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ゴブリン帝国の姫王様  作者: 飛狼
第一章 姫王降臨
8/10

◇まずは拠点の確保が優先(7)

 洞窟内を埋め尽くしていた白光が薄まっていく。その残光を受け、岩肌から顔を覗かせる鉱石らしき石塊がキラキラと輝いていた。


 ――まるで星空の下にいるみたい。


 美恵子も、今度は慌てることなく周囲を見渡す余裕があった。

 洞窟内の岩肌に映し出される光と影のイリュージョン。それはさっきの召喚時には気付かず見過ごしていたほどのごく僅かな時間だったが、美恵子も思わず見入ってしまうほどには艶やかで美しかった。

 しかし、その幻想的な光景も、数瞬の僅かな時間で終わりを告げる。

 我に返った美恵子は「年甲斐も無く」と、あたかも若い娘のような情緒的な想いを抱いた自分に対して自嘲気味な笑みを浮かべる。これも姿が若返ったためかしらと考えを巡らすも、直ぐに首を振りそんな思いを打ち消し、またビジネスモードへと自身を切り換え表情を引き締めた。

 そして台座の上に浮かぶ、幾分か大きさと輝きが増した宝珠へと意識を向ける。


 ――どうやら昇格させる事にも成功したようね。


 と、まだどこかで懐疑的な思いも抱えていた美恵子は、ホッと安堵の吐息をもらす。これでゲームの設定が継承されていることは、ほぼ確定。そうなると残りのCPは210だと予想され、序盤での使いどころが難しい。

 それにこの世界で他のコマンド――内政系の開墾や施設の建設、或いは軍事系の討伐や戦争なども、どのような扱いになっているかの検証も重要。そして何よりも、フィールド内での設定やCPの増減も確かめる必要があった。

 『幻想の王国』での様々な事を思い出す度に、色々と考える事も山となって積み上がる。しかもひとつ行動を起こせば、そこから派生する問題が幾つも出てしまう。が、そんなものはビジネスの場にあて嵌め考えてみれば、当たり前の通常業務でもある。要は慌てず騒がず、ひとつひとつを確実にこなしていけば、何時かは目標に到達するものなのだ。

 その事がよく分かっている美恵子は、まずはと騒いでいるゴブリンたちに視線を向けた。そして、その中の青い角を生やしたゴブリンに話し掛ける。


「さて、ゴブ次郎。これで少しは話せるようになったかしら」と。


 その呼びかけに、騒いでいたゴブリンたちがぴたりと静まり、慌てた様子で美恵子の前でひざまづく。そのかしこまった態度に、知性がある程度は備わったと確信してまたひとつ安堵する。


「ハイ、頭ノ中モスッキリトシテ、姫サマノオ言葉モ良ク理解デキルヨウニナリマシタ」


 他の二匹は未だ「グギャグギャ」と、言葉にならない声を発していた。だが、ゴブ次郎と呼ばれたゴブリンだけは、若干じゃっかんの聞き辛さはあるものの意味のある言葉を話していた。

 見るからに人ではない生き物と会話をする事実。その非現実感に、美恵子は一瞬だけ戸惑うも、


「……さ、さすがはゴブ次郎ね」


 と、頬を引きつらせながらではあるが、どうにか笑顔で答えた。


「ハッ、オ褒メ頂キアリガトウゴザイマス」


 本来は会話するのにLv3以上が必要と思われたが、実はこれも美恵子の想定内だった。

 それは配下ゴブリンの中で、ゴブ次郎が一番知力が高いからだ。

 

 ――やはり、ここでも『幻想の王国』の設定が引き継がれている。


 そう思わずにはいられない美恵子だった。何故ならゴブ次郎の能力の内、他の体力や腕力などの数値を削ってでも知力の値に注ぎ込んだのは、他ならぬ美恵子本人だからである。

 知力の値だけは、他のゴブリンよりも倍ほどは高い。だから美恵子も「やはり」と納得できるのだ。


 ――となるとおかしな点も幾つかある。


 先ずはそのひとつを、美恵子は聞いてみる事にした。


「ところで、ゴブ太郎の姿が見えないけど、太郎はどこかに行っているの? それに他の皆は?」


 そう、最初に配下となり配置されるのは、ゴブ次郎とゴブ三郎とゴブ子の三匹に、あとはゴブ太郎を加えた四匹なのだ。この四匹が、戦国シミュレーションでいうところの武将にあたり、これに八十匹の精鋭ゴブリンが兵として与えられた状態が、初期の全兵力だった。

 この四匹と兵となる八十匹はゲーム開始時に能力や性格、それに行動パターンまである程度は細かく設定できるのである。

 例えばゴブ次郎の場合は【冷静沈着】【内政重視】【天資英邁】【絶対忠誠】の才能や性格をいつも設定し、行動パターンは『命を大切に』であった。ゴブ次郎を使って内政コマンドを実行すると、その成果は1.5倍となる。完全に内政系、或いは軍師系の配下である。

