閑話1《ローリエの独白》
私の名前はローリエ。14歳にして王都で冒険者をやっていたわ。
少し自慢になっちゃうけど、私と同年代の子もちらほらギルドにはいたのに、CランクはおろかDランクにすらたどり着けた子はいなかったわね。────私以外は。
おかげ様でそれなりに名前が知られていたはずよ、ひっきりなしにパーティへのお誘いが来ていたもの。けど私は女性だけで結成されたパーティから抜け出すつもりは一切なかったわ。だって居心地がよかったから。
え……どうして私が冒険者をやっていたのかって?
両親と死別したからよ。それも故郷丸々をとあるモンスターによって焼き払われてね。
私は村から離れたところで遊んでいたから気づかなかったけれど、大空が真っ赤に染まってようやく異変に気付いたの。その時には既にモンスターはどこかへ行ってしまったわ。
だから生き残った私はモンスター憎しで冒険者になった。
けど、続けている間に生きるための目標から、いつの間にか生活の一部になっていたわ。あぁもちろん今でも故郷を焼き尽くしたモンスターは探しているけれどね。
────けど楽しい楽しい成り上がり話もそこでお終い。
私たちはあの日、貴族様から名指しで依頼を受けたの。
『近くの廃墟に住み着いたキマイラを退治してほしい』
どうして人間のテリトリーに入ることを嫌うキマイラがそこにいるのか。そもそもそのキマイラはどこからやってきたのか。
疑問は尽きなかったけれどその時の私たちは調子に乗っていた。今振り返れば疑問は一つ一つ潰してから挑むべきだった。
そのまま挑んで結果は壊滅────。
定石が効かないキマイラにパーティメンバーが殺されちゃって、唯一生き残ってしまった私は呪いによって声を失い、依頼主である貴族様との契約によって奴隷の身分にまで落とされちゃったから────。
唯一の居場所だった冒険者ギルドを追われ、故郷を滅ぼしたモンスターに復讐を果たす手だても失われ、文字の読み書きができない私にとって他者とコミュニケーションを図れる唯一の手段────声すらも発せなくなった。
「違うのだ、あのキマイラは我々Cランク帯の冒険者が相手にするには強すぎたのだ。まるで準備されていたかのように全てが怪しかっただろう。誰かが裏で手を引いているに違いない」
そう訴えたくても、周囲の人間は私たちがヘマをしたとしか思っていなかっただろう。弁明も弁解もする余地と見なされたためすんなりと奴隷に落とされたから。
そして奴隷商人に奴隷としての振舞いを学んでいくうちに、私の心は憔悴しきってもう人生を捨てていた。もうなるようになれって感じ。
────だからユウト様には、ご主人様にはとても感謝しているの。
一目見てご主人様からは言い知れぬオーラを感じた。この人ならもしかして────そう思って声を出そうとして、出ないことに気づいたけれど、ご主人様は私を身請けしてくれた。
ご主人様には感謝しかない。
私を奴隷として買ってくれて。
私の声を取り戻してくれて。
私を再び冒険者の道に戻してくれて。
私には勿体ない施しを授けてくれて。
私に復讐の機会を与えてくれて。
そして────
『ハァ……わかったよローリエ。気が済むまで傍にいろ』
私に────私に生きる意味を、居場所を与えてくれて。
あの一言でどれだけ私が救われたか。どれだけ嬉しかったか。
ご主人様は自分の過去を詮索されることを嫌う。そのせいで私はご主人様のことを何も知らない。
この町に来るまで何をしていたのか、溢れ出るお金はどこで稼いだものなのか、故郷はどこにあるのか、何でも出てくるバッグはなんなのか、私に授けてくれた愛刀『オリハルコンソード』はどこで手に入れたのか────。
私は何も知らない。
そうして詮索されない代わりに、ご主人様も他者の心へ大きく踏み込もうとしない。だからご主人様も私の過去を探ろうとしないし基本的に本放任主義。「やることやってればそれでいいよ」と私には興味が無さそう。
けれど────けれどああご主人様お許しください。
私がご主人様を深く知ろうとすることを。
私がご主人様の心に踏み込もうとしていることを。
「────私が、貴方を愛することを……」
貴方が私を愛してくれなくても私は一生お慕いします。私だけの主様────。