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ノアの方舟伝説  作者: 絵之空抱月
三章「不安定な生命の樹」
116/201

五十六話「到着、ドレイク帝国」


 ドレイク帝国へ行くのには馬車を使った。

 魔術で改良された移動用の馬を使っているらしくめちゃくちゃ離れた場所のはずなのに速攻で着いた。時間が掛かると思っていたので寝ていたのだがあんまり寝てた感じがしない。朝出発で直前まで寝ていたことも影響しているっぽい。

 大きな欠伸をしながら馬車から出る。

 目の前に広がっているのは雪景色。白一色に染まった城下町が門の外からでもわかるほど。

 吹雪いてるかもしれないと聞かされてたけど別に吹雪いてはいなかった。丁度いい感じの降り方だ。

 雪見るのも久しぶりだな。

 「ヘルト様はいつもスカーフなのに今日はマフラーなんですね」

 「寒いところだって聞いたから首は守ろうと思ってな。良いだろ?あったかそうだろ?」

 「残念でしたねヘルト様。わたくしの服は特注品で首すらもあったまるようになってるんです!」

 「なっ、なにィ!?」

 「ティナ様もヘルトも何やってるの?ヘルトもやめてよ。もうドレイク帝国に来てるんだから、子どもみたい」

 瑠奈がジト目で言ってきた。

 18だからギリ子どもだろうが!…子どもか?ギリ高校三年だったし子どもだろ。それにティナが子どもなんだからノリを合わせるのが年長者の務め。

 学校の行事で幼稚園生とか下級生と遊ぶときは結構懐いてくれたもんだ。

 年下には割と好かれる傾向にある……って杏佳と充輝に言われたことがある。年上の同性からは滅茶苦茶嫌われてたね。充輝と暴れてた所為でな!

 「ほら、案内の人も来てるし行きましょ」

 「はいよ」

 騎士二人がティナの前を先行して、ティナが通った後に俺と瑠奈が門をくぐる。

 どんな国なのかと気になってたのだが別に雪が積もってる以外はタルムード帝国と変わりないように見える。少しだけ、店開いてる人が楽しそうじゃない。訝し気な顔をしている。商売が上手くいっていないのか?

 「ティナ様、お越しいただきありがとうございます。王城までの案内役を務めさせていただくライラ・テンプレンスです」

 「どうも、わたくしがタルムード帝国女王のティナ・レイ・タルムードです。こちらの二人が護衛の騎士で後ろの二人が宮廷魔導士の…ヘルト様!挨拶!」

 ティナそっちのけで国の雰囲気を見ていたのにティナに邪魔される。

 そもそもなんだけど他国に来た時って女王が率先してやるもんなのか。あのうるさい侍女はどうしたと言うのか。侍女の癖に大事な時に居ねーな。

 「宮廷魔導士の瑠奈・神代です」

 「同じくヘルト・シュバイツ」

 テンプレンス……テンプレンスってどっかで聞いたことあるような気がするんだよな…なんだったかな。

 「お二人が宮廷魔導士の方ですか。騎士様と魔導士様、少し前に出てもらえますか?」

 ライラに言われるがまま前に出る。

 するとライラの魔法なのか白いブレスレットが俺と瑠奈と騎士二人の腕に装着された。皆、不思議そうにブレスレットを見つめている。

 「ティナ様以外の方々は初めて見る人ですからこのブレスレットを付けさせていただきます。これで客人と言う証明になります」

 「いや…見りゃわかんだろ」

 「ドレイク帝国は治安維持に重きを置いているので何かの間違いでティナ様の護衛に無礼があってはいけないと思います」

 「ふーん…そんなもんなのか」

 「そうですよヘルト様。早くファーネルの所に行きましょう」

 ティナは朝からはしゃいでいる。ファーネルとは相当仲が良いようで姉妹みたいな関係とシルビアが言ってたな。

 腕輪を作る魔法…ライラは錬金術師なのかそれともまた別の魔法なのか。

 『充輝ー、テンプレンスって聞いたことないか?充輝?』

 おや?返事が来ない。自分から出てくることは少ないけど呼びかければ反応はしてくれたのに…充輝も疲れてるのか?疲れるわけ無いんだけどな。精神体だし。

 「ではご案内しますね」

 俺は違和感を覚えながらも一番後ろからティナたちに続く。

 ソフィとザックの雰囲気も気になる。充輝の精神体がどうやってスカーフに結びついているのか知らないがもしも魔法や魔術であるなら…このブレスレットは――

 「ヘルト、何してるの?行くよ」

 「ん?ああ」

 いつの間にか足が止まっていたらしく瑠奈に呼ばれる。

 雪に包まれたドレイク城に辿り着くと持ち物検査があって剣が回収されてしまった。銃は知らないのか回収されなかった。

 銃を知らないのか。無能すぎるだろ。

 とそこは置いといて恐らくだがドレイク帝国はまともな話し合いをする気は無さそうに感じる。瑠奈は気付いていないがライラが押し付けてきたブレスレットは魔法を封じる物だ。さっき電気を出そうとしたけど出ない。

