表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

2話「チュートリアル、次の階層へ」

 最新ゲーム機『VRSG』によって夢の二次元へとやってきた俺は、俺のサポートをしてくれるサポート人工知能である銀髪美少女ネイトの導きで初のオンライン空間へとやってきた。

「なんかあんまり人がいないな」

「ここはオンラインの広場の中でも初心者向けの最下層にあたる場所ですー」

「じゃあもっと上があるってこと?」

「最下層の広場から行けるエリアにソロ、チーム問わず参加して、次の階層の開放条件を達成するんですよー」

眠そうに目を擦りながらもちゃんと疑問に答えてくれるのだから、見た目に反してしっかりとしているのだろう。

「ちなみにこの広場からできるエリアは『ギャンブル』と『農園』と『戦闘訓練場』ですー」

「順に回ってみてもいいか?」

「お好きにどーぞー」



 銀髪美少女を連れて最初にやってきたのは『戦闘訓練場』という無駄に広い闘技場のようなところだ。

ネイト曰く「二次元(この世界)での動きの基礎が学べるから最初にやっておくといい」らしい。

「そうは言ってもレベルが低い時の動き方自体は現実とさほど変わりませんがー」

眠そうに欠伸を噛み殺しながらネイトは俺より先に訓練場の重そうな扉を開いた。


「へいらっしゃ……ありゃ? ネイト姉さん?」

出迎えにオッサンのような声を掛けようとしていた青髪の青年の目が見開かれて数秒間の静寂が訪れる。

「あー、えーっと……誰だっけぇー?」

目を擦りながら記憶を辿っている様子のネイトに受付から出てきた青年が苦笑いを浮かべて近づいてきた。

「相変わらずで安心しました。ユノ様たちはお元気でしょうか?」

「んぃや、確か私と同じで別任務中じゃないかなー」

「それで、本日はどういったご用件で?」

「私のご主人様(ますたぁ)訓練(チュートリアル)ー。……ふわぁぁ」

今度は噛み殺さずに大きめの口を開けて欠伸をして俺のことを紹介する。

「ああ、はい。まずは基本操作系から説明を……」


「別にいーよー、私が直接教えるからぁー。奥だけ使わせてー」

「そういうことならどうぞ、今はどこの訓練場も空いてますから」

「それじゃあご主人様(ますたぁ)、ついてきてくださいねー」

奥の開けた空間。

固い砂の地面を踏みしめながら長方形の訓練場の中央で立ち止まると、ネイトは少し離れたところで俺のほうに向きなおった。

「歩く、走る、跳ねる、食べる、転がる。普段の生活に使う動作はほとんど感覚通りに行えますー。この空間において特殊なのはダメージシステムですねー」

「ゲームなんかでよくあるけど、やっぱ痛いんだよな?」

「そうですねー、はぁあ……。害がないようにコントロールされていますけど疲労感とかー、疲れとかはありますよー」

説明の最中に催した欠伸を噛み殺しきれずに放って、少し浮かんだ涙の雫をそっと拭って右の手のひらをヒラヒラと振った。


直後、彼女と俺の間に何体かの『プリン』が現れた。

プリンといってもゲームの敵モンスターとして出てくるゼリー状のあれではない。

黄色い部分に焦げ茶色のカラメルが乗った見た目のまさしく食べ物のプリンそのものだった。

奇妙なのはプリンからプリンでできた手足が生えていてその柔らかい体を支えていたことである。


「あーすみません。プリンのイメージになっちゃいましたー」

「ちなみに何をしたんだ?」

「私がお試しのモンスターを創ろうとしたんですけどー、間違えましたぁー」

そう言いつつネイトの手にはいつの間にか普通の銀のスプーンが握られており、プリンの柔らかい体にプルンッと刺さった。

「あーむ……、うん、甘いー」

そうして食べ進めるネイトが、突然動き始めたプリンの弾力に弾かれて少し離れた地面を転がった。

ご主人様(ますたぁ)、これどーぞー」

ネイトが俺のほうに放ったのはたった今までネイトがプリンを食していたスプーン。

驚くべきは感触だけでなくその重さまでしっかり感じられることだ。


「さあどうぞー」

「どうぞーって言われたって……」

