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1:あんた、私と一緒にランキング戦に出なさい!

「あんた、私と一緒にランキング戦に出なさい!」

「嫌です」


 即答だった。

 その言葉に目の前の少女の顔が凍りついたのを感じた。

 しかし、俺はそれ以外の答えをするつもりもなかった。

 というか、なんで俺はいきなり教室に入ってきた少女に話しかけられているのだろうか……。


 そうだ、俺は放課後、教室に残り一人で白紙の『進路調査書』を眺めていたんだ。

 クラスで俺だけまだ出していなくて、流石に見かねた先生が『出すまで返さない』なんて言うもんだから意地でも書いてやらないと心に誓い、窓の外を眺めていたのだ。


 そうして後三十分で完全下校時間だというところで、教室の戸が開いた。

 てっきり呆れた先生が教室に来て明日までに必ず書いてこい、というのを期待していたが、現実はそんなに甘くはなかった。


 そこには、少女がいた。


 体躯は小学生と見間違うほど。

 その長くツインテールにされている金髪は、夕焼けに染まって紅く見える。


「あっ」

「は?」


 まるで探し人を見つけたようなその少女の言葉に、俺は一文字で返す。

 少女は俺の席の前に来たと思ったら、腕を組んで一言、


「あんた、私と一緒にランキング戦に出なさい!」


 と言ったのだ。

 ……回想短くないか?

 俺はあまりにも短い回想から、この状況に対するヒントを見つけられないまま、少女のことをじっと見る。

 どうやら目の前の少女は俺が断ったことにご立腹のようだ。


「はぁ?!

 あんた何も話を聞かないで断ったわね?!」

「いや、しっかり話を聞いて断ったんだよ」

「それは私の誘いの言葉を聞いたって意味でしょ?!

 それはしっかり私の話を聞いていないってことなの!」


 ……揚げ足を取ってみたが、当然のように逆効果だ。

 ふざけてるともっと怒らせるな、これ。

 俺は少し顔つきをしっかりとし、


「あー、申し訳ない。

 別に悪気があったわけじゃないんだ」

「……ふん、いいわ。

 特別に許してあげるから、私の話を聞きなさい」


 少し偉そうだが、その小さな体躯で話していると少し面白い。

 少女は目の前の席に座り、俺と対面する形になった。


「まず、あんたは私のことを知らないと思うから自己紹介ね。

 私は被瀬結カブラセユイ

 1ーA……隣のクラスよ、宜しく」


 いきなり自己紹介してきた。

 正直、俺は一方的に知っているのだが、そこを茶化してしまってはだめだろう。


「俺は覆瀬結オオイセムスビ

 見ての通り、1ーBの生徒です、宜しく」

「知ってるわよ」


 すると、重ねるように目の前の少女……被瀬は話し始める。


「出席番号は3番、身長は176、体重は62、好きなものは睡眠、嫌いなものはシチュー、得意科目は数学、苦手科目は社会、自転車通学で一人暮らしをしている……」


 つらつらと話していく俺の情報。

 当たり障りのないことしか情報を集めれていないように見えるので、スルー。

 体育とかで一緒だから誰かから聞いたのかな、なんてことを考えていると、


「それで所持している超能力は、『不明』

 一部では身体強化、身体変化なんて言われているわね」


 少し気になる言い方をした。


 俺らのいる学校、『杉崎第一高校』は超能力を持っている人間しか在籍することができない。

 ……まぁ、今の時代超能力を持っていない人間のほうが超貴重なんだけど。


 しかし、何事にも例外は存在する。

 俺、覆瀬結は、世間的には『超能力者』ではない・・・・


 世間的に言う『超能力者』というものは、現実では起こすことのできない超常の力を持っているもの、というものを指す。


 その能力は基本的に中学生や小学生のときに発現するもので、使用するときは特殊な力場を形成する。


 よって、小中学生のときは超能力者であろうとなかろうと『首輪』というものをさせられる。

 これは超能力によって発生する力場を感知し、超能力の覚醒を監視するものである。

そして超能力の使用が確認され次第、調査、判明され、今後はその超能力を持って生活していくことになる。


 ちなみに、能力が使いこなせるようになると、首輪からブレスレットに変化し、緊急のときは一時的に使用を許可されるようになったりする。


「それ、間違いじゃないの?

 俺、無能力者だよ」


 表情を崩すことなく、間違いを指摘するくらいの気持ちで話す。

 俺のその言葉に被瀬はニコッと笑って、


「いえ、絶対に違う」


 そう断言した。


 ここで話を戻す。

 先程、俺、覆瀬結は『無能力者』である、といったが何故、この学校に在籍することができているか、という話だ。


 端的に言うと、俺の能力は『分からない』のである。


 俺は体から常に超能力者としての力場を発生し続けている。

 しかし、何も変化が起きない。

 つまり、現状での俺の超能力は『何も起きない』超能力であるらしい。


「あなたには超能力が絶対にある。

 それは、私が断言できる」


 だからこそ経過観察の意も込めてこんな学校に来てしまった、というわけなのだが、いかんせん他の生徒からすると俺は侮蔑の対象らしく、『無能力者』なんて呼ばれている。


「なんでだよ。

 俺が学校でなんて呼ばれているか知ってるか?」

「『無能力者』そう呼ばれているわね。

 ったく、周りのそうやって呼んでいる奴らの目は節穴なのかしらね?」


 俺はその言葉に被瀬が何を知っているのかわからなくなった。


 まぁこう言ってはなんだが、俺は俺がどんな能力を持っているか知っている。

 もちろん『何も起きない』超能力では決してない。


 もし俺がそれを大々的に言えば、きっとこの扱いも多少は良くなるのだろう。


 だけど、俺は別に今の生活に不満がない。


 超能力を使う授業は基本的に見学していても文句を言われない。

 超能力の話題に無頓着でも別に気にされない。

 周りは俺より優れていると思っているからか、割と優しくされることがある。

 それにいじめられているわけではない。


 幸いにも身体能力はそこそこにいいし、基本的に私情で超能力を使うのは禁止されている。


 だからこそ、俺はこの今の安定した温い生活を続けるために白を切る。

 もし超能力が本当に必要になったその時までは公開はしないでいるためにも。

 

 そう思った瞬間、被瀬の体がブレる。

 そして、次の瞬間には、俺の目の前に小さい拳があった。


 寸止め。


 それに気づいた瞬間、少しホッとした。

 そして俺は同時に気づく。


「あんた、力を”隠してるのか”」




 杉崎第一には『無能力者』は入学してから最近まで一人だけだった。

 そして入学から二ヶ月が経とうとしている頃、遅れてやってきた入学生がいた。


 名を、被瀬結カブセユイ


 そう、俺の目の前にいる少女のことだ。

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