21話「オフ会、大会開幕」
パーティでの最強を決めるオンラインの大会までいよいよ残すところ三日に迫ったある日の現実で。
「パーティの結束をよりパワフルなものにするためのオフ会を開きましょう!」
というエルの元気な呼びかけに応じ、俺を含めたパーティメンバーがエルの家に集結していた。
「みんな集まったわね! 如月がいないのは残念だけど、とりあえずカンパイ!」
全員がグラスを掲げてから一口。
ちなみに人工知能諸君は凜華さんが持ってきたパソコンの中にいて、デスクトップに映し出されていた。
ただし、ネイトは相変わらず不在で、代わりにソロネが来てくれている。
「お餅さん、リアルでは初めまして」
オンライン上では恐ろしくイケメンキャラのお餅さんは、なんとうらやましいことに現実でもイケメンでしかもよりナルシストらしい。
「本当はレクリエーションも用意しようかと思っていたのだけど、AIがいるからそれは二次元でやった方がいいと思って」
「なら今は大会に関しての話をしておきたいんだけど、構わないかい?」
凜華さんの言葉にその場の全員が静かに頷く。
「今回開かれる大会は、基本的には単純な戦闘がメインだ。でも、武器やメンバー、スキルなんかの制限があったりする変則ルールなのさ」
「……つまり、上手くやらないと圧倒的格下に倒される事もあるわけね」
「予選から本戦に進めるのは30組。多く感じるかもしれないけどそもそも参加者が多い。油断はできないってわけさ」
「今回、事前のゲームデータから、強敵だと予想されるプレイヤー及びパーティをピックアップしました」
お餅さんのサポート人工知能の3号さんがパソコンの画面にリストを表示した。エルがそれをプロジェクターに繋いで出力したものに、その場の全員の視線が向けられる。
「第6階層のガンアクション最強姉妹は、ほぼ確実に上がってくるだろうな」
凜華さんの言葉に大戦ゲームの一幕を思い出す。
狙撃銃を使いこなす妹と、オールマイティに動く姉。
第6階層のランキング最上位コンビ。
「それから、このゲームの前身となった初期型モニターユーザーたちで構成されたベテランのパーティや、クエストクリア数ランキングの上位者がいるパーティも要注意かと」
3号さんの言うパーティが赤く表示される。
「ってちょっと待て! 亡霊の名前もあるぞ!」
あの人も出るのかよ……。
「亡霊が所属するパーティは人工知能合わせて4人の小規模なものです。他二人のIDは私の知るものではありませんが。……どうかしました?」
3号さんが顔を向けた隣ではユノが口を大きく開けた間抜け面のまま固まっていた。
「……おいおい、まさか亡霊のやつとパーティ組んでんのってまさか――」
「そ、そうよぉ、あれは『公式』の中でもVRSGに精通したメンバーねぇ……」
「ま、アタシらも似たような立場だ。出てくるっていうなら叩きのめしてやればいいのさ」
「そうね。こっちも最強レベルのプレイヤーが集まっているものね! 特に私とか――」
「さて、次はですね――」
「聞きなさいよ!」
リアルでのオフ会を切り上げて、その続きを今度はVRで行うことになった。
自宅からオンラインに飛び込むと、真っ先に俺たちの領地、『ユートピア』を訪れる。
「早いわねユウ、一番よ」
「お待たせー、エルちゃん、優くん!」
これで人工知能合わせて5人だ。
「どうやら待たせてしまったらしい、すまない。ああ、僕は二次元でもかっこいい!」
「遅くなったな」
「凜華さん……と、あれ? 如月さん? 今日は来られなかったんじゃ?」
「仕事中だったのですわ。でもオンラインなら場所は選びませんし」
ともあれ全員集合したことを確認してエルがレクリエーションに使うそれをどこからか取り出した。
「王様ゲームよ!」
「……」
「あれ? 反応薄いわね。定番じゃないの? 日本のあれこれ見てたらみんなやってるわよ、王様ゲーム」
「そりゃあ漫画とかゲームとかでなら見るけど……」
「実際に、しかも素面でってなるとね……」
「じゃ、じゃあ2回よ、それならいいでしょう?」
そんなに王様ゲームやりたいのかよ……。
エルの尋常ならざる気迫に圧され、しぶしぶ了承した俺たちは、それぞれ割り箸のような棒をエルの手から抜き取る。
「王様だーれだ」
「……やりましたのん! 私ですのん」
げ……よりによってめんどさそうなのが王様に……!?