 剣を回収したのも警戒しているのだろう。

 瑠奈に聞いてみたものの「女王に会うんだからそれくらいするんじゃない?」と返されてしまった。そんなもんなのかね。

 俺はともかく魔法が無くなった瑠奈は多分何も出来なくなるんじゃなかろうか。近接戦闘のイメージが皆無だ。

 派手な扉が開かれて派手な内装が目に飛び込んでくる。

 ど真ん中の椅子にファーネルっぽいのが座っていて左右に十脚ずつ二十の椅子があって七脚を除いて人が座っている。

 あいつは…クレアのとこにいた奴だ。ジレンもちゃっかりいるし。

 そしてライラが空いている椅子の一つに座った。

 「ファーネル!久しぶりです!」

 「久しぶり、ティナ。元気にしてた?」

 「はい。少しだけ問題が重なっちゃったけど皆のおかげで無事です!」

 (クリフォト事件と悪魔事件って少しだけって言える問題だったっけ?)

 (大問題が重なりましたなんて自分で言う訳ないでしょ)

 それもそうか。

 「問題と言うのは?」

 聞かれたまま流すのは良くないと思ったのかティナはこれまでに起きたセフィロト事件の概要を話した。

 ファーネルはティナの話を笑顔で聞いていた。でもなんか知っている話を復唱されているかのようで反応は乏しい。

 「大変だったのね。ではこちらの紹介をさせてくれる?」

 ファーネルは左右を見る。

 左右の椅子には老若男女問わず色んな奴らが座っている。女王の横に椅子が用意されてるくらいだからそこそこ高い地位を持っているはずでジレンは当然のようにふんぞり返っている…地位が高くなくてもふんぞり返っているかもしれない。

 ベルナ王国で戦ったミールは見た目通りの誠実さを醸し出している。真っ白な髪の毛に真っ白な肌、アルビノであろう神秘的な見た目は人であることを忘れてしまいそうだ。

 ………一度ぶん殴ってるけど。

 「こちらの方々は我らがドレイク帝国の特殊部隊…女王直属の部隊となっているタロットです。かつては存在を明かしていませんでしたが公にすることにしたので紹介しましょう」

