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帰らせてください

 何ですか。

 ここの人達は思い立ったら吉日というものを信仰しているのですか?


 ……と、開幕から失礼しました。


 ヴィエラさんは説明をするだけしました。

 私の言葉を聞く前に手を引き、あっという間に森に連れて行かれました。ほぼ寝かけていた私は突然のことに反応出来ませんでした。

 何故準備の時間も与えてくれないのですかこの人は。


 ……え? お前は収納があるから準備いらないだろって? イヤですねぇ、心の準備ってものがあるでしょう。

 部屋に戻って鍵を掛け、強行突破で壊されないように部屋全体を強化し、ベッドに潜り込んでやる気を充填。これでやっと私の準備は整うのです。決してそのままバックレるとか考えていません。ええ、決して。


 仕事をしないなんてありえませんよね。真っ黒の仕事場で鍛えられた私の体は、無理をしてでも仕事をこなそうとする肉体へと進化しています。仕事をしていないと震えて発作が起こります。怖い症状ですね。ちなみに私の仕事は寝ることです。


 なので、今やっていることの方が仕事ではありません。ありえません。ああ、体の震えが……。


「あの、もう帰りませんか?」


「ん? 何を言っているんだ。まだ森に入ったばかりじゃないか。まだまだエルフの里に着いていないよ」


 帰りたいって遠回りに言っているんですよ。気付いてください。


 とは流石に言えません。言っても聞いてくれないでしょうからね。

 この強引さは面倒です。多分、ミリアさんのせいですね。あの人もあれよこれよと理屈を並べて仕事を回避しようとしているのでしょう。だから、ヴィエラさんは強引に話を進めるようになってしまった。……と、こんなところですかね。


 全てミリアさんのせいではありませんか。

 ちくしょう、帰ったら絶対に引きこもってやります。


 ああ、歩きながら眠れるようになりたい。そうすれば、気持ちよく目的地に着けます。最高ですね。何で神様はそんなスキルを用意していなかったのでしょうか。使えない方です。


 と内心ぐだぐだ言っている間に、私達は元エルフの里に到着しました。

 そこは記憶にある里とは掛け離れていました。全てが等しく焼け爛れており、エルフの死体だと思われるものは炭になって原型を留めていませんでした。

 ……ふむ、本当にミリアさんは里を滅ぼしたのですね。この人達に何の興味もなかったので、この状況を見ても被虐的なことをしたミリアさんに憤りや、恐怖を感じたりしませんが、エグいことをやったんだなぁとだけはしみじみ思います。


「ミリア様、本気で苛々したんだな……」


「わかるのですか?」


「うん、だって、あの方が炎魔法を使う時は、決まって激怒した時だから。それに加えて誰も逃さないよう、里の周囲を確実に包囲した後が残っている」


 言われて見てみると、里を中心に円形のサークル後が出来ていました。

 あの人は考えなしに攻撃する暴君だと思っていましたが、ちゃんと考えて行動できる人のようですね。正直意外でした。

 確実に人を殺す術は、魔王として必要な術でしょう。私だったらそんなこと御構い無しに、超広範囲攻撃で殺し尽くしそうです。もし逃げられても鷹の眼で追跡可能ですから、そこを弓で射殺せば終わりです。

 ……まぁ、そんな場面は来ないでしょうね。来ても面倒なので、本当に必要な時以外は他の人にその役は任せます。


「よしっ、立ち止まっていても何も始まらない。早速調査を始めようか」


「いやいや、待ってください」


 意気揚々と歩き出そうとするヴィエラさんの腕を掴みます。


「何を探すのか教えて貰っていないですよ。調査しようにも、目的の物がわからないのであればどうしようもありません」


「おっと、そうだったね。ごめんごめん。いつも調査は一人だったからさ。そのノリで行こうとしていたよ」


「全く、気をつけてください……」


「あはは、ほんとごめん。……それで、今回探すものだったね。それは──エルフの秘術に関する書類さ」


 エルフの秘術? ……そういえば、出る前にもそんなことを言っていたような気がしますね。


「秘術は超越魔法とも言われているね」


「それはどういったものなんですか?」


「わからない」


「そうで……は?」


「秘術がどんなものなのかわからないんだ。でも、それがあるってことはわかっている」


 存在は確認しているけれど、それがどんなものなのかは知らないエルフの秘術ですか。

 どうしてそんな術の情報が欲しいのか。それを聞いたら、彼女は当然のように言いました。


「勿論、魔王軍のためさ。エルフの魔法の扱いは、どの種族よりも長けている。遥か昔の対戦でも、エルフはその秘術とやらを使って激戦の中、優雅に繁栄を築けてきたと言われている」


「へぇ、凄い術なのですね」


「だから秘術、または超越魔法と言われているんだろう。どんな力なのかはわからないけど、それでも過去の大戦を生き抜いたことだけは確かだ。何かしらの力にはなってくれることだろう。使えるものは何でも使う。だから私は、エルフの秘術が欲しい」


「……なるほど。わかりました。見つかるかどうかはわかりませんが、探してみるとしましょう」


「ありがとう。何かあったらすぐに私を呼んでくれ」


「エルフの生き残りがいた場合はどうしますか?」


「この状況を見た感じ、そんなのはいなさそうだけど……別にどうしても構わないよ。見逃してもいいし、逃してもいい。でも、ミリア様に危害を加えようとしているなら──」


「了解です。その場合は殺します」


 こうして私達は別行動を取りました。

 一時間ほどでしょうか。ずっと秘術に関しての情報を探していましたが、それらしいものは見つかりませんでした。そりゃあ、ここまで完璧に消毒(炎上)していては、どんな書類も灰となっているでしょう。


「あ、そういえば……族長の居た場所はどうなのでしょうか」


 あそこは里の中心にある大樹の中でした。表面は焼け爛れているようですが、もしかしたら中はまだ安全だったかもしれません。

 記憶から抹消しかけていたので、族長のことを完全に忘れていました。


 ともあれ、目的の物がありそうなのは、そこで間違いないでしょう。その中にもなかったら、元からここは秘術に関しての書類を保持していなかった。そう思って諦めることにします。


「ま、そう簡単に見つかる訳ないですよね」


 中は落胆するほど何もありませんでした。

 最低限の生活品と、本当に少しの家具。本棚には何冊か置いてありましたが、どれも秘術や超越魔法という単語は見当たりません。


「……にしても、ここには誰も居ないのですね」


 私は中をぐるりと見渡します。

 ここは比較的安全だったようです。でも、だからこそわかりません。

 ここに避難していれば、何人かは生き長らえたでしょう。それなのに、ここには何の生活感もありませんでした。


 もうすでに避難したのか、それとも他のエルフと一緒に死んだのか。


「どうでもいいことです」


 あの人がどうなっていようと、私には関係ありません。

 もうここにも用はありません。

 興味を完全に失った私は外に出ます。


「──ん、騒がしいですね」


 里の入り口辺りからでしょうか。

 何やら言い合っているような喧騒が聞こえてきました。


「帰りたい……」


 面倒ごとの予感しかしません。

 何も聞かなかったことにして、このまま愛しいベッドに直行したいです。

 でも、それをしたら後でヴィエラさんから何を言われるかわかりません。最悪そっちの方が面倒です。


「はぁ……行きますか」


 足が重いです。

 あっちに行くな。もう諦めて眠ろう。と私のデビルが囁きます。


 ……帰りたい。


 私は同じ言葉を心の中で繰り返しました。

 そして、後にその囁きに負けておけばよかったと私は後悔するのでした。

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