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23話「難敵、ピンチとコンビネーション」

 最強パーティ決定戦予選最終戦。


俺のパーティと、無名のパーティ2つ。

そして、管理者たちによる最強パーティ。

この4チームが、本戦出場の残り2枠を争い、それぞれのキープレイヤーを潰し合う。

その激戦を予感させる試合が、間もなく開始される。


「今回はユウがキープレイヤーね。今回は徹底的に防御に回るわよ!」

「アタシとエクスでとにかく他の2パーティのキープレイヤーを潰す。アンタたちはとにかく凌いでくれればいいさ」


凛華(りんか)さんはそう言ってエクスとともに打ち合わせを開始した。

「オモチと3号でユウを守って」

(わたくし)はエルさんと一緒に防御寄りの遊撃に出ますわ」

全員で作戦と配置を確認していると、遂に開始のブザーが鳴り響いた。


開始直後、10秒で無名のパーティのひとつのキープレイヤーが倒され、脱落。

そしてその通知からわずかに1分程度の間があってそれは現れた。


漆黒の服装に身を包み、派手めの装飾が施された剣を持った死神のような男。

VR最強の戦士『亡霊(ファントム)


最強の名を欲しいままにするその斬撃が俺の目の前を掠める。


「いきなりかよ!?」

驚きに亡霊は笑い、俺との距離を詰めようと動くが、その行く手にお餅さんと3号さんが立ち塞がった。

「守りは私たちの得意分野です」

お餅さんはどこからか槍を取り出し、3号さんは銀色のお盆1枚。

どうみても戦力として不満なのだが、亡霊の攻撃を3号さんは完璧にお盆で防ぎ、お餅さんがその防御の合間から槍で突くというコンビネーションが光っている。


しかし、亡霊は瞬間移動によってまさに瞬間的に移動ができる。

つまり……。


「ですよねー!」

目の前にいきなり現れた亡霊からの一撃は、俺の纏う銀色の鎧に弾かれる。

「今の俺は前の一騎討ちの時より強いぞっ!」

そう吠えながら振るう白の剣で亡霊を弾き飛ばし、俺は左手を伸ばす。

「やるぞネイト!」

『ドゥアムテフ!』

同じ言葉を同じタイミングで響かせると、俺の左手にその大剣の柄が現れた。


右手の白い剣。

左手の大剣。


二本の剣で亡霊と対峙すると、俺は目の前の漆黒のプレイヤーに向けて疾走した。


1秒にも満たない刹那に亡霊との距離を詰めると、重量を含んだ大剣を横薙ぎに振るう。


単純な防御ならその護りごと粉砕する凶器に、亡霊はしかし正面から装飾の剣でそれを受け止めて見せた。

「くらえええぇ!」

右手が躍動する。

軽くても確かな斬れ味を伴った白の剣を振るう。

勝ちを確信して振るわれた剣は、亡霊の首にわずかに触れない位置で静止し、俺は遅れて控えめな痛みを左胸に感じる。


「な……え……?」

背後に立つのは明るめの茶髪をショートカットにした美少女。

その手に握られた短刀は、確実に俺の心臓を貫いていた。


「負け……た?」

敗北のポップアップが表示される音に目を閉じる。

――見たくない。


「いや、俺たちの勝ちだ」

亡霊の言葉に目を開くと、表示が目に入る。


『WIN!』の文字に呼吸を忘れていると、ボイスチャットから聞きなれた豪快な笑い声が響いてきた。


「あっはっはっはっはっは! どうやら間に合ったみたいだね。良かった良かった!」

「凛華さん!?」

「ギリギリで残りのひとりのキープレイヤーを潰したのさ。危なかったよ」


ボイスチャットを終了して意識を前方に向けると、亡霊と、俺を貫いた少女が並んで立っていた。

「まだまだ最強の名は渡せないな」

「もう幸人(ゆきと)さん、大人げないですよ?」

二次元(ここ)じゃみんな子供だよ。俺達も含めてな」

「もう、屁理屈ばっかり」


「ま、とにかく一騎討ちは次の機会に。できれば公式戦じゃない時にな」

亡霊はそう言って俺の肩を叩く。


「ネイト、ソロネからの伝言だ。『警戒は任せて、優勝してください』だそうだ」

鎧状態からいつもの銀髪美少女に戻ったネイトが笑顔で頷き、口を開く。


「次は必ず倒しますからねー。副主任、それから奥様」

「おっと、ネイトはお怒りのようだ。これは次の相手を日和(ひより)に任せたほうが良さそうだな」

「ふん! 日和(ますたぁ)が相手でも容赦はしてあげませんよー」



 何はともあれ、俺たちは予選を勝ち抜け、本戦出場を勝ち取った。

当然ながら最強のガンアクション姉妹や、あの武士風のプレイヤーが所属するチームなど、予選の強敵たちも本戦出場を決めていた。


