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25話「優勝の行方、少女の心」

最強パーティ決定戦。

現在残っているのは4つのパーティ。

ガンアクション最強姉妹。

運営チーム。

敗者復活から奇跡の逆転で上がってきた無名のダークホース。

そして俺たち。


運営チームと俺たちのパーティは、今現在起こっているチート集団とのあれこれで多くのメンバーが離脱している。

本戦の二回戦は代表者による一騎打ちだったが、次は違う。

4チームによる最終トーナメント。

そんな難題を前に、俺は隣に立つエルを見た。


「ねえユウ。もしも私がここでリタイアしたら、4位より上にいけるかしら?」

「本気で言ってんのか?」

「せっかくここまできたの。私はもう慣れているけど、ユウとスズにあの悔しさを感じてほしくない」

「大丈夫! だって(ゆう)くんがいるんだよ! 優くんはすっごくゲームが上手なのです!」

「……ふふ」

「おい、笑ったなお前……」

「いえ、ふふ……ごめんなさい。でもそうね。ユウに任せるわ。私を縛る4位の呪いを超えて、私をその上に連れて行って!」



 最後は各パーティの人工知能を除くメンバーによる直接対決。これまでと変わらず、鈴はサポートに徹するために実際に戦うのは俺とエルだけというわけである。

「で、最初に戦うのがあの姉妹なわけ?」

「ああ。それじゃあ鈴、俺たちが負けてくるまでに残念会の場所探しといてくれ」

「え、えー!?」

「この男……負ける気満々だわ!」

相手はコンビプレーに長けたガンアクション最強のプレイヤーである。

対してこっちはコンビネーションなど全くない二人。

これで勝てるとしたらエルは4位などと呼ばれることもないだろう。


「でも勝った時点で2位以上が確定するのよ!」

エルはとてつもなく燃えているようだった。



 対戦フィールドは直径数キロに及ぶ広大な都市。

建物などの障害物が多く、隠れる場所が豊富に存在するが、それは相手にとっても同じ事。

「妹のほうのスナイパーは要注意ね。常に警戒しないと一発でやられるわよ」

「ああ、わかってる」

俺は白の剣を鞘に収めた状態で建物の陰から相手のいるであろう方向を見やる。


既に、開始は告げられているのだ。


「私は速度を最大にして駆け抜けるわ。多分スナイパーが撃ってくるだろうから、ユウはそれを――」

そこまで発したエルが俺を横に突き飛ばして突如加速する。俺の背後から、迫ってきていたのは、対戦相手の姉妹の姉のほうだった。


走りながら銃を撃ち、ナイフを構える相手に、エルは両手のナイフで相対する。振るわれる両の刃はまるで当然であるかのように弾丸を弾き飛ばして目の前の相手へと迫っていた。


「あはははっ!おにーさん隙だらけー!」

そして俺の直上から飛び込んでくるスナイパーライフルを抱えた少女。

「な……!」

銃身の長いライフルを物理的な凶器として振るう少女から身を守るために、白の剣でそれを受け止める。


ネイトがいない今、俺にこの白い剣とスキル以外の装備はほとんどない。

接近戦となれば自力で応じるしかないのだ。


銃身を剣で受け止めてなお、弾丸を射出するための銃口は俺を貫こうとジリジリと照準を合わせるように動く。

そこで俺は全ての力を抜き、相手のバランスを崩すことにした。

それと同時にスキル『神速』で相手の背後に回り込もうと加速。


確実に背後を取った位置取り。

しかし目の前には誰もいなかった。


「こっちこっちー! あっはははなは!」

上から降り注いだ声にすぐに前方へと駆けると、俺が移動した場所を次々弾丸が撃ち抜いていく。


「おにーさん速いねー!」

「いいから早く決めなさい。のんびりしてる暇はないわ」

「はーい!」


少女は俺とは見当違いの方向にライフルの弾丸を撃ち、弾を補充、また同じように弾丸をばらまいた。


「何してるのかは知らないけど、とにかくチャンスだ!」


神速の加速で建物の壁を駆け上がる。

その俺の目の前を、どこからか飛んできた弾丸が通過した。

「は!?」

敵のいないはずの方向。

そちらから飛んできた弾丸に、壁を駆ける足を止めて地上に降りてしまった。

まさか弾丸の軌道を無理やり変えるスキルでも持っているのだろうか?