「では、4番に……5番がキスをする、ですのん」
「いきなりぶっ飛んだ命令かよこのエロ人工知能!」
「その驚きっぷり、もしかして……」
「ち、違う、俺じゃない!」
とりあえず周りを見回してみると、顔を引き攣らせているのがひとり。
「そ、ソロネ……? 嫌なら止めても」
「いえ! おおおおおおお王様の命令は絶対です! 保安人工知能たるわたわたわたわた私がそれに逆らうなど」
「もうひとりは誰ですのん?」
「私ですね」
無表情で手を挙げたのはお餅さんの人工知能である3号さんだ。
ロボットのような動きで3号さんのほうを向くソロネと、無表情のまま平然とソロネに近づく3号さん。
そしてゆっくりと3号さんの顔がソロネに近いてゆく。
ソロネは目を閉じ、その時を待っているようだ。
そして、3号さんの唇がソロネの頬に触れた。
「おおー、さすがですのん。取り乱してるソロネンにやらせたらきっと唇にしてたはずですのん」
そう、命令の中に「どこにキスをするか」は含まれていない。
そして2回目。
同じ手順でくじを引き、「王様だーれだ」の掛け声を響かせる。
「私ねぇ!」
ユノが妖艶な笑みを浮かべて当たりを掲げる。
「……これさっきのよりヤバい命令するだろ絶対、倫理的に」
「そうねぇ……1番が」
俺の隣でエルがピクっと反応した。
そしてユノは俺の方に視線を向け……。
「5番のことをどう思ってるのか正直に話す」
「な……何よその命令! きゃ、却下よ却下!」
命令が終わった直後にエルの叫びが空間を震わせた。
「王様の命令は絶対。逆らうなら保安人工知能の名の下に……」
「ソロネがなんか壊れてるっ!?」
「観念して言っちゃったほうがいいわよぉ」
「うう……そ、その……私はユウの、こと……」
モジモジしながら耳まで真っ赤にするエル。
え? これってもしかしなくてもそういう……?
「わ、私、エルのこと、き、嫌いじゃないわ」
「そ、それって……その、す、好きってこと?」
「……は?」
あれ!? なんか素で返ってきた!
「どうして嫌いじゃないってだけで好きになるのよ」
「あー、いや、そのー」
「嫌いじゃないわ。でも勘違いはしないで。男性としてはユウは色々足りてないから」
というかすごい色々言われた!
ユノは離れたところで腹を抱えて笑っている。
……ちくしょう、覚えとけよ。
オフ会を終えたあと、俺はソロネと第9階層を訪れた。
第9階層は太陽エリアと月エリア、そして雪原エリアがある。
雪原エリアは強いモンスターが多く現れるため、レベル上げに向いている場所。
太陽エリアは基礎能力アップのアイテムやスキルを手に入れることができる場所。
そして俺とソロネが訪れた月エリアは、プレイヤーや人工知能たちの交流専用の広場である。
通称、恋愛シミュレーションエリアとも呼ばれるくらいカップルが多い。
「ここは夜景が綺麗なのもあってそういったプレイヤーが多くいます。しかし、実はちょっとした裏技がありまして」
ソロネが歩いていた先にいたのは長く綺麗な黒髪の女性。
真紅の瞳が鋭くソロネを射抜く。
「深淵への扉」
ソロネの呟きに反応して、女性の姿が扉に変わる。
「深淵エリアと呼ばれるエリアに行くことができます」
開かれた扉の向こうは漆黒の闇の中。
恐る恐る足を踏み入れ、扉が閉じて真の闇だけが空間に満ちる。
しかし光が2つ、浮かんでいた。
「なんだこの光ってんの……」
「ああ、それは私の目ですよ。暗闇だと光るんです」
「動物みたいだな……」
「私はネイト様のようにそのままでも見えるわけではないので……」
ソロネのその光を追って歩みを進めると、その先には薄暗い広間が広がっていた。
「ここは戦闘シミュレーションが遊べる場所です。ランキング上位に食い込む実力者の多くがここでの戦闘シミュレーションで腕を磨いています」
広間でソロネが何かのパネルを操作すると、薄暗い空間の中央に漆黒の人が現れた。
やや小柄で、肩に届かない程度の髪。
右手に大剣を携え、その周囲を弓矢と盾が舞う姿。
「あれは、ネイトか?」
「ネイト様の戦闘データを抽出して再現したものです。紛い物ではありますが、基本は同じです」
純白の剣を抜き疾走。
暗闇の中にすら残像を残す速度で影との距離を詰めて先制の一閃。
しかしその一撃は容易に盾に防がれ、しかも同時に矢が襲い来る。
「ちょっ!? とっ!? 強くない!?」
「仮主への情けが無い分、最善手で倒しにきているんですよ。もっとも、それでもネイト様の本気には及びませんが」
正直、これ以上強いとなると秒殺すら許されない瞬殺レベルしか思い浮かばないが、そもそも二次元こそホームの相手なのだから当然かもしれない。
