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ボクと彼女の異世界譚   作者: 現夢いつき
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一章 小鳥は翼を広げる 2ー2

「昨日も話したように零ノ国は商業王国だ。そうなると当然、その王都であるここは、『ルインストウ』屈指の商業都市になるわけだが、確認しておこうか。ここで気をつけることは?」

「確か……ルシラさんから離れないこと、だったっけ?」

「そ、正解。でも、ルシラ『さん』は不正解だ。昨日言っただろ? オレはそういう堅苦しいのは嫌いなんだよ」


 商業と言えば、零ノ国の王都というくらいには有名なここは、確かにどこの王都よりも発展していると言えよう。綺麗に整備された路に、ところ狭しと並んでいる露店。活気あるかけ声が絶え間なく聞こえてくる。


 しかし、それはあくまでも一面に過ぎない。


 商業が盛んであるからこそ、貧富の格差は拡大しやすい。四ノ国『オブザック』は農業国家であるが、比較するとその差は一目瞭然である。裕福な者はとことん裕福だし、貧困に苦しむ者はとことん苦しんでいる。

 そのため、表通りを外れて裏路地にでも入ろうものなら、喧噪は瞬く間に消え失せ、命の保証もなくなる。裕福な者が歩けば、そいつは歩く身代金へと変貌する。

 だからまず、ルシラはキズタに離れないことを固く誓わせたのだ。誤って迷って、裏路地にでも入られては堪ったものではない。


「んじゃあ、まずはどこに案内しようか。先に行って置くが、露店は昨日好きなだけ見せたから今日は行かないぜ」


 ルシラの目がキズタに突き刺さる。

 昨日通った通りは本当に素晴らしかった。肉を焼くいい匂いは彼の空腹を誘い、展示してある武器はまるで宝石のように一四歳の少年の瞳には映った。黒っぽい、けれども綺麗な輝きを放つ石は彼の興味を大いに引いた。

 結果、行く先々においてキズタの好奇心は爆発し、知識の亡者よろしくルシラにせまった「あれは、何か」と。

 姉御肌のルシラは最初こそは、面倒臭がりつつもしっかりと説明していた。しかし、怒濤の質問責めにあったため、一七時を知らせる鐘が鳴った時にはもう「アンに教えてもらえ」の一点張りだった。


「あ、あははは……」


 不満を覚えたキズタであったが、昨日のことを思い出すと苦笑いを返すことしかできなかった。むしろ、昨日の今日でこうして街を案内してくれる彼女に対して感謝の念を覚える。

 ルシラと彼はどこに行くかと話し合った。だが、話し合うと行っても、キズタはこの街についての知識がほとんどない。自然、彼は彼女の言ったことに対し、相づちを打つだけの存在になった。


 そうこうしているうちに、鐘は八時を告げた。


「あ」


 それと同時に、顎に手を当てて考えていたルシラは何かを思い出したように言った。


「そういえば、少年。アンタ、ここの時計塔行ってねえだろ」

「ああ、そういえば行ってないな」

「じゃあ、決定だな。当たり前過ぎて失念していたけど、基本中の基本を見に行かねえってのはダメだな。アレはいい観光スポットであるのと同時に、この国にしか存在しないんだからさ。見ておいて損はないぜ」


 ここだけだとか、今だけという言葉に人間は弱い。それはキズタであっても例外ではなく、彼の期待感を喚起させた。


「ちなみに、ここからでも見ることはできるぞ、ほら、あれだ」


 彼女の指さす先には、一つの大きな塔が存在している。まるで天まで貫かんとしているかのような形。


「あれが、時計塔?」


 立派な姿。しかし、それは時計塔と呼ぶにしてはあまりにも巨大である。

 時計塔とは、本来時間を人々に提示するもののはずだ。だが、ここの時計塔にはどうやらそういう存在ではないらしい。


「そうだぜ。どうだ、かなりでかいだろ? 何せこの王都で一番でかい建造物だからな」

「いや、でかすぎだろ。これだとボク達は何にも見えないだろうに」


 何百メートルあるのか分からない時計塔だ。これで、人の目に付く場所に時計が設置されていたら、それはそれでがっかりである。きっと、札幌で見た時計塔の比ではないだろうと彼は思った。肩透かしにも程がある。


「オレ達が見る? どうして? そんなもの必要ないだろ? わざわざオレ達が時間を知ろうとしなくても、勝手に分かるんだからさ」

「そりゃ、そうだけど」

「第一、オレは時計の詠み方なんて知らん」


 それは流石に……とキズタは思ったが、よくよく考えたら彼もまた時計の見方が分からなかった。もちろん、小学校をしっかりと卒業している以上、彼の元いた世界の時計の見方は知っている。だが、こと『ルインストウ』のとなると話は別だ。

 言語はアンの使い魔になった結果、分かるようになったのだが、それも完璧ではない。正確には話す言葉は理解できるが、書き言葉となると全く理解できないのだ。

 そもそも見たことのない文字が使用されている。

 最低限、数字は覚えないとまずいと思ってはいるが、まだ本格的に実行していなかった。


 とはいえ、円形のそれであれば数字が分からなくても、読めそうといえば読めそうである。


「ちなみに、どんな形状なんだ? やっぱり円形?」

「円形? は? 何言ってんだ、少年?」

「いや、だから時計の形だけど……」

「そもそも時計に形なんてねえよ。あれは詠むものなんだからさ」


 言っている意味が分からないまま、二人は時計塔に向かって歩みを進めた。想像しているものが違っているというのは明白だったため、これ以上話し合っていてもあまり意味はない。それならば、現物を見た方が速い。それが二人の共通認識だった。


 百聞は一見にしかず。――一昨日、キズタが学んだことである。


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