明らかに俺は動いた。


 ……いや、動いていない?


 距離を詰めようと考えていたが、思い返せば俺は動いていなかった・・・・・・・・


 何故だ。


 そう考える間もなく、背後に気配。

 被瀬が接近してきた。


 被瀬の身体能力は、前回の試合から考えるに一段階の俺と同じ程度と考えても良い。

 それをまともに食らっていては退場の可能性が出てくる。


 受けに関しても、前回の戦いから避けたい。


 素直に避ける。


 攻撃の気配は、後頭部。

 膝を折り、しゃがむ。

 接近戦はこちらも望むところだが、あちらに有利な状態で始めたくはない。


 距離を話そうと前に体重を掛けると。


 景色は変わっていた。


 それは、少し前の景色。

 ちょうど、回避しようとしたタイミングの景色。


 は?


 これには惚ける。

 だが、そんな時間はない。


 俺の後頭部に衝撃が走る。

 とっさに前に体重を倒し、衝撃を少しでも和らげる。

 勢いにプラスして自分の動きを加えることによって、距離を取る。


 その少しの間に、考える。


 何が起こった?

 今、何故俺は攻撃を受けた?


 回避したはずだ。

 回避してから、距離を取ろうとした。


 けど、俺は動かなかった・・・・・・


 自分の思考と、記憶にある行動が噛み合っていない。

 不自然。

 違和感。


 そんな感情が自分の中に広がる。

 だけれども試合はまだ続いている。


 距離を取ることを許したくないのか、移動している俺の横に現れ、拳。


 受け止め……


 いや、受けよう。


 拳を受け止めようと出した手を、止める。

 すると、またも違和感。


 俺の手は、出す前の状態になっていた。

 そこに、違和感。

 そして、拳が俺の顔面に突き刺さる。


 しかし、受けると決めていたため、またも衝撃を和らげる。


 先程と同じく、衝撃とは逆の方向に移動することによって、ダメージを軽減する。

 今回は事前に用意していたから、ダメージは殆どない。

 だが、その分移動の距離は大きくなるため、大きく距離を取れる。


「……なめてるの?」

「何がだ」


 そこで追撃は行われない。

 正直、この現象が理解できないので、こうやって話しかけてくれるのは良いのだが、俺の必殺技が怖い。

 あれを喰らえば流石に俺でも退場してしまう。


 だからこそ、前回は技そのものを止めた。

 けれど、今のやり取りでなんとなくだが、受け止めるという行為や、避けるという行為は、だめなのだろう。


「さっきから戦う気はなくて、私の事をおちょくっているの?」

「別におちょくってなんかいない。

 被瀬が使う能力がよく分からなくてな」

「私の能力?

 そんなの知っているじゃないの」


 何が起こっているのかは不明だが、俺が避ける、受けるという行為をすると、それをしていない状態にされる、といったところか?

 前回の戦いでも、受けではないが、俺の行動を指定ない状態にされた。

 だからこそ、負けてしまった?


 ……それにしても、今の話し方は元の被瀬っぽい。


 二重人格かなんかか?


「いやいや、それ以外にも能力使ってるじゃない?

 どんな能力を使わせてもらってるのかなぁ、って」

「……?

 今は能力を借りていないわよ?」


 目の前の被瀬は、今まで通りの被瀬。

 それは先ほどとは違い、確信を持って言える。

 だけど、なんだろうか。


「……じゃあ、なんで俺が避けれたり、受けれたりできないんだよ?」

「あんたがしてないからでしょ? そんなの」


 話が、噛み合っていない。


「ちょっと、聞いてもいいか?」

「なによ?」

「いやなに。

 お前さ、俺が何もしてないように見えた?」

「っ?!」


 被瀬は構える。

 それはまるで、俺のセリフが『今まで何もしてないように見せていただけ』みたいなセリフに聞こえているみたいだ。


 それはおかしい。

 俺は何らかの能力によって、自身の意図しない状態にさせられている。

 それは明らかに、目の前の被瀬の能力に寄るもの、としか考えられない。


 というか、おかしくないか?


「別に何もしてないよ」

「……嘘」

「……さぁ?」


 こいつは能力の崩壊を起こしているはずなんだぞ?


 能力という個人が崩壊しているんだ。

 その副作用は体に現れていて、しっかりと確認した。

 けれど、今、目の前にいる被瀬結は、明らかに普通じゃないか?


