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24話「4位の力と、運命力」

 最強パーティ決定戦、本戦第2戦。

パーティからひとりだけ代表者を選出して、各パーティ合計2回の戦闘を行う。

敗北はすなわちパーティの敗北。

おそらくはそんな重荷の中でそのひとりが本来のポテンシャルを発揮できるかどうかを試すためのものなのだろうが、生憎とその程度の重圧で潰れてしまうようなメンバーはいない。

俺を除いて。


予選と、本戦の1回戦が行われた翌週の日曜日、本戦準決勝までの試合が行われるオンライン空間は先週とは全く異なる趣を見せていた。


「そういえば今日からは観客も入れて、インターネット配信もされるんだったっけ?」

周りの客席を埋め尽くすアバターの量に驚愕しながらネイトに問うと、なぜか当の銀髪はプリンをスプーンで口に運びながら上のそれを指さした。

「あの上にあるのがカメラですー。少しの時間差はありますがほとんどリアルタイムで配信されていますー。観客と視聴者はコメントができますが、出場者の私たちにはそれができないようにされてますよー」


しかし、中継が入るというのはつまり第三者の目があるというわけで、もしかしたらチーターたちもこれ以上の妨害はしてこないかもしれない。


「お集まりの皆々様、長らくお待たせいたしました! 最強パーティ決定戦第2回戦、間もなく開始です!」

その場の空気を盛り上げるMCが声を張り、会場内のすべての視線を巨大なスクリーンへと導く。

「まずは各初戦の組み合わせとフィールドを発表いたします」


残っているパーティは全部で14。最初のバトルで半数の7パーティが脱落し、さらに敗者復活の一枠を加えた8パーティによる二回目のバトルで4つのパーティ、ベスト4が確定する。