動くプリンなんて現実とは無縁の異形を相手にとりあえずスプーンを突き立てると、プリンらしく容易に突き刺さり、一口には丁度いい量のプリンが抉れた。

「……うん、見た目は若干気持ち悪いけど味はいける」

しかし、味の意外な美味しさに注意を逸らされてしまった俺はほとんどネイトと同じようにプリンの弾力に押され、これまたネイトと同じ軌道で地面を転がってしまった。

転がった先には立ち上がった状態のネイト。

ほとんど巻き込むような形でネイト諸共グルングルンと地面を転がってようやく止まる。


「うえ……甘い物食べた後の回転とか気持ち悪……」

「とりあえずどいてもらってもいいですかー」

「へ?」

俺の体勢は見事にネイトの華奢な体に覆い被さるような状態に留められている。

「これはまたまたベタな……」

しかも人工知能だというのに彼女からは甘いような香りが……ってこれ体にくっついてるプリンの匂いか……。


「あ」

ネイトの素っ頓狂な声で視線をプリンに向けるとプリンが想像もつかない身軽さで数メートルは飛び上がった。

「嘘……だろ!?」

未だ覆い被さるような体勢の俺に対して容赦のない激甘ぷよぶよスイーツによるボディプレス。

痛くはないが衝撃とそれなりの重みで俺はネイトにほとんど密着するような何とも申し訳ない体勢に落ち着いてしまった。

「あむ……あむ、あむ……」

「……お前この状況で食うのかよ」

「動いていても所詮はプリンですよー、ふあ〜ぁ……うぐむ!?」

食べて落ち着いて欠伸した彼女の口に容赦なく激甘のプリンが次々流れ込む様子はなんとも滑稽だった。



「死ぬかと思いましたー。人工知能なりに」

「もうしばらく甘いものはいらないかも」

「そうですか、じゃあ煎餅でも食べますー? また多分手足生えてますけどー?」

「もう十分だ何もするな!」

「それじゃあ私は疲れたので少し寝てますぅー。ふわあ〜ぁ……何かあったら呼んでくださいー」

そう言うとネイトはその場でゴロンと寝始めてしまった。


銀髪の華奢な少女が何も無い広い訓練場の中央付近で無防備に寝てるのとか見ると不安で落ち着かない。

人工知能なのだから間違いなどないし、起こさせないだろうがそれでもこの光景は健全な男子高校生として、そして日本男児として色々と考えずにはいられないのだ。

「よいしょっと……意外と軽いな」

仕方なく背負おうと思って彼女を背負ってみると、重さなどほとんど感じず、まるで綿あめでも持っているような気分だ。

それにしても彼女にとっては仕事中だと思うのだが、その最中に堂々と寝るというのはどうなのだろうか。

あるいは寝ることによって職務遂行のための何かを蓄えているのかもしれない。



 そんなこんなで次にやって来たのは『農園』と呼ばれるエリアだ。

なんでも野菜や花などを育てるだけのエリアらしいが、一応育てた品物によって経験値やゲーム内通貨が得られるらしい。

「上位の広場では同じ手順で建物や武器なども造れるため、ここでこの仕組みとやり方に慣れておくのがオススメです」


そう説明してくれたのはグータラな銀髪美少女……ではなく農園エリアの受付にいた人工知能だ。

大して特徴のない彼女も俺の背中でぐっすりなネイトに苦笑いを浮かべながら農園の中に案内してくれた。


「基本的には事前に投資という形で場所代などを支払っていただき、品物に応じた材料を頂ければ自動で生産が開始されます。後の管理は本来、ソロプレイであればサポート人工知能が。チームであればチームのサポート要員かあるいはやはりサポート人工知能が行います」

そこで苦笑いを浮かべているのはやはりこの銀髪美少女がちゃんと管理できるのか、という意味なのだろう。

「ほ、本当はとても優秀な人工知能なんですよ! こ、こう見えても我々のような末端をある程度管理する中間管理者でもありますから!」

「へぇー」

悪いがとてもそうは見えん。


「まあでも、何か育ててみようかなぁ?」

「ではチュートリアル用の種を5つ差し上げますので、あちらの畑にどうぞ」

説明の立て札を読む限り、青っぽく光っている場所が素材を投入できる場所で、わざわざ穴を掘って埋めたりする必要はなく、ただそこに素材を置くだけで条件は満たされるらしい。