ともあれ、容赦がないならこちらもスキルを使って補うだけだ。
インビジブルサイレントで姿と気配を消し、神速と特火で速度と攻撃の基礎を上げて盾の守備の内側に潜り込んで一振り。
影の胴体を両断したが、それとほぼ同時に俺の後頭部に矢が突き刺さった。
「私が……あの影と戦うのですか?」
「ソロネの戦い方を見れば参考になるかなーってさ」
ほぼ引き分けだった俺は、影ネイトとソロネが戦うようにお願いしてみた。
やや渋っていたものの、相手が本人でないからか彼女も了承してくれた。
影の前にソロネが立ち、右手の大剣を軽々振り上げる。
瞬きをした頃には影ネイトの盾にソロネの大剣が衝突するように金属音を響かせていた。
無表情のソロネがフゥーっと息を吐いて身を翻し、大剣を横薙ぎに振るう。
防ごうと動く盾の側面を打ち払ってそのまま影ネイトごと弾くと、そのままの勢いで背後から放たれた矢を断ち切ってみせる。
遠心力をそのままにわずかに跳躍して影ネイトに接近すると、勢いと重量を乗せた一撃が影を両断して、ソロネが誇らしげに胸を張る。
「重量のある武器だからこその戦い方ではありますが、基本は同じです。接近している時も弓矢の攻撃に注意しなければいけません」
「難しいな……」
「複数に対して同時に注意するにはやはり回数をこなして慣れるしかありませんね。私たちのような特殊な知覚が、人間にはありませんから」
「ソロネは盾とか弓矢みたいな自動の武器ないのか?」
「ありません。必要もありませんから」
そして、俺たちは運命の日を迎えた。
パーティ戦での最大のイベント。
最強パーティ決定戦の開幕である。
「お待たせしました〜」
大きめの欠伸をして涙を拭いながら予選待機スペースに現れたネイトを迎えて、俺たちは初戦の組み合わせ発表を待つ。
「いきなり強敵とは当たりたくないわね」
モニターを見つめながらストローで飲み物を飲むエルがそう笑いながら言う。
予選待機場所には当然他のパーティメンバーもいるのだが、さっきからエルのファンだというプレイヤーが男女問わず来て、対応に追われていた。
「でもユウの隣にいるとあまりそういうのも来ないのよ。ユウのよくわからないオーラが出てるのかしらね」
「俺は虫除けか何かかよ!」
「あははっ! 優くんは取っ付き難いんだよ。いつも無愛想な表情ばっかりなんだもん」
「別に普通の顔だよ」
エルと反対側に座ってきた鈴の茶々に素っ気なく反応して、時計を見つめる。予選開始まであと15分。
その前に説明のようなものがあると言われて待機しているが、始まりそうな様子はない。
ネイトの話では見えていないものの、この場所の裏側ではネイトの部下の人工知能たちが目を光らせているらしい。
そう考えていた時、空間がやや暗くなり、どこからかスポットライトの光がやや高いお立ち台の上に注がれた。
そこに管理人工知能の春が出現して待機場所を見つめる。
モニターに映る彼女は、とても楽しそうに笑っていた。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。もう間もなく、最強パーティ決定戦の開始となります。オンラインサービス開始から既に3年。このようなイベントを開催できることを、主催者として嬉しく思います。
さて、今回の大会はチーム対抗戦であります。まず予選はスピードも重視し、4つのパーティずつフィールドで戦っていただきます。当然、全員が敵。それでも、他のパーティと一時的に手を結ぶ、横取りは可能です。
パーティの敗北条件は、その戦闘中にランダムで決定されるキーメンバーの全員の戦闘続行不能となります。4つのパーティのうち、次に進めるのは上位2チーム。最初にキーメンバーを倒された2チームは敗退となります」
長い説明だったが、つまりはキーメンバーを守りつつ、他の3チームのキーメンバーを倒せばいい、ということだ。
「なおランダムで決定したキーメンバーは目視にて確認することでアイコンで判別が可能です。センサー、スキルなどでは通常のプレイヤーとしてしか認識いたしません」
「ランダム……ね。つまり私やリンカみたいな前衛一直線のプレイヤーがキーメンバーに選ばれてしまうと、私たちのチームは攻撃力が削がれてまうわけね……」
「それだけじゃないわよぉ。4つのパーティが同時に存在しているから、戦いの最中に他のパーティから攻撃されることもあるし、共闘のフリをして裏切るということもある。管理者の考えそうな意地悪なルールねぇ」
管理人工知能は綺麗な髪を揺らしながら、悪戯っぽい笑みを浮かべて高らかに宣言する。
「それではこれより、最強パーティ決定戦。予選を開始いたします!」