「でもどんな相手フィールドになろうが、ビショップならほぼ確実に4位は確定させてくれるさ。アタシらはのんびり次の試合のことを考えれば良い」

凜華(りんか)さんはコーラを飲みながらさっさとメンバー控え室に向かい、試合に参加するエルが、たった今発表された組み合わせのモニターを見つめていた。

「ねぇユウ、今回のこの2連戦、ユウがサポートオペレーターをやってくれないかしら?」

「サポートオペレーターっていつも(すず)がやってるやつだよな?」

俺にできるのか、と言おうとした俺の言葉を先回りするようにエルは笑う。

「大丈夫、オペレーターは基本的に音声以外で干渉できないし、この試合では誰がやってもいいから」

「……わかった、それで具体的にどうすれば良い?」

「基本は声援。あとはその時の状況に合わせた指示や注意ね! 大丈夫よ、そんなに気負わなくても。ビショップの名にかけて必ず勝ってみせるわ!」

エルは現実とは全く違う白髪の少女姿で勝ち気に親指を立てると「ヨロシク!」とだけ言っフィールドへ向かう。



1戦目の開いては優勝候補リストに名前こそ載ったパーティだが、正直印象は薄い相手だ。

エルと対峙するのは大柄で色黒のオッサン。フィールドは中央に大きめの川が流れる森林フィールドでエルが得意そうなところだ。


エルはフィールドの試合開始地点へ、俺はオペレーター用の特設エリアに移動して俺とエルの間に音声通話を開く。

ちなみに俺の視界はエルをやや高い位置から俯瞰した視点で、モニターが彼女の動きを自動で追ってくれる。

俯瞰しているため彼女の背後を含めた全方位が見えるが、広範囲が見えている訳ではないため、索敵なんかではあまり役に立たなそうだ。


「緊張してるか? エル」

「まさか。わくわくしてるわよ。早く切り裂きたいくらい」

「殺人鬼みたいな言い方するなよ……」

「とにかく、私の動きをしっかりと見て吸収すること。いい?」

「ああ、わかった。……試合開始(ゲームスタート)だ!」



 エルの初動は高い木に登って別の木へと次々飛び移っていく野性的なスタイル。

小柄なアバターは見た目だけでなく、軽いため機敏な動きに向いているのだ。

当然耐久は低く、ウエイトの関係で攻撃の威力が心許ないが、攻撃は急所直撃なら大きなダメージになるし、連続攻撃で削っていく事もできる。

大柄なアバターが完全な重量級のパワータイプなら、エルのそれはスピードタイプ。

相性としてはちょうど正反対と言えるだろう。

「いたわね。隠れもせずに堂々と歩いてくるなんてただの馬鹿なんじゃないかしら?」


敵を見つけるとより静かに慎重に木を飛び、相手の背後の木の上から相手の背中へと一息に飛んだ。

狙うは無防備な心臓。穿てば即死級の小さな刃が殺意を伴って男に迫る。

対し男はサポートからの指示か遅れてゆっくりと振り返る。しかし、エルの到達のほうが明らかに早い。

存外あっさりとその心臓を匕首(あいくち)が貫き、勝敗を決した。


「――いいえ、これは違うわ!」

ホッとした俺を再び緊張の糸が絡め取るようなエルの危機感いっぱいの声にモニターを見るとエルに刺された大男は地面に倒れて動かないままそこに存在している。

「倒したはずなのにどうして!?」

「……意外と向こうも策士だったみたいね」

エルの言葉の意味はすぐに理解できた。俺の視認範囲内に次々進入してくる大柄で色黒な男の集団。

「同じ姿のがこんなに!?」

「はぁっ!」

匕首を、拳をひたすらに叩きつけながら少しずつ後退し、エルはなんとか太い木の上に上った。


「これは上級スキルの分身ね。普通は囮や幻惑にしか使えないし、いっぺんにこんな大量の分身を操れないはずだけど、操作しなければ確かに可能ね」

「操作してない?」

「分身は常に術者が操作するか、あるいは生み出した最初に簡単な命令だけを植え付けるのよ。たぶんこの大量の分身は『前進しろ』みたいな命令を受けて放棄されたものね」

「そんなことしても別に戦力には……てまさかこいつら……」

「ええ、たぶんカモフラージュ。この分身の中に同じ動きをする本物が紛れていて、私の隙を狙うつもりでしょうけど」


そこまで見破れば十分とばかりにエルは分身の中に躊躇なく飛び込む。

「つまり本物さえ分かれば問題ないってこと!」

するとエルは分身たちの流れの中で目を瞑る。


速度型の彼女は一撃離脱や奇襲に長ける。ならば所持するスキルは自ずと索敵や隠密といった系統に偏る。


つまり……。

「心臓の音はひとつだけ。……案外まだ遠くにいたわね」

匕首を構えて跳躍した少女は分身の肩や頭を踏み、一気に本物へと迫る。

「この一撃で終わらせる! その心臓、貫いてあげるわ!」

虚を突かれた本物は防御も満足に間に合わず心臓を穿たれ、そのHPを失った。



 エルのバトルは全体で3番目の速さだった。1位は当然のように亡霊(ファントム)で、2位は予選で俺と戦った若武者のような風貌の少年である。


「それで、次の相手が彼?」

エルの次の対戦相手はその2番目の彼。

その対戦表を見たらしい亡霊(ファントム)が、静かに俺たちに近づいてきた。


「忠告と、頼みがある」

俺と、そしてエルを見て、彼はそう告げる。

「まず、あの若武者。レベル差で油断すると簡単に殺されるぞ」

「そんなに手強い相手だって言うの?」

「ゲームの大会では実績が皆無だが、彼は現実(リアル)においては居合いや剣道の神童と言われた天才だ。現実の動きより動きやすいこの空間はまさにうってつけというわけだな」


「それで、もう一つの……頼みってのは?」

「チーターが動き出した」

「っ! 大会に影響は?」

「大いにあるさ」

「頼みっていうのは、それを倒すのに協力しろってことか?」

「いや、お前はこのまま大会を続行してもらう」


すると亡霊はネイトに視線を向ける。

「お前の仲間を借りに来た」

「ネイトか?」

「いや、『こちら側(公式)』に属している全員だ」

それってつまり……。


凜華(りんか)とエクス、(もち)と3号、如月(キサラギ)とユノ、そしてネイトだ」

「いくら緊急だっていってもそんなにごっそり戦力を持っていかれたら困るわよ!」

エルの荒げた声に、ネイトが駆け寄ってくる。


「どうかしたんですか~?」

「仕事だ、ネイト。お前にはここで大会から降りてもらう」

「……嫌です、副主任」

「……なに?」

「他の人工知能やメンバーも向かうなら私が行く必要はないと思います。第一そんなことをしたら大会が……」

「お前には義務を果たしてもらわなければ困る。この大会そのものを潰すわけにはいかないからな」

「……」

ネイトは無言になり、俺のほうに向き直ると深く頭を下げた。


「ごめんなさい、ご主人様(ますたぁ)。私はここまでしかご一緒できませんが、必ず……優勝してください!」

「気をつけろよ。終わったらまたみんなで海行こうぜ!」

「……はい! 約束です!」


そうしてネイトと、他の仲間たちは俺たちに想いを託して、もうひとつの戦いへと消えていった。

ネイトの悔しそうで、しかし綺麗な笑顔だけで、俺は優勝まで突っ走って行けそうだ。



 戦力が大幅に削られたのは正直苦しいが、それは亡霊たちのチームも同じ事だった。

公式チームは亡霊と霜月(しもつき)日和(ひより)さんが抜け、残っているのは管理人工知能の少女に瓜二つの女性と、パーティの体裁を維持するために追加された無個性な人工知能の合計二人だけだった。


