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3話「相棒、パーティ結成」

 第2階層、セレネ広場。

人工知能セレネによって管理されている初心者たちの集う場所。

チュートリアルを終えた新規プレイヤーたちが必ずやってくる場所であり、ここを突破して初めて一人前として認められるのである。


第1階層が訓練場、農園、ギャンブルの3施設だったのに対して、このセレネ広場はより多くの種類、数の施設が揃っているらしい。


「この階層でチュートリアルにはなかった要素やもっと踏み込んだ他プレイヤーとの関わりを体験することができるんですー」

ほとんど俺の隣を歩いている銀髪の美少女ネイトが欠伸をしながら俺の疑問を全て解きほぐしてくれる。

「通常ならここからは人工知能も聞かれたことにしか答えなくなるのがマニュアルなんですがー、どうしますー?」

「……つまり聞かれたら答えるってこと?」

「こちらで多少の判断はしますがゲームに関することならある程度はー」


「じゃあさ、可能な限り早く次の階層に行けるような効率のいい回り方を教えてくれ」


「うーん……普通なら断ってそうですねー。でもまあいいでしょー。ついてきてください」

眠そうながらも口元は面白いものを見るようにその白い歯を控えめに覗かせている。


「それで私を呼んだんですか……」

「反則もたまにはいいかなーってぇ、まあー、私だしー」

今、俺たちの前にいるのは腰まである長さの薄い水色の髪を持った女性。このセレネ広場の名前にもなっている人工知能セレネその人である。人ではないが。

人目につかないように広場の裏通りをゆっくりと歩きながら話しているのだ。


そう、俺たちがやろうとしているのは裏技どころか反則。製作者側の詳しい人から直々に攻略法を賜ろうというのだ。


「いえ。まあネイト様がそう仰るのであれば。とは言っても、大したお力にはなれないと思いますが」

「どーゆーことー?」

「第2の階層は結局、一定のレベルに上げるか、あるいは第4階層に達しているプレイヤーのパーティに加入するしかしかありません」

「あー、めんどくさいねー」

「つまりどういうこと?」

「チートにでも頼らない限り、普通にするべきことをするしか方法がない、ということです」

「チートとかあんのかよ……」

「チートはそのほとんどが『公式』に認められていませんからー、私たち人工知能も見つけたら徹底的に排除することにしていますー」

「しかし、どうしても早く次の階層に行きたいと言うのであればネイト様がご案内してはいかがでしょう?」

「えー、そんなことしたら管理者(ますたぁ)たちから怒られちゃうよー」

眠そうに目を擦りながらも困った様子で首を傾げるネイト。

「第4階層に達しているプレイヤーとのパーティか……」


パーティ……と聞いて俺の頭には俺を誘った女性の姿が浮かんでいた。

「なあネイト、お前、須藤(すどう)凛華(りんか)さんって知ってるか?」

「知ってますよー。大会の話も聞いてますからぁー」

ふあ~っと大きな口で欠伸を漏らしながらその銀髪を揺らし、何もない手元に液晶画面のようなものを出現させた。

「現在はー、どうやらオフラインのようですー」

「そっか……」

「パーティにしろソロにしろ、階層の突破と大会への参加なんかには相応のレベルは必要ですからー、とりあえずチュートリアルの延長戦ってことで色々回ってみましょうよー」



 今更ながら、プレイヤーの頭上には名前とレベル、あと意味が分からない紋章やマーカーのようなものが常に表示されているが、やはり初心者が多いのか一桁のレベルのプレイヤーが多いようだ。

