空白の夢
いつの間に寝ていたのだろうか。
冷房を消したままだったから、部屋の中が蒸し暑くなって起きてしまったらしい。
今日は休日だからと朝起きた後も寝床でゴロゴロしていたら、この暗さ。
すでに陽は落ちていて、電気のついていない部屋は真っ暗になっている。
時折風鈴の音が聞こえる。でも、この他に聞こえる音は自分の心臓の音くらいだろうか。
そう、僕は夢を見ていたんだ。さっぱり夢の内容は覚えていないけど、なんとなく刺激的で楽しかったような気がする。
そして、今はその夢をどうにかして思い出したい。起きていてもいいから、とにかく夢の続きを補完したい。頭の中は夢の内容を思い出すことが占拠している。
もう一度寝てみるのはどうか。もしかしたら思い出せるかもしれない。
いや、もう完全に脳が覚醒している。夢の続きが気になって眠れない。
じゃあ、少しでも覚えていることを繋げてみるのはどうだろう。さっぱり覚えていないけど、断片的な情報なら思い出せるかもしれない。
そうだ、それだ。全体を一気に思い出すんじゃなくて、断片的な情報をちょっとずつ思い出すほうが効率的な気がする。
布団の中に潜り込んで、必死に思い出す。瞼をギュッと閉じ、手を力強く握りしめる。なにか、情報はないか。記憶を片っ端から引きずり出して、夢のかけらを探す。まあすぐ見つかるわけがないと思うけど。
たぶん他の人だって同じような経験、あるんじゃないかな。さっきまで見ていた夢なのに、その内容が思い出せなくなって、すごく気になっちゃうこと。
それで、どうしても気になるから、考え込んじゃうこと。
しばらく考えても夢本体はおろか、かけらさえも見つからなかった。
布団に潜り込んでいたのが悪かったのかな。ちょっと体を動かしたら思い出せるかもしれない。ひょっとしたら体の動きが思い出すヒントになるかもしれない。
忘れたことを思い出すには、当時の行動を再現してみる、っていう方法がある。
それは夢でも同じなんじゃないかな。まあ夢の場合は当てずっぽうだから、なかなか見つからないとは思うけど。それでも、夢のシナリオを思い出すよりはよっぽど効率的じゃないかな。
例えるならば、宝物を探す時に、あてもなく広い範囲から闇雲に探し出すより、地図や聞き込みなどいろいろな情報を得ながら探したほうが見つかりやすくなる、みたいな。
ちなみにここでは、宝物が夢のシナリオで、地図などの情報は断片的な情報のこと。
寝床から起き上がって、ジャンプしたり部屋を走り回ったりしてみる。
しばらくそうこうしていると、玄関をノックする音が聞こえてきた。
ドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと開ける。その隙間から凍えるような空気が入ってくる。扉を完全に開くとそこには白い息を吐くご近所さんの姿があった。
どうやら家が騒がしいから、心配して来てくれたらしい。迷惑をかけたことを詫びて、部屋に戻る。
騒ぐとまたご近所さんに迷惑をかけてしまう。それは避けるべきじゃないか。
できるだけ静かに体を動かそう。
ストレッチをしたり、手を振り回したりと本当に様々なことをした。それでも思い出せない。やっぱりこの方法でもダメなのかもしれないな。
そう効率的じゃないんだ。もっともっといい方法があるはず。
とりあえず頭をスッキリさせるために空気を入れ替えよう。そうと決まれば即行動。窓を開けると涼しい風とともに桜の花びらが入ってきた。
爽やかな風が家の中を吹き抜け、頭が整理されたような気分になる。でも違う、こうじゃない。これだけじゃ思い出せない。
いろいろな方法を考え試してみる。それでもまだ夢は思い出せていない。だから今でも思い出そうと試行錯誤し続けている。
正直自分でも何書いてるかわからなくなっちゃった。