対して俺たちのパーティはエルと鈴と俺の人間三人。

鈴はサポートメンバーのため、戦闘への直接参加はできず、実質は俺とエルのふたりだ。

「大丈夫よユウ、この私がいれば必ず勝てるわ!」

「4位にしかなれなそうだよなぁ……」

「どーゆー意味かしら!?」


4位の呪い、あるいはジンクスが存在するのであれば、俺たちが4位まで勝ち進むことが確定する。しかし、同時にそれ以上に届かないことも確定してしまう。

「なあエル。お前の4位率はどれくらいの確率なんだ?」

「そうね……個人や団体に限らずほぼ100パーセントよ」

「マジかよ……ん? ほぼ?」

「ええ。スキルより運の要素が強いゲームでの4位率は9割くらい」

「ってことはこの個人でのバトルの次があみだくじやじゃんけんのような運ゲーなら……」

「じゃんけんはなぜか100パーセント4位なのよね」

「ダメだこいつ、早く何とかしないと……いやもう手遅れか」

「あきらめるんじゃないわよ!」


そんな軽口を叩いていると、ようやく2戦目の時間がやってきた。

先ほどと同じようにランダムで選択されるマップへとエルが飛ばされ、俺はそのエルをやや俯瞰した位置で見守る視点に変わる。


フィールドはデコボコした山岳フィールドで、地面が隆起している場所も多いため、隠れたり待ち伏せたりする場所は多そうだ。


開始の合図と同時にエルは盛り上がった地面のてっぺんに立って正面を見据えた。

隠れる様子もなく、刀を鞘に収めたまま、若武者はゆっくりとエルのほうへと歩いてきているらしい。

「アレと戦ってる間、本気になるからユウは静かにしてて」

そう言ったエルが取り出したのはいつもの匕首(あいくち)やナイフのような短い刃物ではなかった。

細身で、しかし丈夫そうな剣。


「本当はレイピアなんだけど、あれって基本的には刺すことしかできないじゃない? だから職人に頼んで、レイピアみたいな柔軟性と鋭さを残しつつ、サーベルみたいに斬れるようにしてもらったのよ。丈夫だし。ゲームじゃないとありえないけど……ねっ!」

高めの場所から斜め下に飛んで少年との距離を詰める。

いつもの黒いローブをなびかせた彼女は少し風変わりな騎士のように見えた。


対する武者はエルの接近でようやく刀を抜いた。無駄なく構えられたそれに少しも臆することなくエルが正面からぶつかった。

ぶつかり合う剣と刀。

圧倒的な強度と鋭さで押し、攻める武者。

柔軟なしなりと、引けを取らない鋭さで受け止める騎士。


その性質は似てこそいても、全くの別物である。

少年は強者(つわもの)との立ち会いに笑い、エルは強敵との闘いを楽しむ。


根底にあるものはきっと同じもの、気持ちなのだろう。

強さを追い求め、自らと同じ探求者をその強さで負かすことが楽しく、すべてであると言うように。


「……代表者が先の男でなくつまらないと思っていたがなるほど。侮るなど拙者も未熟だったか」

若武者はエルの速度に難なく合わせる。

それどころか、若武者の動きにつられるようにエルが動いているようにも見えた。


「こん、のぉっ! こんな! 状況でっ! 普通に喋れるとか! なんて化け物っ! なのよ!」

「当然。私はまだ本気を出してなどいな――うわっっと!?」

極めて最高なタイミングで若武者が不自然なくらいに置かれた石に突っかかって隙が生まれる。

「勝機!」

エルの斬撃が若武者を襲い、的確に急所を穿ち、そのHPを刈り取っていく。

「これで、終わり!」

レベル差による圧倒的な火力はその性能を遺憾なく発揮し、エルはベスト4入りを決定づける勝利を得た。


ただし、4位確定の影がすぐ目の前に迫っているような気がして、正直不安だ。

そして何より、こうして大会を謳歌している間にも、見えないところでパーティのみんなが戦っているのだと思うと、心配で心配でたまらないのだった。

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