「チュートリアル用は受け取れる金額が少ない代わりに育つのが早く場所代も無料ですから、どうしてもお金がなくなった時はこちらで少し増やす、というのもひとつの手です」



 「すみませーん、チュートリアル受けたいんですけど!」

「はーい、ただいま!」

他のプレイヤーらしい声に受付担当の人工知能さんはさっさと飛んでいってしまった。

とりあえず指定された畑に種を全て蒔いて暫し沈黙。

背中の美少女を下ろして膝枕してやるとより幸せそうな顔で寝息をたて始めた。


「あらぁ? ネイトじゃないのぉ?」

目の前で眠る美少女の名が他所から聞こえて首を向けると、二次元に入る前の人工知能選択肢のひとりだった美女が立っていた。

その後ろには元気そうな朱色の瞳をした黒髪の美少女も立っていた。

「あの時のご主人様(マスター)ですかぁ? ネイトと仲がよろしいようで何よりですぅ」

艶っぽい話し方でネイトと俺を一瞥すると、その隣からもうひとりの美少女が頭を下げてきた。


「初めまして! 私、『RAN(らん)』っていいます! よろしくお願いします!」

「あ、初めまして『YU(ゆう)』です。よろしく」

「んー……? ああユノ、どうしたのこんなところでー?」

突然目を覚ましたネイトが美女人工知能に対して疑問を投げかける。

「新しいご主人様(マスター)のチュートリアルよぉ。あなたもそうなんでしょう?」

「ああ、そうだったねー」

「何? お前たちよく知った仲なの?」

「私達は創られた時から一緒ですからねー」

目覚めてから既に2度目の欠伸を殺しながらそんなことを口にしてネイトは立ち上がった。


「彼女の名前はユノですー。いちおうは私のお姉さんのような個体ですねぇー。生まれたのはほとんど同じ時期ですし性能もほぼ同一ですけど〜」


「それで皆様方、チュートリアルのほうは……」

受付担当の人工知能の言葉にそれぞれが本来の目的に動き出した。

RANさんは『農園』のチュートリアルへ。

俺は次のエリアへ。



「『ギャンブル』エリアへようこそ。こちらではくじ引きが行えます」

金ピカに電飾という派手な建物の門をくぐると、白髪で黒服を来た男性がそう案内してくれた。

なんでも階層によってエリアの内容が異なったり、そもそも別のジャンルのエリアだったりするらしい。

「それで、くじ引きって?」

「初回、ゲーム内通貨を消費せずにできますのでやってみるのが早いかと思います」

すると、いくつかのボタンが並んだパネルが目の前に現れた。

「くじ引きはまさにくじ引き。完全に運でございます。特等はゲーム内通貨30万VP(バーチャルポイント)となっております」


縦8列横8列の大量のボタンのどれかひとつが特等。

緊張しながら左下のボタンを感覚で選んで指を伸ばす。

「その右隣ー」

というネイトの言葉に迷わずその軌道を変えて右隣のボタンを押し込んだ。

「が2等ですー」

ピンポーン。

シンプルな正解音とともに自動販売機のような感覚で賞品の入った白の箱が落下してきた。

「どうせなら特等を当ててくれればいいのに……」

それでもそっと大きめの箱を開くと、『高級プリン詰め合わせ』だった。

「……」

何も言うことはない。いつもなら眠そうに目を細めている少女が珍しくやや大きめに二重の瞳を見開いてキラキラしている様子を見て、俺は無言のままプリン詰め合わせをそっと渡してやるのだった。



「で、この広場一通り回ったと思うんだけど」

「それではー、次の階層にごあんなーい」

眠そうに目を擦ると俺達の前にまた例の扉が現れた。

「お前っていつも眠そうにしてるけど、そういうキャラ付けなのか?」

「燃費が悪いんですよぉー」

ぼんやりした表情のせいもあって嘘か本当か分からない微妙な回答に適当な相槌しか打てない。

「寝てる間はエネルギー消費が少ないのはホントですよー」


扉を開くと、先程までの空間とは明らかに違う風の流れと匂い、賑やかな喧騒が聞こえてきた。

様々な容姿、装備、声をした男女人外多種多様な存在が行き交う街のような場所。

「ここが第2階層。セレネ広場ですー」

「セレネ?」

「ここの広場の管理をしてる人工知能の名前からきてますー」


噴水を中央に、複数の道に枝分かれし、煉瓦造りや石造りの建物が並ぶ街のような見た目の空間。

「ここは初心者から1人前になる人達が必ず集まるところなのでー。他の階層に比べて人も多いんですよぉー」

ネイト綺麗な銀髪を左手で軽く撫でながら眠そうな瞳でふと空を見上げた。


先ほどの階層はあまり感じなかったが、二次元だというのに青空が広がり、暑く陽射しが注いできている。

しかし、どうやらネイトが見ていたのは空でも太陽でもなかったらしい。

陽射しを遮る影が数回視界を陰らせる。


太陽の陽射しとともに下りてきたのは腰まである薄い水色の長い髪を輝かせたとても華奢な女性だった。

服装は植物の葉や茎などを身体に巻いたようなもので、胸と腰周りが隠れている程度で非情に目に毒である。

やや気弱そうに揺れる瞳はネイトを捉えたまま、彼女は膝を折って片膝をつき、やや腰を曲げて頭を垂れた。

「ネイト様におかれましてはますますご機嫌麗しいご様子、誠に嬉しく思います」

「いいよいいよー、そういうのめんどくさいしー、ふぁ〜あ……」

欠伸を右手で隠しながら彼女を立たせると、いつの間にか女性を中心に人の壁が出来上がっていた。


「すげぇ! セレネが降臨したぞ!」

「降臨イベント!? 降臨イベントなの!?」

「予告なかったぞ!?」


「なあネイト、これって何事?」

「プレイヤーにとって広場を管理する人工知能は尊敬の対象だったりイベント関係だったりとにかく大人気なことが多いんですぅー」

興味なさげに右目を擦り、人の壁から俺の手を握って連れ出そうとするが、どんどん増えて分厚く変化していく壁に阻まれ、そして飲み込まれてしまった。


「人混みきーらーいー」

ネイトは人の波に揉みくちゃにされ、それでも俺の手を離さずになんとか抜け出す。

「なんかすごいな……」

見るとセレネはわたわたしながら押し寄せる人々をなんとかして落ち着かせようとしているようだ。

「……セレネ今度お仕置きー」

ぼそっと呟かれた銀色の言葉をこの喧騒の中でも聞き取ったらしく、セレネの顔色が可愛そうなくらいその髪色よりも青くなっていった。

……カクテルパーティー効果というやつだろうか。


ちなみに人々が落ち着いたのはセレネが逃げ帰るように天に昇ってから少しの時間が経過したあとだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