異次元です
「うわぁお……」
裏に積まれた依頼品を見た感想は、それでした。
「こう見ると、ガラクタですね」
「作った本人がいる前で、よくそう言ったもんだ……まぁ、否定はしないがな」
ヴィエラさんが依頼した物は、予想通り兵士の装備品でした。
先程見たような魔法装備ではなく、量産型の平凡な装備ばかりです。
少し心許ないかと思いそうですが、魔王軍の兵士はかなりの数が居るので、いちいち質の良い装備を与えていたら破産します。
だから今回の依頼は消耗品の補充が目的であって、兵士へのプレゼントではない。
これよりももっと良い装備が欲しかったら自分で買えって感じですね。
「とりあえず、これで全部ですか?」
「あ、ああ、頼まれていた物はこれで全部だ。……ほれ」
そう言って渡されたのは、注文品のリストでした。
ズラリと色んな物が書かれていますが、それに目を通せと……?
「まぁ、ここは店主を信じましょう」
つまり、いちいち数を合わせるのが面倒ってことでもあります。
……数合わせはヴィエラさんかディアスさん辺りがやってくれるでしょう──って、ディアスさんは今遠出しているんでしたっけ? となると、数合わせするのはヴィエラさんですか。あの人も大変ですね。
「……にしても、よくこんなに作れましたね」
めちゃくちゃ働くヴィエラさんに感心しますが、この装備品の山を作り出した店主にも感心するべきでしょう。私が見上げるほどあって、これを作るんだと思ったら気が遠くなりそうです。
「俺の弟子達も協力したし、そこまで作るのに難しい物じゃなかったからな。二週間の期間もあったから楽だったぜ」
「へぇ……そこら辺はちゃんと考えられているようで安心しました。これを一日で作れという依頼だったらどうしようかと思いましたよ」
「なんだそりゃ。そんな馬鹿みたいな依頼を誰が出すんだよ」
「…………ですねぇ、それが普通じゃないのが普通ですよねぇ」
「……?」
私が生前に働いていた会社は、そういうところでした。
無理難題を押し付けてくるのは当然、出来ないのであれば大幅な減給を言い渡され、それを達成するために費やした残業時間はお金が出ない。
それが普通だったのですが、この世界では普通じゃない。
そのことに安心した私がいます。
ヴィエラさんの状況は…………あの人が自分で抱えているだけですし、やりがいを感じているので問題ないと言っていたので、あまり深くは考えないようにしましょう。
……え、ミリアさん? あの人はサボって仕事をしていないツケが回って来ているだけなので、単なる自業自得です。
「──っと、すいません。回収しちゃいますね」
「本当に大丈夫か? 今のうちに手伝いを呼んだ、方、が……」
私が注文品の装備を『アイテムボックス』に次々と収納していく様を見た店主は、徐々に声が尻すぼみになっていき、最終的には言葉を無くしてしまいました。
「……? どうかしましたか? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
「い、いや……なんでもねぇ。流石は魔王様の従者だと思っただけだ」
「意味がわかりませんが、褒められていると捉えておきます──と、これで最後ですね」
あら不思議。
ガラクタの山のように置いてあった装備品は、匠の手によって綺麗さっぱり消え失せました。
……まぁ、私の中に入っているだけなので、無くくなった訳ではないのですが、そこら辺は雰囲気でゴリ押しです。
「お金の方は後日使いの者が持ってくるので、それまでお待ちください」
「おう。これからもご贔屓に、よろしくな」
「ええ、ヴィエラさんにもそう言っておきます」
彼は腕が立つようですし、今後もこの店を利用しても問題は無いでしょう。
……と、すでに利用しているので今更ですね。
「では、これで私は失礼します」
私は店を出ました。
ミリアさんがどうなったか気になるので、ウンディーネに念話を繋げます。
『もしもし、リーフィア……?』
『ウンディーネ。こちらの用事は終わりました。ミリアさんはどうです?』
『えっと、今ね……ミリアちゃんと一緒にお買い物してるよ。……本当に、勝手にお金使っちゃっていいの?』
『ええ、問題ありません』
ミリアさんがお金を持って来ているわけありませんし、ウンディーネは言わずもがなです。なので『アイテムボックス』を共有しているウンディーネに、お金は自由に取り出して構わないと言ってありました。
『にしてもミリアちゃんは凄いね。ずっと食べているのに、まだまだ食べられるんだって』
『あの人の食欲は異常です』
なのに少しも背が伸びなくて、胸に養分が行っている様子もありません。
そうなると考えられるのは……ミリアさんの胃袋は異次元に繋がっている? 下手をすれば食房の材料を全て食べ尽くす勢いなので、あながち間違いではないのかもしれません。
『今からそちらに向かいます。ウンディーネ達は、そこで待機してください』
『うんっ! 待ってる!』
ウンディーネとは感覚を共有しているので、居場所はもうわかっています。
これでストーカーも簡単ですね。
…………冗談ですよ。
『ミリアちゃん。リーフィアがもう少しでこっちに来るって』
『…………ウンディーネ。念話の状態で話してもミリアさんには聞こえませんよ』
『あっ……恥ずかしい……』
お茶目か。私の契約精霊お茶目か。
『それじゃあ、念話を切りますね』
その後、私は二人と合流し、夕方になるまで三人で街を堪能しました。
ようやく全員が合流出来たことを嬉しく思ったのか、ミリアさんは機嫌良くなり、見つけた屋台の商品を次々と購入しては食べ歩きをしました。
それはもう見ているこっちが呆れるほどの大食いです。なのにお腹がポッコリしている様子はありませんし、挙句には「食べ足りないな」と言う始末……。
夕食もちゃんと食べられるのか心配でしたが、そこも問題なくいつも通りおかわりのストップが掛かるまで食べ続け、おかずも綺麗に完食してしまいました。
──ミリアさんの胃袋は異次元に繋がっている。
今日はそれを確信した一日でした。