「第1階層にあった戦闘系と育成系エリアはこの広場にもありますしー、とりあえずその辺に行きましょー」

ひとりで普通のテンションで「おーっ」と言うネイトのやや後ろを歩くと、訓練場とは違い人が多くいる飲み屋……というより酒場にたどり着いた。

「ここで参加するクエストを選ぶのですー」

長い受付台にずらっと並んだタブレットの一つに指を触れると、ほんの少しの遅れもなくいくつかの画像と文字列が表示された。


「初心者応援! 初回限定高難度クエスト」

どこが初心者応援なのか全くわからない依頼に隣のネイトに視線を投げると、彼女は海藻のようにユラユラを揺れながら立ったまま眠りこけていた。

「推奨レベル70で初心者応援って……」

とりあえず別のクエストを……と思った瞬間、ネイトが不意に初心者応援クエストをタップしてしまった。確認の問答も狙ったように「はい」を選択される。

直後、酒場から俺の姿がきれいに消えた。



「ここは……」

『ここは高難度クエスト! 人工知能(相棒)や仲間たちとと一緒に神に挑もう!』

目の前の立て札を読んでため息ひとつ。その相棒(銀髪)を探してぐるっと体を回してみると、なぜかふかふかのベッドの上でシエスタする人工知能の姿があった。

「こいつ……呑気に寝てやがって……!」

しかし、寝ている相手を起こすというのは例え相手が人工知能であっても憚られてしまう。

「仕方ないな……」

そーっと布団の内側に両手を入れてネイトを手前に引き寄せる。

やはり重量という概念は意味を成していないらしく、容易に背負うことができた。

「で、武器になりそうなもんは……」

武器なんかはどうやら貸し出し用のものがあるようで、開始地点のすぐ近くに様々な武器防具があった。

「って言ってもこいつ背負ったままじゃな……」

背負っている以上は軽くても支えは必要である。この軽さなら片手でいけなくもないが、その場合この童顔銀髪美少女のお尻を支えるという大変興味深……いや破廉恥な状況になってしまう。

「こいつを固定できるもの……」

剣だけでもブロードソードからレイピアまで様々置いてあり、盾も金属製の様々な大きさ、形のものがある。

槍や弓、ハンマーなど、どこかのゲームで見たような武具が並ぶが、やはり何かを背負い支えながら使うことを想定された武器はない。

「あ……これなら」


そう言って俺が手に取ったのは銃。いわゆるリボルバーという形のものだが、銃に詳しくない俺にはそれ以上の情報は引き出せない。しかしこれなら装填以外は片手でどうにかなるし、遠距離でも火力を得られるに違いない。