「本戦の1回戦はNPCの大軍を、時間内にどれだけ倒せるかというのがルールですー」

「つまり速度と火力ね」

「ただしー、ダメージを2回受けるとそのプレイヤーは戦闘不能扱いになってしまいますからー、防御もそれなりじゃないとー」


「基本的にはネイトと如月(キサラギ)さんに前衛を任せて、防御をお餅さんと3号さん、遊撃を俺と凛華さんとエクスとエルでいいかな?」


「ちょっとユウ! なんでこの私が遊撃なんて……! 集団相手だって無傷で圧倒してみせるわよ!」

「じゃあエルも前衛。凛華さんとエクスも前衛のほうが良いですか?」

「いや、アタシは遊撃でも構わないさ」


「私とユノは回復じゃなくてシールドと能力補助系のスキルに専念すればいいのかな?」

「ああ、そうだな。………………なんか(すず)久しぶりに会った気がするな」

「私もだよ不思議だね! 出番が少ないからかな!?」

出番ってなんだよ……。

まあ、縁の下の力持ちはさておき、問題はそれでいいかというところだが。


「4チームの中で倒した数が少ない下位2チームが脱落。不利なのはあの姉妹みたいな少人数のパーティだろうね。アタシらと違って頭数が少ないんだ」

「あの姉妹は優勝候補のひとつなんだから、そうそう落ちるとは思えないけど」

エルの言葉に凜華さんがパンと手を叩く。


「ま、ともかくアタシらにできんのはとにかく敵を倒すことだけ。さあ、行くよ!」



 本戦一回戦は広大な荒野で行われる。

俺たちが立つのはきつね色の砂っぽい荒れた大地。

目の前に広がるのはカラフルな有象無象のエネミーたち。

「数量にしておよそ4千体。仮にそれをすべて倒しても再び数千単位で出現するように設定されていますわ」

「なら設定が追いつかなくなるまで倒すだけよ。このビショップの力で大地ごと切り裂いてあげるわ!」

「ならサザーランド、開始直後任せた」

凜華さんが景気よく笑ってエルにそう言うと、言われた彼女は同じように笑って手の中で金色の刃の短剣を回した。


開始のブザー直後、エルはその黄金の輝きを両手で持って目の前の有象無象に向ける。


「いくわよ……『司祭のため息ブレス・オブ・ビショップ』!」

響きだけはかっこいい技名とともに視界がすべてまばゆい金色に染まる。

直後、この場全てを吹き飛ばすような衝撃と轟音の嵐にかろうじて目を開く。

くすんだ金髪のはずのエルのアバターの髪は目映く輝き、現実(リアル)の彼女と同じ髪色がそこにはあった。


ようやく光と音が過ぎ去って視界を取り戻すと、目の前にいたはずの有象無象は消えて、今まさに白い光とともに新たなエネミーが出現しようとしていた。

「さ、あとはのんびり確実に倒して数を稼ぐかね」

そう言って凜華さんは中央からまっすぐ、エルは俺とともに右翼の集団に、如月さんとお餅さんは左翼に回っている。

人工知能も概ねそれぞれの主と同じ場所だ。


「さっきのすごいの、何だったんだ?」

「必殺技スキルよ。少し前に習得したの。多数を相手にするときに便利だったから。技名はもちろん自分で考えたわ!」

上機嫌で短剣を両手で振り回すエル。

楽しそうにクルクルと回る姿とは裏腹に、アンデッド系のゾンビやら骸骨やらのエネミーが綺麗に切断されている。


「これ囲まれたらやばいな……」

敵のレベルは低いものの、ダメージに関わらず攻撃が二度ヒットしたら強制的にリタイアである。

囲まれたらさすがに自分も仲間も守りきれなくなってしまいそうだ。


背後に気をつけながら目の前に迫るアンデッドを斬り、ふと視界の隅を見る。

「ウチのパーティが今4115体で、他は……まだ800くらいか。余裕そうだな」

「他のチームを油断させておいて時間ギリギリで必殺技を使って数を稼ぐっていうのも考えられるわ。油断はしないで!」

エルに注意され、意識を正面に向けようとした瞬間、俺の背後を何かの視線が撫でて鳥肌が立った。


直後に感じた危機感と同時に、俺の背後で金属同士がぶつかった。ひとつは俺との距離を一瞬で詰めたネイトの大剣。

そしてもうひとつは……。


「ユーザーに対する攻撃失敗。作戦を第二段階へ移行。……エネミーハック。掌握完了」

「っまずい! 皆さんエネミーから離れてください!」

ネイトの叫びに全員が敵モンスターから距離を取るために後ろに飛んで一度集まる。

直後、様々な色の様々な容姿の敵がすべて真っ黒な闇色に染まり、プログラムとは思えない獣のような獰猛さを覗かせていた。


「私がこの個体を倒すまで、皆さんは凌いでください! っ! 今までの弱いエネミーとは違います!」

