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精霊と契約します


 彼女の名前はウンディーネ。水の精霊でした。

 やはり、私を呼んでいたのは彼女のようです。


「それで、あなたは私と契約したいと?」


『…………(コクコク)』


「……えぇと、私としては嬉しいことなのですが……いいのですか?」


『…………(コクコクッ)』


 なんとか話を聞いた感じだと、私の技能『精霊の加護』を感じ取ったウンディーネは、私と契約したいと思い、精一杯呼んだそうです。

 そして私が来たのはいいのですが、彼女は極度の人見知りらしく、十分な会話も出来ない状況になってしまっている。


 ちなみに、ここまでの情報を聞き出すのに一時間以上かかりました。

 人見知りも極めたら凄いんだなと、感心したのは内緒です。


 話を戻します。


 精霊というのは特殊な種族らしいです。

 完全な魔力体で、ただ存在しているだけでは身体を維持できない。


 だから自然界に流れる魔力に留まり、ついでに自然環境を正しているらしいです。

 すなわち、自然界が今も崩壊していないのは、全て精霊のおかげということになる。とウンディーネは教えてくれました。


 それを褒めたら、顔を真っ赤にさせて『ありが、とう……』と言いました。

 いい子ではあるようです。ただ、恥ずかしがり屋すぎるだけで。


「でも、私と契約して、ここら辺の環境は大丈夫なのですか? ほら、精霊は環境を正しているのでしょう?」


『…………それ、は、大丈夫。……呼ばれていない時は、ここにいる、から』


 呼ばれた時のみ、ここを離れる。

 逆に呼ばれていない時は、元の住処で待機している。


 それが契約精霊というものらしいです。

 なので、契約したとしても周囲の環境が変わることはなく、私が気にすることはないとウンディーネは言いました。


「そうですか。では、お願いします」


『…………え……いい、の……?』


「力を貸してくれるのでしょう?」


『…………う、うん……うちに、できることなら……』


「ならば、私からお願いしたいくらいです」


 私は今、一人です。

 しかも、ここは異世界。私の知らない世界です。

 誰かと一緒に行動したいと思うのは、おかしいことではありません。


「それで、契約というのはどうすればいいのですか?」


『……えっと、名前をい、言えば……それで大丈夫、だと思う』


「何とも曖昧ですね」


『……ご、ごめんなさい! …………うち、人と契約するのは、初めてで……』


「ああ、違います。ウンディーネさんを責めているのではなく、契約方法に、です。どうして名前を言い合うだけで契約が可能なのでしょうか。不思議でなりません」


『……それ、は……多分、魔法が何とかしてくれるんだと、思う』


「魔法、ですか。何とも便利なものなのですね」


『……で、でも、過信はダメ。えっと……言うほど便利じゃない、というか……その、魔法でも出来ないことは、沢山ある、から』


「……ええ、わかりました。ふふっ、ウンディーネさんは優しいですね。こんな私にも色々と教えてくれるのですから」


『……えっと、その…………あうぅ……!』


「すいません。からかい過ぎました。──では、契約するとしましょう」


 私はウンディーネに近づき、手を差し出します。

 彼女はそれに応え、手を重ねてきました。


 ……よかった。ここでまた逃げられたら、どうしようかと思っていたところです。


「私…………あ〜…………」


 そこで私は止まりました。

 そうです。一番重要なことを忘れていました。


 ──私の名前は何でしょう?


 地球にいた時は白上京子(しらかみきょうこ)でした。


 ですが、その人物はもう死にました。


 私はもう新しい世界に住む、異世界の住人。

 過去の名前を引き継ごうとは思いません。


 であれば、今ここで私の名前を決めてしまいましょう。


「私『リーフィア・ウィンド』は水の精霊『ウンディーネ』との契約を願います」


 葉と風。どちらもエルフのイメージから取った安易なものですが、私の名前として認識していれば問題はないでしょう。


『……えっと……承諾、します……!』


 途端に私の中に、私のものとは別の魔力が流れてきました。

 水のような清らかでおとなしい、とても心が安らぐ魔力。

 これがウンディーネの魔力なのでしょう。

 私とウンディーネが強く結ばれた。そんな気がします。


『……すごい。こんな濃厚な魔力……初めて、感じた』


 どうやら彼女の方にも私の魔力が流れたようで、その特殊な魔力に目を見開いて驚いているようでした。


『…………リーフィア、は、何者?』


「私はただのエルフですよ。少し特殊な生まれ方をしただけの、ね」


『…………すごい人、見つけちゃったかも、しれない』


「買い被りすぎですよ。……よし、では私は行きます」


 私はウンディーネに背中を見せ、泉から出ます。

 風の魔法で足に付着した水を乾燥させ、適当に放っておいたブーツを持ちました。


『…………あ……あの、できれば、うちのこと……忘れないでほしい。水に関係することなら、何でも手伝うから……』


「忘れるわけないです。あなたはこの世界で初めて出来た、私の友人なのですから」


『……友人…………うんっ! その、嬉しい……!』


「私も嬉しいです。では、何かあれば、その時は頼みます。ウンディーネ」


 親しみを込めて呼び捨てでウンディーネのことを呼ぶと、ハッとした表情で私を見つめてきました。

 そして、恥ずかしそうに、それでも精一杯の笑顔を浮かべて、彼女はこう言います。


『……任せて、欲しい…………えっと、リーフィアっ!』

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