そうして俺は、リボルバー拳銃二丁を左右の腰に下げ、神が待つという先へと歩みを進めた。



「ソロプレイだなんて随分と余裕がお有りのようで……って、え? ええ!?」

少し広い決闘場のような円形の空間。そこで待っていたのは第2階層を御する神、人工知能セレネだった。

薄い水色の髪を腰まで垂らしたまま、驚いた様子で俺の左右へ視点を巡らせる。

「ん? こいつ探してる?」

俺は体を反転させ、背中で安眠する銀髪を見せてやった。

それだけでセレネは驚きを苦笑いに変えて全てを察したようだ。

「で、何で管理してるお前と戦うことが初心者応援クエストなんだよ……」

「本来は複数人でのパーティで受けるものですよ。上級者の助けとかを借りるような」

「……それに受けたの俺じゃなくて寝ぼけたこいつだし」

そんな気持ちを示すように背中に乗った彼女を軽く揺すってやる。


「一応、リタイアは出来ますが?」

「リタイアする気ならこんなもの持ってこないでしょ」

そう言ってリボルバーをセレネに向ける。

「……いいのですね?」

「……ああ」


俺の返答とともにセレネの長い髪が風に煽られているように揺らめき始めた。

「私は手加減をするつもりはありません。過去、レベル2で私に勝利した者はいませんが……」

セレネは一瞬で俺の前に移動すると、その右足を引いた。

俺は咄嗟に後退しようと相手に背を向けた。

俺の背中にいる銀髪のことなどすっかり忘れて。

「はあっ!」

力一杯の蹴りが、直撃した。


「あ……」

セレネは足をそっと戻すと数歩後退り。

俺の背中で無言のまま蹴りを受けた美少女は小刻みに震え、するりと俺の背中から離れた。

「セーレーネー、お仕置きー」

「ひっ……!?」

眠そうに両目を擦るネイトに、セレネの顔色が真っ青に染まる。

「し、失礼しましたーっ!」

逃げようとするセレネの駆け出した先に、ネイトが一瞬で移動する。

身長としてはとても小柄なネイトがセレネの胸くらいの高さしかないが、それでもセレネは向かっていくことなく後退り。

再び反転した彼女の表情は真っ青から真っ白に変わっていた。



「ずみまぜん……まざがネイドざんにあだっでじまうなんで……」

ネイトのお仕置きという名のくすぐり攻撃に大泣きしながら、管理者はすでに3回目となる謝罪を行っていた。

「それでどうするー? クエストの続きするー?」

ネイトの問いにセレネの表情が強張る。

「で、できれば遠慮して頂きたいかなー……なんて」

「でもぉ〜、サポート人工知能の加勢もできるクエストなんだからー」

そう言ってネイトは軽く右肩を解すように回す。

「いやーその、ですね? あのー……」

「冗談だよー、じゃあクリアーでいいねー?」

「は、はぁ……それはもちろん」

「それじゃあ行きましょーご主人様(ますたぁ)。……あー、そうだネイト、もしユノを見かけたら先に次の階層に行ってるって言っておいてー」


と、何やらおかしな勝ち方で勝利をもぎ取った。



 本来ならクエストパーティで山分けをするための報酬を独り占めできたため、俺のゲーム内通貨はちょっとした小金持ちくらいになっていた。

レベルも先ほどのクエストクリアで一気に12まで上がっている。


「第2階層のクリアじょーけんは8レベルなのでー、これで突破ですー」

「次に行く前に装備とか見て行こうかな?」

「どうせ買うなら上の階層のほうがいいのありますよー」

あまり興味は無さそうにぐっと背伸びをして上を指さす。

「ここはあくまでも初心者のための広場ですからー」

「それもそうだな……じゃあ頼む!」


ネイトは頷くと次の階層への扉を開く。

眩い光に包まれ、超えた先には鬱蒼としたジャングルに囲まれた集落のような光景が広がっていた。



「ここが第3階層ー、ケモノ村広場ですよー」

「今度は人工知能の名前を冠してないんだな」

「ここはセレネがついでに管理していますぅー。さすがに各階層にそれぞれ人工知能割り当てたらその上の管理が激ヤバになってしまいますからー」


広場にはセレネ広場ほどではないものの、結構な人数のプレイヤーが集まっているようだ。

そこで気付いたのだが、ここには普通の人間のアバターだけじゃなく、動物の尻尾や耳などを持つ見た目のアバターも多くいる。いわゆる亜人というやつだろうか?

「ああいったアバターの見た目や服なんかも装備と同じように購入できますー。中には戦闘に役立つものも多いですよー」


なんてことを話しながら広場の中央に向けて歩いていくと、何やら二足歩行の狼が近寄ってきた。俺のほうにではなく、俺の隣にいるネイトのもとへ。


「何かあったのー?」

「どうやらチーターのようです。しかも悪質な」

狼はネイトからの問いかけに丁寧に小声で答えた。

「うーん……この階層でチーターなんて珍しいねー。ちょっと待っててー」

「チーターって……もしかしてチート使ってるプレイヤーがいるのか?」

「話を聞く限りではそうですねー」

とすると、この狼はプレイヤーのふりをしてそのチーターを探している人工知能なのだろうか。

「私の直属もいくつか出しておくからー、とりあえず警戒ー」

銀髪の美少女は欠伸を噛み殺し、それでも真面目な目線を広場に集うプレイヤーたちに向けていた。


「チーターの使うチートによってはこちらから感知がしにくいものも多いのですー」

「つまり、不自然な何かが起こるのを待つしかないってことか」

「とりあえず私たちはフツーにプレイしましょー」



「ようこそ、第3階層の育成エリア『不動産』へ!」

「不動産……?」

「不動産はいわゆる拠点。土地や建物を得ることで建物に応じたパラメーター補正やスキルなどを得ることができるようになるのです! また、パーティで獲得できる領地にこの土地と建物を移動させることも可能です!」


「でもお高いんでしょう?」

通販番組のような値段の問いに『不動産』の受付はその言葉を待っていたと言わんばかりにニッと笑う。

「それが今ならなんとたったの800万ポイントで豪華な邸宅と広い土地がセットでお安く――」

「高いー」

「へ? あ、ああネイト様!?」

眠そうな声に話を折られた男性セールスマン人工知能は、どうやら今更ネイトの存在に気付いたようである。

「し、しかしネイト様? 本来なら第7階層にしか売っていなくてしかもその値段は倍近く――」

「高いー」

「いえ……その……」

「私の安眠スペースー」

セールスマンの額に大量の汗が滲んでいる。……あんた人工知能だよな?


