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第二話 奴隷に目を付けられる


 元《斥候の勇者(スカウト)》こと(ユウト)は、馬車の御者に運賃を渡して街に踏み入った。


「おじさん、ありがとう」

「あいよ」


 途中で王都を観光しつつ、二週間以上かけて馬車を乗り継ぎやってきたのはフラッド町という田舎町だ。閑散とした人どおりにちょこちょこと間を開けながらある屋台。魔族たちが支配する領地からも、勇者が主な拠点としている王都からも遠くに位置するここまで、まさか魔族や勇者パーティが来ることはないだろう。


 ちょくちょくモンスターが出てくるだろうから懸念事項はそれくらい。


 俺の理想としている田舎町ではないか。


「さてと、まずは家を探さないと……」


 俺は家を買うために大通りを歩く。空き家を家探しするためだ。それで気に入った家があれば町長や差配人を探し出して買い取ればいい。


 金ならたんまりある。勇者パーティにいたときに、毎日狩り続きで娯楽に金を費やす時間がなかったから自然と貯金できていたからだ。……と言っても、俺はコレクション癖があって他の勇者に比べてかなり浪費していたが。


 それでも全部で1000万ガルに相当する金貨が『万能バッグ』には入っている。これだけあれば家を買い、そして贅沢さえしなければ20年は暮らしていけるだろう。


 そうして金が尽きるまで悠々自適とスローライフを送ればいい。


 釣りをするも、田畑を耕すも、動物を飼うのも俺の自由……あぁ真の自由とはここにあったんだ!



 自由万斉!!



 自由最高!!!




「────さぁ生かすも殺すもあなた次第! 最高の"奴隷"ですよ!」




 なんて軽やかな足取りで町を散策していたら、自由とは真逆に位置するであろう奴隷商人に出くわした。高揚していた気分がしおれてげんなりする。どうしてこうも思い通りに行かないんだろう。


「なんとこの少女は以前までCランクの冒険者でした! しかしとあるクエストを失敗し、残念ながらパーティは全滅。生き残った彼女は失敗した罰により依頼主の意向で《普通奴隷》にまでなってしまいました! あぁなんて可愛そうなんでしょう!」

「……」


 そう観衆に向かって力説するちょび髭の生えた奴隷商人の隣には檻があり、中には襤褸切れを纏う少女がいた。ブロンドのロングヘアに鼠色の襤褸切れという装いから薄汚く見え、買おうと名乗り出る者はいない。まぁここは田舎町であり観衆もまた平民なのだから買う金などなく物珍しさに見ているだけなのだろう。


 しかしあの少女、磨けば可愛いくなるんじゃないだろうか。薄幸の美少女という言葉が似付かわしいか。


 クエストに失敗して奴隷なんて滅多に見ない例だが、依頼主との契約は冒険者にとって絶対的な権限を持つため、そういう契約を交わしたのなら仕方ないだろう。


「……」


 しかし少女は、檻の中で何も言葉を発することはなく全てを諦めているように見えるが、瞳の奥はギラついている。まだまだ生きることを諦めないっていう強い意志を感じる瞳だ。


 おまけに少女は、あの幼い見た目に反して相当な実力者らしくCランクという高位の冒険者らしい。


 俺は勇者パーティに属していたから冒険者のランクはあまり詳しくはないが、Cランクといえば上から数えたほうが早いし、一応中堅ではなくギリギリ上級者として扱われるはずだ。


 それだけの実力とあの気力さえあれば、性のはけ口としてでなく、元冒険者という下地も相まって用心棒としてもすぐに買い手が付くだろう。わざわざ俺が買うまでもない。 


「……────ッ!!!」

「うわっ!?」


 俺が檻の前を通り過ぎる際、彼女は口をパクパクと動かしながらガシャンと音を立てて檻にしがみついてきた。そのせいで暇そうに眺めていた民衆の視線が俺に向く。


 いきなりそういうのされると驚くからやめてほしい。顔を覚えられて面倒ごとに巻き込まれる前に俺はローブのフードを深く被りなおした。


 しかし近くに寄られるとその見すぼらしさに目がついてしまうが、なるほど。首元に見える古傷のような跡から察するに、どうやら彼女は言葉を発せないらしい。


「おやおや……珍しいですね。ここに来るまでずっとおとなしかったのですが、旦那を見た途端にこうも反応を示すとは。もしかして旦那に一目ぼれしたのかも知れませんなぁ?」