「これは仕切り直しだな……エル、離脱できるか?」

「は、はぁ!? これ見て言ってるなら代わりなさいよ!」

エルは相変わらず接近戦で競り合っていて動けなさそうだ。


つまり、少女を引きつける必要があるという事だ。

上を警戒しながら、インビジブルサイレントで完全に気配を消すと、適当な建物の屋上まで駆け上がる。

本来隠れながら致命を放つ狙撃手が相手の場合は、隠れ場所を暴く必要があるが、この少女に限り隠れるという常識はないらしい。


普通のプレイヤーとしては信じられない速度と身軽さで建物から建物へと常に飛び回っている姿は、銃を持った少女というよりは外で遊ぶ活発な子供のようである。


「あれれ? 隠れなくていーの?」

姿も音も一切を遮断しているはずの俺に、少女の持つ武骨な狙撃銃の銃口が向けられる。

「は!?」

ほぼ反射的に速度を上げて屋根を転がすと、少女は余裕そうに弾丸を補充する。

「俺の姿が見えている……?」

体勢を整えつつ、スキルを解除すると、少女はこちらに改めて照準を合わせた。


「なに覚悟決めたみたいな顔してるのよ」


弾丸を撃ち出す轟音が響く直前。その一瞬の間に横合いから飛んできた彼女が、半ばタックルでもするように俺を連れ去った。

「姉のほうは倒したわ。あとはあの妹のほうだけ」

抱きしめられながらそう囁いたエルは少女のほうをチラッと振り返ると舌打ちし、俺を真下の路地に叩き落す。


直後。回避しようと躍動したエルの心臓と頭部を無慈悲な弾丸が貫いた。

「あちゃー……やられちゃったかぁ」


光の粒となって消えていくエルを最後まで見届けることはせずに走り出す。

勝利への願いを手にするために。



 相手は狙撃による遠距離での戦闘を得意としているが、正面での接近戦も侮ることができない。

特に今の俺はネイトの補助もない状態である。

今は見失ってくれているようだが、見つかればそれが恐らく決戦の時だろう。

幸い、エルを倒した時に必中スキルを使用したのか、代償に奈乃のHPが2割程度まで減少しているようだ。


「どうにかして気づかれずに奇襲をしたいが……」

相手がどうやって見えないはずの俺を補足したのか。

それがわからなければ迂闊に動けない。


ちなみに俺が今いるのはマップの東側の建物の裏。

大通りを見渡すことができるポジションで索敵にピッタリなポジションである。


「おにーさん、みーつけた!」


不意に聞こえてきた声で一気に大通りに向けて飛び出す。

大通りに敵がいないということはつまり自分と同じように裏通りに潜んでいるということ。

当然、俺もそれは把握していた。

そしておそらく、俺を発見した相手は背後に迫るに違いないと。


だから俺は大通りを見ているふりをしながら目の前のガラス窓の反射で背後を見ていた。

相手の動きが見えてさえいれば……!