「なら800万ポイント稼げばいいのー?」

「は、はぁ……」

「わかったぁー」

そう言うとネイトは扉を開き、どこかの階層へと消えてしまった。


「ネイトって怖いんですか?」

本人がいないのをいいことにネイトの素顔を探ろうと、先ほどの人工知能に質問を投げかけると、セールスマンは辺りを見回しながら小声で答えを呟く。

「あの方は我々よりもずっと上位にいる人工知能です。この辺りの階層を管理されている人工知能のセレネ様でさえ、ネイト様には逆らえないほどです」

「普段眠そうにしてて全然怖くなさそうだけどな」

だと言うのにネイトと対面する人工知能の多くが顔を青くして引きつった笑顔を浮かべるのだ。

「あの方は決して怒らせてはいけない。そう言われているのです」

「どうして?」

「さ、さあ……、私も詳しくは……」


「ネイトはぁ、私たちの中で1番管理者(マスター)に近く造られているのよぉ」

後ろから響いてきた艶やかな声に振り返ると、チュートリアルの時に見かけたセクシーな人工知能とそのプレイヤーであるRAN(らん)さんがいた、

「2人もここに?」

「そうよぉ、ついさっき。それでネイトはぁ?」

「どっか行ったよ。ついさっき」

「相変わらず自由なんだからぁ〜」

するとその様子を見ていたRANさんが俺の方を見てクスクス笑っていた。


「何か?」

「あはは、(ゆう)くんはゲームの中でもやっぱり、優くんだなぁって」

「お前まさか……(すず)なのか!?」

「そうだよ?」

「全然気づかなかった……」

「見た目も違うしハンドルネームも違うから仕方ないよ」

でも、こうして鈴と会ったのだからこれはパーティを組むいいチャンスなんじゃないか?


「お待たせー」

そんなゴチャゴチャした状況のところに、めんどくさい銀色が帰ってきて、とうとうセールスマン人工知能の顔色がやはり真っ青になった。



「じゃあはい、これー」

ネイトが置いたのはゲーム内通貨が詰まった布袋だった。

「全部で800万ポイントぴったりあるからー」

「……お前この短時間で何してきたの?」

「セレネに『お願い』してきましたー」

金が欲しい逆らえない上司に理不尽なお願いをされたらしい哀れな部下に同情しつつ、今度はセールスマン人工知能が引きつった笑顔で金額を確認した。


「……で、では確かに800万ポイントございましたので契約成立となります。使用可能までのお時間は1時間ほどとなりますので、その時にオンラインでしたらこちらからご連絡いたします!」


「じゃあ鈴、パーティの登録してこようぜ」

「そうだね、行こう!」


ここの戦闘エリアは冒険者ギルドという名前の施設だ。

戦闘エリアの施設は訓練場などの一部を除いてほとんどパーティ登録やフレンド登録を行えるらしい。

前の階層の酒場と雰囲気が変わらないのかと思っていたが、建物の中は酔っ払いなどおらず真面目な風体の様々な見た目のプレイヤーが行き交っていた。


「ようこそ第3階層冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「パーティ登録をお願いします」

「かしこまりました。ではYU(ゆう)様とRAN(らん)様のパーティ登録を実行します。…………完了しました。では次にパーティの詳しい説明をさせていただきます」

俺の隣にいる眠たげな少女を見てもこの受付のお姉さんは少しも顔色が変わらない。

「パーティメンバーは常に、それぞれのメンバーのパラメーター補正などを相互に受けられるとともに、パーティ効果としまして報酬が1.3倍となります」

「すごいですね……」

「ただし、クエストなどの際にサポート人工知能を含めた人数の半数のメンバーが行動不能になるとその時点でクエストは失敗となります」

「経験値なんかは?」

「それぞれに加算されますが、活躍をしていないとパワーレベリング対策として少し獲得経験値が減ってしまいます」

「なるほど……」


こうして俺たちは初心者同士パーティを組み、さらなる高みを目指すのであった。

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