「いや俺は買う気はないんだが……」


 ニタニタと笑いながら奴隷商人が言葉巧みに近づいてくるが、俺は買う気などさらさらない。


 そもそも俺は人と関わるのが嫌だからパーティを抜け出したんだ。それなのに俺が奴隷を買うだと? あり得ないね。俺のスローライフ生活がおじゃんになるだろう。



「ッ! ッ!!」



 だから少女よ、その目をやめろ。



『ユウトは黙って敵にデバフしてればいいんだ! しゃしゃりでんなよ足手まとい!』



 俺に『買ってくれ』と訴えかけても無駄だ。



『たまには前に出て戦ったらどうなの? 《斥候の勇者(スカウト)》の名前に恥じない腰抜けさよね』



 もう決めたんだ。



『俺達には華々しい二つ名が付いている……なのに、どうしてお前だけ誰でもできる役割をしてるくせに《斥候の勇者》なんて二つ名に甘んじているんだ? お前がいると勇者パーティの名に傷がつきそうだ』



 俺はこれ以上人と親しくなるのは……



『こそこそと動いていつも何をやってるのか分からないし……《斥候の勇者》って不気味よね……』

『こないだは罪人の懇願も受け入れずに即殺してたぜ……血も涙もないってのは勇者としてどうなんだろうな』

『一緒にいるだけでイメージ悪くなりそー』




 人と繋がりを持つのは……





『なぁにユウト、またハルに怒られてしょげてるの? だったらこのフェンネル様に相談してみなさい! ちょちょいのちょいで解決────あ、どこ行くのよユウト!』





 人と……────。




「……幾らだ」

「え?」

「その子は幾らだと聞いたんだ」


 気づいたら俺は奴隷商人と交渉していた。


 とほほ……傷んだ良心には勝てなかったよ……。


 しかし何度も何度もこんなことをしていたら金銭が持たない。そもそも家だってまだ買ってないんだぞ。衝動に任せて奴隷を買うのはこれで最後にしよう。まぁそもそもこんな機会なんて何度も無いだろうが。


「ね、値段ですか!? そうですね、50万ガル────いえ、75万ガル……いや、もう少しばかり……」

「値切るつもりはねーよ。これで足りるか?」


 金貨がたんまり入った巾着を奴隷商人に手渡し金額を確認してもらう。100万ガルは入っていただろう。全財産の1/10だ。しかし奴隷商人のちょび髭がぴくぴくと嬉しそうに動いているのが気持ち悪い。


 それまで周りで静かにしていた観衆が俄かにざわつきだすが、こういう傍観者は無視するに限る。


「はいはい足りますとも足りますとも! むしろ足りすぎ……い、いえ、なんでもありません! お買い上げありがとうございます!」


 俺が勇者パーティに一か月もいれば稼げるだけの額だったが十二分に足りていたようだ。


 戦っている時は気づかなかったが、人の命はこんなにも安いんだな。


「ではこちらが鍵と首輪になります。意識を集中させながら首輪をこの奴隷に付けてください。そうすれば決して貴方を殺そうともせず、また逆らうことのない奴隷の出来上がりです。もしも首輪を外したい場合はその鍵をお使いください」

「……俺の命を狙ったり逆らったりした場合はどうなるんだ?」

「『ボン!』ですね」


 奴隷商人は愉快そうに首元で手をグーからパーにした。どうやら俺の意にそぐわないことをすれば首輪が破裂する仕掛けらしい。


「……分かった。」


 俺は言葉を発さない少女に了承を得ることさえしないまま、本心を偽りながら「この子を奴隷にしたい」と思いながら髪を掻き分けて首輪を装着した。するとカチャリと音を立てて首輪が施錠される。


「……そうだ、買う前に一つ聞きたかったんだ」

「何です? クーリングオフは受け付けていませんよ?」

「いや、この子が喋られないのは何か理由があるのか? 首輪をしてしまい見えなくなったが、どうやら首に傷がついていたようだが……」

「あぁ、どうやら彼女が失敗したクエストでモンスターに呪いをかけられたらしいですよ。言葉を発せなくなる呪いだそうです。傷跡はその呪いが表層上に現れるとそうなるらしいですよ」

「なるほどね」

「……クーリングオフは受け付けていませんよ?」

「しないさ。では失礼する」

「えぇお買い上げありがとうございました旦那。私、流れの奴隷商人をやっておりますので、もし次お会いした時は是非とも────」

「二度と買わんぞ。今回のはただの気の迷いだ」


 俺は奴隷となった少女と手を繋ぎ、人混みを無理やりかき分けてながら家を探す作業に戻ることにした。観衆が散っていく中、ちょび髭の奴隷商人は気色の悪い笑みを浮かべてこちらをジッと見つめ続けていた。


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