 「タロット№1《魔術師》のジャスパー・バトゥルア。よろしく頼むよ」

 まずは№1のジャスパーと名乗る男。ちょっと前頭部の髪の毛が後退している髭を生やしたおっさんだ。

 タロットは№0もあるのだがベルナ王国の一件でマーロウがぶっ倒したって言ってたから欠番のままのようだ。

 「№2《女教皇》ヨハンナ・ユーノーでございます」

 次に出てきたのは名前の通りシスターのような服を着た碧眼の女性。被り物をしているから髪の毛の色はわからない。

 碧眼だし金髪かもなー。黒髪黒目が珍しいらしいし金髪碧眼もいるだろ。そもそもファーネルとティナが金髪碧眼だ。

 身分の高い人は結構多い気がする。

 「そしてワタクシが女王であり№3《女帝》のファーネル・フォン・ドレイクです」

 ファーネルが立ち上がって一礼、再び玉座に腰掛ける。

 椅子から立っては名前だけを言ってまた椅子に座り直す様子を見ているとなんだか卒業式での来賓の挨拶を思い出す。

 時間が無いからって名前だけの紹介に切り替わるんだよな。

 ファーネルが終わって次がスムーズに名乗るかと思いきや椅子から誰も立ち上がらない。

 瑠奈とティナだけでなくファーネルや他のタロットまで不可思議な顔をして一人を見る。

 タロット№4は《皇帝》で、俺は《皇帝》がどんな人物なのか知っている。瑠奈も知っているとは言えタロットだったことは今日まで知らなかったので驚いていた。

 ジレンは見られていることに気付きながらも足を組んだままの女王より偉そうな態度を崩さない。

 タロットメンバーは「またかよ…」って口に出そうなくらい呆れた顔をしている。ジレンが普段からあの様子なのが安易に想像できる。

 堪えかねたファーネルがジレンに自己紹介するよう促す。

 「次はジレン。あなたよ」

 「ハッ、ふざけたことを抜かすな。俺様の名を知らぬ奴に名乗る名前など無いわ。次だ、早くしろ。でなければ首を刈るぞ」

 「あなたって人は…女王の命令に背くの?」

 「今に始まったことじゃあるまい。俺様は自身の命令か主の命令しか聞かん」

 「…ねえヘルトの命令なら聞くんじゃないの?なんとかしなよ」

 「嫌だよ。こんな空気で客人の俺が口挟みたくない」

 ってか客人で、タルムード帝国の宮廷魔導士の命令をすんなりと聞いてしまったらそれもそれで問題だと思う。

 結局ジレンは飛ばされて次に移った。

 「№5《教皇》のレオ・ユピテルだ!さあ!我を信仰しろ!」

 女教皇もいて教皇もいるとかカオスな状況だなぁ…タロットの役職名であって本当に何かの宗教の取締役じゃないから立場上問題は無いんだろう。我を信仰しろってなんだよ…

 ハイテンションな教皇様の紹介が終わり、次に立ったのはイケメン……いや、禿げてるな。

 「河童…」

 「やめて…笑っちゃうから…ぷくく…」

 「二人とも…?」

 ティナが真顔で見てきた。睨まれるより怖いからやめてほしい。

 「余の名はユリウス!そして――」

 河童が指を鳴らすと全身が煙に包まれ――黒髪に金の装飾を付けた派手な女が出てきた。

 「(わらわ)はクレオパトラ。二人合わせてタロットなのじゃ」

 クレオパトラが指を鳴らせばまた河童が戻ってきた。

 仕組みはわからないけど同時に存在は出来ないのか。

 「タロットなのじゃって…あの人たち何番?」

 「№6《恋人たち》。代わりばんこでしか出てこれない恋人とか可哀想な奴らだ」

 瑠奈がこっちを見つめてきた。

 「なんだよ?」

 「なんでそんなに詳しいの?」

 「タロットカードにはちょっとな」

 ラノベで出てきがちな要素だから日本で勉強済みなのだ。ジレンたちを見るにタロットカードは存在するようだが瑠奈は見たことが無いらしい。

 「№7《戦車》ガブリエル・チャリオットだ!ガハハ!制圧力なら負けんぞ!!!」

 次は体つきのしっかりしたガブリエル。

 長いなぁ…あと十人くらいいる……ふぁ~あ、眠くなってきちゃったよ。ソフィがあんなこと言うから警戒してたけど案外大丈夫なんじゃないか?馬鹿っぽい奴らしかいない。

 ほら、また筋肉マンだ。

 ガブリエルの次に立ち上がったのはボディビルダー並みの筋肉ゴリゴリのマッチョマン。雪が降っていると言うのに上半身は裸で己の筋肉を見せつけてくる。

 「№8《力》のアルバート・ストレングだ。パワーなら負けねぇからな?」

 「これって一応自己紹介だよね?これからバトルトーナメント始まるわけじゃないよね?」

 「知らん…俺に聞くな。あいつかファーネルに聞いてくれ…」

 次に立ち上がったのは右側で最もファーネルの椅子に近い椅子に座っていたフードを被り、カンテラを持った人物。男か女かわからない。背中が丸まっているから老人かもしれない。

 反対側ではミールが一番ファーネルの椅子に近い。

 「……《隠者》…ピエール……ハーミット…」

 声ちっさ!なんだあの爺!?もう死にかけの老いぼれじゃねーか!

 ギリギリ役職と名前は聞こえた。他は何を言っているのかさっぱりわからない。

 「…!?」

 「どうしたの?」

 「いや、何でもない」

 なんだ?今、フードの下から睨みつけられたような……気のせいか。

 それからも紹介は続いた。

 

 №10《運命の輪》ロビン・フォーチュン

 №12《吊るされた男》オーディ・ハングド

 №13《死》シャーロット・デス

 №14《節制》ライラ・テンプレンス

 №16《塔》グレース・タワー

 №20《審判》エル・ジャッジメント

 

 こうして名前を聞いていて気付いた。初めにテンプレンスと言う苗字が引っかかったのもどうやらタロットのメンバーは基本的に苗字がカードの役職名になっていた。

 死はデス、テンプレンスは節制、塔はタワーと言ったように。

 ただちょこちょこそうでない単語なのはわからなかった。

 さて次で最後だ。

 「№21《世界》のミール・ウェールト。僕がいる限り、この国の平和は必ず守られる」

 騎士たちから歓声が上がった。ミールは他より知られているらしい。

 なーにがこの国の平和は守られるだ。俺に一回負けてクレア連れ出されてる癖によく言うぜ。

 「あ…シエルさんに向けるような目してる」

 「あいつは気に入らないんだよ。放っとけ」 

 シエルへの悪ノリと違ってこっちはマジだ。

 騒がしかった部屋でもファーネルが手を叩けば即座に静まり返る。

 「紹介も終わったことですし、ティナをここへ呼んだ訳を話しましょうか」

 「はい!聞かせてください!」

 「じゃあその前に」

 ファーネルが右手を上げる。

 何が起きるんだとファーネルを見ていると後頭部に衝撃。

 「えっ?」

 すぐ近くでティナの声が聞こえてくる。

 地面が俺に向かってくる。

 俺はどうやら後ろから殴られてその場に倒れたようだ。

 


 新年一発目の投稿はタロット勢ぞろいの回。

 もう少し早く投稿したかったのですが書いてる途中に「あれ?そういやタロットの欠番は決まってるけど他の名前決めてないわ」って感じになって遅くなりました。

 知っての通りタロットは今までも世界平和の為に活動してきたのでまあ無事に済むはずがありません。ヘルトが殴られました。

 魔法が使えないヘルトと瑠奈+αVSタロットの行方は如何に!?


 はい!明けましておめでとうございます!今年の目標は「ノアの方舟伝説を挫折することなく続ける」です!

 投稿ペースは不規則ですが絶対に完結まで持っていきます!……いつ終わるのか全く想像が出来ませんが。

 

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