 いつもどおりに、普段通りの被瀬結がいる。


 柊真冬が心配をしているような被瀬結の姿は、ない。


「それなら、やられる前に倒すわ。

 何を考えているのかはわからないけど」

「やれるもんならやってみろ」


 いつも通りの対応。

 下手に刺激するのは悪手か?


 迫る被瀬に、集中する。


 少し、検証だ。


 やわら


 力を以て制するのではなく、力を利用して制する。

 体の力を抜き、力を受け入れることができる状態にする。


 正直、攻撃自体はどこからでも受けても良いのだが、手を出す。


 まるで、拳を今からこれで受け止めるかのように。


 その瞬間。


 目の前に出された手が消える。


 いや、正確に言うと、俺は手を下げていた。

 思い返しても、俺は手を前に出してない。


 記憶にはっきりと残っていて、事実である。

 まるで体を動かないように操られていたかのような、そんな感覚。


 でも、


「くっ!?」

「どういうことだよ、ほんと」


 拳は腹に食い込み、俺を倒さんと押し込まれる。


 その瞬間、力を受けた体が、その力を利用して一番最適で最短な反撃を行う。

 下がっていた手を目に突き出す。

 その姿はまるで吹き飛ばされる前の体勢。


 しかし、出した手は掌底となり、被瀬の顔面に向かう。

 攻撃に対して行っている、ということで無拍子が折り混ざり、被瀬からすれば攻撃した瞬間に衝撃が来た、というところだろう。


 そのまま被瀬は後ろにふっとばされる。

 さすがは柔。

 攻撃に対する対応は素晴らしい。


「……あら、何をしたのですか?」

「誰だ、てめぇ」


 吹き飛ばされた被瀬は、器用に着地すると、こちらに顔を向ける。

 だが、それは先程までの被瀬とは違う。

 試合が始まる前の、被瀬だ。


 二重人格、本当かも知れないな。


 と思っていると、被瀬の顔の違和感に気づく。

 普通、攻撃を受ければその部位が少なからず変化する。

 赤くなったり、汚れが着いたりと程度は様々だが、痕跡は残る。


 ましてや今のは防ぎようの無い反撃。


 だが、


「……誰だ、とは失礼ではないですか?」

「……どういうことだよ」


 思い返す。


 俺は確実に攻撃を……していない?


 俺は攻撃を受け、反撃をしたはずだ。

 元に俺に先程の拳のダメージは無い。

 だけれども、俺が反撃した記憶がない。


 俺は攻撃を受けて、どうしたんだ?


 あぁ、地面に受け流したのか。

 思い出し、確認する。


 が、違和感。


 いや、おかしい。

 記憶では確実に折れは反撃をした。


 しかし、思い返せば俺は反撃をしていない。

 おかしい。


「さぁ、もっと戦いましょう?」

「俺としてはお前と戦いたいな」

「……無理ですよ?」


 目の前の被瀬は優雅に微笑む。

 その様子はまるで、どこかの育ちの良いお嬢様を連想させる笑い方だ。


 まるで被瀬ではない。


 被瀬に対して使う言葉ではないと思いながらも、その言葉が一番あっている。


「……無理、ってのは随分釣れないなぁ」

「……は?

 何言ってんのよ、あんた」

「……戻ったか」

「戻ったかって……

 試合中にどこかに行くわけないでしょう?」


 被瀬が戻ってきた。


 俺らの知っている被瀬に、だ。


 俺の言葉に気持ち悪そうにしている被瀬だが、警戒を緩めない。


「ほら」


 そう、こういうことだ。


 今、距離を話していたはずの被瀬が俺の背後に現れ、髪を掴もうと手を伸ばしている。

 捕まるわけには行かない。

 けれど、避けるという行為は何らかの能力によって不可能。


 だけど、さっきの柔はできた。


 なんの差があるのかは分からないが、2つの事を同時にやって見る。


 一つは、回避。

 顔を横にずらすことにより、掴みから逃れる。


 2つ目は、震脚。

 体操のものではなく、地面を踏みしめることにより、行動に力を乗せることができる。

 けれど、今回はそれが目的ではない。


 震脚により、地面を揺らす。

 コツがいるのだが、少しだけ体勢を崩すのに有効だ。

 もし回避できなくても、これができれば対応できる可能性が上がる。


 そして、能力は、


「くそっ!」


 ダンッ!


 発動しない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  前回の戦いでも、受けではないが、俺の行動を指定ない状態にされた。 →していない 今、距離を話していたはずの被瀬が俺の背後に現れ、髪を掴もうと手を伸ばしている。 →離していた
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