俺は放たれる弾丸を神速で避ける。


弾丸を放ったばかりの少女はすぐさまその銃身を金属の塊として振るってきた。

しかし、その動きに彼女らしい余裕と鋭さがない。


勝機は、ここに得た。


神速スキルによって現時点のの最高速度を得た俺が、銃身の一撃を避け、勢いを殺すことなくすれ違いざまの一撃を放つ。

必殺判定の急所、その細い首へ。


「っ!」


勝敗は決した。



 「やったじゃない! ユウ!」

エルの外国的な熱烈ハグを神速でかわし、それでも頷きだけを返す。

まさに僅差で勝つことができた俺たちは、3位以下の決定戦を観戦しながら勝利の余韻を味わっていた。

「正直、私はもうこれで満足よ! だって2位以上が確定したのよ! もう初めてで胸がいっぱい!」

エルはその小柄なアバターを身軽に跳ねさせながら大興奮。

逆に俺はもう次に意識を向けようとしている。

決勝戦の相手は公式に属する人だ。

亡霊(ファントム)と呼ばれる最強プレイヤーの妻。


不正も補正もハンデも一切なしの正々堂々の戦いで、準決勝を2分で終わらせた強者。

それを考えると、とてもエルのように勝利一色にはなれそうになかった。



決勝戦。

大会最後を飾る対戦は、その人数のせいかひどく寂しく思える。

サポートを含めて3人のこちら側と、特徴のない人工知能を連れただけの、たったふたりのあちら側。


無駄に広い大草原ステージで広く間を空けて向かい合う俺たちは、緩い緊張に縛られていた。

「やっぱり強そうには見えないんだよな……」


管理人工知能と瓜二つの女性は、どう見ても激しく戦いを繰り広げるタイプとは思えない。

「油断はしないほうがいいわ。どんな戦い方するかは知らないけど、相手もトップレベルのプレーヤーには違いないもの」

匕首(あいくち)を両手で握りしめ、エルが姿勢を低くする。

「作戦はさっき言った通り。スズもいけるわね?」

「うん! 大丈夫だよ!」


既に作戦は立ててある。

開始まであとわずか。

こちらの作戦の想定が上手く的中してくれればあっという間に決着がつくだろう。


その瞬間を呼び込む開始の合図が……鳴り響いた。


行くわよ(Start)!」


速度に特化した俺とエルの爆発的な加速は、広く開いていたはずの相手との距離をあっという間に詰めることを可能とした。

側面から放たれる人工知能の一撃は鈴が展開してくれた防御障壁が受け止めて時間を稼いでくれる。


すべて計画通り。


あとは速度を威力に変えるように相手を倒すだけ。


の、はずだった。

「え……?」

「は……!?」

最速であるはずの俺と、高速戦闘に慣れているはずのエルの動きを普通に目で追ったように捉え、悪戯っぽい笑みを浮かべた女性はそのシンプルな二本の剣で、俺たちの優勝という未来を一瞬の間に断ち切ったのだった。