漆黒の人工知能からの攻撃を受け流しつつ、ネイトは俺たちに指示を飛ばす。

「異常が起こっているのは私たちのいる場所だけみたいねぇ……!」

ユノは何かの数字を見つめてそう言った。


そして黒の大群は動き出す。大地を黒く埋め尽くす有象無象以上のそれは、俺たちという獲物を求めて。



 緊迫しながらも安全が保証されていたはずのゲームは、一瞬で真面目な戦いに変わる。一撃で倒せていたはずの獣や骸骨も、攻撃を受けて怯む程度。明らかに性能が底上げされていた。


「こうしてる間にも他のパーティは数を稼いでるってのがまったくやってられないね!」

凛華さんが敵を殴り飛ばしながらそう叫ぶ。

「ユウはネイトとあの黒いのを倒しなさい!」


俺は皆に背を向け、まさに今ネイトと刃を合わせている黒の人工知能のほうへ駆け出した、


人の認識すら超えた速度を乗せた俺のひと振りを、黒の少女は容易に防ぐ。

「こっちも忘れないでくださいねー!」

跳躍しつつ、大剣を振り回したネイトが相手の隙を狙う。


それは相手の両足を圧倒的な暴力で切断し、そこに生じた新しい隙を俺の剣が両断する。


勝敗は決した。



「この度は申し訳ございません、ネイト様。あの人工知能が防壁を展開してしまい、飛び込むことができませんでした」

ひとまずの危機を回避した俺たちはソロネからの謝罪に笑顔で応じていた。

ただし、ネイトだけは不機嫌そうだ。


「あれで私たちが勝っていたからいいけどー、負けていたらソロネを造り変えてるところだよー」

「し、しかしさすがですネイト様! あのような突然のハプニングもきゃあっ!?」

「ソロネ反省」

するとソロネの服装がフォーマルな服装からなぜか目に毒なサイズと布地の小さなビキニに早変わりした。

……胸だけはネイトとえらい違いですね。

「しばらくその格好ー」

「え!? ええ!? い、いえこれはその……せめてサイズを合わせてもらわないと色々とその……!」

「胸を削いでサイズを合わせてあげてもいいんだよー?」

「失礼しました感謝しますネイト様!」


恥辱に頬を染め、涙を流しながらもピンと直立してネイトに敬礼するソロネ。

正直、目のやり場に困った。


「でも同じ手を使われると困るなー。ソロネ、今管理者(ますたぁ)はー?」

「さあ……わかりません。先ほど管理者端末に報告に行った時には不在でしたが」

「まあでも、どうしてもって時は使っちゃっていいよねー」

「何の話?」

「私の本気ですー。管理者の承認なく使えないものなのでー」



 姉妹のような二人の人工知能からやや離れて、他のパーティメンバーが話し合う場に加わると、皆の話題は既に次の試合の話になっていた。

「次はパーティの代表同士によるバトル。人工知能が入ることのできない狭いフィールドでの一騎討ちね」

「問題はランダムに決定するフィールドによって地形等の環境が違うことですわね。潜伏や待ち伏せのできないようなフィールドや、障害物だらけで動きにくいフィールドなんかもありますわ」

「しかも、フィールドと対戦相手は代表を決定してから選ばれる。つまり、それによっては圧倒的に不利な状況になりかねないってわけさ」


女子メンバーの説明になるほどと相槌を打ってその先を促す。

ハンデがあるのならそれに左右されないアベレージのプレイヤーを投じるべきだ。

「この代表戦は全部で2回。敗者復活の枠はあるが負けた時点でパーティは基本的に敗退だ。ならここは絶対に勝たなきゃならない」

凛華さんの言葉に、俺たちの頭の中にはメンバーのスペックがグルグルと回る。


「だからここはビショップ、アンタに任せる」

「アラ、私?」

「ああ、一番ピッタリだと思うけどね」

「理由を聞いてもいいですか?」

理由を問うと凛華さんは「簡単だよ」と豪快に笑った。

「この試合でベスト4が確定するからさ」

「あーなるほど……」


あらゆるゲーム大会において、実力を持ちながらなぜか優勝を逃し、表彰台の栄誉すら得られない謎のジンクス持ちであるエルの通称は『4位』である。

逆に言えば、4位以上が確定するまでは負けないという運命力のようなものがあるということである。


「色々と言ってやりたいことがあるけど……実績があって何も言えない……!」

エルが悔しそうに崩れるのを見て凛華さんは楽しそうに笑い声を張り上げた。


勝利を確信したパーティはその先へと話題を移すのだった。

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