 実際、ゲーム時には内政官として活躍させていた覚えが、美恵子にはあるのだ。

 とこのように、『幻想の王国』では開始時に初期武将の設定が色々とできる訳なのだが、それほどゲーム好きでもなかった美恵子にはそこまでの拘りもなかった。それは安直に付けられた名前からも、容易に察しがつくだろう。だから、四つしかない才能、性格の枠にも必ず【絶対忠誠】を設定していた。これだと忠誠度は固定され、下がることは決してなかったからだ。美恵子にすれば、忠誠度を上げるための施しや褒賞などのコマンド操作は面倒に感じるものでしか無かったのである。

 そして残り二匹の設定内容だが、ゴブ三郎は【能工巧匠】【英俊豪傑】【博学広才】【絶対忠誠】の四つに、行動パターンはゴブ次郎と同じく『命を大切に』だ。戦闘面で見れば万能型。しかし、ゴブ三郎の場合は施設の運営、特に工房に関して能力を発揮するタイプ。ゴブリンたちに持たせる武具や魔具に至る装備の全てを、ゴブ三郎が生産するのである。

 そしてゴブ子。初期配下の中ではただひとりの紅一点、女性だった。設定した才能と性格は【雲中白鶴】【温和怜悧】【英明果敢】【絶対忠誠】の四つ。行動パターンは『考えて魔力を使おう』だった。

 そうなのだ。ゴブ子は女性である上に、唯一の魔法が使えるメイジゴブリン。といっても、知力も精神力も低いゴブリンが魔法を使うにも限界がある。さすがにイージーモードでも、使える属性魔法は二つまでとされていた。だが、美恵子は属性魔法を設定する時は、二つでなくひとつに絞っていた。二つに分ければ、どうしても属性の伸びが悪くなるからだ。だからいつも、回復系の聖属性の一択。ゴブ子には、軍事でも内政でもサポート役に回ってもらっていたのである。

 それで問題のゴブ太郎と八十匹の精鋭ゴブリンなのだが、序盤の、いや終盤に至るまで軍団の中核ともなる戦闘部隊だった。

 八十匹のゴブリンは精鋭だけあって、才能、性格の枠こそひとつ――美恵子は面倒なので必ず【絶対忠誠】を設定していた――なのだが、後から産まれるゴブリンよりも能力は高い。後々まで、四匹の名持ちに次いで活躍する存在でもあるのだ。

 ゴブリンの数が増えれば、部隊の中隊長や大隊長クラスに。或いは、ゴブ次郎やゴブ三郎の元で、内務次官としても登用できる汎用性も兼ね備えていた。いわば、名持ちゴブリンの四匹が司令官クラスなら、精鋭ゴブリンは将軍や官僚クラス。最終的な目標である世界統一まで活躍する存在でもあった。

 そして、最も重要なのがゴブ太郎だった。

 美恵子がいつも設定していた才能、性格は【勇猛果敢】【天下無双】【万夫不当】【絶対忠誠】の四つ。行動パターンは『死ぬ気でガンガン行け』である。

 並べて見れば一目瞭然。軍事系、特に戦争、戦闘に特化したゴブリン。軍の大将軍、もしくは総司令。ゴブ太郎がいなければ何も始まらないし、何も終わらない。

 今後のサバイバル生活、或いはもしかするとゲームの時のように戦闘が起きるのかも知れない。この世界がどのようなものか分からないが、美恵子にはゴブ太郎の存在は、今後の生活では最もかなめとなり大切な存在でもあるのだ。

 だからこそ、ゴブ次郎に真っ先に尋ねたのだが――ゴブ次郎の視線がすっと逸らされる。そしてゴブ三郎とゴブ子も俯き、悄然と肩を落とした。


「え、まさか……」

「……残念ナガラ、太郎殿ハヒューマン共二討伐サレテシマイマシタ」

「うっそ……あ、もしかして他の皆も……」

「ハイ……我ラノチカラガ至ラヌバカリニ、姫サマニ対シテモ申シ訳ナク」

「……あ、でも――」


 一瞬、絶句しかけるも、イージーモードならではのある特典を思い出した。今現在の状態が『幻想の王国』の初期状態、しかもイージーモードを継承しているのであれば、まだまだチャンスはあると計算し、美恵子は考え直すのである。


「――太郎たちの魔石は?」


 イージーモードならではの特典とは、ゴブリンの復活だった。『幻想の王国』では、全ての魔物は心臓の変わりに魔石と呼ばれるものを持っており、これが周囲の魔力を集め魔物の活力となっている、と解説されていた。この魔石は様々な用途――武具や魔具などに利用され、魔物のランクに応じて強力なアイテムにも変化した。

 そして、イージーモードでは自軍の配下が倒れても、残された魔石を回収し拠点に持ち帰れば、CPを消費して復活させる事も可能だったのである。

 ただし、復活の回数は三回までと制限は設けられていたのだが。

 だから、美恵子は考えたのである。


 ――魔石さえあれば、ゴブ太郎たちの復活も可能、と。


 しかし美恵子の願いを打ち砕く結果を、ゴブ次郎がもたらした。


「……ソレモ誠二残念ナガラ、ヒューマン二全テ持ッテイカレマシタ」


 と、三匹が揃って悔しげに首を振る。


「なっ、全部……!」


 それは取りも直さず目の前の三匹が今現在の最大戦力であり、今後は戦闘部隊のいない状態で、サバイバル生活を生き抜かなければいけない事を意味していた。

 これには流石の美恵子も、思考は停止し絶句するしかなく、天を仰ぐのであった。

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