 「2位っていうのもパッとしないな」

「そう? 私は嬉しいわよ? 人生で初めてのちゃんとした表彰式……バーチャル空間のだけど」

結局、優勝こそ逃してしまったものの、俺たちのパーティは準優勝として表彰を受けた。

今はエルと鈴の3人で、別の場所での戦いに向かった皆を待っているところだ。


「皆さん、お疲れ様です」

周りからの質問やらを切り上げて俺たちの近くにやってきたのは、先ほど俺たちと戦った女性。

取り巻きのように無個性な人工知能を背後に控えさせたまま俺や鈴の近くに腰を下ろす。


「まずは先ほどの対戦、ありがとうございました」

「こちらこそ! さすが公式の人間ね、まったく敵わないわ」

「いえいえ。それで、今いない彼らの事なんですが……」

女性は言葉を続けようとして、突然視線を俺たちと反対方向へと向けた。

「来ましたね」

何もない空間に生じた揺らぎとともに現れたのは如月(キサラギ)さんだった。


「確認された危険分子はそのほとんどを掃討しましたわ。今は残存勢力の確認を行っております」

「如月さん、ご苦労様でした」

「それから、大友(おおとも)様」

如月さんは俺のほうに意識を向け、話し始める。


「ネイトさんが一時的に機能を停止してしまったのです。できればすぐに(わたくし)と一緒に来ていただきたいのですわ」

「ネイトが……?」


「詳しい説明は向かいながらいたしますので」

そう言うと如月さんはどこかに繋がる扉を呼び出し、開いた。

「さあ!」



 周辺に大きな建物も人も何もない紺色の世界。

そこを如月さんと二人で歩きながら、如月さんは事の経緯を話し始める。


(わたくし)たちは、例の黒い人工知能、魔女人工知能を含めた集団と交戦を開始しましたわ。(わたくし)たちは対人工知能用の攻撃プログラムがあったため、大半は問題なく処理ができたのですが……」


どれくらい進んだのか。

何もなかったはずの空間の先のほうに見たことのある人たちが並んでいた。

「おう、来たかい」

凛華(りんか)さん! それにみんなも……」

「たった今全ての敵の消失が確認されたところさ。アンタはネイトのところにきたんだろう?」

「ネイトは、どこですか?」

「こちらです、ユーザー様」


管理人工知能の少女に手を引かれ、空間の揺らぎを超えると、そこには横たわったまま眠るように沈黙したネイトの姿があった。

「ネイトは今、自らの損傷したプログラムを修復したところです」

「損……傷?」

「ネイトは敵集団のリーダー格と戦闘し、敗北したのです。機能そのものは私が修復しました。ただ……」

少女の綺麗な手がネイトの輝く銀髪を撫でる。

「彼女の心がひどく傷ついてしまったのです」

「敵の攻撃が、そういう類のものだったんですか?」

「いいえ。彼女は自分の心を自分で追い詰めたのです。自らの責務を全うできなかった後悔、敗北の悔しさ、自らの存在理由さえ……」


心を閉ざした心ある少女は、存在理由を見失ってその心を押しつぶそうとしている。

それは本来機械ではなく、責任感の強い人間が抱える重圧である。

それを感じる目の前の彼女は、きっと人間よりずっと人間らしいのだろう、


「人工知能は、性格も全て異なります。似てはいても同一はいない。それが『私たち』です。特にこの娘(ネイト)は気持ちを抱え込みがちでしたから」


「どうすればネイトをその……助けられるんですか?」

「彼女の心に直接呼びかけてください。ユーザーであるあなたがこの()の存在理由になってあげてください。……そうそう、どうしても心を開かなくて困った時は『スイーツ』と」


そう言って管理者が俺の腕に触れると、景色が一瞬で暗転した。

紺色の空間から漆黒の空間へ。

この場にいるのは俺と、俺の目の前で(うずくま)って泣いている銀髪美少女。


「……ネイト?」

「う……ひっく……ますたぁ……?」

「らしくないな、お前はいつも眠そうにぼんやりしてないとさ」

「でも……でもわ、たし……私は……」

「敵に負けたなら次で勝てばいいだろ。役には立たないかもしれないけど、次は俺も一緒に戦うから」

ネイトは涙を止め、しかし完全に元通り心を開いてくれる様子はない。

仕方ないな……。

「スイーツ!」

困った時の合言葉を口にすると、大量のプリンが降り注ぎ、湧き出し、流れ出てきた。

「ってちょ……多い! 多いって!」

足や腰どころか、頭まですべてがプリンに包まれ、飲み込まれてしまった。


「これじゃあネイトがどこにいるのかも……」


そう思っていると、俺の顔の前に穴が開き、そのプリンを食べ進んできたらしいネイトが顔だけを出した。

ご主人様(ますたぁ)、早く食べないと、無くなっちゃいますよ?」

そう言いながら、ネイトは一粒だけ、涙をこぼした。

それっきり、悲しそうな涙が流れることはなく、可愛らしい笑顔でプリンを食べるネイトの横で、俺も口いっぱいにプリンを頬張ってみせる。


甘いはずのプリンは、どこかしょっぱく、でも幸せな笑顔で満たされているようだった。


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